メプチンエアーの効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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メプチンエアー(一般名:プロカテロール塩酸塩水和)は、大塚製薬から1987年に発売された吸入薬です。主に喘息の発作時に使われるお薬になります。喘息発作で狭まった気管支を、β2刺激薬として広げることで症状を和らげます。

ただし、メプチンの有効成分であるプロテカロールは、短時間作用性β2刺激薬に分類されています。ですから即効性がある分、作用時間も短いのが特徴です。実際には4~6時間しか効果がないといわれています。

そのため喘息発作を予防するためには適さないお薬です。症状がある時に、それを和らげるために使うお薬です。

メプチンには様々な剤形が発売されていますが、メプチンエアーはスプレー式のタイプで、自分が押したタイミングと吸入するタイミングを同調させる必要があります。

ここではメプチンエアーの効果と特徴について詳しくお伝えしていきます。

 

1.メプチンエアーの効果のメリット・デメリット

<メリット>

  • β2刺激薬の中で即効性がある
  • 発作時に使用するお薬
  • スプレー式の吸入薬で吸入力が弱くても吸うことができる
  • 他にも剤形が豊富

<デメリット>

  • β2刺激薬は短期しか効果がない
  • 薬を吸うタイミングとボタンを押すタイミングを合わせる必要がある

喘息の治療薬は、

  • 毎日治療することで喘息の症状や発作が出現することを予防する長期管理薬
  • 喘息発作が出たときの発作治療薬

の2つに大まかに分けられます。このうちメプチンエアーは、発作が出現した時に治療するお薬となっています。喘息発作とは、急に咳や喘鳴とともに息苦しさが出現する状態です。

重症度としては、

  • 小発作:動くと息苦しい
  • 中発作:息苦しくて横になれない/なんとか歩ける状態
  • 大発作:苦しくて動けない/会話も苦しくてとぎれとぎれ
  • 重篤:呼吸が弱くなってきている/会話不能

に分かれています。メプチンエアーはβ2刺激薬として気管支を拡張することで、全ての状態において適応があります。しかし中発作以上は、メプチンエアーを吸ったら様子をみるのではなく、すぐに病院を受診するようにしましょう。

また小発作でもメプチンエアーを吸っても症状が改善しない場合は、受診することが大切です。メプチンは、吸入してから15分程度で効果がみられる即効性が高い吸入薬です。そのため30分たっても症状が改善しなかった場合は、病院を受診してください。

喘息は、小発作で様子を見ていたら一気に大発作まで悪くなることは多々あります。重篤までいくと命にかかわる病気です。必ずメプチンを吸った後は安静にして、状態を評価しましょう。

メプチンエアーはスプレー式の吸入薬になります。ボタンを押すことで吸うお薬が肺に入ってくれるお薬です。

そのため吸う力が弱い老人の方やお子さんでは、うまく有効成分を吸入できないことがありますので注意が必要です。

メプチンには後述するように、さまざまな剤形が発売されています。うまく吸入できない方は、他の剤形に変更することができます。

 

2.メプチンエアーの剤形と用量とは?

メプチンエアーは、1つで100回吸入できます。メプチンエアーは1回の喘息発作中に、成人は2回、小児は1回吸入するお薬です。

メプチンには、実に様々な剤形が発売されています。

初めは錠剤や粉薬から発売されました。飲み薬だと全身に作用してしまうので、気管支に直接作用する吸入薬よりも副作用が多くなってしまいます。このため1987年に発売されたのが、メプチンエアーになります。

メプチンの中では、もっとも処方されているのがメプチンエアーになります。それでは、メプチンの剤形をみてみましょう。

  1. メプチン錠50μg(1980年)
  2. メプチンミニ錠25μg(1984年)
  3. メプチン顆粒0.01%(1984年)
  4. メプチンシロップ5μg/mL(1984年)
  5. メプチンエアー10μg吸入100回(1987年)
  6. メプチンキッドエアー5μg吸入100回(1987年)
  7. メプチン吸入液0.01%(1987年)
  8. メプチン吸入液ユニット0.3mL(2002年)
  9. メプチン吸入液ユニット0.5mL(2002年)
  10. メプチンドライシロップ0.005%(2004年)
  11. メプチンクリックヘラー10μg(2005年)
  12. メプチンスイングヘラー10μg(2014年)

このように、はじめは内服薬から発作治療薬として登場したお薬です。メプチンエアーは古い薬ですが、現在でも発作時の治療薬として多くの人に使用されています。

メプチンエアーは喘息発作に対して、成人1回20μg(2吸入)、小児1回10μg(1吸入)を吸入します。つまり成人は50回分、小児は100回分の治療ができる薬になります。

メプチンは15~30分で最大血中濃度となり、すぐに効果が出てきます。メプチンは3時間以上効果が持続するので、その間は次の吸入をしないでください。メプチンの1日の最大吸入量は、4回(成人8吸入、小児4吸入)です。つまり3時間たってもまだすっきりしない場合は、追加であと3回吸入が可能になります。

 

3.メプチンエアーの適応疾患は?

メプチンエアーは、喘息発作もしくは咳喘息の診断に使用します。

添付文章上では、

気管支喘息、小児喘息、肺気腫、急・慢性気管支炎、

となっています。しかしメプチンは、1980年代から使われている非常に古いお薬です。現在ではほとんどの場合が、気管支喘息の発作時の治療として使用されています。一部の患者さんでは、肺気腫の増悪時にも使用することがあります。

適応疾患に書かれていない使用方法としては、咳喘息かどうかの診断のために使うことがあります。咳喘息は、β2刺激薬を吸入して症状が改善するかどうかで診断します。咳喘息は喘鳴が聴取されず、他の検査でも診断がつけられない病気です。薬を使ってみて、その反応をみて診断をしていきます。

9週間以上続く咳の方では、実に7割が咳喘息と言われています。咳喘息を診断する際に咳の症状が強い場合は、シムビコートやアドエアなどの吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤で咳喘息を確認することもあります。

しかし本来は、メプチンなどのβ2刺激薬単剤で確認することが望ましいです。なぜなら、吸入ステロイドも加えてしまうと、アトピー性咳そうと咳喘息の区別ができないからです。

咳がひどい人では、β2刺激薬単剤では治療効果が乏しい場合が多いです。そのため何となく咳が長引く軽症な人に、メプチンは処方されます。メプチンには即効性があるため、咳が止まったかどうか確認しやすい利点があります。

 

4.メプチンエアーの薬価とは?

メプチンエアーは、1吸入あたりの薬価が成人では5.7円ほどになります。ジェネリック医薬品はありません。

メプチンは、非常に古くからあるお薬です。しかし吸入薬は吸入器の開発が難しいため、なかなかジェネリック医薬品が登場しない経緯があります。メプチンも内服薬ではジェネリック医薬品がありますが、メプチンエアーではジェネリック医薬品はありません。

商品名 吸入回数 薬価
メプチンエアー 100 889.10

※2016年6月22日時点での薬価です。

メプチンは、喘息発作のときに使っていくお薬です。成人1回2吸入、小児1回1吸入を吸入になるので、成人は50回分、小児は100回分の治療ができます。

実際に患者さんが負担するのは、薬価に自己負担割合をかけたものです。3割負担の場合は266.7円です。そのため成人は1回5.2円、小児では1回2.6円となります。

 

5.メプチンエアーが向いてる人は?

  • 喘息発作が出現した人
  • 発作時にスプレー式の方がドライパウダー式よりも良い人

メプチンは,症状が出現した場合にすぐに吸うべきお薬です。毎日吸っても喘息を予防効果は期待できないので、注意が必要です。

軽発作だけの患者さんでは、「毎日吸うと大変だから、発作が出たときだけメプチンを吸っている」という人をたくさん見かけます。さらには喘息治療に慣れていない先生もこの処方で対応していることがありますが、これは大間違いです。

喘息発作を繰り返すと、気管支がどんどん太くなってきます。これは筋トレをイメージしていただけると理解していただけると思います。筋トレをすると、徐々に腕の筋肉が太くなります。腕だと筋トレの効果があって喜ばしいことですが、気管支が太くなることは喘息を悪化させてしまいます。

気管支が太くなりすぎてしまうと、メプチンに反応しない状態になってしまいます。喘息発作がおきてメプチンを使っても、気道が広がらなくなってしまって喘息発作が改善しなくなります。これをリモデリング(不可逆性)と、専門用語では呼んでいます。

メプチンに反応しなくなってから慌てて毎日治療する長期管理薬を行っても、一部の人は手遅れになります。β2刺激薬のメプチンで気管支喘息発作が改善しない場合は、次の一手はステロイドになります。

しかしステロイドは、諸刃の治療です。効果もありますが、副作用も強いお薬です。そのためステロイドは気軽に出せるお薬ではないため、喘息をしっかりとみれる病院の受診が必要になります。

毎日吸入するお薬が面倒だからといってメプチンだけでやり過ごしてしまうと、後で大変な思いをしてしまいます。必ず長期管理薬でしっかりと喘息を治療するようにしましょう。

また喘息発作が起きた時に、メプチンの吸入を最高用量よりもたくさん吸う人がいます。これは非常に危険です。メプチンの添付文章には、

本剤の過度の使用により、不整脈、心停止等の重篤な副作用が発現する危険性があることを理解させメプチンを適正に使用すること

と記載されています。一度に大量にメプチンを使うと、非常に重篤な副作用が出現することがあるのです。さらにβ2刺激薬は、吸えば吸うほど気管支が拡張されるわけではありません。そもそも喘息発作は、気管支の炎症が激しくなって起こる状態です。

そのため中発作以上ですと、まずステロイドなどの炎症を押さえるお薬が必要になります。メプチンを何度も吸いたくなるくらい苦しい人は、メプチンを吸ったらすぐに病院に来ることをお勧めします。

まとめると、メプチンは喘息発作の全ての状態で治療可能です。しかしながらメプチンの吸入だけで加療が向いてる人は、軽度の喘息発作に限ります。

喘息発作は気管支が慢性炎症で狭くなってる病気です。そのため若年者の方はドライパウダーでもよいかもしれませんが、もともと吸入力が弱い高齢者や小児の方は喘息発作でさらに吸う力が弱くなります。また中高年の方でもタバコを吸っていて肺気腫も合併しているとドライパウダーでしっかり吸える吸入力がそもそもない人もいます。

そのため、メプチンスイングヘラーとメプチンエアーどちらでもよいという人は現在はメプチンエアーを処方することが多くなっています。

吸う力が弱くて同調することも難しい高齢者の方もいると思います。そういった方は吸入補助器であるスペーサーを使って、メプチンエアーを吸入するようにします。

どうしても粉っぽいドライパウダーの方が良いという人は、医師に相談してみると良いかもしれません。

 

6.メプチンエアーとの作用メカニズム

β2刺激薬は、気管に主に存在する交感神経の受容体です。身体が活動的になる時には空気をたくさん必要とするので、β2が刺激されると気管が広がります。

最後に、どうしてβ2刺激薬では気管支が広がるのかについて、そのメカニズムをお伝えしていきたいと思います。

β2とは、交感神経の受容体になります。交感神経にはαとβという2種類の受容体があって、交感神経が活発になった時に命令の受け皿である受容体を通して全身に作用します。

βの中には、おもにβ1とβ2があります。β1は心臓に主に存在していて、β2は気管に主に存在しています。そしてそれぞれの作用は、交感神経が活発になっている状態をイメージすれば理解が出来るかと思います。

交感神経は、身体のスイッチをオンにした時の神経です。運動をした時をイメージしてみましょう。

心臓はバクバクと早くなり、全身に必要な血液を送るべくポンプとして頑張ります。この作用がβ1刺激作用になるのです。気道に関しては、空気をたくさん吸い込むべく気管が拡張します。この作用がβ2刺激作用になるのです。

もう少し詳しく言えば、β2受容体は気管の平滑筋に存在しています。筋肉が弛緩することによって、気管が拡張するのです。

これに対して抗コリン作用は、リラックスする副交感神経に関係しています。副交感神経を優位にするアセチルコリンをブロックするので、結果的には交感神経の働きを強めるのです。

メプチンエアーは気管におもに存在するβ2だけを刺激するお薬で、心臓への影響をできるだけ避けて気管を広げて呼吸状態を改善するお薬です。

 

まとめ

  • メプチンエアーはプロカテロール塩酸塩水和を主成分とするスプレー式の短期作用型のβ2刺激薬になります。
  • メプチンエアーは主に喘息発作が出現した際に吸入します。
  • メプチンエアーは成人は2回、小児は1回吸入します。
  • メプチンエアーは喘息発作全ての状態で適応がありますが、効果がない、症状が強い場合はすぐに病院を受診する必要があります。
  • メプチンエアーは吸うタイミングとボタンを押すタイミングを合わせる必要があります。うまくできない人はスペーサーという吸入補助器具を使いましょう。

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