成人喘息の長期管理の薬物治療とは?吸入ステロイドが効かない場合の対処法

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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喘息は慢性的に気道に炎症を起こしており、それが引き金となって気道が敏感になって咳や息苦しさを繰り返す病気です。

喘息には、

  1. 喘息の炎症を抑え続けることで、喘息の悪化や発作を予防する長期管理治療
  2. 喘息発作時に対して、症状を和らげるための発作治療

の2つに分かれます。発作治療に関しては、苦しいのを何とかしたいのでみなさん積極的です。一方で長期管理治療は、症状がなくても毎日治療しなくてはなりません。そのため、モチベーションが続かない人も少なくありません。

「症状が出てから薬で治療すればいいや」と考えてしまって喘息の長期治療をおろそかにしてしまうと、喘息の病態はどんどん悪化してしまいます。

そのため、喘息の長期管理治療がとても大切になります。喘息の長期管理で中心的な役割をするのが、ステロイド吸入薬になります。ここでは、吸入ステロイドを中心とした長期管理薬について述べていきたいと思います。

 

1.喘息が長期管理薬が必要な理由とは?

喘息は発作を繰り返すことで、気道壁が厚く硬くなることでどんどん病態が悪くなってしまいます。そのため、喘息は症状が無くても薬を吸入する必要があります。

喘息は慢性的に気道に炎症を起こしており、それが引き金となって気道が敏感になって咳や息苦しさを繰り返す病気です。

本来は我々の体を守るべき好酸球やTリンパ球などといった免疫細胞が、気道をずっと攻撃している状態です。こういった自分の免疫が自分自身を攻撃する病気のことを、自己免疫疾患と言います。分かりやすくいうと、アレルギー疾患です。

「咳がでない」「息が苦しくない」といったことで喘息が治ったと思われる患者さんが多いですが、基本的に喘息は風邪などとは違って、治らない病気と考えた方が良いです。少なくても、「咳がない=喘息の状態ではない」と考えないようにしましょう。

喘息について詳しく知りたい方は「喘息ってどんな病気?喘息の症状とは?」を一読してみてください。

この喘息は、近年発作が起きれば起きるほど病態が悪化することが知られています。気管支喘息発作を繰り返していくことで、

  • 気管支が太くなる
  • 気管支が固くなる

などの病態が進行します。このような気管支の状態を気管支のリモデリングといいます。そして最も大切なことは、改善できない状態(不可逆的)に進行してしまうということです。

リモデリングまで喘息が悪くなってしまうと、喘息発作が出現してメプチンサルタノールなどの短期作用型のβ2刺激薬を吸入しても改善しなくなることがわかってきました。

β2刺激薬で気管支喘息発作が改善しない場合は、次の一手はステロイドになります。しかしステロイドは、諸刃の治療です。効果もありますが、副作用も強いお薬です。そのためステロイドは気軽に出せるお薬ではないため、喘息をしっかりとみれる病院の受診が必要になります。

毎日吸入するお薬が面倒だからといって長期管理薬をやめてしまうと、後で大変な思いをしてしまいます。必ず長期管理薬でしっかりと喘息を治療するようにしましょう。

喘息の長期管理薬の必要について詳しく知りたい方は、「症状がなくても喘息の治療はやめられない?喘息の治療期間とは?」を一読してみてください。またこの記事では、喘息をどれくらいまでコントロールすればよいのかも書いています。

  • いつも咳が出る
  • ちょくちょく息苦しくてメプチンを吸っている
  • 動くと苦しくなるからあまり動いてない

は喘息だから当たり前ではなく、治療が弱い証拠です。次の薬物治療を読む前に、ぜひ確認してみてください。

 

2.喘息の長期治療ステップの第一選択肢である吸入ステロイド薬とは?

喘息治療の柱は吸入ステロイドです。これは絶対に外していけません。成人喘息の場合は、β2刺激薬との合剤が主流になっています。

それでは、実際の喘息の薬物療法についてみていきましょう。下の図が、2015年のガイドラインの喘息ステップの一覧です。

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治療ステップ1が軽症例で、コントロールが悪ければ悪いほど治療ステップをあげていきます。これだけパッと見せられても、全く意味が分かりませんよね。大切なのは治療ステップ1の真ん中に書いてある一文です。

上記が使用できない場合は以下のいずれかを用いる

「上記」とは、吸入ステロイドのことを示しています。つまり2015年のガイドラインでは、吸入ステロイドを柱として治療していくことが推奨されているのです。良く吸入薬ではなく内服薬や貼り薬だけで対処している人がいますが、これは大間違いです。

吸入がどう考えても難しくてできない場合のみ、こういった代打薬が許されるのです。ただしこれは患者さんよりも、医師側の治療に関する知識や経験のなさのせいであることが多いです。そのため、喘息の治療が正しく行われているかどうかの目安にもなります。もしご自身が喘息なのに吸入薬が処方されていなかったとしたら、一度その理由を確認してみましょう。

以上を踏まえてもう一度表を見てみましょう。基本治療の一番上は、吸入ステロイドしか書かれていません。そのためベースである吸入ステロイドの量を増減しながら、症状がコントロールできなければ他のお薬も検討していくとなります。

現時点での他のお薬としては、

  1. LABA(long acting β2 agonists):長期作用型β2刺激薬
  2. LTRA(leukotriene receptor antagonists):ロイコトリエン拮抗薬
  3. テオフィリン製剤
  4. LAMA(long acting muscarine antagonists):抗コリン薬

が主流です。この中で、最も吸入ステロイドと多く使用されているのがβ2刺激薬です。理由としては、β2刺激薬と吸入ステロイドの合剤が発売されているからです。

喘息で症状出現したときの最初の治療薬として、成人の場合は大部分はこのβ2刺激薬と吸入ステロイドの合剤から治療することがほとんどです。

炎症が燃え盛ってる気管支炎の炎症をまずは鎮静化させる必要があります。STEP①から徐々に上げていくのでは辛い症状がなかなか治らないですし、どんどん悪化することが予想されます。そのため吸入ステロイド単独ではなく、β2刺激薬の合剤から治療するのです。

現時点では、吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤は以下のようになります。

ドライパウダーの吸入薬は、

の3種類です。

エアゾールの吸入薬は、

の2種類です。個々の特徴に関しては、それぞれのページで比較してみてください。またそれぞれの特徴をまとめた「あなたに最適な喘息治療薬とは?アドエア・レルベア・シムビコート・フルティフォームの特徴の違い」を一読してみてください。

投与方法や量は異なりますが、吸入薬による良し悪しは特にありません。ぜひ自分に合った吸入薬を探してみてください。

これらの吸入薬で症状が落ち着いていれば、ステップを3→2→1と減らしていきます。ステップダウンはガイドライン上では3-6か月おきにとなりますが、ここは主治医の裁量が大きいです。状況によっては、1年間同じ処方で経過をみていくことも多々あります。

ステップ1に目を移してほしいのですが、β2刺激薬であるLABAの文字がありません。つまり合剤でコントロールが問題ない人は、吸入ステロイド単剤へのステップダウンが検討されます。現時点では、

の7種類が発売されています。吸入ステロイド単剤のそれぞれの特徴は、各ページを参考にしてみてください。さらにそれぞれの比較が見たい方は、「成人喘息の長期管理の薬物治療とは?吸入ステロイドが効かなければどうすればいいの?」を参考にしてみてください。

ただし現状は、このステップ1まで落としていくことが良いことかどうかは賛否両論で、かなり議論されています。β2刺激薬は、通常量であれば安全性の高いお薬です。副作用としては、手の振るえや動悸がありますが、これらは吸入して数日以内に出ることが多いです。

何年もβ2刺激薬を吸っている人で、急に副作用が出ることはほとんどありません。一方で最初に説明したように、喘息は発作が起きれば起きるほど病態が進行することが分かってきてる病気です。

吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤による相乗効果が色々示されている中で、さらにステップダウンが必要かどうかは現状ではかなり悩ましいところです。

ガイドラインでは、軽症な喘息患者の方に吸入ステロイド単剤で治療してはいけないというデータはありません。ですが実際の臨床では、合剤で治療を続ける場合も多いです。どちらが良いのか、今後のデータが待たれるところです。

 

3.吸入ステロイド薬でコントロールが悪い喘息の方へアドバイス

次の追加治療を受ける前に、①そもそも喘息かどうか、②吸入薬が上手く吸えているかどうか確認する必要があります。

現在は吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤で、喘息の長期管理は7~8割で良好な印象があります。一方で、どんなに高用量の吸入ステロイドでも、喘息のコントロールが良くない方がいます。このように、吸入ステロイドでコントロール不良な方を「重症喘息」と定義します。

しかし重症喘息の診断をする前に、ここで一歩立ち止まって見るのが重要です。

  1. そもそも本当に喘息か?
  2. 吸入薬はうまく吸えているか?

本来はこの2つは、治療前に確認すべきことです。

ただし呼吸器内科で紹介される時にこの2つのチェックが抜け落ちて、病気が良くならないと困っている方は少なくありません。それぞれについて確認しましょう。

 

3-1.そもそも本当に喘息か?

実は喘息は、「気管支の慢性炎症によって気道が閉塞することで症状を呈する慢性疾患」という定義しかされていません。

最近では、喘息でもアレルギー性喘息や非アレルギー性喘息などかなり細かく分かれてきました。このように喘息は、実は診断もかなり難しいです。典型的な症状や検査所見が出れば簡単なのですが、そのような人は薬にも反応しやすいです。

一方で非典型的な症状や決め手に欠ける検査所見の場合は、喘息と確定するのはかなり難しくなります。喘息は、「この所見があれば絶対に喘息です」といったものがないことから、総合的な評価で喘息疑いとして治療することも多いです。

この時に気を付けなければいけないのは、「胸がゼーゼーするから喘息だ」と診断された方です。胸がゼーゼーすることを、医学用語では喘鳴といいます。

しかし、喘鳴が聞こえたということは、気管支などの空気の通り道が狭くなったということが分かる所見にすぎません。気道が狭くなる病気なので喘息の可能性はありますが、確定診断にはなりません。

喘息以外の気管支が狭まる病気の可能性もあります。具体的には、

  1. 心不全
  2. 肺気腫
  3. 肺炎
  4. 咽頭炎
  5. 気管内異物

などが挙げられます。もし自分が本当に喘息か不安な人は、「喘鳴が聞こえたときに喘息以外に考える疾患は?」を一読してみてください。これらの鑑別を十分にせずに喘息として治療されてしまっている方は、実はかなり多いです。特に高齢になってから喘息が疑われた方は、

  1. 心不全
  2. 肺気腫

は必ず除外する必要があります。

 

3-2.吸入薬はうまく吸えているか?

2番目の問題として、「吸入薬がしっかりと吸えているか?」という問題があります。吸入薬は直接気管支に作用するため、効果も高く副作用も少なく、現在は喘息の治療の中心になっています。しかし吸入薬は、正しい吸入方法でないと全く意味がありません。

このサイトでもそれぞれの吸入方法についてまとめています。自分の吸入薬で吸入方法があっているか確認したい方は、

を一読してみてください。これらの文章が参考になればよいのですが、実際にやってみてわからないこと、うまくできているか不安なこともあるかと思います。吸入薬は、できたら一度は医師や看護師、薬剤師の方に、吸入方法を指導してもらいましょう。

上手くできていないのに、吸い続けていても喘息は良くなりません。うまく吸えないから吸入薬はやらなくていいやとなってしまうと、もっと喘息が悪くなってしまいます。必ずお薬は毎日吸うようにしましょう。

また上記のお薬は、残薬が0になっても吸い続けられるお薬です。そのため、残薬が0じゃないか確認することも大切になります。

 

4.吸入ステロイドとβ2刺激薬吸入薬の合剤の次の一手は?

ロイコトリエン、テオフィリン製剤、抗コリン薬の吸入が候補に挙がります。

吸入ステロイドとβ2刺激薬が効かなかった場合は、どうすればよいのでしょうか。ガイドラインのステップ2・3の真ん中の項目に、どんなお薬が書いてあるか確認してみましょう。

  1. LABA(long acting β2 agonists):長期作用型β2刺激薬
  2. LTRA(leukotriene receptor antagonists):ロイコトリエン拮抗薬
  3. テオフィリン製剤
  4. LAMA(long acting muscarine antagonists):抗コリン薬

となっています。①の長期作用型β2刺激薬は、吸入ステロイドの合剤とで投与されるのが通例です。そのため②~④のお薬を組み合わせることになります。それぞれの特徴についてみていきましょう。

 

4-1.ロイコトリエン拮抗薬

ロイコトリエン拮抗薬は、

があります。作用機序は以下の通りです。

  1. Th2細胞がIL-4・IL-5・IL-6・IL-13などのサイトカインを分泌
  2. サイトカインにて好酸球やIgEが活性化
  3. 好酸球やIgEが様々な炎症物質を産生
  4. 気管支の慢性的な炎症

ロイコトリエンは、この③の様々な炎症物質の1つになります。抗ロイコトリエン拮抗薬は、このロイコトリエンが受容体にくっつくのを邪魔するお薬になります。抗ロイコトリエン拮抗薬は、副作用も少なく効果も高いことから、喘息に非常に使いやすいお薬となっています。

特に使用しやすいのが、鼻炎を合併している喘息患者さんです。

喘息患者にどれくらい鼻炎が合併しているか、これを調べた大規模な全国実態調査「SACRA(サクラ)サーベイ」が2009年に行われました。この調査結果では、実に70%近くの喘息患者さんにアレルギー性鼻炎の合併が認められました。

鼻炎は喘息発症のリスクであると同時に、その合併は喘息コントロールに悪い影響を与えることもわかっています。ロイコトリエン受容体拮抗薬は気管支喘息の症状改善だけでなく、鼻づまりや鼻水といったアレルギー性鼻炎にも効果があります。特に鼻閉に対する効果が強いと言われています。そのため、鼻炎を合併した喘息の患者には、ロイコトリエン拮抗薬の有用度は高いと言えます。

高用量の吸入ステロイドを使っていく前に、鼻炎がある人はロイコトリエン拮抗薬を積極的に併用します。

 

4-2.テオフィリン製剤

テオフィリン製剤には先発品としては、

があります。

テオフィリン製剤は、コーヒーなどに含まれている成分と同じキサンチン誘導体という成分になります。テオドールはこの成分を主として、

  • 気管支を拡げる作用(気管支拡張作用)
  • 炎症を抑える作用(抗炎症作用)

の2つの作用を併せ持った薬です。このため、炎症も気管支拡張も両方の作用を持つテオドールは、どちらの疾患にも非常に有用と期待され、1980年代では第一選択で使われてきました。しかしながら、

  • 気管支の炎症を抑えるのなら吸入ステロイドの方が上
  • 気管支を広げるのであれば抗コリン薬やβ2刺激薬の方が上

とどちらの効果でもそれぞれ上回る薬剤が出現したことで、喘息治療では第一線から外れました。ただし上記のお薬が効かない重症喘息には、今もひとつの選択肢となっています。ただしテオフィリン製剤の最大の注意点は、定期的に血中濃度を測らなければならない点です。

血中濃度は一般的に、

  • 5~10μgl/ml:テオフィリンによる抗炎症作用が期待される
  • 10~20μg/ml:テオフィリンによる気管支拡張作用が期待される
  • 20-30μg/ml:テオフィリンによる軽度の副作用がでやすい
  • 30-40μg/ml:テオフィリン中毒として重度の副作用が出現しやすい
  • 40μg/ml以上:テオフィリン中毒はほぼ必発

といわれています。このため、テオフィリンの血中濃度は8~20μg/mlを保つように調整し、20μg/mlを超えないようにするのが一般的です。

テオフィリン製剤は、有効血中濃度を維持することで発作を予防することが期待できます。一方ですぐに中毒域に入ってしまうため、テオフィリン製剤は徐放性剤としてゆっくりと胃や腸に溶け出すようにできています。

さらに高齢者はテオフィリンの濃度が上がりやすいことから、少量から徐々に上げることがすすめられています。そのため、血中濃度を測定しながらお薬を調整していかないと、非常に危険なお薬なのです。副作用としては、

  • 消化器症状(特に悪心嘔吐)
  • 頭痛心
  • 頻脈
  • 不眠
  • 不安・興奮などの精神症状
  • 横紋筋融解症(手足のしびれや筋肉痛)

などが挙げられます。これらの副作用は、一般的にはテオフィリンの血中濃度が20μg/mlを超えると出現するといわれています。さらに重度な副作用となると、

  • 痙攣
  • 心室頻拍・心房細動(心臓のリズムがおかしくなります)
  • 呼吸促進(息が苦しくなります)

などの副作用が出現するといわれています。これらの症状が出現した場合は命に関わるため非常に危険です。さらにテオフィリンの血中濃度は、併用薬や体調などでも容易に変化します。そのためテオフィリン製剤を使用する場合は、必ず血中濃度を測定する必要があります。

このようにテオフィリン製剤は、抗炎症作用・気管支拡張作用両方を持つ代わりに、血中濃度を定期的に測定しないと副作用が怖い二面性を持つお薬です。

 

4-3.抗コリン薬

以前は上でお伝えしたロイコトリエン拮抗薬・テオフィリン製剤が主流でしたが、2014年に抗コリン薬が適応が通りました。現時点では具体的に、

のみが使われています。

抗コリン薬のスピリーバ‐レスピマットは、1日1回に一度に2吸入、主に朝に吸入する長時間作用型の抗コリン薬になります。コリンとは、アセチルコリンのことです。このアセチルコリンの作用を阻害することで、スピリーバは気管支を広げる作用があります。

スピリーバは、慢性気管支炎や肺気腫などのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療薬として、長年第一選択薬として使われていました。

しかし抗コリン薬はCOPDの方だけではなく、健康な人も吸入することで気管支が広がる作用があるお薬です。そのためCOPDと同じく、気道が狭くなる喘息でも効果があるのではと考えられました。このため臨床試験を行ったところ、重度の喘息の方に対して効果があることが分かりました。

スピリーバの気を付けることとして、

  1. 閉塞隅角緑内障の患者
  2. 前立腺肥大症による排尿障害のある患者

の二つの病気の方は禁忌になります。そのためスピリーバを使用する際はこれらの病気がないことを事前に確認する必要があります。

現時点では、2012年医学誌で最も有名なものの一つNEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEで、このスピリーバの喘息の効果を確認する論文をもとにガイドラインが作成されています。この論文は重症な喘息を対象にしているため、ステップ③~④と重症喘息に対してのみしかスピリーバは適応がありません。

今後研究にてスピリーバの効果が軽症例に示された場合、ステップ2でも使用ができるかもしれません。

 

5.治療ステップ4に投与する経口ステロイド治療とは?

上記3つを使用しても改善しない場合は、ステップ4の治療を考慮します。この場合は、ステロイド投与を検討します。

以上の3つの薬を併用しても、まだ喘息が上手くコントロールできない人が稀にいます。この場合は、難治性の喘息です。

次の追加治療は、LTRA以外の抗アレルギー薬と記載されています。具体的には、

などがあります。しかしこれらは、

  • 小児喘息
  • アトピー型合併喘息
  • 鼻炎合併喘息

などアレルギーの関与が強い喘息に多少効果がありますが、吸入ステロイドで難治性の喘息に著効することはあまりありません。

こうなってくると、最終手段として内服のステロイド薬を使っていくことになります。具体的には、

が現在喘息には多く使用されます。このほかにも、

が経口ステロイドとして使われることがあります。最初に思い出してほしいのですが、

  • 喘息の治療の柱は『吸入』ステロイドです。
  • 喘息の治療の最終手段は『経口』ステロイドです。

『吸入』と『経口』でなぜこんなにも扱いが変わるのでしょうか。それはステロイドを内服することで、様々な副作用が生じる可能性があるからです。

ステロイドホルモンは一言でいうと、「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンです。ですから抗ストレスホルモンともいわれます。抗ストレスとして免疫や炎症を抑えることで喘息の炎症を抑える作用があります。

しかしステロイドで攻撃のスイッチを入れる代わりに、防御のスイッチを切る作用のあるホルモンなのです。つまりステロイドは、良い面ばかりではなく悪い面もたくさんあります。

喘息の炎症を抑える代わりに、代表的な副作用としては、

  1. 満月様顔貌・肥満(ステロイドによる脂肪細胞の増殖および水分を体内に取り込む作用で起きます)
  2. 細菌やカビなどの感染症に弱くなる(免疫を抑えるため防御が下がります。普段なら感染しないような特殊な菌にも感染しやすくなります)
  3. 糖尿病(ステロイドが筋肉や脂肪を燃やし血糖値を上昇させます)
  4. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍(ステロイドが胃腸に働くことでストレスがかかります)
  5. 高血圧・浮腫(ステロイドで血管が収縮します。さらに水分やNaを貯留するため血管内の水分が増えます)
  6. 肝機能障害(ステロイドが肝臓を通して炎症を抑えるため負担がかかります)
  7. 緑内障・白内障(ステロイドで眼圧が上がったり、目のレンズが濁ったります)
  8. 精神障害(ステロイドでイライラしたり眠れなくなります)
  9. 骨粗鬆症(ステロイドは骨にも作用し、骨密度が低下します)
  10. 筋力低下(ステロイドによる筋肉を分解する作用で筋力が低下します)
  11. 月経異常(ステロイドホルモンは性ホルモンと似ている部分があるため、生理不順が起きます)
  12. ニキビ・皮下出血(皮膚の代謝異常でおきます。ステロイドで皮膚や筋力が衰え出血しているように見えます)

があげられます。副作用対策について詳しく知りたい方は、「プレドニン(プレドニゾロン)の副作用と対処法」を一読してみてください。

実際に喘息でステロイドの経口内服を定期的にしなければいけない人は、頻回に喘息発作を起こす本当に重症喘息の方かと思います。場合によっては、タバコを吸ってCOPDなどの合併もある方かもしれません。喘息とCOPDの合併について詳しく知りたい方は、「喘息なのにタバコを吸い続けるとどうなるの?」をご参照ください。

ここまで喘息が悪化する前、に吸入ステロイドをしっかりと吸って喘息を長期間安定してコントロールする必要があります。

 

6.今後の喘息の注目されている喘息の分子標的薬とは?

現在は喘息に対して、分子標的薬が注目されています。効果が抜群の代わりに、非常に高いのが難点です。

プレドニンなどのステロイドは副作用が強いので、飲まないに越したことはありません。そうした中、現在喘息の分子標的薬が注目されています。

の2つです。ゾレアは2015年の喘息のガイドラインにも登場しております。

それぞれ、

  • ゾレアはIgE
  • ヌーカラはIL-5

をターゲットにしたモノクローナル抗体です。モノクローナル抗体はもともと、リウマチなどの膠原病という特殊な病気や、癌などの治すのが難しい病気に対して作られたお薬です。そのため他の喘息薬と比較すると、分子標的薬は効果がとても強いお薬になります。

ゾレアは、B細胞からIgEが作った抗体とくっついて、IgEがマスト細胞と結合するのを邪魔するお薬になります。

ヌーカラは、IL-5をブロックすることで好酸球の産生を強力に抑制するお薬です。そのため体内の好酸球が多ければ多いほど、気管支喘息発作を抑える効果が強い傾向がデータでも認められています。

効果が強いと効くと心配なのは、副作用だと思います。しかしこれらの分子標的薬は、皮下注射の際の注射部位の副反応が怖いくらいです。一見すると完璧に見えるお薬です。しかしそんな分子標的薬の最大の問題点は、薬価の高さです。

ゾレアは、IgE値と体重で投与量が決まります。詳しい投与量と期間を知りたい方は、添付文章を参考にしてみてください。

この結果に応じて、ゾレア1回75mg~600mgを2週間または4週間ごとに皮下注射するお薬です。そして肝心の値段をみてみましょう。

商品名 投与量 薬価
ゾレア 75mg 23128円
ゾレア 150mg 45578円

※2016年10月23日時点での薬価になります。

つまりゾレアは、75mgで約2万3千円、150mgになると4万5千円近い薬価になるお薬になります。

ちなみにもう一つのヌーカラの薬価ですが、

商品名 投与量 薬価
ヌーカラ 100mg 175684円

※2016年10月23日時点での薬価になります。

ヌーカラは4週間に1回、5万以上の値段がかかるわけです。ヌーカラは体重や好酸球数での計算は必要ありませんので、全員4週に1回投与します。つまり、毎月17万円の薬価のお薬を投与することになるのです。3割負担だとしても、1回5万以上です。

多くの方は、月に数万円かかる場合がほとんどです。そのため高額医療制度を使用しないと、とてつもない価格になります。

ゾレアもヌーカラも非常に新しいお薬です。そのため、

  • 重症喘息の方にゾレアとヌーカラどちらが効くのか?(もしくはどういった方が効きやすいのか)
  • 重症喘息の方にゾレアとヌーカラ両方投与すれば効果があるのか?
  • 重症喘息の方にゾレアやヌーカラを投与した場合、どれくらい投与し続ければよいか?

など様々な検討をする余地があります。しかし実臨床ではス、テロイドの経口内服で副作用に苦しんでた方にとっては救世主とも言えるお薬になります。もし重症喘息の方で困ってる方がいたら、一度金額面含めて医師に相談してみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

  • 喘息の第一選択肢は、吸入ステロイドです。現在はβ2刺激薬の合剤が主流です。
  • 喘息の第二選択肢は、ロイコトリエン拮抗薬・テオフィリン製剤・抗コリン薬の吸入です。
  • 喘息は上記の治療で改善しない場合は、プレドニンなどの経口ステロイドを投与します。
  • 喘息の現在注目を集めている治療は、ゾレアやヌーカラなどの分子標的薬です。効果が強い代わりに薬価も高いです。

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