適応障害をセルフチェックする4つのポイントと心理検査

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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適応障害とは、自分の置かれた環境に上手く適応ができず、心身の症状が認められる病気です。

環境変化が原因となることが多く、有病率は5~20%とも報告されていて、誰にでも起こりうる病気です。私たちは生きている中で、仕事や家庭などで様々なイベントがあります。悪いことはもちろんのこと、良いことも変化はストレスになります。

このようなストレスで、多少の心身の不調をきたすことはよくあります。それは正常な生理反応で、適応障害とはいえません。

ですが頑張ってもうまく環境変化に適応できないと、ストレスのせいで病気と考えたほうが良いほどの心身の症状が認められることがあります。この場合は適応障害と診断して、しっかりと治療をしたほうが良いです。

ここでは、病気として治療すべき適応障害かどうかをセルフチェックできるように試みたいと思います。適応障害の診断基準DSM-Ⅴをもとに、4つのポイントから適応障害かどうかをチェックしてみましょう。そして、その診断を補助してくれる心理検査をご紹介していきます。

 

1.適応障害は誰もがなりうる病気

本人と環境に埋められないギャップがあり、それによって心身に「病気」とみなしたほうが良い症状が認められるときに、適応障害と診断されます。

適応障害とはどのような病気でしょうか。まずはその病気の本質をお伝えしていきたいと思います。

ほとんどの場合、適応障害は環境変化に伴って起こります。環境が変化すれば、誰しも新しい環境に適応しようと努力しようとします。少しずつ慣れればよいのですが、どうしても慣れなかったり、受け入れられないこともあります。そのような場合、ストレスが常にかかり続けます。

そのストレスに対処するのが限界になると、心身に症状としてあらわれてきます。病気として治療したほうが良いレベルになると、適応障害と診断されます。

適応障害はこのような病気なので、「本人」と「環境」との間に、どうしても埋められない価値観のギャップがあります。このギャップは人それぞれで、周囲からは些細に思えるようなことでも、本人にとっては非常に重要であることもあります。

ですからストレス耐性が高いと思っている方でも、環境によっては適応障害を発症することもあります。柔軟な考えができる人であれば適応障害にはなりにくいのかもしれませんが、誰もがなりうる病気なのです。それぞれの年代によっても環境の変化があるので、思春期から老年期にかけて幅広く認められる病気です。

続けて適応障害をチェックするポイントを順番にみていきますが、少しでも適応障害かもしれないと思ったら専門家に相談してみてください。

適応障害は、キッカケである環境変化に上手く適応できればよくなっていきます。相談をするだけでも気持ちが楽になることもありますし、お薬や環境調整によって改善していきます。

 

2.適応障害のチェック①-キッカケがあるか

適応障害には、明確なストレス因があります。多くの場合が環境変化で、本人もそれを自覚しています。どんな些細なことであっても、本人の価値観とのズレがあればストレス因となります。

適応障害は、環境にうまく適応できないことで発症する病気です。本人はその環境に適応しようと努力してもできないわけですから、不調になってしまった原因も自覚できます。

ですから適応障害では、「不調になったきっかけを教えてください」とお聞きすると、「○○のためです」と明確な答えが返ってきます。「何が原因だかわからないけれども…」という場合は、適応障害とは診断されません。

適応障害は多くの場合、環境が変化したタイミングで起こります。

  • 転勤や異動、昇進といった職場の変化
  • 結婚や出産、離婚といった家庭の変化
  • 失恋や親友とのケンカといったプライベートの変化

ありとあらゆる環境変化がストレス因になります。周りの人から見れば、「そんなことで…」と思うような変化もあるかもしれません。ですが価値観は人によって異なります。その人の考え方や特性では受け入れられない環境であった場合、努力しても適応はできずに適応障害の原因となります。

このように適応障害は、本人の価値観と環境の価値観に大きくギャップがあることがストレス因になります。ですから、周りの人の価値観で判断すると些細なことに感じてしまったり、常識で判断すると「そんなことで・・・」と感じてしまうこともあります。本人の価値観でどう感じるかが大事なのです。

このため適応障害では、ストレス因と症状の間に因果関係があります。何とか適応して努力をしていく中で、それがストレスとなり症状が認められます。

適応障害の診断基準では、3カ月以内に症状が認められることとなっています。実際には1か月以内に何らかの症状が認められることが多いです。

 

3.適応障害のチェック②-病気と考えるほどの症状か

環境変化で想定される以上の症状が認められたり、生活に支障があれば、適応障害という病気と考えて治療をしていくべきです。

適応障害の症状は、ストレスによって生じるすべての症状といっても過言ではありません。特にこれといった特徴的な症状があるわけではなく、どのような症状が認められるかは重要ではありません。

よく認められる症状としては、大きく3つあります。

  • 抑うつ気分(気持の落ち込み)
  • 不安
  • 素行の障害(暴飲暴食・ケンカ)

それ以外にも、不眠、食欲低下といった睡眠や食事の乱れや、頭痛や吐き気、下痢といった自律神経症状がよく認められます。

環境が変われば、多少なりともストレスは関わります。それに適応しようとして、ちょっとした心身の不調が認められることはよくあります。何だかイライラしたり気が散ったり、おなかの調子がすぐれなくなったりします。

適応障害では、その症状が「病気」と考えたほうが良いほどの程度である必要があります。正常と病気の線引きとしては、

  • 想定される以上の本人の著しい苦痛
  • 社会生活や日常生活に支障がある

この2つを見ていきます。

例えば、結婚して家庭に入ったキャリアウーマンを考えてみましょう。仕事をしなくてよいということは物理的ストレスは減りますが、仕事でキャリアを積んでいくのが当たり前という価値観で生きてきた彼女にとっては精神的ストレスになります。

何だか落ち着かなくなったり、多少の体調不良を感じたりするのは想定される正常なストレス反応です。少しずつ新しい価値観に適応できるようになり、家庭での自分の意義を見いだせていけば症状も落ち着いていきます。

しかしながら折り合いがつかずに、「気持ちがふさぎ込んでしまう」「感情のコントロールがつかなくて、キレてしまう」「不安で落ち着かなくなる」といった、想像される以上の症状が認められば適応障害と考えます。

また、「体がだるくて外出できない」「人込みで吐き気がする」「やらなきゃと思っても家事が全く手につかない」といった生活への支障がでていても、適応障害と考えます。

このように適応障害は、「病気と考えるほどの症状の程度か」をみて診断していきます。

 

4.適応障害のチェック③-他の病気ではないか

うつ病などのほかの病気が認められる場合、適応障害ではなくうつ病などと診断されます。また、誰もが心身のバランスを崩しかねないストレス因の場合は、その原因に応じた病気が診断されます。

適応障害という病気は、本人と環境のギャップという原因によって診断される病気です。そのストレスによって他の病気が認められれば、適応障害とは診断されません。例えばストレスによってうつ病の診断基準を満たすほどになってしまったら、うつ病と診断されます。

ストレスはすべての病気を悪化させる要因なので、適応障害のストレスが重なって精神疾患を発症してしまうこともあります。ストレスによって脳の機能に異常が生じると、うつ病や双極性障害、統合失調症などを発症することがあるのです。

また、誰もが心身のバランスを崩してしまっても仕方がないような出来事の場合、適応障害とは診断されないことがあります。例えば、

などでは、誰もがストレスをうけます。愛する人がなくなった後に悲嘆にくれるのは正常なことです。ですが死別反応でも、想定される以上の症状で生活に支障があれば適応障害と診断されます。

また、悲惨な出来事を体験すると、その体験をうまく処理できずにトラウマ(心的外傷)となってしまうことがあります。そうなると、急性ストレス障害やPTSDといった特徴的な症状が認められます。ですが急性ストレス障害やPTSDを引き起こす出来事があっても、症状がそこまでひどくない場合は適応障害と診断されます。

 

5.適応障害のチェック④-環境によって症状が変化するか

適応障害は、ストレス因である環境が変われば症状も変化します。そのストレス因がなくなれば、適応障害は次第によくなっていきます。

適応障害は、ハッキリとした原因(環境変化)によるストレス反応です。ですからその原因によって、症状が変化することが多いです。

例えば職場環境が原因の場合、平日は体調が悪いのに休日になると楽になったりします。夫婦生活が原因の場合、夫が帰ってくると体調が悪いのに日中は楽になったりします。

ただし適応障害が重たくなると、こうした症状の変化も少しずつ少なくなっていきます。常に調子の悪い状態が続いてしまうようになります。

また適応障害では、その原因がなくなれば比較的すぐに良くなっていきます。例えば職場が原因であれば、配置転換ですぐに良くなることもあります。このような場合、その原因がなければ適応障害にはなっていなかったと想定することができますね。

適応障害では、早く対処すればするほど症状の改善も早いです。数日でよくなっていくこともあります。しかし中には、症状がすっきりと良くならないこともあります。

例えば休職した方では、一時的にストレスが軽減して楽になっても、「休職というキャリア」という現実(新しい環境)と自分の価値観とのギャップで症状が続いてしまうこともあります。こうした新たな適応障害が続いてしまうこともあります。

 

6.適応障害を心理検査からセルフチェック

これまでは適応障害の診断基準をもとに、セルフチェックを試みてきました。

適応障害の症状には特徴的なものがあるわけではないのですが、よく認められる症状である抑うつや不安を客観的に評価する心理検査が開発されています。

また適応障害へのなりやすさは、ストレス耐性も関係しています。ストレス耐性が高い方は環境変化にも柔軟に対応しやすいです。

ここでは、抑うつと不安を評価する2つの心理検査と、ストレス耐性を図る心理検査をご紹介したいと思います。

 

6-1.CES-D(うつ病自己評価尺度)

抑うつ症状を自己評価するために開発された心理検査になります。

CES-Dは、うつ病を早期発見するために開発された心理検査です。BDIやSDSといった既存のうつ病の心理検査から質問項目を精査し、米国国立精神保健研究所(NIMH)により開発されました。

自己記入式の心理検査のため実施もしやすく、その有用性の高さから世界的にも普及している心理検査です。病院に受診する際に実施されることも多いです。

過去1週間でどれくらいの頻度が認められたかを、4つの選択肢(0~3点)から答えていきます。

20の質問項目から構成されており、16のネガティブな質問項目(うつ気分・身体症状・対人関係)、4のポジティブな質問項目(ポジティブ気分)となっています。

16点をカットオフとして、16点以上ですとうつ病・うつ状態が疑われます。

実際にCES-Dを行ってみたい方は、「CES-D(うつ病自己評価尺度)でうつ病の症状をセルフチェック」をご覧ください。

 

6-2.STAI(状態-特性不安検査)

不安へのなりやすさと現在の不安を点数化する心理検査です。

STAIは適応障害に限った検査ではありませんが、不安の程度を評価するのによく使われている心理検査です。

不安は、特性不安と状態不安に分けることができます。特性不安とは、もともとの不安へのなりやすさが反映されます。状態不安とは、現在感じている不安の強さが反映されます。

それぞれ20項目の合計40項目に対して、4段階で自分にあてはまる状態を選んでいきます。全部で80点満点で評価し、男性と女性では評価基準が多少異なります。

実際にSTAIを行ってみたい方は、「不安障害や神経症をSTAI(状態-特性不安検査)でチェック」をご覧ください。

 

6-3.SOC(首尾一貫感覚)

SOC(首尾一貫感覚)とは、有意味感・全体把握感・経験的処理感の3つをみていくことで、ストレス耐性について評価するテストです。

SOCは、アントノフスキーが第二次世界大戦後のユダヤ人強制収容所から生還した人々を観察する中で見出されたものです。

極度のストレス環境の中で、3つの感覚がストレス耐性に影響することがわかりました。

  1. 有意味感:やるぞと思えるか
  2. 全体把握感:わかると思えるか
  3. 経験的処理感:できると思えるか

この3つの感覚がどれくらいあるかを測るテストがSOCになります。

実際にSOCを行ってみたい方は、「SOC(首尾一貫感覚)からストレス耐性をセルフチェック」をご覧ください。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

適応障害に限ったことではありませんが、できるだけ早く治療を開始した方が回復が早まります。適応障害は原因が明確なので、それが取り除かれれば比較的すぐによくなります。

早く相談することで、社会的なデメリットを受けずに踏みとどまれることも少なくありません。薬を使うだけではなく、環境を整えるアドバイスをすることも病院では行います。

精神科や心療内科の受診が心配な方は、「精神科の受診のイメージと流れ」をお読みください。

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