シムビコートの効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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シムビコートタービュヘイラー(一般名:ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物)は、2010年からアストラゼネカ製薬会社で発売されているお薬になります。

吸入ステロイド剤と長時間作用性β2刺激薬の配合剤として、おもに気管支喘息治療に用いられている吸入剤です。

口から吸入することで直接気管に作用し、気管の炎症を抑えたり(ステロイドによる作用)、気管支を広げることで息苦しさなどの症状を和らげてくれます。(気管支拡張作用)

最近ではこれらの作用が肺気腫などのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)でも効果を示すことがわかり、重度のCOPDにも適応になりました。

ここでは、シムビコートの効果と特徴について詳しくお伝えしていきます。

 

1.シムビコートタービュヘイラーの効果の特徴

<メリット>

  • 1つの吸入器で、ステロイドとβ2刺激薬が一度に吸入できる
  • 重症度によって剤形を変える必要がない
  • 長期管理と発作治療の2つの役割を発揮する
  • シムビコートは肺気腫にも使える

<デメリット>

  • 朝・夕2回吸わなければならない
  • 吸った感じがしない
  • 投与量が増えると、値段が倍増する

喘息を語るうえで大切な単語に、「アドヒアランス」という言葉があります。アドヒアランスとは「患者さんがどれくらい薬に対して理解して、薬を自発的に使ってくれるか?」ということを意味します。

喘息は慢性的に炎症が気道に起こる病気のため、咳や息苦しさを抑えるためにステロイド吸入薬を中心に、毎日投与しなければならない病気です。しかし喘息患者さんからすると、毎日お薬を、しかも一生吸うというのはかなり大変かもしれません。

  • 医師側からすると、症状を抑えるために毎日喘息の治療をしていきたい
  • 患者側からすると、症状が出ていないのに毎日吸入するのはめんどくさい

喘息はこのように、患者さんのアドヒアランスが低い疾患の一つでした。

アドヒアランスを少しでも上げるために開発されたのが、β2刺激薬と吸入ステロイドの合剤です。2つのお薬を1回で吸入できるため、手間が半分になります。さらに一つの吸入器しか持ち運ばなくていいため、患者さんの心理的な負担も減りました。

シムビコートとよく比較されるお薬としては、アドエアがあります。アドエアもステロイドとβ2刺激薬の合剤です。どちらが良いかは、実は専門医でも意見が割れますが、患者さんによって使い分けることが一番大切です。そのためシムビコートのメリットとデメリットをよく知ってから使いましょう。

シムビコートの最大の特徴は喘息の重症度によって吸入器を変える必要がなく、同じ吸入器で吸入する回数によって調整できます。アドエアは症状が悪化した場合は、吸入器を100から250のものに変えなければなりません。

一方でシムビコートは、2回吸って効果がなければ、同じ吸入器を3回吸入に増やすだけなので小回りがききます。ただし吸入回数が増えるということは、価格もシムビコートは倍増していくことになります。

またシムビコートだけの特徴として、喘息発作を予防する長期管理薬と、発作時に吸入することで発作をしずめる発作治療薬の両方の役割を果たすことができます。シムビコートは効果の発現が早いため、発作時に追加投与することで効果が期待できるのです。

また、シムビコートの粒子径は非常に小さいので、肺の中枢気道だけでなく肺の奥の気道まで薬剤を届かせることができます。このため喘息のみならず、気道の末梢病変であるCOPDにも適応が認められています。

シムビコートの粒子の小ささは、「吸った感じがしない」ためにデメリットになることもあります。吸った感じがしないからといって、余分に吸入してしまうことがあるのです。吸入しすぎることでの体への影響はごくわずかではありますが、すぐに薬剤がなくなってしまうので注意が必要です。

 

2.シムビコートの剤形の種類と用法とは?

シムビコートは、朝と夕に吸うお薬です。一度に数量を1回~4回で調整します。また喘息発作時、追加吸入することができます。

シムビコートは、タービュヘイラーという独特の吸入器で登場しています。

シムビコートタービュヘイラーは、

  • シムビコート30吸入用
  • シムビコート60吸入用

があります。シムビコートは30吸入と60吸入があるのです。

シムビコートは、朝夕2回吸入します。症状に合わせて1度に1回~4回まで吸入できます。1回の吸入では、ステロイドであるブデソニドとして160μg、β2刺激薬であるホルモテロールフマル酸塩水和物として4.5μg投与することになります。2回、3回と吸う回数が増えることで、これらステロイドとβ2の投与量は倍増していきます。

さらに重要な使い方として、シムビコートは1日の吸入回数が2回~4回の人のみ(1回の吸入回数が1回~2回の人のみ)、発作時に追加吸入することができます。これはシムビコートに含まれているホルモテロールが、5~15分と早く効果を発揮するためです。

長期的に喘息管理しながら発作時にも追加する方法をSMART療法(Symbicort maintenance and reliever therapy)といい、喘息加療の中で非常に注目を集めています。この長期管理しながら発作時にも追加吸入できる方法は、現時点ではシムビコートのみ適応があります。

なおシムビコートは、小児に関しては現在ではまだ適応がありません。小児に対してステロイドとβ2の合剤を使う場合は、アドエア100ディスカスに適応があります。

 

3.シムビコートタービュヘイラーの適応は?

シムビコートは、中等度から重症の喘息に適応があるお薬です。さらにシムビコートは、重症の肺気腫(COPD)に対しても適応があります。

喘息のガイドラインでは、最も軽症な方は吸入ステロイドのみで加療することとなっています。その次はステロイドの吸入量を増やすとともに、

  • β2刺激薬の吸入
  • 抗ロイコトリエンの内服
  • テオフィリンの内服

の併用を指示しています。この中で最も併用されるのが、β2の刺激薬です。ですから吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤であれば、患者さんの手間は増えずにすみます。そのためシムビコートは、吸入ステロイド単剤では症状が抑えられない時に適応があります。

しかし喘息の治療としては、これらシムビコートなどの合剤をはじめに使って、症状が落ちついてきたら徐々に減量することが多いです。

喘息は咳や喘鳴、呼吸困難など非常に苦しい疾患であり、命にもかかわる病気です。そのため喘息の炎症の炎を最低限の水で済ませようとすると、一気に被害が拡大してしまう可能性があります。

そのためシムビコートなどのβ2の合剤をはじめから使って、喘息の治療をしていくことが多いのです。

また最近では、気管支喘息にも色々な種類があることが分かってきてます。喘鳴が聞かれない咳喘息と言う病気に対しても、シムビコートは効果を示します。咳喘息の診断基準は、β2刺激薬の吸入薬で反応があるかどうかです。

咳がひどい場合はβ2刺激薬だけでは抑えられないことも多いため、長引く咳に対してシムビコートを処方して咳喘息の鑑別を行う場合があります。ただし吸入ステロイドを被せてしまうと、アトピー性の咳と見分けられなくなるということで嫌がる先生もいます。

長引く咳にβ2刺激薬吸入単剤で行くか、ステロイドとの合剤で行くか…ここは専門家でもいつも議論になるところです。

しかし咳がひどい場合には、治療もかねてシムビコートなどの合剤で治療することがほとんどでしょう。初めて会った方には、医師側からするとどれくらいの薬の量が適切か悩みます。そのためシムビコートで朝・夕2回ずつ吸入してもらい、咳が出たときに追加で吸ってもらうSMART療法の方法をとることが多いです。

 

また2012年に、シムビコート朝・夕に1度につき2回吸という方法でのみ、重症の肺気腫に対して適応が通りました。なぜ1度につき2回吸入のみが適応かというと、肺気腫に対しての効果が確認されたのがこの量しかないからです。

ステロイドは、ばい菌と戦っている気管支の白血球などの働きを抑える効果があります。肺気腫の急激な悪化を何度も繰り返している人は、ばい菌と白血球の争いになると気管支自体が戦いの戦火に耐えられないため、ステロイドで押さえつけることが良い方向につながります。

しかし軽症な肺気腫の人に吸入ステロイドを使うのが良いのかは、現在のところ結論が出ていません。ですから現時点では、重症の肺気腫にシムビコートを1度に2回、朝と夕に吸入させると良いということしかわかっていないのです。

シムビコートを1度に1回のみだと肺気腫の炎症を抑えきれないのか、1度に3 回や4回にするとステロイドの効果が強すぎて逆に肺炎にかかりやすくなるのかなど、まだまだ分かっていないことはたくさんあります。今後の報告が待たれるところです。

 

4.シムビコートの薬価は?

ジェネリックはまだ発売されておらず、合剤のため薬価は比較的高めです。量が増えるほど、シムビコートの値段は倍増します。

シムビコートではジェネリック医薬品はまだ発売されていません。合剤のため、薬価としても高めの設定になっています。

商品名 吸入回数 薬価 1吸入 1吸入(3割負担)
シムビコート30吸入 30 2996.3 99.9 30.0
シムビコート60吸入 60 5887.7 98.1 29.4

※2016年6月22日時点での薬価です。

シムビコートは、だいたい1吸入99.9円(3割負担で30円)です。シムビコートも朝夕で吸うので、最低量であれば199.8円(3割負担で60円)となります。

しかし1回の吸入につき2回・3回と増えれば、価格も倍増していきます。シムビコート60吸入でみると、以下のようになります。

商品名 1日の吸入回数 薬価 1日薬価 1日薬価(3割負担)
シムビコート60吸入 2回 5877.7円 195.9円 58.8円
4回 5887.7円 391.8円 117.5円
8回 5887.7円 783.7円 235.1円

ちなみにライバルのアドエアと比較すると、

商品名 吸入回数 薬価 1日薬価 1日薬価(3割負担)
アドエア100 60 6267.3 208.9 62.7
アドエア250 60 7208.4 240.3 72.1
アドエア500 60 8213.2 273.4 82.0

となっています。アドエア100がシムビコート2回の吸入回数と同じです。この場合はアドエア62.7円に対して、シムビコートは58円とほぼ同額になります。

しかしアドエア500とシムビコート8回の吸入回数ですと、アドエアが82円に対して、シムビコートは235円と3倍近い値段差になります。つまり喘息の重症度が上がれば上がるほど、シムビコートは値段が上がることになります。

 

5.シムビコートが向いている人とは?

  • 喘息や咳喘息と初めて診断された方
  • 吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤が必要で喘息が中等症以下の症状の方
  • 喘息の症状が不安定な方
  • 気管支喘息とCOPDを併発している方

喘息や咳喘息と初めて診断された人、もしくは今まで診断されていたけど再度出現した人は、一体どれくらいのステロイドの吸入が必要か分かりません。そのためシムビコートを処方すれば、定期的に吸入+咳が出たときにさらに追加吸入という方法をとることができます。

またシムビコートの1日の吸入回数が2回~4回の方は、症状発現時に発作治療として追加吸入できるSMART両方が可能になります。このため、中等症以下の方に向いているお薬になります。1日の吸入回数が8回の人は薬価負担が大きくなることからも、中等症以下の人が向いています。

ただし喘息には、色々なタイプがあります。

  • 春先になると喘息が悪化しやすい。
  • 精神的なストレスを感じると咳がでる
  • 雨の日は発作の前兆だ

など、普段は発作が出ないのに特定の条件で発作が出現する方もいます。このように喘息の状態が不安定な方は、シムビコート単体の方がコントロールしやすいと思います。

また、粒子径が小さいことから、肺の奥(抹消気道)までシムビコートをいきわたることができます。このことから、抹消気道病変があるCOPDの人でも使うことができます。特にCOPDで適応がある合剤は、現在ではアドエアとシムビコートしかありません。

 

まとめ

<メリット>

  • 1つの吸入器で、ステロイドとβ2刺激薬が一度に吸入できる
  • 重症度によって剤形を変える必要がない
  • 長期管理と発作治療の2つの役割を発揮する
  • シムビコートは肺気腫にも使える
  • シムビコートは、ステロイドとβ2刺激薬で最も歴史のあるお薬である

<デメリット>

  • 朝・夕2回吸わなければならない
  • 吸った感じがしない
  • 投与量が増えると、値段が倍増する

<向いてる人>

  • 喘息や咳喘息と初めて診断された方
  • 吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤が必要で喘息が中等症以下の症状の方
  • 喘息の症状が不安定な方
  • 気管支喘息とCOPDを併発している方

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