サインバルタカプセルの効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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サインバルタは、2010年に発売された新しい抗うつ剤のSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)になります。

セロトニンだけでなくてノルアドレナリンへの効果も併せ持っていてるため、SNRIと呼ばれています。抑うつや不安といったセロトニンによる症状だけでなく、意欲低下や気力低下といったノルアドレナリンによる症状の改善が期待できます。

日本では発売が遅れましたが、海外では2004年から使われているお薬です。効果のわりに副作用が少なく、世界では一番処方されている抗うつ剤です。精神症状だけでなく痛みにも効果があるので、心療内科や精神科だけでなく内科や整形外科などでも処方されることもあります。

ここでは、サインバルタの効果を中心に、他の抗うつ剤と比較しながらお伝えしていきたいと思います。

 

1.サインバルタのメリットとデメリット

はじめに、サインバルタの特徴を簡単に紹介したいと思います。

  <メリット>

  • 意欲や気力を高める効果がある
  • しっかりとよくなる方が多い
  • 痛みに効果が期待できる
  • 副作用が少ない

  <デメリット>

  • カプセル錠しかない
  • 薬価が高い
  • 海外よりも最高用量が低い

サインバルタの特徴を簡単にいうと、「意欲や気力を高めるとことが期待できる抗うつ剤」です。昔からある三環系抗うつ薬よりも副作用が少ない薬としてSSRIが開発され、日本では1999年から発売となりました。このお薬はセロトニンを増やすお薬でしたが、サインバルタはノルアドレナリンも増やす作用があります。ですから、SSRIに比べて効果に厚みが期待できます。

ノルアドレナリンが増えると、意欲が高まったり、気力が出てきたりします。また、痛みに対しても効果が期待できます。夢中で何かをしていたり、ピンチの時には人は痛みを感じません。そういった体験をされたことがある方もいらっしゃるかと思います。この時にはノルアドレナリンがドッと分泌されて、痛みを感じていないのです。

このようにサインバルタは、SSRIに比べて効果に幅があります。からだに馴染むとしっかりとよくなる方もいらっしゃいます。そしてセロトニンとノルアドレナリン以外の作用は抑えられていますので、副作用は全体的に少ないです。このため増量しても副作用が問題になりにくく、従来の三環系抗うつ薬よりも十分量のお薬を使うことができます。

 

デメリットとしては、カプセル錠しかないことです。副作用として多い吐き気や下痢の副作用を抑えるために、腸でカプセルが溶けて少しずつ薬が放出されるようにできています。このため、20mgずつしか用量を変えられません。この点がデメリットになります。減量していくときなどでは、カプセルを外して粉薬として飲んでいただくこともあります。

そしてまだ先発品しか発売されていないため、薬価が高くなってしまいます。ジェネリックの発売は2017年頃だろうと予想されています。最大量まで服用していると、3割の自己負担で月4235円になってしまいます。けっこうな負担になってしまいます。

また、日本では安全性が優先されるため、海外よりも量を使うことができません。アメリカでは日本の倍の量(120mg)まで使えるお薬になります。このため、サインバルタだけでは力不足で、他の抗うつ剤を追加する必要があることもあります。

 

2.サインバルタの作用機序

サインバルタは、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで効果を発揮するSNRIです。

不安や落ち込みといった症状には「セロトニン」が関係しているといわれていて、意欲や気力は「ノルアドレナリン」、興味や楽しみは「ドパミン」が関係しているといわれています。

サインバルタは、脳内のセロトニンとノルアドレナリンという神経伝達物質を増加させることで、抗うつ効果がもたらされるといわれています。どのように増やすかというと、不要になったセロトニンやノルアドレナリンの回収を邪魔しているのです。

セロトニンとノルアドレナリンは神経と神経の橋渡しを行う神経伝達物質です。分泌された神経伝達物質は、役割を果たすと回収されます。このことを再取り込みと呼びます。サインバルタは、この再取り込みを阻害することによって、神経伝達物質の量を増やします。回収されずに残ったセロトニンやノルアドレナリンは、残って作用し続けます。このため、効果が発揮されるのです。

このような働きをする薬を、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)といいます。日本で発売されているSNRIは、現時点で3種類あります。

  • サインバルタ
  • トレドミン
  • イフェクサー

になります。日本ではイフェクサーが最も新しく発売(2015年)されたお薬になりますが、海外ではイフェクサーは1993年に発売されているお薬です。この中ではサインバルタが、海外では最も新しい抗うつ剤になります。

 

3.サインバルタと他の抗うつ剤との比較

不安や焦りだけでなく、意欲や気力を回復してくれます。同じSNRIのトレドミンより効果がしっかりとしています。

以下の表で、主な抗うつ薬の作用をまとめてみました。これを踏まえて、サインバルタの作用の特徴を考えてみましょう。

代表的な抗うつ剤について、作用を比較してまとめました。

SNRIは、セロトニンだけでなくてノルアドレナリンも増加させます。このため、不安や焦りだけでなく、意欲や気力を回復させる効果もあります。

セロトニンだけを増加させるSSRIの方が不安や焦りをとる効果はしっかりとしているので、薬が効く確率は高いです。ですが、ある程度よくなった後にあと一歩・・・ということはよく経験します。サインバルタは、効果があった方にはしっかりと効いて、効果に厚みがあります。

 

SNRIの効果を比較してみましょう。サインバルタは、トレドミンよりもしっかりとした効果が期待できます。これは、セロトニンとノルアドレナリンへの作用の強さと比率が大きく違うからです。作用の違いを数字でみてみましょう。

商品名 種類 セロトニン ノルアドレナリン 効果比率
トリプタノール 三環系抗うつ薬 4.33 34.5 8:1
サインバルタ SNRI 0.8 7.5 9:1
トレドミン SNRI 151 68 1:2
イフェクサー SNRI 82 2480 30:1

この数値は再取り込み阻害の強さをみたものです。Ki値といって、数値が低いほど作用が強力であることを意味しています。

サインバルタの効果の比率は、最強といわれている三環系抗うつ薬のトリプタノールと似ています。効果のバランスがよいのでしょう。また、Ki値の数値が低いので作用が強力であることがわかると思います。

サインバルタは、セロトニンとノルアドレナリンがしっかりと上昇させて効果を発揮します。これに対してトレドミンは、効果がマイルドなことがわかると思います。イフェクサーは、ノルアドレナリンよりもセロトニンが優位なお薬になります。

 

SSRIは、セロトニンだけに作用するように作られているので、不安や焦りをとる効果はしっかりとしています。その中でもレクサプロは、セロトニンだけに作用するように作られています。パキシルはノルアドレナリン作用や抗コリン作用が強いので、効果がしっかりしていて副作用も比較的に多いです。ジェイゾロフトではドパミン作用がみられます。ルボックス/デプロメールは、SSRIの中では効果がマイルドです。

NaSSAは、セロトニンとノルアドレナリンを増加させる効果が強いです。抗ヒスタミン作用による眠気や食欲増加が目立つお薬ですが、うまくあえば効果が強いお薬です。

昔からある三環系抗うつ剤では、いろいろな受容体に作用してしまいます。ですから副作用が多いのですが、効果の面でも新しい抗うつ剤よりも強いです。

 

4.サインバルタの強さ

サインバルタは副作用が少なく、効果を発揮するとしっかりと効きます。

サインバルタの抗うつ薬としての強さはどのくらいあるでしょうか?様々な新しい抗うつ薬12種類の効果と副作用を比較した報告をご紹介したいと思います。

抗うつ剤の効果と副作用の比較を図表でしめしました。(MANGAstudy)

MANGA studyといわれている新しい抗うつ剤を比較した論文をたくさん集めてきて分析したものです。2009年にランセットという超有名専門誌に発表されたものです。この結果をみると、サインバルタの評価は非常に悪いものとなっています。

  • 有効性:①リフレックス/レメロン ②レクサプロ ③ベンラファキシン ④ジェイゾロフト ⑤シタロプラム
  • 安全性:①レクサプロ ②ジェイゾロフト ③ブプロピオン ④シタロプラム ⑤フルオキセチン

サインバルタは、有効性で第10位、安全性で第10位となっています。評価が悪くなってしまったのには理由があります。

まず、他の抗うつ剤と比較するとサインバルタのデータが不足しています。そして、最高用量の60mgをいきなりスタートする論文が多いことです。当然、副作用が多いという結果が出てきてしまいます。

また、ここでいう有効性は「薬が反応したかどうか」だけで評価してしまっています。SSRIの方が不安をとる効果は強いので、薬が効いたという結果は出やすいです。ですが、サインバルタは効果がでるとしっかりと効く薬です。「反応」ではなく「寛解」で有効性を評価するならば、違った結果になると思われます。

 

「効果がどれだけ強いのか?」という点だけをみると、古くからある三環系抗うつ薬の方が強いです。ですが副作用が強く出てしまうので、まずは新しい抗うつ薬から使っていくのが治療の主流となっています。新しい抗うつ薬の中で、サインバルタはしっかりとした効果が期待できる薬になります。

 

5.サインバルタの効き方

サインバルタの血中濃度は10.6時間で半減します。

抗うつ薬は、一般的には効果が出てくるには2週間程度かかります。

抗うつ薬が安定して効果を発揮するためには、常に身体の中に薬がある状態が必要です。薬を規則正しく服用していると、身体の中に少しずつ薬がたまっていきます。およそ服用を始めて4~5日ぐらいで薬の体内での濃度が安定します。

サインバルタをカプセルのまま服用すると、胃腸の中でゆっくりと溶け出します。少しずつ吸収されて7~8時間ほどで血中濃度が最高値になります。そこから徐々に血中濃度が低下していき、10.6時間で血中濃度が半減します。抗うつ剤の中で比較すると、薬が身体から抜けていくのは早い方です。ですが、吸収がゆっくりなので血中濃度は比較的安定しています。

飲み始めて17~18時間で血中濃度が半分になります。1日1回の服用でも、少しずつ薬が身体にたまっていきます。意欲や気力を高めるお薬なので、通常は朝に服用することが多いです。より効果を安定させて副作用を少なくするためには、1日2回に分けた方がよいです。

薬には20mgカプセルと30mgカプセルがあります。ですから、20mgから薬を始めていきます。通常20mg増量して、60mgまで使うことができます。カプセルの組み合わせ方によっては、10mgずつ増量していくこともできます。

※海外では120mgまで使うことができるお薬です。

 

6.サインバルタの副作用

サインバルタの副作用は全体的に少ないですが、吐き気・下痢・性機能障害・不眠がみられます。

サインバルタは、セロトニンとノルアドレナリンに働きます。セロトニンの副作用としては、胃腸を刺激してしまうことで吐き気や下痢がよくみられます。サインバルタはカプセルにしてゆっくり薬が溶け出すようにしているので、吐き気や下痢は緩和されています。

また、性機能障害がみられます。SSRIでよくみられる副作用ですが、SNRIのサインバルタでも40%ほどの方に認められます。セロトニンの働きが関係していると考えられています。

また、不眠がみられることがあります。セロトニンは眠りを浅くしてしまいます。さらにノルアドレナリンは意欲や気力を高める作用があるので、覚醒に働きます。ですから、この2つの効果が合わさって不眠の副作用がみられます。ただ、SSRIでは睡眠の質も悪くなってしまうのに対して、SNRIではそこまで睡眠の質には影響がありません。

代表的な抗うつ薬の副作用の比較を以下にまとめます。サインバルタは副作用は全体的に少なめです。

代表的な抗うつ薬について、副作用を比較して表にまとめています。

サインバルタの副作用について詳しく知りたい方は、「サインバルタカプセルの副作用」をお読みください。

 

7.サインバルタが向いている人は?

サインバルタはSNRIに分類されていて、セロトニンとノルアドレナリンの両方を増加させるお薬でした。それでは、どのような方に向いているといえるのでしょうか?サインバルタの適応をふまえて、考えていきましょう。

 

7-1.サインバルタの適応

<適応>

  • うつ病・うつ状態
  • 線維筋痛症に伴う疼痛
  • 慢性腰痛
  • 変形性関節症
  • 糖尿病性神経障害に伴う疼痛

<適応外>

  • 慢性疼痛

サインバルタは、以前は「うつ病・うつ状態」への適応のみとなっていました。ノルアドレナリンを増やすので、意欲低下が目立つ方によく使われていました。使われていくうちに痛みに対して効果があることがわかってきたので、慢性疼痛によく使われるようになりました。

うつ病や不安障害での痛みにはもちろんのこと、整形外科の領域でもよく使われています。というのも、ロキソニンなどのいわゆる痛みどめは、長期で使っていると身体に負担が大きいからです。薬物乱用性頭痛になってしまったり、腎機能が低下したり、胃潰瘍になってしまったりします。このため、慢性的な痛みがある時はサインバルタがよく使われました。

これらをうけて、原因不明に痛みが続いてしまう病気である線維筋痛症に対して、2015年に適応が認められました。線維筋痛症は、中枢神経の過敏性が原因と考えられています。精神科では疼痛性障害として診断されることが多いかと思います。2016年3月より慢性腰痛、12月より変形性関節症に対しても適応が認められました。

また、糖尿病の患者さんは合併症のひとつとして、神経障害によって痛みやしびれが認められることがあります。サインバルタには鎮痛効果が認められ、2012年2月より適応追加となっています。

 

7-2.サインバルタが向いている人とは?

  • 意欲や気力が出ない方
  • 仕事や家庭をこなしながら治療を進めていく方
  • 焦りが強くない方
  • 痛みがある方

適応をふまえて、サインバルタがどのような人に向いているのかを考えていきましょう。

サインバルタの特徴は、ノルアドレナリンの作用によって意欲や気力を回復させる効果があることです。このため、不安や焦りだけでなくて意欲や気力が出なくて困っている方に効果が期待できます。

また、ノルアドレナリンは活動的にさせるので、眠気も出てきにくいです。サインバルタでも眠気が全くでないわけではありませんが、他の薬に比べると少ない印象です。ですから、仕事や家庭をこなしながら治療をしていく方に向いています。

うつ病の患者さんの中には、身体や頭が思うようにいかないことから焦りが強いことがあります。このような時には、一度気持ちを落ち着かせてから抗うつ剤を使う必要があります。サインバルタのように意欲を高めるお薬は向きません。思い詰めて、あらぬ方向に意欲を高めてしまうことがあります。

さらにサインバルタでは、痛みに効果が期待できるのが特徴的です。うつ病の患者さんは、頭痛をはじめとした何らかの痛みを伴っていることが6~7割あります。うつ状態を脱しても、痛みが身体の症状として残ることもあります。このように症状が残る方では、再発率がかなり高くなることがわかっています。ですから、痛みがある時には向いているお薬です。

 

まとめ

セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで効果を発揮するSNRIです。

不安や焦りだけでなく、意欲や気力を回復してくれます。同じSNRIのトレドミンより効果がしっかりとしています。

血中濃度は10.6時間で半減します。

副作用は全体的に少ないですが、吐き気・下痢・性機能障害・不眠がみられます。

サインバルタが向いているのは、以下のような方です。

  • 意欲や気力が出ない方
  • 仕事や家庭をこなしながら治療を進めていく方
  • 焦りが強くない方
  • 痛みがある方

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