抑肝散【54番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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漢方の世界でいう「肝」には、感情をコントロールする役割があると考えます。この「肝」を抑える漢方薬が抑肝散になります。

抑肝散は、「イライラする」 「興奮している」状態を落ち着かせてくれる漢方薬です。このように神経の高ぶりをおさえてくれるだけでなく、筋肉の緊張をゆるめてくれる作用もあります。

漢方薬の中でも有効性がしっかりと実証されていて、科学的な効果の裏付けもされています。抑肝散は安全性も高いので、老人や子供にも使われることが多いです。

イライラや不眠などの精神症状に使われることが非常に多く、認知症の周辺症状にはまず初めに使われます。その他にも、手足のけいれんや子供のひきつけなどに使われる漢方薬です。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、抑肝散は「ツムラの54番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される抑肝散の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.抑肝散【54番】の生薬成分の効能

釣藤鈎によるセロトニンの増加が効果の中心と考えられています。紫胡・甘草にも鎮静作用が認められ、川芎・当帰は血のめぐりを良くしてくれます。蒼朮・茯苓は水分調整を行い、消化器症状を改善します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

抑肝散は、7つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 紫胡(2.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 釣藤鈎(3.0g):鎮静作用・抗痙攣作用・解熱作用
  • 蒼朮・白朮(4.0g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 茯苓(4.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 当帰(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 川芎(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・鎮痛作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

抑肝散の生薬の中で、効果の中心と考えられているのが釣藤鈎です。セロトニンを増加させる作用(5HT1A受容体部分作動薬)が確認されています。これにより、気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。

その他の生薬も合わさって、抑肝散では脳内の興奮物質(神経伝達物質)であるグルタミン酸の働きが抑えられます。柴胡には鎮静作用があり、甘草の筋肉の緊張をゆるめる作用があります。

当帰と川芎は、血のめぐりをよくすることで貧血症状を改善してくれます。蒼朮と茯苓には利尿作用があり、水分循環を改善してくれます。さらには健胃作用もあるので、消化器症状を改善します。茯苓には鎮静作用も認められます。

抑肝散の生薬成分の由来

※本来は白朮が使われるのですが、日本では蒼朮が代用で使われることが多いです。蒼朮と白朮は同じではなく、生薬としての作用は異なりますので注意が必要です。

 

2.抑肝散の証

陰陽(中間)・虚実(虚~中間)・寒熱(中間)・気血水(血虚・気逆)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などを見極めて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

抑肝散が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:中間証
  • 虚実:虚証~中間証
  • 寒熱:中間証
  • 気血水:血虚(血流不足・貧血症状)・気逆(のぼせ・イライラ・興奮)

 

3.抑肝散の効果と適応

  • イライラしやすい軽症うつ病・不安障害・ストレス性障害
  • 認知症の周辺症状(興奮・怒り・徘徊・不眠)
  • イライラや神経の高ぶりの強い更年期障害
  • 気がたってしまって眠れない不眠症
  • 子供の夜泣きやひきつけ

抑肝散は、宋時代に書かれた「保嬰撮要」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

抑肝散がもっともよく使われるのは、神経の高ぶりを抑え、気持ちを落ち着かせる効果を期待する場合になります。病院で処方されるお薬(抗不安薬や抗精神病薬)では、眠気が強くなったり、ふらつきが副作用として多いです。抑肝散ではそのようなことは非常に少ないので、高齢者や子供には使いやすいのです。

漢方では、「肝」は気や血のめぐりを調節し、身体の隅々まで配っていく機能があると考えます。実際に肝臓の機能を考えると、代謝・解毒・排泄などの働きがあります。全身をめぐっている血液の成分を調整しているので、漢方の考え方は理にかなっています。

このような働きから、「肝」は感情をコントロールしていると考えます。ストレスがかかると「肝」の気の流れが乱れてしまい、気逆となります。精神的にはイライラしてしまい、神経が高ぶった状態になります。このために不眠などの症状がみられることがあります。

抑肝散は「肝」の機能を整えてくれるので、気や血のめぐりを改善してくれます。その結果として、イライラなどの精神症状が改善するのです。このため、

  • イライラしやすい軽症うつ病・不安障害・ストレス性障害
  • 気がたってしまって眠れない不眠症

などに効果が期待できます。このように、抑肝散が向いているのはイライラが目立つような精神症状を和らげたい方です。そのような観点では、

  • 認知症の周辺症状(興奮・怒り・徘徊・不眠)
  • イライラや神経の高ぶりの強い更年期障害
  • 子供の夜泣きやひきつけ

などにもよく使われます。認知症の周辺症状に対する有効性は、科学的にも実証されています。幻覚や妄想、易刺激性や攻撃性、抑うつや不安などを和らげることがわかっています。

漢方薬は鎮静作用が少ないので、高齢者には使いやすいです。さらには、抑肝散にはグルタミン酸神経を抑える働きがあります。これは認知症治療薬のメマリーと同じ働きになります。これらの理由から、認知症の方の周辺症状には抑肝散がよく使われています。

更年期障害においても、イライラなどの精神症状が目立つときに使われることが多いです。

なお、ツムラの添付文章に記載されている抑肝散の適応は以下になります。

虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:
神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症

 

4.抑肝散の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

抑肝散は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

抑肝散は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。抑肝散を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.抑肝散の効き目とは?

効果は2週間以上かけてゆっくりと認められることが多いです。

それでは、抑肝散の効き目はどのような形でしょうか。

抑肝散の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで落ち着かなかった方が、ビックリするくらいに穏やかになることもありました。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

抑肝散は、一般的には効き目はゆっくりです。とくに病気で悩まされていた期間が長い患者さんほど、そのバランスを整えるには時間がかかります。 効果は2週間くらいで認められることがあります。じっくりと1~2か月かけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。

このような効き目なので、抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性はありません。ですから、不安発作に頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.抑肝散の副作用

抑肝散では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。抑肝散では副作用の調査がされていて、3156例中136例(4.3%)で検査異常や何等かの副作用が報告されています。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

抑肝散の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

その他では、ごくまれに間質性肺炎と肝障害が起こることがあると報告されています。咳や息切れ、呼吸困難が認められたり、発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

また、川芎や当帰によって胃の不快感や食欲不振、吐き気や下痢などの消化器症状がみられることもあります。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

7.抑肝散の効果が期待できる人とは?

抑肝散は効果があると信じ込める人の方が、効果が期待できます。

昔から「良薬は口に苦し」といわれてきたように、独特の苦みが漢方の効能を引き立たせてくれることがあります。このような思い込みの効果ともいえるプラセボ効果(偽薬効果)は、心の病気では非常に大きいです。

一般的に精神科のお薬は、30%ほどのプラセボ効果があるといわれています。臨床試験などを行うと、ダミーの薬でも3割くらいの人には効果が認められるのです。漢方薬のプラセボ効果は、西洋薬よりも大きいという報告もあります。

ですから、抑肝散は効くと思い込んで服用した方がよいのです。そういう意味では、信じ込める人の方が効きやすいのです。せっかく服用するのですから、「こんなに苦いんだから抑肝散は効くんだ!」を思いながら服用してください。

抑肝散を使う時は、現実的には以下のケースがあります。

  • 抑肝散自体の効果を本当に期待する場合
  • 副作用で抗うつ剤や抗不安薬が使えない場合
  • 抗うつ剤や抗不安薬を使うことに対する不安が大きい場合
  • 薬の量を減らしていく時に不安が強い場合
  • 妊娠が判明した場合  ※有益性が危険性を上回る場合

病気や症状という面で見れば、抑肝散はこれまでお伝えしてきたような方に向いているといえます。しかしながら、抑肝散の効果だけを本当に期待して使うケースばかりではありません。

実際の現場では、さまざまなケースで抑肝散が使われています。せっかく服用されるのでしたら、しっかり効くと言い聞かせながら服用してください。

 

まとめ

釣藤鈎によるセロトニンの増加が効果の中心と考えられています。紫胡・甘草にも鎮静作用が認められ、川芎・当帰は血のめぐりを良くしてくれます。蒼朮・茯苓は水分調整を行い、消化器症状を改善します。

陰陽(中間)・虚実(虚~中間)・寒熱(中間)・気血水(血虚・気逆)

抑肝散は、以下のような方に使われます。

  • イライラしやすい軽症うつ病・不安障害・ストレス性障害
  • 認知症の周辺症状(興奮・怒り・徘徊・不眠)
  • イライラや神経の高ぶりの強い更年期障害
  • 気がたってしまって眠れない不眠症
  • 子供の夜泣きやひきつけ

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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