咳喘息は喘息とは違うのか?咳喘息ってどんな病気?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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咳が出ている方で、『咳喘息』と診断された方も多いかと思います。長引く咳の原因としても、咳喘息が日本では最も多いといわれています。

医師によっては気軽に病名をいいますが、言われた方からすると聞いたこともない病名でしょうし、「結局自分は喘息なの?喘息じゃないの?」と思われる方も多いでしょう。

咳喘息は喘息の一種といわれており、喘鳴や息苦しさを伴わない咳が続く病気といわれています。この病気の診断の最も有効な手段は、「β2刺激薬を吸入したら、咳が改善するかどうか」です。

しかしながら咳をしているからといって、β2刺激薬の吸入薬をなんでもかんでも処方すると、ほっといても良くなる咳も咳喘息と診断されかねない病気なのです。

そのため、咳喘息と診断された方の半分は咳喘息ではない可能性があります。ぜひ自分が本当に咳喘息かどうかも含めてこの病気について一度見てみましょう。

 

1.咳喘息ってどんな病気?

咳喘息は喘息の一歩手前の病気で、長引く咳を主症状とし、気管支拡張薬で反応する病気とされています。

咳喘息とは、喘鳴や息苦しさがない長引く咳があって、気管支拡張薬で症状が改善する病気のことです。咳喘息は、1979年にCorrao医師らによって診断されたのが始まりで、比較的新しい病気です。

この咳喘息は、喘息の中の一つの病気として考えられています。イメージとしては、喘息になりかけてる状態と考えた方が良いかもしれません。実際に咳喘息を放っておくと、3割は喘息に移行するといわれています。喘息の一歩手前の状態である咳喘息を理解するには、喘息がそもそもどんな病気かを知る必要があります。

喘息は慢性的に気道に炎症を起こしており、それが引き金となって気道が敏感になって咳や息苦しさを繰り返す病気です。本来は我々の体を守るべき好酸球やリンパ球、マスト細胞などといった免疫細胞が、気道をずっと攻撃している状態です。喘息では、主にIgEという免疫物質が気道を攻撃しています。

こういった自分の免疫が自分自身を攻撃する病気のことを、自己免疫疾患と言います。分かりやすくいうと、アレルギー疾患ですね。喘息の病気について詳しく知りたい方は「喘息ってどんな病気?喘息の症状とは?」を一読してみてください。

咳喘息も喘息になりかけならば、アレルギー疾患なのでしょうか?実際に咳喘息は気管に、アレルギーによる炎症がおきている状態といわれています。しかし喘息と咳喘息を比較してみると、咳喘息の方がアレルゲン(アレルギーを起こす物質)が見つからないことが多いです。つまり、咳喘息はアレルギーと診断できない割合が高いといわれています。

そもそも喘息自体も、気道に慢性的な炎症が起こる原因がアレルギー以外にもあることが近年分かってきており、これまでの考え方が揺れています。そのため咳喘息の原因も、100%アレルギーとは言い切れないことが多いです。

咳喘息と喘息の一番の違いは、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーと聴診で高音の音が聞こえる状態)があるのか、ないかです。

  • 喘鳴がある=喘息
  • 喘鳴がない=咳喘息

と考えている医師も大勢います。しかしこれは、呼吸器内科医からするとあまりにも短絡的です。喘息は常に喘鳴ではありません。実は、喘鳴が聞こえない咳優位型喘息なんてのもあります。

さらに長引く咳で喘鳴が聞こえたら、全てが喘息というわけではありません。喘鳴が聞こえる病気は、心不全やCOPD(肺気腫)など実に多彩です。すぐに咳喘息と診断する医師は、逆に喘鳴が聞こえるとすぐに喘息と診断してしまうことが多いです。喘鳴について詳しく知りたいかは、「胸の音がヒューヒューしたら喘息?喘鳴のメカニズムについて」をお読みください。

では次に咳喘息の診断基準についてみてみましょう。

 

2.咳喘息の診断基準とは?

咳喘息は、長引く喘鳴のない咳が気管支拡張剤で改善したかどうかで診断します。

診断基準は医師の中ではとても大切です。医師がこの病気かな?って思っても、診断基準に当てはまらなかったら診断できないことになります。咳喘息の診断基準は、実は非常にあいまいです。簡易診断基準は、

  1. 8週間以上続く咳でかつ、喘鳴を伴わない状態
  2. 気管支拡張剤(β2刺激薬かテオフィリン)が有効

の2点しかありません。しかしながら、「気管支拡張剤が有効であるかどうか」が一人歩きしてしまっている感が否めません。気管支拡張剤は、大部分が吸入薬で処方されることが多いです。この吸入薬を吸ったらよくなったかどうかは、確かに咳喘息の診断の大きなポイントです。

一方で風邪などの咳は、ほっといても良くなります。つまり2~3日咳が出て辛いといっている人に気管支拡張剤を処方しても、

  • 咳喘息で薬が効いた人
  • 様子見てても咳が治った人

が一緒になってしまいます。さらにはプラセボ効果といって、本当は効果がない病気のはずなのに、「お薬だよ」って吸うとなんとなく効果があるような気になってしまう人も多いです。

実際のデータでも、咳喘息と診断された人に何も効果がない薬(プラセボ)を吸入してもらったところ、半分くらいの人が咳が減ったと答えたというデータもあります。つまり、気管支拡張薬じゃなくてもよかったということになります。

このため咳が出て2~3日の人に、気管支拡張薬は個人的にはお勧めできません。

  • 咳が強くて肋骨にひびが入った
  • 咳が強くて食事もできない
  • 咳が強くて横に慣れない

などのよほどの症状がない限りは、普通の咳止めで様子を見た方が無難です。さらにいえば、吸入薬を処方してしまうと咳の原因が何だったのか、わからなくなってしまいます。

咳喘息と診断した場合は3割が喘息に移行するため、咳がない時も予防的に治療を行うことが必要になります。一方で、ただの風邪の咳だった人に長期間無用な治療を続けるわけにはいきません。

そのため安易に気管支拡張薬を処方すると、これからの治療の方針が分からなくなってしまうのです。

 

ちなみに簡易ではなく正式な咳喘息の診断基準は、以下の通りです。

  1. 喘鳴を伴わない咳が8週間以上続く
  2. 喘鳴や呼吸困難などを伴う喘息にかかったことがない
  3. 8週間以内に上気道炎(風邪など)にかかっていない
  4. 気道が過敏になっている
  5. 気管支拡張剤が有効である
  6. 咳を引き起こすアレルギー物質などに反応して咳が出る
  7. 胸部レントゲンで異常が見つからない

一般的にこの7つがすべて当てはまると、咳喘息と診断できるとされています。しかし、④の気道の過敏性を調べる方法は、大きな病院のかなり特殊な検査が必要になります。

最近は痰や吐いた息を調べて気道の過敏性を調べる検査も出てきていますが、どれくらい信用できるのかは現在調べられているところです。

さらに咳喘息は①~⑦の全てが当てはまる必要がありますが、気道の過敏性がない咳喘息、アレルゲンがはっきりしない咳喘息の方もいるといわれていて、そもそもの矛盾が生じています。

 

3.咳喘息の診断基準で実際に重視するポイント

  • 喘鳴のない咳が8週間以上続く
  • 8週間以内に風邪にかかっていない
  • 気管支拡張薬で効果がある
  • 胸部レントゲンを撮影する

個人的に咳喘息の診断基準の7つの中で重視する点は、

1.喘鳴のない咳が8週間以上続く

数日で治まっている咳は風邪に伴うことが多いため、長引く咳ということは重視すべきと思います。また喘鳴があった時点で咳喘息とはいえません。

この喘鳴ですが,人によってはかなり聞こえづらいことも多いです。咳喘息と診断された方が、思いっきり息を吐かせてみたら喘鳴が聞こえることもあります。そうなると、実は喘息だったということになります。

3.8週間以内に風邪にかかっていない

風邪を引き金に咳が続く場合は、感染後咳嗽という別の病気の可能性が高いです。風邪をひくと、気管支にばい菌がついてしまいます。それを倒そうと体の白血球やリンパ球が戦うため、気道で炎症が起きます。

ばい菌が終わった後も、戦火の残りで咳が続くことがあります。このことを感染後咳嗽というのです。ただし戦火の残りで咳が続く病態のため、どんどん悪化していくことはありません。風邪をひいた後の咳がどんどん悪化していく場合は、咳喘息含めて他の咳の鑑別を要するので注意しましょう。

5.気管支拡張薬で効果がある

ただし先ほど記載したように、気管支拡張薬ばかりにとらわれてしまうと、他の病気も咳喘息と診断しかねません。気管支拡張薬がどのようなものがあるかは、次の章でまとめていきます。

7.胸部レントゲンを撮影する

レントゲン上に何か病気が見つかった場合は、咳喘息は完全に否定されます。レントゲンを撮らないまま咳喘息だからといって放置してしまうと、後で重篤な病気が見つかることもあります。長引く咳は咳喘息かどうかの前に、重篤な病気ではないか確認するようにしましょう。

この4つが、咳喘息の診断では重要と考えています。

 

4.気管支拡張薬ってどんなのがあるの?

主流はβ2刺激薬の吸入です。咳を止めるために、抗炎症効果のある吸入ステロイドの合剤から使用することがしばしばあります。

咳喘息の診断の最も重要なお薬が、気管支拡張薬です。

気管支拡張薬として、ガイドラインではβ2刺激薬とテオフィリンがあげられています。テオフィリン製剤としては、テオドールが代表的です。しかし副作用も強いため、咳喘息の鑑別にテオフィリンを用いることはほとんどないです。

ですから現在では、咳喘息の診断にはβ2刺激薬が主流です。代表的なお薬としては、

があります。オンブレスはCOPDしか適応がないため、喘息の一歩手前の咳喘息の鑑別には使用しづらい側面があります。そのため長期型はセレベント、短期はサルタノールやメプチン、吸えない人はホクナリンテープといった場合が多いでしょうか。

  • 長期型が向いてる:軽い咳が1日中長引く場合
  • 短期型が向いてる:一度咳が出始めたら止まらない場合

一方で、咳がひどい場合はβ2刺激薬だけでは抑えられないことも多いため、長引く咳に対して吸入ステロイドも含まれているアドエアシムビコートを処方して咳喘息の鑑別を行う場合があります。吸入ステロイドは、気管支の炎症を鎮める作用があります。

気管支拡張薬だけだと、一過性の効果しか期待できないことが多いです。ただし吸入ステロイドを被せてしまうと、アトピー性の咳と見分けられなくなるということで嫌がる先生もいます。

β2刺激薬の単剤からいくか、吸入ステロイドの合剤でいくかは、患者さんの状態をみて個々人にあった方法で診断していくのが一番かと思います。ただし咳が辛くて病院に受診をしているので、まず咳を落ち着けるために合剤を出した方が良いのではと考えている先生が増えてきている印象をうけます。

一方で咳喘息は、診断が非常に難しい病気です。ポイントはひとつ、「β2刺激薬で咳が治ったどうか」です。

この時にβ2刺激薬を処方した後に、

  • 「薬吸っても効いたような、効かないような・・・」
  • 「薬吸っても、咳は出る時は出る。でも出ない時はでない。」
  • 「薬が効いたのか、ほっといて治ったのかよくわからない。」

といった意見がでます。これだと医師の方も薬が効果があったのかどうかよくわかりません。

  • 「咳喘息だけど治療薬が足りてない?」
  • 「咳喘息ではそもそもない?」

病気が診断できないと、次の治療法に非常に苦慮します。

ここからは完全に個人的な意見ですが、私が咳喘息を診断する時に最もよく使用するのがシムビコートのSMART療法(スマート療法)です。

シムビコートの優れた特徴として、長期間吸入ステロイドとβ2刺激薬の効果が持続すると同時に、シムビコートは効果の発現が早いため、咳が出現したときに追加投与することでも効果が期待できるのです。

シムビコートを定期的に吸入するのに加えて発作時に追加する方法を、SMART療法(Symbicort maintenance and reliever therapy)といいます。

実際にシムビコートを喘息の治療で使用する場合は、長期的に喘息管理しながら発作時にも追加する方法を用います。このSMART療法の特徴を咳喘息の診断にも使用します。

咳喘息が疑われた時に、シムビコートを朝と夕2回ずつ定期的に吸ってもらうのに加えて、咳が出たときに追加で吸うようにします。

  • 定期的にシムビコートを吸って全体的に咳が減ったか?
  • 咳が出たときにシムビコートを吸って止まったか?

の2つの項目で、病状を評価することができます。シムビコートを吸ってすぐに咳が止まるかどうかというのは、患者さんにとっても分かりやすいポイントかと思います。

 

まとめ

  • 咳喘息は喘息の一歩手前の病気で長引く咳を主症状とし、気管支拡張薬で反応する病気とされています。
  • 咳喘息は診断基準があいまいなため、他の病気も間違って入ってきてる可能性があります。
  • 咳喘息を診断する時、β2刺激薬単体ではなく、β2刺激薬とステロイドの合剤を吸入することが最近は増えてきました。

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