イフェクサーSRカプセル(ベンラファキシン)の効果と特徴
-
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
海外ではメジャーな抗うつ剤として発売されているエフェクサーが、日本でも2015年12月8日に発売となりました。日本では、イフェクサーSRカプセルと名前を変えて発売されています。
イフェクサー(一般名:ベンラファキシン)はSNRIと呼ばれているお薬で、セロトニンだけでなくノルアドレナリンを増加させる抗うつ剤です。同じタイプの抗うつ剤としては、すでにサインバルタやトレドミンが発売されています。
これまでSNRIは選択肢が少なく、しっかりとした効果が期待できるイフェクサーが加わったことで治療の選択肢が広がります。
ここでは、イフェクサーSRカプセルの効果や特徴についてお伝えしていきたいと思います。他の抗うつ剤と比較しながら、どのような方に向いているのか考えていきましょう。
1.新薬イフェクサー(ベンラファキシン)とは?
日本で3番目に発売されるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)です。
イフェクサーは、トレドミンとサインバルタに次いで発売された日本で3番目のSNRIという抗うつ剤になります。SNRIはセロトニンとノルアドレナリンを増加させ、不安や落ちこみだけでなく意欲や気力の回復も期待できる抗うつ剤です。
イフェクサーは日本では新薬ですが、海外では1993年にスイスで発売されてから20年以上も使われているお薬になります。海外ではすでにジェネリックも発売されていて、さらに改良されたプリスティーク(デスベンラファキシン)というお薬も発売されています。
実のところ、日本での発売を目指して10年ほど前から治験がすすめられていましたが、うまく有効性が示せなくて一度断念しました。ファイザーが改めて治験をすすめて成功し、2015年12月8日に発売となりました。
海外では、イフェクサーはしっかりと効果があるSNRIとして広く使われてきました。日本では従来、サインバルタとトレドミンの2剤が発売されていました。しかしながらトレドミンの効果は物足りないものがあるので、事実上SNRIはサインバルタ1剤となっていました。イフェクサーが加わったことで、しっかりと効果の期待できるSNRIの選択肢ができました。
それでは、イフェクサーの効果について詳しくみていきましょう。
2.イフェクサーのメリットとデメリット
まずはイフェクサーで予想される特徴を、メリットとデメリットに分けてまとめていきたいと思います。おおよそのイメージをつかんでから読み進めていただくと理解が深まると思います。
2-1.イフェクサーのメリット
- 意欲や気力を高める効果がある
- 痛みに効果が期待できる
- 徐放製剤なので比較的副作用が少ない
- アメリカと同じ用量で使える
イフェクサーはセロトニンだけでなく、ノルアドレナリンも増やします。セロトニンは不安や落ち込みに、ノルアドレナリンは意欲や気力に関係していると考えられています。SNRIのイフェクサーはこの両方を増やしますので、不安や落ち込みだけでなく、意欲や気力の回復にも効果が期待できます。
ノルアドレナリンは、痛みに対しても効果が期待できます。夢中で何かをしていたり、ピンチの時に痛みを感じない経験をされたことはありませんか?この時にはノルアドレナリンがドッと分泌されて、痛みを感じさせないのです。うつ病の方の2/3くらいは、頭痛や腰痛などの痛みを伴っています。イフェクサーは、痛みにも効果は期待できます。
また、セロトニンとノルアドレナリン以外の作用は抑えられていますので、副作用は全体的に少ないです。さらにイフェクサーは、カプセルの徐放製剤で発売されます。カプセルが溶けて少しずつ薬が放出されるので、副作用として多い吐き気や下痢が緩和されます。このため、効果がある量まで十分にお薬を使うことができます。
日本は安全性が最優先の国です。多くの抗うつ剤が海外よりも少ない量しか使えません。しかしながらイフェクサーでは、アメリカの承認用量と同じ量のお薬が使えます。同じSNRIのサインバルタでは、海外では120mgまで使えますが、日本では60mgとなってしまいます。十分量までお薬を使えるのは、大きなメリットといえます。
2-2.イフェクサーのデメリット
- カプセル錠しかない
- 離脱症状が多い可能性がある
- 薬価が高い
イフェクサーは、カプセルにすることで少しずつ薬が溶け出すように作られました。確かに副作用は減ったのですが、一番小さな37.5mgカプセルずつしか用量を変えられません。この点がデメリットになります。
イフェクサーでは、離脱症状が多い可能性があります。日本人ではまだわかりませんが、離脱症状はやや多いとされています。イフェクサーは、抗うつ剤の中では作用時間が短いです。身体からお薬が抜けるのが早いので、離脱症状が起こりやすい可能性があります。カプセルで用量を細かく調整できない点も含めて、イフェクサーの離脱症状には気をつける必要があるでしょう。
そして、新しいお薬ですので薬価がどうしても高くなってしまいます。イフェクサーSRは37.5mg・75mgの2つのカプセルが発売されていますが、薬価はそれぞれ160.8円・270.7円になります。最高用量の225mgを1か月間使うと、自己負担3割の方で7309円となります。
イフェクサーの副作用について詳しく知りたい方は、「イフェクサーの副作用と安全性」をお読みください。
3.イフェクサーの作用機序
セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで効果を発揮するSNRIです。
不安や落ち込みといった症状には「セロトニン」が関係しているといわれていて、意欲や気力は「ノルアドレナリン」、興味や楽しみは「ドパミン」が関係しているといわれています。
イフェクサーは、脳内のセロトニンとノルアドレナリンという神経伝達物質を増加させることで、抗うつ効果がもたらされるといわれています。どのように増やすかというと、不要になったセロトニンやノルアドレナリンの回収を邪魔しているのです。
セロトニンとノルアドレナリンは神経と神経の橋渡しを行う神経伝達物質です。分泌された神経伝達物質は、役割を果たすと回収されます。このことを再取り込みと呼びます。イフェクサーは、この再取り込みを阻害することによって、神経伝達物質の量を増やします。回収されずに残ったセロトニンやノルアドレナリンは残って作用し続け、これによって効果が発揮されるのです。
このような働きをする薬を、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)といいます。
4.イフェクサーの効果と強さ
イフェクサーの副作用はサインバルタと同程度で、しっかりとした効果も期待されます。
イフェクサーの抗うつ剤としての強さはどのくらいあるでしょうか?
様々な新しい抗うつ剤12種類の効果と副作用を比較した研究をご紹介したいと思います。
この研究は、MANGA studyといわれている新しい抗うつ剤を比較した論文をたくさん集めてきて分析したものです。2009年にランセットという超有名専門誌に発表されました。この結果をみてみましょう。
イフェクサー(ベンラファキシン)の有効性は第3位、安全性は第8位となっています。
この結果は慎重に見ていく必要があります。
- 薬によってはデータ量が不足している
- 薬の有効性を反応性だけで評価している
- 高用量でお薬を使う論文では副作用が多くなる
- 日本人ではなく外国人での研究である
ちょっと論文を読んだだけでも、このような問題点が見えてきます。例えば同じSNRIのサインバルタでは、有効性が第8位・安全性が第9位となっています。これは臨床的な実感とは異なります。
とはいえこの結果をみると、イフェクサーの効果は十分に期待できます。副作用はサインバルタと同程度と考えられます。
5.イフェクサーの作用時間からみる効果
イフェクサーの血中濃度は、9.3時間で半減します。
抗うつ薬は、一般的には効果が出てくるには2週間程度かかります。
抗うつ薬が安定して効果を発揮するためには、常に身体の中に薬がある状態が必要です。薬を規則正しく服用していると、身体の中に少しずつ薬がたまっていきます。およそ服用を始めて4~5日ぐらいで薬の体内での濃度が安定します。
イフェクサーをカプセルのまま服用すると、腸の中でゆっくりと溶け出します。少しずつ吸収されて6時間ほどで血中濃度が最高値になります。そこから徐々に血中濃度が低下していき、9.3時間で血中濃度が半減します。
イフェクサーが血中に取り込まれると、肝臓ですぐに代謝されてデスベンラファキシンに変化します。このデスベンラファキシンが効果の中心となっています。ちなみにデスベンラファキシンは、海外ではプリスティークという商品名で発売されています。
活性代謝産物であるデスベンラファキシンは、8~10時間で血中濃度が最高値になります。11~12時間ほどで血中濃度が半分になります。
このようなお薬なので、丸1日たってもお薬が身体に残っています。1日1回の服用でも少しずつ薬が身体にたまっていきます。より効果を安定させて副作用を少なくするためには、1日2回に分けた方がよいでしょう。意欲や気力を高める効果があるお薬なので、朝に服用することが多いです。
6.イフェクサーの用法
イフェクサーはセロトニン作用が強く、SSRIよりのSNRIと考えられます。
薬には37.5mgSRカプセルと75mgSRカプセルがあります。SRカプセルとは、Sustained Release(徐放)の略です。少しずつお薬が放出されるカプセルということです。
添付文章での用法は、以下のようになっています。
通常、成人にはベンラファキシンとして 1 日37.5 mgを初期用量とし、1 週後より 1 日75 mgを 1 日 1 回食後に経口投与する。なお、年齢、症状に応じ 1 日225 mgを超えない範囲で適宜増減するが、増量は 1週間以上の間隔をあけて 1 日用量として75 mgずつ行うこと
イフェクサーは、37.5mgカプセル1日1回から開始していきます。増量のペースは37.5mg~75mgずつに増量していきます。75mgまで増量したら、2週間ごとに効果判定していくのが一般的でしょう。サインバルタと比較すると、効果の発現がやや遅いことが多いので、じっくりと使っていく必要があります。添付文章上は1週間ごとに増量できるので、すぐに量を増やした方がよい時は1週間ごとに増量していきます。
イフェクサーは、アメリカの用量と同じ225mgまで使うことができます。
イフェクサーは、75~150mgではセロトニンの増加作用が中心となります。ノルアドレナリンの効果は、量が増えると少しずつ強くなります。150~225mgではノルアドレナリンの効果が確実にでてきます。このため、気力や意欲が低下している方や痛みが強い方では、高用量までしっかりと使うと効果が期待できます。
7.イフェクサーと他の抗うつ剤との比較
不安や焦りだけでなく、意欲や気力を回復してくれます。イフェクサーは、サインバルタよりもセロトニン作用が強いSNRIといえるでしょう。
以下の表で、主な抗うつ薬の作用をまとめてみました。これを踏まえて、イフェクサーの作用の特徴を考えてみましょう。
SNRIは、セロトニンだけでなくてノルアドレナリンも増加させます。このため、不安や焦りだけでなく、意欲や気力を回復させる効果もあります。
セロトニンだけを増加させるSSRIの方が、不安や落ち込みを和らげる効果はしっかりとしています。このため、薬が効く確率は高いです。ですが、ある程度よくなった後にあと一歩・・・ということはよく経験します。イフェクサーでは、効果があった方にはしっかりと効いて、効果に厚みが期待できます。
SNRIの効果を比較してみましょう。セロトニンとノルアドレナリンへの作用の強さと比率をご紹介したいと思います。
商品名 | 一般名 | セロトニン再取込阻害 | ノルアドレナリン再取込阻害 | 効果比率 |
サインバルタ | デュロキセチン | 0.8 | 7.5 | 9:1 |
トレドミン | ミルナシプラン | 151 | 68 | 1:2 |
イフェクサー | ベンラファキシン | 82 | 2480 | 30:1 |
プリスティーク(未発売) | デスベンラファキシン | 40.2 | 558.4 | 14:1 |
この数値は再取り込み阻害の強さをみたものです。Ki値といって、数値が低いほど作用が強力であることを意味しています。
うつ病にはいろいろな症状の出方がありますが、不安や落ち込みが強いことが多いです。セロトニン作用がしっかりとしていないと、これらの症状には効果が期待できません。
イフェクサーの効果の比率は、セロトニンに対する割合が大きいです。イフェクサーは、サインバルタよりもセロトニン作用が強いSNRIといえるでしょう。このため、落ち込みや不安に対する効果が期待できます。
そうはいってもデスベンラファキシンが効果の中心になるので、ノルアドレナリン作用が全く期待できないわけではありません。イフェクサーの量が増えるにつれて、ノルアドレナリンの割合が増えていきます。総合的に見て、イフェクサーはSSRIよりのSNRIといえるでしょう。
SSRIは、セロトニンだけに作用するように作られているので、不安や焦りをとる効果がしっかりとしているお薬です。
NaSSAは、セロトニンとノルアドレナリンを増加させる効果が強いです。抗ヒスタミン作用による眠気や食欲増加が目立つお薬ですが、うまくあえば効果が強いお薬です。
昔からある三環系抗うつ薬では、いろいろな受容体に作用してしまいます。ですから副作用が多いのですが、強い効果が期待できる抗うつ剤です。
8.イフェクサーが向いている人とは?
イフェクサーの特徴をふまえて、どのような人に向いているお薬なのかを考えてみましょう。まずは、イフェクサーの適応からみていきましょう。
8-1.イフェクサーの適応疾患
<適応>
- うつ病・うつ状態
<適応外>
- 慢性疼痛
- 更年期障害
- 不安障害(パニック障害・全般性不安障害・社交不安障害・PTSD)
イフェクサーはうつ病やうつ状態に対して効果が認められたお薬です。日本での発売にあたっては、うつ病の患者さんへの効果のみが認可されました。しかしながら海外では、慢性疼痛や更年期障害などにも使われているお薬です。日本で発売された後は、適応外使用という形で使われていくことが予想されます。
イフェクサーには、痛みに対して効果がありますので、さまざまな慢性疼痛に使うことができます。同じSNRIのサインバルタでは、2015年から線維筋痛症にも適応が通りました。この病気は原因不明に痛みが続いてしまう病気で、精神科では疼痛性障害などと診断されていることが多いです。
また、ほてりや寝汗など更年期障害にも効果が報告されています。女性ホルモンによる自律神経の乱れによって、血管の調整が上手くいかなくなる症状に効果があります。
アメリカでは全般性不安障害・パニック障害・社交不安障害・PTSDなどの不安障害にも適応が認められています。強迫性障害については推奨されていません。
8-2.イフェクサーはどのような人に向いているの?
- 仕事や家庭をこなしながら治療を進めていく方
- 不安が強く、意欲や気力が出ない方
- 痛みがある方
- NaSSAを使っている方
適応をふまえて、イフェクサーがどのような人に向いているのかを考えていきましょう。
イフェクサーの特徴は、ノルアドレナリンの作用によって意欲や気力を回復させる効果があることです。このため、不安や焦りだけでなくて、意欲や気力が出なくて困っている方に効果が期待できます。どちらかというとセロトニン作用が優位なため、落ち込みや不安が強い方に向いています。
また、ノルアドレナリンは活動的にさせるので、眠気も出てきにくいです。眠気が全くでないわけではありませんが、他の薬に比べると少ないと思われます。ですから、仕事や家庭をこなしながら治療をしていく方に向いています。
イフェクサーは痛みにも効果が期待できます。うつ病の患者さんは、頭痛をはじめとした何らかの痛みを伴っていることが6~7割あります。うつ状態を脱しても、痛みが身体の症状として残ることもあります。このように症状が残る方では、再発率がかなり高くなることがわかっています。ですから、痛みがある時には向いています。
また、NaSSAを使っていて効果が不十分のときは、SNRIを併用すると相性がよいです。海外ではイフェクサーとの併用が行われてきましたが、日本では発売されていなかったのでサインバルタとの併用が行われてきました。今後は、イフェクサーとの併用も増えてくると思われます。
まとめ
セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで効果を発揮するSNRIです。イフェクサーは、サインバルタよりもセロトニン作用が強いSNRIといえるでしょう。
イフェクサーのメリットは、
- 意欲や気力を高める効果がある
- 痛みに効果が期待できる
- 徐放製剤なので比較的副作用が少ない
- アメリカと同じ用量で使える
イフェクサーのデメリットは、
- カプセル錠しかない
- 離脱症状がやや多い可能性がある
- 薬価が高い
イフェクサーが向いている人とは、
- 仕事や家庭をこなしながら治療を進めていく方
- 不安が強く、意欲や気力が出ない方
- 痛みがある方
- NaSSAを使っている方
投稿者プロフィール
-
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
最新の投稿
- フリバス2020年7月30日フリバス錠・OD錠の副作用と安全性について
- フリバス2020年7月30日フリバス錠・OD錠の効果と特徴について
- 頭痛2017年4月9日痛み止めで逆に頭痛?薬物乱用頭痛について
- エビリファイ2017年4月8日アリピプラゾール錠の効果と副作用