加味逍遥散【24番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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心の病では、漢方薬を使うことが身体の病気よりも多いかと思います。

どうしても精神科の薬には抵抗が強い方も多く、漢方薬を希望される患者さんも多いです。それだけでなく、不定愁訴(はっきりしない症状)という部分に漢方薬は強みがあります。加味逍遥散の「逍遥」とは、ぶらぶらという意味です。あちらこちらの症状に対して効果が期待できる漢方薬ということになります。

加味逍遥散は、抑うつ気分や不安、不眠や疲労感、無気力などとった様々な精神症状に有効な漢方薬です。さらに血の巡りを改善するためによく処方されます。

このため女性向けの漢方薬で、生理や更年期にイライラや不安を持ちやすい人に効能を示します。血流を改善するので冷えにものぼせにも効き、婦人科でもよく処方されます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、加味逍遥散は「ツムラの24番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される加味逍遙散の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.加味逍遥散【24番】の生薬成分の効能

加味逍遥散は、精神安定作用と血の巡りをよくする作用が中心と言えます。むくみや消化不良、身体の痛みや倦怠感など、不定愁訴全般に対しての効果が期待できます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

加味逍遥散は、10種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 柴胡(3.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 芍薬(3.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・血管拡張作用
  • 蒼朮・白朮(3.0g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 当帰(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 山梔子(2.0g):解熱作用・消炎作用・利胆(胆汁排出促進)作用・止血作用
  • 牡丹皮(2.0g):消炎作用・駆血作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 生姜(1.0g):発汗作用・健胃作用・制吐作用・鎮咳作用
  • 薄荷(1.0g):鎮静作用・発汗作用・解熱作用・健胃作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

このように加味逍遥散は、多彩な生薬成分が合わさって効果を発揮します。その中でも柴胡・芍薬・当帰の3つの生薬成分が効果の中心です。

柴胡は抗ストレス作用があると考えられていて、肝の気を整える生薬です。芍薬はけいれんを取り除く筋弛緩作用があり、この組み合わせが身体の過緊張状態と精神的なストレスを和らげてくれます。当帰は血管拡張作用により血のめぐりを良くします。補血と駆血作用があります。

加味逍遥散は、精神安定作用と血の巡りをよくする作用が中心と言えます。

その他の生薬が作用をサポートしています。蒼朮と茯苓は利尿作用によりむくみをとって、健胃作用があります。生姜には身体を温める作用とともに、健胃作用と制吐作用があります。山梔子は消炎鎮痛作用とともに黄疸を取り除きます。牡丹皮は血の巡りをさらによくします。薄荷は鎮静作用と清涼作用があり、イライラ感を軽減してくれます。

このようにみると加味逍遥散は、むくみや消化不良、身体の痛みや倦怠感など、不定愁訴全般に対しての効果が期待できるのです。

加味逍遥散の生薬成分の由来

※本来は白朮が使われるのですが、日本では蒼朮が代用で使われることが多いです。蒼朮と白朮は同じではなく、生薬としての作用は異なりますので注意が必要です。

 

2.加味逍遥散の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(血虚・瘀血・気逆)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などを見極めて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

加味逍遥散が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒証
  • 気血水:血虚・瘀血(血流停滞)・気逆

 

3.加味逍遥散の効果と適応

  • 不安障害や軽症うつ病
  • 更年期障害や月経前緊張症(PMS)
  • 自律神経失調症(イライラや不定愁訴)
  • 冷え性
  • 肝臓の不調(胸脇苦満)

加味逍遥散は、漢方の古典である「和剤局方」をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

加味逍遥散には精神安定か作用があるので、不安や緊張、イライラをしずめ、寝つきをよくするなどの作用があります。軽症のうつ病や不安障害で使われることがあります。

加味逍遥散は、比較的体質が弱い方に適した漢方でどちらかというと女性向きの薬です。漢方では、血流の異常を「瘀血(おけつ)」および「血虚(けっきょ)」という概念でとらえます。「瘀血」は血流停滞、「血虚」は血流不足とみなせます。

女性の冷え性、月経不順、月経困難などの月経トラブル、いわゆる「血の道症」とよばれる症状には、血流異常を改善する加味逍遥散が効果的とされています。

また、閉経期に関連した女性の精神神経症状である更年期障害(不安、不眠、動悸、のぼせ、めまい、頭痛)にも用います。その他、不定愁訴などがある自律神経失調症にも効果的であると言われています。

ストレスが長く続くと交感神経が優位になります。脈が速くなり、身体は過緊張状態になります。胸脇苦満とよばれる肋骨の下から脇腹にかけての腹筋の緊張が強い時(胸脇苦満)には、柴胡のはいっている加味逍遥散が効果的であることが多いです。

なお、添付文章に記載されている加味逍遥散の適応は以下になります。

体質虚弱な婦人で、肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症

 

4.加味逍遥散の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

多くの漢方薬は、ツムラ・コタロー・クラシエから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。加味逍遥散では、ツムラとコタローは7.5g、クラシエは6gになっています。

加味逍遥散は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかになり、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。加味逍遥散では、空腹時の方が吸収はよくなります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.加味逍遥散の効き目とは?

効果は2週間以上かけて、ゆっくりと認められることが多いです。

それでは、加味逍遥散の効き目はどのような形でしょうか。

加味逍遥散の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで様々な症状で悩まされていた方が、ビックリするくらいに穏やかになることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

加味逍遥散は、一般的には効き目はゆっくりです。とくに病気で悩まされていた期間が長い患者さんほど、そのバランスを整えるには時間がかかります。 効果は2週間くらいから認められることがあります。じっくりと時間をかけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。

このような効き目なので、抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性はありません。ですから、不安発作に頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.加味逍遥散の副作用

加味逍遥散では、生薬固有の副作用として偽アルドステロン症に注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレル ギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

加味逍遥散の生薬成分の甘草は、大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。偽アルドステロン症と呼ばれる機能異常によって、高血圧やむくみ、低K血症などが認められることがあります。低K血症によって、筋肉のけいれんや麻痺が起こることがあります。

また、生薬の牡丹皮には子宮収縮作用があるといわれています。大量でなければまず心配ありませんが、妊娠中の服用については医師とよく相談してください。添付文章上でも、「妊娠中は使わないことが望ましい」という記載にはなっています。

また、原因は不明ですが長期間使っていた方が腸管膜動脈硬化症があらわれたという報告があります。繰り返す腹痛や健康診断で便潜血などが見られたときには、投与を中止した方がよいです。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

7.加味逍遥散の効果が期待できる人とは?

加味逍遥散は、効果があると信じ込める人の方が効果が期待できます。

昔から「良薬は口に苦し」といわれてきたように、独特の苦みが漢方の効能を引き立たせてくれることがあります。このような思い込みの効果ともいえるプラセボ効果(偽薬効果)は、心の病気では非常に大きいのです。

一般的に精神科のお薬は、30%ほどのプラセボ効果があるといわれています。臨床試験などを行うと、ダミーの薬でも3割くらいの人には効果が認められるのです。漢方薬のプラセボ効果は、西洋薬よりも大きいという報告もあります。

ですから、加味逍遥散は効くと思い込んで服用した方がよいのです。そういう意味では、信じ込める人の方が効きやすいのです。せっかく服用するのですから、「こんなに苦いんだから加味逍遥散は効くんだ!」を思いながら服用してください。

加味逍遥散を心の治療に使う時は、現実的には以下のケースがあります。

  • 加味逍遥散自体の効果を本当に期待する場合
  • 副作用で抗うつ剤や抗不安薬が使えない場合
  • 抗うつ剤や抗不安薬を使うことに対する不安が大きい場合
  • 薬の量を減らしていく時に不安が強い場合
  • 妊娠が判明した場合  ※有益性が危険性を上回る場合

病気や症状という面で見れば、加味逍遥散はこれまでお伝えしてきたような方に向いているといえます。しかしながら、加味逍遥散の効果だけを本当に期待して使うケースばかりではありません。

実際の現場では、さまざまなケースで加味逍遥散が使われています。せっかく服用されるのでしたら、しっかり効くと言い聞かせながら服用してください。

 

まとめ

加味逍遥散は、精神安定作用と血の巡りをよくする作用が中心と言えます。むくみや消化不良、身体の痛みや倦怠感など、不定愁訴全般に対しての効果が期待できます。

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(血虚・瘀血・気逆)

加味逍遥散は、以下のような方に使われます。

  • 不安障害や軽症うつ病
  • 更年期障害や月経前緊張症
  • 自律神経失調症(イライラや不定愁訴)
  • 冷え性
  • 肝臓の不調(胸脇苦満)

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