加味帰脾湯【137番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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心の病では、漢方薬を使うことが身体の病気よりも多いかと思います。

どうしても精神科の薬には抵抗が強い方も多く、漢方薬を希望される患者さんも多いです。それだけでなく、不定愁訴(はっきりしない症状)という部分に漢方薬は強みがあります。

現代のような社会でストレスにさらされると心身が疲れてしまい、貧血や不眠症、精神不安などさまざまな症状に悩まされる人が多くいます。このような症状に対して使用される漢方薬に、「加味帰脾湯」があります。

加味帰脾湯は虚弱な体質を改善して、貧血や心身疲労を改善させる作用があります。また、不安や緊張、イライラや抑うつなどを抑え、寝つきをよくしてくれます。したがって虚弱な体質の人の神経症や心身症に対して効果があるとされています。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、加味帰脾湯は「ツムラの137番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される加味帰脾湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.加味帰脾湯【137番】の生薬成分の効能

加味帰脾湯は、消化機能を高める滋養強壮作用と、不安や緊張を落ち着かせる抗不安・精神安定作用が中心です。補気・補血作用が認められ、帰脾湯よりも鎮静作用が期待できます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

加味帰脾湯は、14種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。非常にたくさんありますが、それぞれの生薬成分の作用をまとめてみてみましょう。

  • 人参(3.0g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 蒼朮・白朮(3.0g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 甘草(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 酸棗仁(3.0g):鎮静作用・催眠作用・鎮痛作用
  • 竜眼肉(3.0g):強壮作用・鎮静作用・補血作用
  • 遠志(2.0g):鎮静作用・強壮作用・去痰作用
  • 当帰(2.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 生姜(1.0g):発汗作用・健胃作用・制吐作用・鎮咳作用
  • 大棗(2.0g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用
  • 黄耆(3.0g):強壮作用・利尿作用
  • 木香(1.0g):健胃作用・整腸作用・鎮痛作用・理気作用
  • 柴胡(3.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 山梔子(2.0g):解熱作用・消炎作用・利胆(胆汁排出促進)作用・止血作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

このように加味帰脾湯は、多彩な生薬成分が合わさって効果を発揮します。人参・蒼朮・茯苓・甘草の4つは、「四君子湯(しくんしとう)という漢方薬」の基本となる生薬です。補気剤といわれていて、心のエネルギーを充実させると同時に胃腸を丈夫にし、消化機能を高めます。

また、酸棗仁・竜眼肉・遠志・当帰の4つは、補血剤として肝や腎の機能を高めていきます。さらに気持ちを落ち着かせる鎮静作用が認められる生薬です。このような働きを有する生薬を組み合わせることで、加味帰脾湯の効果が得られます。

このように加味帰脾湯は、消化機能を高める滋養強壮作用と、不安や緊張を落ち着かせる抗不安・精神安定作用が中心と言えます。

 

その他の生薬も作用をサポートしています。当帰は血の滞りを改善する駆血作用、木香は気の滞りを改善する理気作用があります。生姜には身体を温める作用とともに、健胃作用と制吐作用があります。黄耆には滋養強壮作用があります。

大棗や柴胡には、精神を鎮める作用があります。また、山梔子は消炎鎮痛作用とともに黄疸を取り除きます。加味帰脾湯は、帰脾湯に柴胡と山梔子を加えて、鎮静作用を強めた漢方薬です。

このようにみると加味帰脾湯は、体力のない人の精神の不安定さや不眠症などに対する改善効果が期待できることが分かります。

加味帰脾湯の生薬成分についてまとめました。

※本来は白朮が使われるのですが、日本では蒼朮が代用で使われることが多いです。蒼朮と白朮は同じではなく、生薬としての作用は異なりますので注意が必要です。

 

2.加味帰脾湯の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(中間)・気血水(血虚・気虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

証とは、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などになります。これらの証と、漢方薬の特徴を合わせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

加味帰脾湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:中間証
  • 気血水:血虚(血流不足・貧血症状)・気虚(心身疲労)

 

3.加味帰脾湯の効果と適応

  • 心身の疲労が目立つ不安障害や軽症うつ病や不眠症(心脾両虚)
  • 食欲低下や胃腸障害が目立つ不安障害や軽症うつ病
  • 自律神経失調症(イライラや不定愁訴)
  • 更年期障害や月経前緊張症(PMS)
  • 貧血や生理不順

加味帰脾湯は、漢方の古典である「済世全書」をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

加味帰脾湯は、虚弱な体質な人に向いている漢方薬です。さらに心身疲労によって様々な不調をきたしたときに、効果が高い漢方薬といわれています。精神安定作用があるので、精神不安や緊張、イライラなどを落ち着かせます。

さらに消化機能を高める作用があるので、心身疲労や食欲不振が目立つ不安障害や軽症うつ病、自律神経失調症などに使われます。さらに加味帰脾湯は、心身や精神の疲労から睡眠障害を起こしている場合にも用いられます。

漢方の世界では、このような状態を心脾両虚といいます。気力や体力の源が足りなくなってしまい、心と脾が活動できなくなっている状態と考えます。加味帰脾湯は、心脾両虚に使われる代表的な漢方薬です。

 

また、更年期障害の症状として、疲れやすい・食欲不振・動悸・イライラ・胸苦しい・のぼせ・ほてりといったものがありますが、これに胃腸が弱かったり、顔色が悪いなどの症状が加わった場合には加味帰脾湯が向いています。

それ以外にも、生理前の精神的不安定さである月経前緊張症(PMS)、血を補う作用があるので貧血や生理不順に使われます。女性によく使う漢方薬のひとつです。

このように加味帰脾湯は、虚弱な体質を改善して貧血や心身疲労を改善させ、心身症などの精神症状の強い人に用いて、体力をつけながら精神を安定させるのに役立つのです。

なお、添付文章に記載されている加味帰脾湯の適応は以下のようになっています。

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:
貧血、不眠症、精神不安、神経症

 

4.加味帰脾湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

多くの漢方薬は、ツムラ・コタロー・クラシエから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。加味帰脾湯では、ツムラとコタロー、クラシエともに7.5gになっています。クラシエからは錠剤も発売されていますが、1日に27錠も服用する必要があります。

加味帰脾湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかになり、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。加味帰脾湯では、空腹時の方が吸収はよくなります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.加味帰脾湯の効き目とは?

効果は2週間以上かけて、ゆっくりと認められることが多いです。

それでは、加味帰脾湯の効き目はどのような形でしょうか。

加味帰脾湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで様々な症状で悩まされていた方が、ビックリするくらいに穏やかになることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

加味帰脾湯は、一般的には効き目はゆっくりです。とくに病気で悩まされていた期間が長い患者さんほど、そのバランスを整えるには時間がかかります。 効果は2週間くらいから認められることがあります。じっくりと時間をかけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。

このような効き目なので、抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性はありません。ですから、不安発作に頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.加味帰脾湯の副作用

加味帰脾湯では、生薬固有の副作用として偽アルドステロン症とミオパチーに注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまうことがあり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応が生じることがあります。加味帰脾湯の成分に対する過敏症として発疹や蕁麻疹などの症状が現れる場合があります。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。加味帰脾湯の生薬成分のひとつである甘草は、大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。

偽アルドステロン症と呼ばれる機能異常によって、尿量の減少や高血圧、むくみ、低K血症などが認められることがあります。低K血症によって、脱力感や四肢痙攣、麻痺などのミオパチーが現れることがあります。

これ以外にも加味帰脾湯によって、食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢なども報告されています。このような症状に気づいたら、医師または薬剤師に相談してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

7.加味帰脾湯の効果が期待できる人とは?

加味帰脾湯は、効果があると信じ込める人の方が効果が期待できます。

昔から「良薬は口に苦し」といわれてきたように、独特の苦みが漢方の効能を引き立たせてくれることがあります。このような思い込みの効果ともいえるプラセボ効果(偽薬効果)は、心の病気では非常に大きいのです。

一般的に精神科のお薬は、30%ほどのプラセボ効果があるといわれています。臨床試験などを行うと、ダミーの薬でも3割くらいの人には効果が認められるのです。漢方薬のプラセボ効果は、西洋薬よりも大きいという報告もあります。

ですから、加味帰脾湯は効くと思い込んで服用した方がよいのです。そういう意味では、信じ込める人の方が効きやすいのです。せっかく服用するのですから、「こんなに苦いんだから加味帰脾湯は効くんだ!」を思いながら服用してください。

加味帰脾湯を心の治療に使う時は、現実的には以下のケースがあります。

  • 加味帰脾湯自体の効果を本当に期待する場合
  • 副作用で抗うつ剤や抗不安薬が使えない場合
  • 抗うつ剤や抗不安薬を使うことに対する不安が大きい場合
  • 薬の量を減らしていく時に不安が強い場合
  • 妊娠が判明した場合  ※有益性が危険性を上回る場合

病気や症状という面で見れば、加味帰脾湯はこれまでお伝えしてきたような方に向いているといえます。しかしながら、加味帰脾湯の効果だけを本当に期待して使うケースばかりではありません。

実際の現場では、さまざまなケースで加味帰脾湯が使われています。せっかく服用されるのでしたら、しっかり効くと言い聞かせながら服用してください。

 

まとめ

加味帰脾湯は、消化機能を高める滋養強壮作用と、不安や緊張を落ち着かせる抗不安・精神安定作用が中心です。補気・補血作用が認められ、帰脾湯よりも鎮静作用が期待できます。

陰陽(陽)・虚実(虚)・寒熱(中間)・気血水(血虚・気虚)

加味帰脾湯は、以下のような方に使われます。

  • 心身の疲労が目立つ不安障害や軽症うつ病や不眠症(心脾両虚)
  • 食欲低下や胃腸障害が目立つ不安障害や軽症うつ病
  • 自律神経失調症(イライラや不定愁訴)
  • 更年期障害や月経前緊張症(PMS)
  • 貧血や生理不順

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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