適応障害ではお薬は有効なのか?適応障害でのお薬の位置づけ

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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適応障害は、環境の変化にうまく適応できず、それがストレスになって心身に症状が認められる病気です。

ですから適応障害は、「いかに環境に適応していくか」というのが本質的な治療になります。ストレスによってさまざまな症状が認められますが、お薬は症状を和らげるサポートにすぎません。

とはいっても、適応障害ではお薬の役割も大きいです。お薬で症状が和らぐとで、正常な判断力が回復していきます。また、お薬を服用している安心感も支えになります。

適応障害では、お薬は本質的な治療にはなりません。ですがお薬を使って症状を落ちつけていくことは有効な手段のひとつになります。適応障害を克服していくためには、このことを正しく認識して治療していくことが大切です。

ここでは、適応障害での薬物療法について詳しくお伝えしていきたいと思います。適応障害の治療におけるお薬の位置づけをみていきながら、具体的にどのようにお薬を使っていくのかをご紹介していきます。

 

1.適応障害で使われるお薬とは?

適応障害では、症状にあわせて対症的にお薬が使われます。精神症状には抗不安薬・睡眠薬・抗うつ剤など、身体症状には胃薬・頭痛薬・整腸剤などが使われます。

適応障害では、「うまく環境に適応できないこと」が原因なので、症状自体には大きな意味はありません。「適応障害だからこれ」といった、決まった症状はないのです。

ストレスがかかると、人それぞれ様々な症状が生じます。気分の落ち込みや不安、イライラといった精神症状に出てくる方もいれば、頭痛や下痢、吐き気といった身体症状に出てくる方もいます。

適応障害でのお薬の位置づけは、これらの症状を和らげることになります。身体の症状も、その原因はストレスにあるため、ストレスを和らげるお薬を使っていくことが一般的です。

最もよく使われるのは、抗不安薬(精神安定剤)かと思います。不安や緊張を和らげて、ストレスを軽減してくれる作用があります。それに加えて、落ち込みが強いならば抗うつ剤、眠れないなら睡眠薬、感情のおさえがきかないなら気分安定薬といった具合に使われます。

  • 抗不安薬:不安や緊張が強いとき
  • 抗うつ薬:落ち込みが強いとき
  • 睡眠薬:眠れないとき
  • 気分安定薬:感情の抑えがきかないとき

そのうえで、身体症状があればお薬を使っていきます。身体症状がストレスになり、そのせいで適応障害が悪化していることもあります。胃薬や制吐剤、整腸剤や解熱鎮痛剤など、症状に合わせてお薬を使っていきます。

これらの身体のお薬はターゲットの臓器や器官に働いて、その働きをピンポイントで整えてくれます。

このように適応障害では、あくまで補助的にお薬を使っていきます。心の薬を中心に使っていきながら、必要に応じて身体の薬も組み合わせて治療していきます。

 

2.適応障害はお薬だけでは治らない

適応障害は、お薬の治療だけではよくなりません。「いかに適応していくのか」ということを考えていく必要があります。

適応障害に使われるお薬は、あくまで補助的な位置づけであることをお伝えしました。完治させていくためには、お薬以外の治療を進めていく必要があります。

適応障害では、「本人」と「環境」の間に大きな価値観のズレがストレスの原因です。これを解消していくには、結局のところ2つしかありません。

  • 本人が環境に適応していく
  • 環境を本人に適応させる

本人が環境にうまく適応できるように努力していくか、環境が本人によってくれるように調整していくしかありません。どちらか一方向だけではなく、本人と環境の双方が歩み寄って行くことが大切です。

適応障害と一言で言っても、その原因は人それぞれで、現実的な悩みがあります。医師やカウンセラーは、経験や医療的な観点からアドバイスをしていきます。しかしながら、最終的に決断していくのは患者さん本人になります。

そして適応障害では、そのことをしっかりと受け止める必要があります。例えば適応障害で休職をすれば、現実的にこれからの人生に影響は避けられません。これまで当たり前に走っていたレールが崩れてしまうのです。

それをしっかりと受け止め、これからの人生のレールを敷きなおしていくことも大切です。

詳しく知りたい方は、「適応障害の治療に大切な2つのポイントとは?適応障害を克服する治療法」をお読みください。

 

3.適応障害でのお薬の効果とは?

適応障害では、①症状を和らげることで悪循環をなくす②二次的なうつ状態や不安障害の治療、といった目的で向精神薬が使われます。

適応障害で使われる向精神薬(精神に作用するお薬)について、その治療での位置づけをみてみましょう。

適応障害では、大きく2つの目的で向精神薬が使われます。

  • ストレスを和らげることで、心身の症状を改善する
  • 適応障害からの二次的なうつ状態や不安障害を改善する

適応障害では、お薬によって心身の症状を和らげることができます。抗不安薬などを症状にあわせて使っていくことで、ストレスを緩和することができます。

それような直接的な作用以上に大切なのが、適応障害が悪化していく悪循環をふせげることです。

ストレス→心身の症状が悪化→決断力や思考力低下→パフォーマンス低下→不適応増大・自信喪失→ストレス→・・・

といったように、適応障害では心身の症状をきっかけに悪循環が認められることが少なくありません。向精神薬を使うことでその悪循環を断ち切ることが大切です。

これには薬の直接的な効果だけでなく、薬を飲んでいるという安心感(プラセボ効果)もうまく使ったほうが効果的です。それについては後述したいと思います。

適応障害がひどくなりすぎてしまうと、少しずつ消耗してうつ状態や不安障害に発展していくこともあります。このように二次的に精神症状が認められる場合は、お薬をしっかりと使って治療していく必要があります。その際は、それぞれの病気に準じた治療をしていきます。

 

4.適応障害が治るまでの期間と薬の使い分け

適応障害では、お薬はあくまでサポートになります。どのお薬をつかっていくかは、その症状と治療期間が重要になります。

適応障害では、その本質的には「いかに適応していくか」という問題を解決していくかにありました。お薬はあくまでサポートで、症状を緩和するためにつかっていくのが基本となります。

ですから適応障害のお薬は、症状が軽減したら漸減していきます。お薬による安心感が大きい場合は、症状が落ち着いても最低限の量で続けていくこともあります。

適応障害でどのお薬を使っていくのかというのは、大きく3つのポイントで決まってきます。

  • どのような症状が認められているのか
  • 治療期間はどれくらいになりそうか
  • 他の精神症状に発展していないか

適応障害で表れている症状を和らげていくためにお薬を使うので、その症状に合ったお薬である必要があります。治療期間も大切で、比較的短期間で落ちつきそうであれば即効性を重視し、時間がかかりそうであれば依存性の低さを重視します。他の精神疾患を合併している場合は、それに準じた治療が必要になります。

適応障害では、本人の要因と環境の要因、どちらが大きいかによって治療期間が異なってきます。本人の要因が大きければ、治療はどうしても長期間になりがちです。環境の要因が大きければ、その適応がうまくできれば解決していきます。

すでにお伝えしましたが、症状とそれを改善するお薬については以下のようになります。

  • 抗不安薬:不安や緊張が強いとき
  • 抗うつ薬:落ち込みが強いとき
  • 睡眠薬:眠れないとき
  • 気分安定薬:感情の抑えがきかないとき

治療期間の違いでも、精神科のお薬の使い方は変わってきます。

  • 治療期間が短い:即効性のあるお薬が中心
  • 治療期間が長い:依存性や副作用の少ないお薬が中心

即効性もあって依存性や副作用もないようなお薬があれば理想的ですが、残念ながら精神科のお薬は一長一短です。

環境の要因が強く、ある程度ストレスの解消の道筋が見えている場合は、即効性のあるお薬を中心に治療していきます。それに対して、ストレスを解消する道筋が見えなかったり、本人の要因が強い場合は、依存性や副作用の少ないお薬を中心にしていきます。

心身症のお薬の特徴として、即効性・依存性・副作用を比較しました。

それでは、適応障害で使われる向精神薬について、ひとつずつみていきましょう。

 

5.適応障害の向精神薬―抗不安薬

ベンゾジアゼピン系抗不安薬では、即効性が期待できますが依存性に注意が必要です。アザピロン系抗不安薬では穏やかに作用しますが、依存性や副作用は少ないです。

適応障害では、「抗不安薬」は即効性のあるお薬として使われることが多いです。うまく適応できれば落ちつくことが多いので、適応障害では即効性のある抗不安薬が使われることが多いです。

ここでは、適応障害で使われる抗不安薬にはどのようなものがあるのか、詳しくみていきたいと思います。

 

①適応障害で使われる抗不安薬とは?

抗不安薬は、不安や緊張を和らげるために使われるお薬です。主に使われるのは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬です。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、GABAの働きを強めることで脳の活動を抑制します。こうして不安や緊張を和らげる作用があります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性があるのですが、依存性に注意しなくてはいけません。ベンゾジアゼピン系抗不安薬には様々な種類が発売されていて、患者さんにあったお薬を選んでいきます。具体的にみてみましょう。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、それぞれ作用時間や効果の強さが異なります。適応障害の症状の出方によっても使い分けていきます。

例えば、仕事の当日の朝だけ症状が悪化する方は、作用時間が比較的短い抗不安薬を使っていきます。それに対して、適応障害の症状が一日中絶えずに続いている場合は、作用時間が長い抗不安薬を使っていきます。抗不安薬の比較について詳しく知りたい方は、「精神安定剤・抗不安薬の選び方(効果と強さの比較)」をお読みください。

それ以外の抗不安薬として、セロトニンを刺激するアザピロン系抗不安薬(セディール)があります。

セディールは穏やかに作用しますが、副作用や依存性は少ないお薬です。セディールは、同じくセロトニンを増加させる抗うつ剤よりも効果は穏やかです。このためじっくりと治療ができる時で、そこまで症状が重たくない患者さんに使われることが多いでしょうか。

 

②適応障害での抗不安薬の副作用と注意点

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の一番の副作用は、眠気になります。脳の活動を抑えるお薬ですので、眠気は避けられません。抗不安薬をはじめたり増量するときには、眠気に関しては十分に注意してください。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬には薬の特性として、注意しなければいけない2つの点があります。

  • 耐性
  • 依存性

耐性とは、お薬を使い続けていくうちに身体が慣れてしまって、次第に薬が効かなくなってしまうことです。依存性とは、薬がなくなってしまうことで身体に不調がみられたり、精神的に落ち着かなくなってしまうことです。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性があり効果の実感もあるのですが、そのかわりに耐性も依存性もつきやすいお薬になります。このため抗不安薬は、注意して使っていかないと依存して止められなくなってしまいます。

  • できるだけ頓服で使う
  • 抗うつ剤と併用する
  • 漫然と使わずにできるだけ減量する

この3点を意識して使っていく必要があります。

それに対してアザピロン系抗不安薬は、耐性や依存性はとても少ないです。アザピロン系抗不安薬で気をつけることは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬から切り替える時です。一気に切り替えてしまうと、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の離脱症状がでてきてしまいます。

 

6.適応障害の向精神薬-抗うつ剤

治療が長引くときや精神症状に発展している場合は、抗うつ剤を使っていくこともあります。

「抗うつ剤」です。抗うつ剤ときくと、「うつの薬じゃないの?」と思われるかもしれませんが、不安の病気にもよく使われています。適応障害でも使われることがあります。

ここでは、適応障害で使われる抗うつ剤についてご説明していきます。

 

①適応障害で使われる抗うつ剤とは?

適応障害では、治療が長期にわたってしまうこともあります。どうしても適応できない環境の中にしばら悔いなければいけないケースも現実的にはあります。また、うつ状態や不安障害に発展していきそうなこともあります。

このような場合は治療期間が長引くことが多く、そのような時はお薬の依存性に注意しなくてはいけません。

抗不安薬は即効性があるのですが、使い続けていくと依存してしまいます。治療が長期にわたると想定される場合は、抗うつ剤を併用していくことが多いです。

抗うつ剤の中でも、セロトニンを増加させる効果が強いものが適応障害に使われることが多いです。第一選択として使われる抗うつ剤は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)になります。

現在日本で発売されているSSRIとしては、以下の4種類があります。

患者さんの状態によって、お薬を使い分けていきます。私は適応障害の場合、ルボックス/デプロメール(フルボキサミン)をよく使います。効果が比較的マイルドで細かく調整ができます。抗うつ剤を飲んでいるという安心感をうまく利用して、少ない量で治療ができる場合もあります。

SSRIが合わない場合は、その他の抗うつ剤を使うこともあります。

 

②適応障害での抗うつ剤の副作用と注意点

適応障害で使われるSSRIは、セロトニンを増やすように作られたお薬です。このため、副作用の中心も「セロトニン」によるものです。

セロトニンによる副作用として最も多いのが、胃腸障害です。とくに吐き気が多いですが、これはお薬の使い初めに多いです。しばらくすると慣れていく患者さんが多いです。

また、セロトニンによって睡眠が浅くなりますので、不眠の副作用がみられることがあります。反対に眠気が強く出る患者さんもいるので注意が必要です。性機能障害がみられる患者さんもとても多いです。

副作用をあげていくと怖い薬に感じてしまうかもしれませんが、SSRIは安全性の高いお薬です。お薬が蓄積して脳にダメージをもたらしたりはしないので、過剰に心配しないでください。

はじめは副作用を軽減するために少量からはじめ、問題がなければ少しずつ増量していきます。抗うつ剤の効果は時間がかかることが多く、2~4週間かけて効果をみていきます。

SSRIは不安になりやすい体質に対して効果があるお薬で、時間をかけて少しずつ不安になりにくくしていくお薬です。ですから、症状がなくなってもしばらく服用し続けることが大切です。

 

7.適応障害の向精神薬-睡眠薬・気分安定薬

睡眠が乱れている場合は睡眠薬、感情の抑えがきかない場合は気分安定薬を使っていきます。

適応障害では、ストレスから睡眠が不安定になることが少なくありません。不眠が続くと心身が消耗してしまうので、改善していくことが必要があります。

睡眠薬としては様々なタイプが発売されていて、

睡眠薬としてもっともよくつかわれているのは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬です。抗不安薬と同じように、GABAの働きを強めることで催眠効果がみとめられます。副作用も同様に、眠気・耐性・依存性が認められます。

それに対してロゼレムとベルソムラは、副作用が少ない新しい作用機序の睡眠薬として近年発売されました。

睡眠薬について詳しく知りたい方は、「睡眠薬(眠剤)の効果と強さの比較」をお読みください。

また、感情の抑えがきかないときは、気分安定薬を使っていきます。気分安定薬には、情動を安定させる作用が期待できます。気持ちのイライラや高まりを抑え、衝動性や攻撃性をやわらげてくれます。適応障害で最もよく使われるのは、デパケンでしょうか。

気分安定薬について詳しく知りたい方は、「気分安定薬の種類にはどのようなものがあるのか」をお読みください。

 

8.適応障害で漢方薬は有効か?

漢方薬によって、心身が楽になることもあります。西洋薬のように即効性や確実性は期待しにくいですが、服用することで楽になる方もいらっしゃいます。

適応障害では、ストレスから様々な症状が認められます。適応障害では、お薬はあくまでサポートにすぎません。西洋薬だけでなくても、漢方薬も一つの手段になります。

ただし漢方薬は、西洋薬とは考え方も異なりますので、ちゃんと理解して使っていくことが大切です。

これまでみてきたような抗不安薬や抗うつ剤は、作用メカニズムもはっきりしていて、効果も科学的に実証されています。それに対して漢方薬は、経験則に基づいて発展してきた医学なので、効果にも個人差があります。そしてその効果がみられるまでにも、2週間~1か月ほど時間がかかることが多いです。

このように、即効性や確実性を考えると西洋薬に分があります。その一方で、漢方薬の苦みもあってか、服用することが安心感につながることがあります。漢方薬の生薬としての効果以上に、症状が改善していくこともあります。

本来の漢方薬は、病気や症状に対してこれといったような使い方はしません。四診という独特の診察から身体のバランスの崩れ方をみて、それを整えていきます。ですから、例えば頭痛でもむくみであっても、同じ漢方が処方されることがあります。

しかしながら病院での漢方は、少し使い方が異なります。おおよそ症状ごとに向いている漢方薬があって、患者さんの体質を合わせて使うことが多いです。

適応障害によく使われる漢方薬としては、以下のようなものがあげられます。

 

まとめ

適応障害の薬物療法についてみてきました。

適応障害の本質的な治療は、「いかに適応していくか」にあります。お薬はあくまで補助的なものにすぎませんが、お薬によって症状を楽にすることができます。

これによって不調の悪循環を断ち切って、健康な判断力を取り戻せることができます。不適応を起こした環境に向き合っていく、大きな支えになります。

心に作用するお薬に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、お薬のサポートで適応障害は改善しやすくなります。

適応障害では必要以上にお薬は使いませんし、場合によっては漢方薬やカウンセリングなどで治療をしていくこともできます。適応障害の治療で一番大切なのは、一人で抱えずに相談することです。心身が悪化していく前に、早めに医療機関にご相談ください。

 

投稿者プロフィール

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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