睡眠薬(眠剤)の効果と強さの比較

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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不眠は非常につらい症状です。なかなか寝付けずに苦しむ時間は本当につらいです。

睡眠薬は、このように不眠で苦しんでいる方に非常に有用です。しかしながら、漫然と使っていると依存してしまうこともあるので、睡眠薬について正しく理解して、用法を守って使っていく必要があります。

今日では、さまざまな睡眠薬が発売されています。医師はそれぞれの患者さんの不眠の状態に合わせて睡眠薬を使い分けています。

ここでは、睡眠薬の効果や強さを比較しながら、睡眠薬の選び方を考えていきたいと思います。ぜひ、ご自身の使っている睡眠薬に関する理解を深めてください。

 

1.睡眠薬の種類と強さ

強さ:バルビツール酸系>ベンゾジアゼピン系≧非ベンゾジアゼピン系≒オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
安全性:メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬≧非ベンゾジアゼピン系>ベンゾジアゼピン系>>バルビツール酸系

現在使われている睡眠薬は、大きく5つの種類に分けることができます。

それぞれのタイプによって、効果や特徴が異なります。詳しくはそれぞれのリンクをみてください。ここでは、おおざっぱにご説明していきたいと思います。

 

バルビツール酸系は、非常に効果が強力な睡眠薬です。昔はよく使われていましたが、依存性の高さや安全性の低さが問題でした。現在では、どうしても不眠が改善しない時だけに使われる睡眠薬です。
ベゲタミンA・ベゲタミンBラボナイソミタールがこのタイプに分類されます。

 

ベンゾジアゼピン系は、しっかりとした効果が期待できる睡眠薬です。安全性は高いのですが、依存性が高いものもあるので注意が必要です。薬の「強さ」と「作用時間」によって、睡眠の状態に応じて薬を選んでいきます。
ハルシオンレンドルミンエバミール/ロラメットリスミーデパスサイレース/ロヒプノールユーロジンベンザリン/ネルボンエリミンドラールダルメート/ベノジールソメリンがこのタイプに分類されます。

 

非ベンゾジアゼピン系は、ベンゾジアゼピン系を改良した睡眠薬です。効果の強さはベンゾジアゼピン系には及びませんが、筋弛緩作用が少なく、ふらつきや転倒の副作用が少ないです。安全性の高さから、ベンゾジアゼピン系と並んでよく処方されています。
マイスリーアモバンルネスタがこのタイプに分類されます。

 

メラトニン受容体拮抗薬は、体内時計のリズムを調節するメラトニンというホルモンに働きかけます。本来の睡眠メカニズムに作用するため、自然に近い眠気を促してくれる睡眠薬です。このため、副作用が少なく、依存性の心配もありません。残念ながら効果は弱いです。
ロゼレムがこのタイプに分類されます。

 

オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒状態と睡眠状態のスイッチに重要な働きをしているオレキシンに働きます。この薬も本来の睡眠メカニズムに作用するため、自然に近い眠気を促してくれます。安全性も高く、依存性も少ない睡眠薬です。2014年に発売されたばかりですが、今後の主力となってくる可能性を秘めた睡眠薬です。
ベルソムラがこのタイプに分類されます。

 

このように睡眠薬は5つのタイプに分けることができます。

5つのタイプで睡眠薬の強さを比較すると、
バルビツール酸系>ベンゾジアゼピン系≧非ベンゾジアゼピン系≒オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
となります。

安全性の面で比較すると、
メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬≧非ベンゾジアゼピン系>ベンゾジアゼピン系>>バルビツール酸系
となります。

 

2.睡眠薬の強さの比較

超短時間型の中では、ハルシオン>アモバン>マイスリー≧ルネスタ
短時間型の中では、ロヒプノール/サイレース>レンドルミン>デパス≒エバミール/ロラメット>リスミー
中間型の中では、エリミン≧ベンザリン/ネルボン>ユーロジン ※ロヒプノール/サイレースは実質的に短時間型
長時間型の中では、ドラール>ダルメート/ベノジール≒ソメリン

もう少し詳しく睡眠薬の強さをみていきましょう。

ここでは種類も豊富に発売されているベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬について、その作用の強さを比較していきたいと思います。

ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系は作用機序が似ているため、同じように考えていくことができます。この2つのタイプを比較すると、非ベンゾジアゼピン系の方が副作用が少ない分、効果も穏やかです。このため「強さ」でみると、ベンゾジアゼピン系>非ベンゾジアゼピン系といえます。

 

ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を使い分ける時は、まずは作用時間から考えていきます。それぞれの睡眠薬によって、効果のピークが異なります。これをもとに4つのタイプに分けられます。

  • 超短時間型:効果のピークは1時間未満、作用時間は2~4時間
    (ハルシオン・マイスリー・アモバン・ルネスタ)
  • 短時間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は6~10時間
    (デパス・レンドルミン・エバミール/ロラメット・リスミー)
  • 中間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は20~24時間
    (ロヒプノール/サイレース・ベンザリン/ネルボン・ユーロジン・エリミン)
  • 長時間型:効果のピークは3~5時間、作用時間は24時間~
    (ドラール・ベノジール/ダルメート・ソメリン)

それぞれのタイプ別に強さをみてみましょう。以下の2点を踏まえて比較してみます。

  • ロヒプノール/サイレースは、トータルでみると作用時間は長いのですが、実質的には短時間型として作用します。このため、短時間型で比較します。
  • 睡眠薬の強さは、量を増やせば当然強くなります。睡眠薬によって最高用量が異なっています。これは発売の時期の状況によっても左右されることです。ここでは、最高用量での強さをもとに比較していきたいと思います。

 

超短時間型の中では、ハルシオン>アモバン>マイスリー≧ルネスタという印象です。このタイプでは、ベンゾジアゼピン系のハルシオンの効果が一番強いです。ルネスタは発売が新しいため、用量が低めに設定されています。

短時間型の中では、ロヒプノール/サイレース>レンドルミン>デパス≒エバミール/ロラメット>リスミーという印象です。ロヒプノール/サイレースは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中では最も効果が強いです。リスミーは、もっとも効果が弱いと感じます。

中間型の中では、エリミン≧ベンザリン/ネルボン>ユーロジンという印象です。エリミンは乱用されることも多く、発売中止になりました。

長時間型の中では、ドラール>ダルメート/ベノジール≒ソメリンという印象です。ドラールは欧米よりも用量設定が高く、強い効果が期待できます。

 

なおバルビツール酸系では、ベゲタミンB<ベゲタミンA<ラボナ≒イソミタールという強さになります。メラトニン受容体作動薬とオレキシン受容体拮抗薬では、それぞれロゼレムとベルソムラしか発売されていません。

 

3.不眠のタイプ別、睡眠薬の選び方

作用時間と睡眠の質によって、睡眠薬を使い分けていきます。
入眠障害:超短時間型~短時間型
中途覚醒:短時間型~長時間型・ベルソムラ
早朝覚醒:中間型~長時間型・ベルソムラ
熟眠障害:ロゼレム・ベルソムラ・鎮静系抗うつ薬
悪夢:三環系抗うつ薬
睡眠覚醒リズム障害:ロゼレム

睡眠障害にもいろいろなタイプがあります。
寝つきが悪い「入眠障害」、途中で目が覚めてしまう「中途覚醒」、明け方に目が覚めてしまう「早朝覚醒」。
睡眠障害のタイプに合わせて、睡眠薬の作用時間を変えていきます。

睡眠薬のタイプ(作用時間)と特徴をまとめました。

超短時間型や短時間型は、薬の効果がすぐに出てきます。即効性が期待できるので、入眠障害に有効です。短時間型では睡眠中を薬がカバーできるため、中途覚醒にも有効です。

中間型や長時間型は、身体に薬が少しずつたまって効果が出てきます。中間型は4~5日かけて、長時間型は1週間以上かけて効果が安定します。どちらも寝つきやすい土台を作っていくようなお薬です。中途覚醒や早朝覚醒に有効です。

オレキシン受容体拮抗薬のベルソムラは、入眠障害にも効果がありますが、中途覚醒に大きな効果が期待できます。ロゼレムは全体的に睡眠が改善していく睡眠薬です。

 

睡眠の質の障害がみられることもあります。睡眠が浅くなってしまう「熟眠障害」、苦しい夢でうなされる「悪夢」、昼夜逆転してしまうといった「睡眠覚醒リズム障害」。
睡眠薬に限らず精神科のお薬には、睡眠の質に対して異なる影響があります。

睡眠薬や抗うつ剤が睡眠の質にどのような影響を与えるのか、まとめました。

睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠の2つに分かれています。簡単にお伝えすると、

  • レム睡眠とは、脳が活動していて、身体が休んでいる睡眠。夢を見ている。
  • ノンレム睡眠とは、脳が休んでいて、身体が活動できる睡眠。寝返りをうつ。

になります。この2つを明け方までに繰り返しています。脳も身体も休めなければいけないので、どちらの睡眠も大切です。ノンレム睡眠は深さによって4段階に分かれていて、3~4段階が徐波睡眠(脳波がゆっくり)という深い睡眠になります。

 

熟眠障害の場合、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は浅い睡眠を増やしてしまうので逆効果です。ロゼレム・ベルソムラといった睡眠薬、睡眠を深くする抗うつ剤(レメロン/リフレックス・デジレル/レスリン・テトラミドなどの鎮静系抗うつ薬)が有効です。

悪夢で悩まされている場合、夢をみているレム睡眠を抑えることが必要です。ベルソムラでは夢を増やしてしまうので逆効果です。睡眠薬ではありませんが、レム睡眠を抑制する三環系抗うつ薬のトリプタノールなどを少量使うことが多いです。

睡眠と覚醒のリズムが乱れている場合、体内時計の調整しているメラトニンに作用するロゼレムを使います。

 

4.睡眠薬を使っても眠れないときは?

できるだけ少ない睡眠薬にするように心がけ、作用機序の異なる睡眠薬を併用していきます。催眠効果の強い抗うつ剤や抗精神病薬を使うこともあります。

これまでみてきたように、不眠の状態によって睡眠薬を使い分けていきます。効果があると思われる睡眠薬の中から、まずはできるだけ優しい薬を選ぶことが鉄則です。

1つの薬を決めたら、その薬の上限量まで使ってみます。睡眠薬の量を増加させれば、効果は当然強くなり、作用時間も少しだけ延びます。作用時間が長い睡眠薬や、ロゼレムでは効果が安定するまでには時間がかかります。ロゼレムにいたっては、3か月が効果のピークともいわれています。これらの薬を使っている場合は、焦らずに効果をみていきましょう。

 

もしも効果が不十分であったら、同じタイプの薬の中で効果の強い睡眠薬に変更してみます。それでも効かなかった場合、どうしたらよいでしょうか?睡眠薬をやみくもに増やしてしまうと、副作用(ふらつきや日中の眠気)が増加するだけでなく、依存性も高くなってしまいます。

2剤目を追加する前に、必ず立ち止まって不眠の原因を考えます。うつ状態や統合失調症などが隠れているかもしれません。そのような方には、抗うつ剤や抗精神病薬の方が効果的なこともあります。そして、睡眠のによい生活習慣を意識をしましょう。具体的には後述させていただきます。

 

どうしても1剤で難しい場合は、2剤併用を検討します。できるだけ作用機序が異なるものから選んだ方がよいでしょう。足し算ではなく掛け算での効果を期待したいためです。あともう一歩で何とかなりそうという時は、同じタイプを重ねることもあります。

2剤使っても効果が不十分な時は、3剤以上は使わない方がよいでしょう。副作用や依存性が強くなってしまうことが多く、かりに3剤で効果がでても、身体が慣れてしまって効かなくなってしまうことが多いです。ですから、2剤の組み合わせの中でよりよいものを探っていきます。

睡眠薬ではありませんが、抗うつ剤や抗精神病薬の中には睡眠効果が強いものがあります。

  • 抗うつ剤:レメロン/リフレックス・デジレル/レスリン・テトラミドなどの鎮静系抗うつ薬
  • 抗精神病薬:ジプレキサ・セロクエル・リスパダール・コントミン・ヒルナミンなど

これらも組み合わせていきます。依存性が高く、安全性の低いバルビツール酸系睡眠薬は、私は使わないようにしています。

 

5.睡眠によい生活習慣を取り入れましょう

睡眠薬に頼るだけでなく、生活習慣を意識していきましょう。少ない睡眠薬で不眠を解消でき、睡眠薬をスムーズにやめられます。

不眠の治療は薬だけではありません。薬の治療と並行して、睡眠によい生活習慣をぜひ取り組んでいただきたいのです。生活習慣を意識すると、必ず実を結びます。

睡眠によい生活習慣とはどのようなものがあるでしょうか?厚労省で発表されているものに「睡眠障害対処12の指針」「健康づくりのための睡眠指針2014」というものがあります。これを読んでみると、なかなか具体的に取り組めることが少ないです。私の経験も踏まえて、睡眠によい生活習慣の取り組みをご紹介したいと思います。

不眠を解消するためのポイントを3つ示し、それぞれに具体的な方法を3つずつ紹介しました。

よい睡眠をとるポイントは、リズム・体温・自信の3つがあります。

人間には体内時計のリズムがあります。このリズムに従って眠ることで、質のよい睡眠がとれます。このリズムはメラトニンというホルモンで作られています。このメラトニン、夜の9時頃より出てきて深夜がピーク、朝方に光を浴びることで消えます。ですから、光を意識する必要がありますね。夜の光は極力さけ、朝の光は積極的にとるとよいです。また、朝に起きる時間でリズムがリセットされますので、毎日ほぼ一定の時間に起床することが大事です。休日の寝だめはNG、せいぜい1~2時間の寝坊にとどめておいてください。
 
次に、体温です。人間の深部体温が高いところから下がる時、もっとも眠りにつきやすいといわれています。ですから、寝る前に体温を高め、眠りについてから熱を逃がすことが理想です。体温を高めるためには2つのおすすめの方法があります。1つ目は、ぬるめのお風呂にゆっくりつかることです。2つ目は、夕方の運動です。帰り道に階段を使うなどして、できることから身体を動かす意識をしていただければと思います。熱を逃がす方法としては、汗を吸いやすい寝具を使うことです。熱がこもらずに逃がすことができます。
 
最後は、自信です。眠りに不安をもつと、ますます寝付けなくなってしまいます。ですから、寝ることに自信をもつことが大事です。このためにも、ベッドは寝るだけの場所、ベッドに入ればすぐに眠れるという気持ちを作りましょう。ベッドでゴロゴロは避けましょう。眠たくなってからベッドに入るようにします。眠れない時は、一度ベッドからでて気持ちを落ち着ける方がよいです。
 
 
詳しく知りたい方は
不眠を解消する9つの方法
をお読みください。
 

その他にも、カフェインや水分などにも気をつけましょう。
アルコール・タバコ・コーヒーと睡眠の関係
睡眠と水分・食事の関係

 

まとめ

強さ:バルビツール酸系>ベンゾジアゼピン系≧非ベンゾジアゼピン系≒オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
安全性:メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬≧非ベンゾジアゼピン系>ベンゾジアゼピン系>>バルビツール酸系

超短時間型の中では、ハルシオン>アモバン>マイスリー≧ルネスタ
短時間型の中では、ロヒプノール/サイレース>レンドルミン>デパス≒エバミール/ロラメット>リスミー
中間型の中では、エリミン≧ベンザリン/ネルボン>ユーロジン ※ロヒプノール/サイレースは実質的に短時間型
長時間型の中では、ドラール>ダルメート/ベノジール≒ソメリン

入眠障害:超短時間型~短時間型
中途覚醒:短時間型~長時間型・ベルソムラ
早朝覚醒:中間型~長時間型・ベルソムラ
熟眠障害:ロゼレム・ベルソムラ・鎮静系抗うつ薬
悪夢:三環系抗うつ薬
睡眠覚醒リズム障害:ロゼレム

できるだけ少ない睡眠薬にするように心がけ、作用機序の異なる睡眠薬を併用していきます。催眠効果の強い抗うつ剤や抗精神病薬を使うこともあります。

睡眠薬に頼るだけでなく、生活習慣を意識していきましょう。少ない睡眠薬で不眠を解消でき、スムーズに薬をやめられます。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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