キプレスの喘息における効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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キプレスは、2001年に発売されたロイコトリエン受容体拮抗薬です。キプレス錠は杏林製薬から発売されていますが、まったく同じお薬としてシングレア錠がMSDから発売されています。

抗ロイコトリエン薬とは、アレルギーを引き起こすロイコトリエンの働きをブロックするお薬です。さまざまなアレルギー性疾患に対して、効果が期待できるお薬です。

最もキプレス錠がよく使われるのは、気管支喘息の方だと思います。気管支喘息は気道の炎症が原因で気管支が狭くなり、咳や喘鳴などの症状が生じる病気です。症状がひどくなると息苦しくなるといった症状もでます。

気道の炎症の原因にロイコトリエンという物質が関与しており、キプレス錠はこのロイコトリエンが受容体に結合するのを邪魔するお薬になります。

ここではそんなキプレスの、喘息における役割をみていきましょう。

なおキプレスの花粉症の効果について知りたい方は「キプレス錠の効果と特徴」をご覧ください。

 

1.キプレスが喘息で向いてる人は?

  • 喘息で吸入薬がうまく吸えない人
  • 喘息の症状が吸入薬のみではコントロールできない人
  • アレルギー性鼻炎が合併している人

気管支喘息の治療には、長期管理薬と発作治療薬の2種類に分けられます。

長期管理薬は、普段からお薬を飲むことにより咳などの症状を予防することを目的とするお薬です。主なものは吸入ステロイド薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、β刺激薬、テオフィリンなどがあります。近年はここに抗コリン薬であるスピリーバも追加されました。

この中で、喘息の第一治療薬はステロイド吸入薬です。喘息の治療をしていくにあたって、ステロイド吸入薬を使うのは大前提になります。吸入薬がめんどくさいからといってキプレスだけ内服している人がいますが、これは正しい使い方ではありません。どんなに軽症な人でも、ガイドラインでは吸入ステロイドを中心に治療するように記載されています。

例外としてキプレスが第一選択肢になるのは、吸入薬がうまく吸えない人の場合です。例えば小さなお子さんは、薬をうまく吸うのが難しいかもしれません。小児喘息のガイドラインでも、軽症の場合は内服薬でのコントロールが認められています。キプレスには、キプレスチュアブルや細粒があります。お子さんでも飲みやすい剤形なので、キプレスでコントロールしている方もいます。

また、認知症のある高齢者では、うまく吸入器を使えない場合があります。喘息で吸入力が落ちているうえに高齢で力もなくなると、薬自体を吸入する力がないこともあります。こういった方は、キプレスが第一選択肢になることもあります。。キプレスは高齢者の方も意識してキプレスOD錠が発売されています。キプレスOD錠は口の中にいれたら溶けるようにできているお薬で、ミント味になっています。

キプレスを使用している方の多くは、吸入ステロイドだけでは喘息のコントロールができないために併用しています。吸入ステロイドは、近年β刺激薬との合剤としてアドエアやシムビコートが登場しています。こういった合剤の吸入薬でも喘息症状がコントロールできない場合に、キプレスを使うことが多いです。吸入ステロイドではロイコトリエンを抑制出来ないので、キプレスを併用するメリットは大きいと言われています。

このように、キプレスは以下のような喘息の方に向いているお薬です。

  • 喘息で吸入薬がうまく吸えない人
  • 喘息の症状が吸入薬のみではコントロールできない人

それに加えて、鼻炎が合併している喘息患者さんにも使われることが増えています。きっかけになったのは喘息患者にどれ位鼻炎が合併しているかを調べた大規模な全国実態調査「SACRA(サクラ)サーベイ」が2009年に行われました。この調査結果では、実に70%近くの喘息患者さんにアレルギー性鼻炎の合併が認められました。

鼻炎は喘息発症のリスクであると同時に、その合併は喘息コントロールに悪い影響を与えることもわかっています。ロイコトリエン受容体拮抗薬は気管支喘息の症状改善だけでなく、鼻づまりや鼻水といったアレルギー性鼻炎にも効果があります。特に鼻閉に対する効果が強いと言われています。そのため鼻炎を合併した喘息の患者には、キプレスの有用度は高いと言えます。

 

2.キプレスの適応疾患と用量・用法

成人には、1日1回5mgか10mgを寝る前に1回内服します。

キプレスは、杏林製薬より2001年に発売されたロイコトリエン受容体拮抗薬です。

キプレスは気管支喘息とアレルギー性鼻炎に適応があります。そのうち15歳以上に使用する剤形は、キプレス5mg錠、10mg錠です。キプレス5mg錠は、アレルギー性鼻炎のみの適応です。キプレス10mg錠は、気管支喘息とアレルギー性鼻炎の両方に適応があります。

キプレスは15歳以上であれば、花粉症の症状に合わせてキプレス5mgか10mgを1日1回寝る前に内服します。

なお6歳以上15歳未満に使用する剤形は、キプレスのチュアブル錠5mg、1歳以上6歳未満に使用する剤形はキプレス細粒4mgがありますが、2016年の時点では気管支喘息にしか適応がないので注意が必要です。

※チュアブル錠とは、噛める錠剤になります。

 

3.喘息治療におけるキプレスの位置づけとは?

キプレスは気管支喘息の治療において、発作治療薬ではなく長期管理薬に分類されます。

キプレスはロイコトリエン拮抗薬として、アレルギー物質の働きを抑えます。喘息治療においては、キプレスはどのような位置づけのお薬でしょうか?キプレスの喘息に対する効果について、もう少し詳しくお伝えしていきます。

 

3-1.キプレスは気管支を狭くするロイコトリエンを邪魔します

キプレスは気道炎症の原因になっているロイコトリエンを抑制することにより、気道の炎症を和らげてくれます。気管支が狭くなるのを防ぎ、咳などの喘息症状を改善するお薬です。

ちょっと難しくなりますが、喘息の大まかな流れとしては以下のようになります。

  1. Th2細胞がIL-4・IL-5・IL-6・IL-13などのサイトカインを分泌
  2. サイトカインにて好酸球やIgEが活性化
  3. 好酸球やIgEが様々な炎症物質を産生
  4. 気管支の慢性的な炎症

ロイコトリエンはこの3の様々な炎症物質の1つになります。キプレスはこのロイコトリエンが、受容体にくっつくのを邪魔するお薬になります。

喘息の機序はかなり複雑で、現在でもすべてが解明されたわけではありません。最近ではTh17細胞といった、今までの流れとは全く違う経路も関係していると言われています。

ロイコトリエンは喘息において気管支を直接狭くする物質の一つですが、喘息の流れの中では末端の物質になりますし、他にも様々な経路があります。ロイコトリエンだけを抑えたからといって、喘息はコントロールできません。

ロイコトリエン以外の物質も気管支を狭くするのに関与しているため、キプレスは喘息の症状が出現してから服用するのでは遅いです。キプレスの役割は、咳などの症状を出さないために飲むお薬です。そのためキプレスは、喘息を長期管理するために内服する治療薬として位置づけられています。

ちなみに、気管支の炎症自体を改善するお薬が吸入ステロイドになります。ステロイドは①~④の大部分を抑制するお薬です。この吸入ステロイドを使用している時に抗ロイコトリエン薬を併用することで、喘息がさらに改善したという報告が多数あります。

緑の合計は58.9%まで喘息がコントロールできるようになています。さらに青のコントロール不良も57.5%から17.6%まで減少しています。

 

3-2.キプレスは鼻炎の原因となるロイコトリエンを邪魔します

2009年に、大規模な全国実態調査「SACRA(サクラ)サーベイ」によって、67.3%の喘息患者さんにアレルギー性鼻炎の合併が認められました。これをうけて、喘息治療の方針が大きく変わりました。それを象徴する一つのフレーズがあります。

「one airway one disease」

これは上気道(鼻・喉)と下気道(気管支・肺)を切り離して考えるのではなく、体の中でひと続きの空気の通り道(one airway)ととらえて治療していくことを意味しています。

そのため上気道と下気道の病気は、アレルギーの原因や炎症が起きる過程も共通しているひとつの病気(one disease)と考えるべきとされました。これまでは上気道(鼻・喉)の病気は耳鼻科、下気道(気管支・肺)の病気は呼吸器内科と別れて治療していました。別々の科が各々で治療するのではなく、一つの病気として一緒に治療しようという考え方になってきています。

特に上気道での炎症で鼻水が下気道に垂れ込めば、咳が誘発されて、結果として喘息の悪化につながります。このため鼻炎のコントロールは、喘息の治療に必要不可欠となっています。

キプレスなどの抗ロイコトリエンは、この鼻炎に非常に効果的であることが近年報告されています。キプレスは、特に鼻づまりに対して強い効果を示します。実際に花粉症でも、今やキプレスは中心的な治療薬のひとつとして広く使われています。

詳しくは「キプレス錠の効果と特徴」を参照してみてください。このようにキプレスは、鼻炎を合併している喘息の方に積極的に用いられるようになっています。

 

4.抗ロイコトリエン薬の中でキプレスの位置づけは?

オノン・キプレス・シングレアは、喘息やアレルギー性鼻炎ともに大きな効果の差はありません。

抗ロイコトリエン拮抗薬としては、プランルカストを有効成分とするオノンの他に、モンテルカストを有効成分とするキプレスやシングレアがあります。どれが一番効果があるのかと気になる人もいらっしゃるかと思いますが、実際はどれも大きな差はありません。

一番の違いは、内服方法がオノンが1日2回なのに対して、キプレスやシングレアでは眠前1回に済むことです。

薬価としては、

  • オノン:53.7円×4錠 計214.8円(3割負担で64.4円) 
  • キプレス・シングレア:203.5円(3割負担で61.1円)

となっています。先発品ではほとんど薬価はかわらないのですが、オノンはジェネリック医薬品としてプランルカストが発売されています。プランルカストは28.7円×4錠、計114.8円(3割負担で34.4円)と非常に安いです。キプレスやシングレアでも、近々ジェネリック医薬品が発売となります。

 

まとめ

喘息でキプレスの内服を考慮すべき人は、

  • 喘息で吸入薬がうまく吸えない人
  • 喘息の症状が吸入薬のみではコントロールできない人
  • アレルギー性鼻炎が合併している人

です。喘息は発作が起きてからですと入院になることも多々あります。しっかりと喘息のコントロールに努めましょう。

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