適応障害の治療に大切な2つのポイントとは?適応障害を克服する治療法

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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仕事や学校、家庭や友人関係といった様々なコミュニティーで私たちは生きていて、環境は常に同じとは限りません。環境が変化したときに上手く適応できないと、大きなストレスがかかってしまいます。

適応障害とは、そのような環境変化に対してうまく適応できずに、ストレスから様々な心身の症状が生じてしまう病気です。適応障害の症状はストレスによって生じるものなので、多岐にわたっています。ですからそれを抑えることだけでは、表面的な治療となってしまいます。

適応障害では、「適応ができないこと」が原因ですから、その原因にしっかりと目を向けていかなければ本当の意味で克服はできません。さらには、「適応障害という病気になる」ということを前向きにとらえられるようにすることも非常に大切です。

このように適応障害では、治療にあたっての考え方がとても大切な病気になります。症状だけに終始しては、表面的な治療になってしまうのです。ここでは、適応障害の治療に大切な考え方から、適応障害を克服するための治療法について考えていきたいと思います。

 

1.適応障害の治療で大切な2つのポイント

適応障害では、本人だけのせいでも環境だけのせいでもありません。また、適応障害という病気をしっかりと受け止め、前向きにとらえることも大切です。

まずはじめに、適応障害を治療するにあたって大切な2つのポイントをご紹介していきたいと思います。

  • 適応障害では、お互いの歩み寄りが大切
  • 適応障害では、受け止めが大切

この2つについて詳しくお伝えしていきます。

 

①お互いの歩み寄りが大切

誰しも環境が変われば、それに合わせて適応しようとします。その中で多少のストレスは誰もが感じますし、次第に適応して慣れていきます。

しかしながら適応障害では、「本人」と「環境」の間に大きな価値観のズレがあって、それを埋めることができずにストレスとなります。これを解消していくには、結局のところ2つしかありません。

  • 本人が環境に適応していく
  • 環境を本人に適応させる

本人の要因が大きな場合もあれば、環境の要因が大きな場合もあります。とはいえ、「本人だけが原因」ということも、「環境だけが原因」ということもありません。2つのどちらにも要因があります。

適応障害の治療では、「本人」と「環境」のお互いの歩み寄りが大切になります。その考え方を大切にしなければ、本人が望まない環境変化が生じたときに再発してしまいます。

適応障害の原因のウエイトによって、どちらの方法を重視していくかはかわります。たとえ環境の要因が大きかったとしても、ストレスで適応障害になるまでに発展してしまう前に対処法もあったはずです。たとえ本人の要因が大きかったとしても、その人にあった環境配慮もできたはずです。

適応障害では、自分自身も振り返りつつ、それでいて自分を責めすぎないことも大切です。

 

②受け止めが大切

適応障害では、環境と折り合いがついてくると比較的すぐに良くなることが多いです。一時的な悩みで済めばよいのですが、適応障害では深く悩む方も少なくありません。なかには休職をしたりと、現実的に生活への支障が出てしまうこともあります。

特にそういった方では、適応障害をしっかりと受け止めることが大切です。それを怠ると、

  • 適応障害になったことでの現実的な変化に耐えられない
  • 職場ストレスに弱くなる

といったことが起こってしまいます。

休職をした患者さんではよくあるのですが、復職後に現実に直面して再び調子を崩してしまうことも少なくありません。職場に戻ると、良くも悪くも配慮をしてくれます。これまでとは変わりなく接してくれるということは難しく、改めて自分が休職したという事実に気づかされます。

自分のこれからの人生について、どのように折り合いをつけて考えていけばよいのかは、いずれ考えていかなければいけない課題になります。ここから目をそらすと、同じような環境変化が起こった時だけでなく、職場でストレスがかかった時に調子を崩しやすくなってしまいます。

レジリエンスといったりしますが、表面的な治療だけでは、ストレスに対する回復力・抵抗力は低下したままとなってしまいます。わかりやすくいえば、心の病気を一度経験してちゃんと整理をしておかないと、それがクセになりやすくなってしまいます。

心の病気で休職をしたということは、決してマイナスばかりではありません。自分の生き方を見つめる機会にもなりますし、休職を経験した人にしかわからない目線になります。

自分の人生を諦めるというのではありません。人生を見つめて、自分の本当の価値観をみつけて、それを大事にした人生を歩んでいくことが大切かと思います。

 

2.適応障害の治療の3つのステップ

すぐにでも休んだほうが良い場合でなければ、まずは環境の中でできる限りの対処を考えてみましょう。その上でうまく折り合いがつかない場合は、一度ストレスから離れます。正常な判断力がもどってきたら、今後どのように適応していくべきかを検討していきます。

それでは適応障害では、どのように治療を進めていけばよいのでしょうか。3つのステップに分けてお伝えしていきたいと思います。

  1. その環境の中で、できる限りの対処を考える
  2. 何とかならないのなら、一度ストレスから離れる
  3. どのように適応していくのかを考える

順番にみていきましょう。

 

①その環境の中で、できる限りの対処を考える

適応障害の患者さんは、今まさに「適応できない環境」の中で苦しんでいることが多いです。適応障害は原因がなくなれば、比較的すぐに症状はよくなっていきます。しかしながら、現実的に環境から離れる選択肢をとれないことは多々あります。

例えば職場の環境に適応できない場合、仕事を休職するということはかなり敷居が高くなります。今は逃れたい一心でも、落ち着いてきたら後悔してしまうこともあります。

適応障害では、まずはその環境の中で、できる限りの対処を考えてみることから始めたほうが良いです。具体的な方法については後述しますが、お薬を使うことで症状を和らげたり、心持ちを変えることで気持ちの整理がつくかもしれません。人に相談することで、自分のことを配慮してくれる環境を作り出せるかもしれません。

まずは現状の中で、できることをしてみましょう。場合によっては、期間を決めて線引きをしてもいいかもしれません。「あと2週間、折り合いがつかないかやってみよう。それでダメならば休職をしよう。」といった形です。

患者さん本人には酷なことかもしれません。医者側としても、「休みましょう」といって休職の診断書を出すほうが楽ですし、正直に申し上げて儲かります。ですが患者さん本人のことを考えると、少しだけ立ち止まって考えたほうがよいです。

環境から離れることは、いつか環境に戻るということになります。まだまだ精神疾患に対する社会の理解は十分とは言えず、戻るにあたっては不利益を感じることも少なくないからです。

 

②何とかならないのなら、一度ストレスから離れる

少しだけ立ち止まって考えることは大切です。とはいえ、あまりにも落ち込みや不安が強く、医師から見て休職したほうが良いと判断されるときは、すぐにストレスから離れるべきです。また、少し立ち止まってみても何とかならないのなら、一度ストレスから離れるべきです。

適応障害は、「どのように適応していくのか」を見つけていくのが根本的な解決であり、治療となります。しかしながら、ストレスで心身が疲弊してしまっている状態では、本来の判断力が失われています。

そのようなときは、一度ストレスの原因である環境から離れて、正常な判断力を取り戻すことが必要です。無理をしていても、不調の悪循環から逃れられなくなります。

心身が不調→本来のパフォーマンスが発揮できない→ミスをしてしまい関係が悪くなる→ストレスがかかり心身が不調になる→

といった具合に、悪循環に陥ってしまうのです。この悪循環を解消できないのでしたら、一度リセットして心身を休めるほうが良いです。

仕事に関しての休職の考え方については、「適応障害で休職すべき?適応障害での仕事の考え方と休職中の過ごし方」をお読みください。

 

③どのように適応していくのかを考える

少なくとも不調の悪循環から抜け出せたら、適応障害の本質的な解決に目を向けていきましょう。つまり、「適応できない環境」に対してどのように適応していくかを考えることになります。

適応障害では、現実的に問題を解決していく必要があります。そしてその解決法というのは、上でも述べましたが2つしかありません。

  • 本人が環境に適応していく
  • 環境を本人に適応させる

適応障害は「本人」と「環境」の間の価値観のズレになりますが、お互いが少しずつ歩み寄って埋めていくしかありません。

適応障害といっても原因は様々で、本人の要因が大きいこともあれば環境の要因が大きいこともあります。大きい要因を中心にアプローチをしていくべきなのですが、環境を変えることには限界があります。

それだけでなく、本人が環境を変えることを望まないこともあります。どのようにして適応していくかは本人が判断することで、医師やカウンセラーはそれに対してアドバイスしたり、サポートしていきます。最終的には、本人がどのようにしていくかを決めていきます。

一般的には主治医やカウンセラーと相談しながら、まずは本人が環境に歩み寄っていく努力をしていきます。そのうえで、職場であれば産業医や人事総務の担当者などと相談しながら、環境に歩み寄ってもらうように調整していくのが現実的です。

それでは具体的に、この2つの視点に分けて解決法をみていきましょう。

 

3.自分が環境にうまく適応する―薬物療法・精神療法

適応障害では、①人と相談する②割り切る心持ちを意識する③お薬で心身のサポート④考え方を変える、といった自分が歩み寄っていくアプローチがあります。

適応障害では、まずは自分が環境に対して適応できる道を探っていくことが大切です。環境を変えることは自分ではコントロールできませんが、自分が変わることは自分次第だからです。

さて、自分自身が環境に対して折り合いをつけていくには、いくつかの方法があります。適応障害は原因は人それぞれで、それぞれの現実的な悩みになります。ですから、どのような対処法があうのかは人によります。

本人の基本的な物事の考え方が要因として大きい場合は、一朝一夕にできることではありません。時間をかけて精神療法を行っていく必要があります。一方で、現実的な悩みが要因として大きい場合は、現実的な解決を見つけていくこともできます。

ここでは、適応障害の患者さん自身が環境に歩み寄っていくための方法を具体的にあげていきたいと思います。

 

①人と相談する

適応障害では、誰かに相談するということがとても大切です。ひとりで何とか適応しようと努力したのにもかかわらず、適応障害を発症してしまったのです。一人で何とかしようとするのでなく、相談していくことが大切です。

医療機関にするというのも、相談の一つです。医師やカウンセラーは、患者さんの立場で相談に乗ることができます。職場であれば、産業医や人事総務の担当者など、相談に乗ってくれるかと思います。信頼できる上司や先輩がいるのなら、そういった方でもよいです。

その環境から離れている人でもいいのです。誰でもいいので、心を許せる人に話をしてみてください。

適応障害は現実的な悩みですから、話をしていくことが大切です。頭の中だけで考えていると、なかなかまとまらなくなってしまいます。誰かに話をするということは、形にして整理することにつながります。話すとスッキリしたという経験をされたことがあるかと思いますが、ストレスが形になって整理されるのです。

そして相談相手は、客観的な目線で適応のアドバイスをしてくれるかもしれません。こういったアドバイスは、あなたと同じ悩みを経験してきた人や、あなたのことをよく知っている人のほうが、心の専門家よりもずっとよいです。

悩みが深いときに相談することだけでなく、今後も何かあれば相談できる関係性を作っておくことも大切です。悩みを抱えたときに相談できる人がいるということは、ストレス耐性を高めるという意味でも有効です。

 

②割り切る心持ちを意識する

少し極端になりますが、割り切る心持ちを意識するというのも短期的に解決する一つの方法です。

現実的には、相談しても変わらないこともあります。そもそも、人に相談できないこともあります。そんなときの一つの適応の方法として、「割り切り」があります。

環境に対して期待をしないということです。絶対に折り合いがつかない状況に対して、自分にストレスがかからない心持ち(マインドセット)を作るのです。

適応障害は、適応しなければと無理をすることでストレスとなります。ですから、適応することをしないようにするのです。これは決して、自分勝手にふるまうこととは違います。やるべきことはやった上で、うまくいかなければ仕方がないと思えるようにするということです。

そのためには、

  • 自分のいまのメリットを考える
  • 最悪の場合の逃げ道を考える

ということを意識的に行う必要があります。そのうえで、割り切ること自体には意味を持ったほうが良いです。理不尽な環境に耐える訓練と思えれば、ストレス耐性も高まります。

このように、心持ちを変えるように意識することで、心身の状態も少しずつ良くなっていくことがあります。

詳しく知りたい方は、「解決困難な人間関係のストレスを2段階で解消する方法」をお読みください。

 

③お薬で心身のサポート

適応障害では、ストレスから心身に症状が認められることが多いです。落ち込みや不安といった精神症状だけでなく、頭痛や吐き気といった身体症状も認められます。

そのようなときは、お薬によって心身の症状を和らげることができます。身体の症状がよくなれば、物事のとらえ方も少しずつ柔軟になっていきます。正常な判断が少しずつできるようになってきます。

適応障害では、お薬の役割はあくまで一時的なものにすぎません。というのも、適応障害は原因が明確で、それが解消されれば症状が落ち着くからです。一時的にサポートするために、適応障害ではお薬を使っていきます。

ですから、抗不安薬(いわゆる精神安定剤)を使っていくことが多いです。また、身体症状については、症状ごとのお薬を使っていくこともあります。吐き気がするならば制吐剤、頭痛がするなら痛み止め、下痢になるなら整腸剤などになります。

適応障害の薬物療法について詳しく知りたい方は、「適応障害ではお薬は有効なのか?適応障害でのお薬の位置づけ」をお読みください。

 

④ストレスコーピングを身につける

ストレスをうまく対処できるようにするのも大切です。人のストレスの対処の仕方(コーピング)には、3つのパターンがあります。

  • ひたすらストレスに耐える
  • ストレスをそらす
  • ストレスを発散する

ストレスに耐えるというのは限界がありますし、ストレス耐性はそんなにすぐにはあがりません。ストレスをそらすのも同様です。考え方を変えたりする方法は、短期間では身につきません。

すぐにできることは、ストレス発散です。ストレス発散の方法には2つの方法があります。

  • 効果は小さいけれど、すぐにできること(即効性タイプ)
  • 効果は大きいけれど、時間とエネルギーが必要なこと(効果優先タイプ)

前者は、仕事をしながらストレス発散をしていくために必要です。後者は、土日や長期休暇で行えるようなことです。これらを意識し、ストレスをうまく逃がせるようになることも大切です。

即効性タイプのストレス発散としては、さまざまなものがあります。インターネットで「ストレス発散」と検索するとズラズラでてきます。

効果優先タイプのストレス発散には、その人の趣味があると思います。色々あると思いますが、スポーツの習慣をもっておくことがお勧めです。

適度な運動は、心身の健康にとても良いです。運動をした後に気持ちがスッキリしたことは、おそらく多くの方が経験されていると思います。実際にうつ病治療でも、軽症であれば運動を積極的に進めることが多いです。詳しくは、「うつ病への運動療法の効果とは?」をお読みください。

 

 

⑤考え方を変えていく

適応障害では、自分自身を見つめていくことも大切です。とくに不調を繰り返してしまっている方は、これから繰り返さないためにも自分自身を知ることから始めましょう。

自分の適応力を上げていくためには、様々な方法があります。いわゆるストレス耐性に関しては、「SOC(首尾一貫性感覚)からストレス耐性をセルフチェック」を参考にしてみてください。

ストレス耐性に重要な要素と考えられている3つの要素を見ていくことで、自分自身の問題点が見えてくるかもしれません。

適応障害ではその根本的な原因として、本人の性格や特性が関係していることがあります。主治医と相談していきながら、自分自身と向き合う必要がある方もいます。

性格として思考パターンや行動パターンに偏りがあれば、それを少しずつ変えていくことも必要になります。建夫ば認知行動療法によって、少しずつ考え方を修正していきます。不安になりやすい特性がある場合は、森田療法のアプローチが有効なこともあります。

本人の特性として、例えば得意不得意に偏りがある場合などは、自分を知ることが大切です。知能検査や心理検査を行って、自分の長所と短所を理解しましょう。長所を生かし、短所は穴埋めしていく必要があります。社会的なスキルを身につけたり、長所で穴埋めする方法をみつけていきます。

このように考え方を変えるといったことは、ひとりでは難しいことになります。理想をいえば臨床心理士によるカウンセリングをうけて、少しずつすすめていくことになります。

 

4.環境を自分に適応させる―環境調整

環境調整は、双方で話し合って歩み寄りながら相談していくことが理想的です。主治医の意見書として環境調整をかけることもできますが、一方的になり、ネガティブな印象をもたれてしまう懸念があります。

適応障害では、原因となった環境に対してもアプローチができることもあります。

お伝えしてきた通り、環境が自分にどこまで合わせてくれるかは自分では決めることができません。ですが、自分の価値観や特性に少しでも理解されることで、気持ちの折り合いがついてくることも少なくありません。

自分が適応していく方法として相談することをお伝えしましたが、例えば職場であれば、上司や人事総務、産業医に相談するということは環境調整につながることがあります。

職場側もマネージメントもあるので限界はありますが、本人の価値観を受け止め、何らかの配慮ができることもあります。業務内容の調整や業務時間の制限、周囲のサポートの強化など、環境の変化が期待できるかもしれません。

こうしたちょっとした変化で、意外とストレスは軽減されることがあります。ストレスは、軽減させる要因(達成感・裁量権・周囲のサポート)のほうが増加させる要因(量・質・対人関係)よりも、3倍のインパクトがあると報告されています。

環境調整は、環境側と相談しながら進めていかなければいけません。そして環境に何を望むのかも、治療者をはじめとして周囲の人と相談していくことが大切です。

場合によっては、診断書で主治医の意見として書いてもらうことができる場合もあります。ですがそれが環境の実情にそぐわないものであれば、ネガティブな印象となってしまいます。例えば職場であれば、いきなり主治医から「〇〇部署への移動が望ましい」「配置転換が必要」と書かれてしまうと、非常に困ってしまいます。

このことは患者さんにとっても長い目ではマイナスに働くことも多く、環境調整は双方でよく話し合って歩み寄っていくことが大切です。

 

5.適応障害の治療でのよくある誤解

適応障害は、周囲だけでなく本人も治療で誤解していることがあります。一つずつみていきましょう。

適応障害の治療していく中で、誤解されていることがよくあります。

それは患者さん自身が誤解していることであったり、周囲の人が誤解していることであったりします。その誤解がストレスとなってしまったり、社会生活の妨げになってしまうこともあります。

何より、私たちは希望がなければ生きていくことができません。適応障害は決して軽い病気というわけでなく、中には思い詰めて自殺をしてしまう方もいるほどです。

ここでは適応障害の治療場面でよくある誤解について、一つずつ見ていきたいと思います。

 

①適応障害は本人の甘えや弱さではない

適応障害では、本人の「甘え」や「弱さ」と誤解されてしまうことが少なくありません。

周囲から見て「こんな些細なことで…」と思われてしまうこともありますし、本人も「こんなことで調子を崩すなんて情けない」と自分を責めてしまうこともあります。

適応障害はそういった甘えや弱さというわけではなく、誰にでも起こりうる病気です。それこそ、ストレスに強そうに見える方でも、あまりにも価値観が相いれない状況になれば適応障害を発症することがあります。

そしてその価値観は周りからは些細に見えても、本人には非常に重要なこともあります。

確かにストレス耐性が低そうに見える方もいるかもしれませんが、そのような方も心身の症状が出てくるほどストレスを感じているのは事実です。本人が変わらなければいけない部分もあるのですが、適応しようと努力した結果なのです。

適応障害だからといって、決して本人の甘えや弱さということではありません。もちろん自分自身を振り返ることは大切ですが、過度に攻めてしまったり、悲観的になる必要はないのです。

詳しく知りたい方は、「適応障害は甘えなのか?適応障害の方への家族や職場での接し方」をお読みください。

 

②適応障害は環境だけのせいではない

適応障害は本人の甘えではありませんが、環境だけのせいというわけでもありません。

冒頭でもお伝えしましたが、適応できなかった要因が少なからず本人にもあります。それを振り返ることで、自分の今後の改善点につなげることは大切です。

あまりにも環境がひどすぎて、過去に何人もの人がつぶれている職場であっても、振り返るべきところはあります。早めに相談することであったり、理不尽なことを気にしないスキルであったり、何か自分にとっての糧にすることが大切です。

本人が直さなければいけないということだけでなく、適応障害という病気がひとつの糧になったという病気への意味付けをすることにもつながります。

適応障害では、自分自身も振り返りつつ、それでいて自分を責めすぎないことも大切です。

 

③お薬はサポートにすぎない

適応障害では、お薬は治療の中心にはなりません。確かにお薬は、心身の症状を緩和してくれます。

ですが適応障害は、「環境にうまく適応できないこと」が本質的な原因になります。ここをしっかりと見つめていかなければ、同じようなことが起こった時に再発してしまいます。

お薬によって症状をよくするだけでは、あくまで表面的な治療になります。症状を和らげながら、少しずつ適応を浴していくすべを見つけていく必要があります。

 

④どのように治療していくかは、本人が決めていく

適応障害では、本人と環境の両方向から治療を考えていきます。

医師やカウンセラーは患者さんからお話を聞き、それをもとに適応がうまくできない原因を考えています。その過程で患者さん自身から答えが見つかっていくのが一番ですが、ときには治療者からアドバイスをすることもあります。

ですがそれは、あくまでアドバイスです。適応障害は現実的な問題なので、それに正解があるわけではありません。ですが治療者は、これまでの多くの患者さんの経験や医療的な観点から、こうしたほうが良いのではというアドバイスができます。

それらを踏まえて、最終的に判断していくのは患者さん自身になります。といっても突き放すというのではなく、治療者は患者さんの立場に立って一緒に考えていきます。

ただ、人生の大きな決断は、本人が決断するよりほかありません。これは、将来のことも見据えて行っていく必要があります。

例えば転職や転校、離婚といった環境を変える選択には、人生の大きな変化になります。それが長い目で見てプラスかどうかは、よく検討する必要があります。家族をはじめとした信頼できる人とよく相談し、決めていくべきです。

 

⑤病気になることはマイナスだけはない

どうしても病気というと、マイナスなことばかりが目についてしまいます。ですが適応障害という病気で悩んだことは、決してマイナスばかりではありません。冒頭でお話ししましたが、適応障害をしっかりと受け止め、それによって得られた部分も大事にする必要があります。

自分の価値観や生き方は、普段はあまり意識することもありません。人は危機に直面してはじめて、その重要さに気づきます。適応障害を経験して、生き方が変わった方をたくさんみてきました。

自分の本当の価値観をみつけて、それを大事にした人生を歩むことが大切です。適応障害では、当たり前の人生のレールが崩れてしまうことが少なくありません。そのレールを一緒に引き直していくことが大切かと思います。

これから充実した生き方をするための機会としてとらえて、希望をもって生きていけるようになれれば、適応障害を繰り返すことはなくなり、本当の意味で克服できたといえるかと思います。

 

まとめ

適応障害では、本人だけのせいでも環境だけのせいでもありません。また、適応障害という病気をしっかりと受け止め、前向きにとらえることも大切です。

すぐにでも休んだほうが良い場合でなければ、まずは環境の中でできる限りの対処を考えてみましょう。その上でうまく折り合いがつかない場合は、一度ストレスから離れます。正常な判断力がもどってきたら、今後どのように適応していくべきかを検討していきましょう。

具体的には、

  • 本人→環境:①人と相談する②割り切る心持ちを意識する③お薬で心身のサポート④考え方を変える
  • 環境→本人:①環境側と相談する②診断書で主治医の意見を伝える

といった方法があります。

適応障害の治療にあたっては、本人や周囲が誤解されることも少なくありません。病気をしっかりと受け止め、これからの人生に生かしていくことができれば、本当の意味で適応障害を克服できたといえるでしょう。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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