疼痛性障害(心因性疼痛)の症状・原因から診断・治療まで
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
疼痛性障害とは、痛みにとらわれてしまう病気です。
疼痛性障害の患者さんは、確かに痛みを感じています。そして実際に身体の痛みの原因があることもあります。しかしながらそれ以上に、心理的な要因が強く影響している病気が疼痛性障害になります。
疼痛性障害は慢性的に経過することが多く、様々な病院に受診していたり、ときには手術などもうけています。また、アルコールや痛み止めに頼ってしまうこともあります。
このような疼痛性障害では、心理的要因に目を向けていかなければ治療が好転していきません。ここでは、疼痛性障害(心因性疼痛)の症状・原因から診断・治療まで、お伝えしていきたいと思います。
1.疼痛性障害(心因性疼痛)とは?
疼痛性障害とは、痛みに心がとらわれてしまう病気です。痛みは身体の原因だけでなく、心とも密接に関係しています。
まずは疼痛性障害とはどのような病気なのか、お伝えしていきたいと思います。
おそらく病院で患者さんの訴えとして一番多い「痛み」になりますが、痛みは身体だけからくるものではありません。痛みの種類としてわけると、
- 侵害受容性疼痛:身体の組織の損傷が原因による痛み
- 神経障害性疼痛:神経・脊髄・脳が原因による痛み
- 心因性疼痛:心理的な原因による痛み
この3つに分けられます。
疼痛性障害は、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛といった身体に原因がある疼痛にも、心因性疼痛がかぶっていることもあります。痛みは身体と心が密接に関係しているのです。
これらの心因性疼痛によって、「痛みに心がとらわれてしまう」ようになると、疼痛性障害と診断されます。
ですから疼痛性障害の患者さんは、身体的な原因がある場合もない場合もあります。身体的な原因がない患者さんは、無意識に抑圧したストレスが痛みとして表れていると考えられています。
2.疼痛性障害(心因性疼痛)の原因とは?
疼痛症状は抑圧されたストレスの表れであり、疾病利得が痛みを強めています。このため、性格傾向や日々のストレスなどが原因と考えられています。
疼痛性障害の原因としては、2つの側面から考えることができます。
- 無意識に抑圧された葛藤によるもの(精神分析)
- 疾病利得
疼痛性障害は、自分の中に抱えている葛藤(ストレス)を無意識に抑え込み、その不安が疼痛として身体に出てきたことが原因と考えられています。
そして意識が痛みに向くことは、自分の葛藤(ストレス)と向き合わなくて済みます。さらには病気であることから、周囲の人から配慮してもらえるという現実的なメリット(疾病利得)もあるのです。
疼痛性障害はこのような心理的な原因が考えられているため、性格傾向やストレスなどが要因となっています。
①性格
性格は遺伝的な気質に加えて、育ってきた環境や生きていく上での経験から少しずつ形成されていきます。
疼痛性障害になりやすい患者さんには、アレキシサイミア(失感情症)という性格傾向が認められます。
アレキシサイミア傾向がある人は、自分自身の感情に上手く気づけず、そしてその感情を表現することができない。感情を感じていないわけではないのですが、それを自分で認識できないのです。
なかには、自分の感情的な弱さを無意識に認められないずに、感情を抑圧してしまうこともあります。
このようにストレスを抑えきれなくなり、身体の痛みという形で表れてくることがあります。
アレキシサイミアについて詳しく知りたい方は、「心身症や気分変調症の原因、アレキシサイミア(失感情症)とは?」をお読みください。
②ストレス
疼痛性障害では、ストレスを無意識に抑え込んでしまう抑圧が原因と考えられています。それが抑えきれなくなり、痛みとして表れています。
疼痛性障害のストレスには、日常生活の様々なものが考えられます。ですが患者さんの中には、自分は苦痛という報いをうけるべきだという罪の償いという面がみられることがあります。
もう一つ、疾病利得という面がみられることもあります。
- 避けたい出来事(学校や仕事に行くなど)
- 感情的になる出来事(夫への怒りなど)
- 病気だと得をする出来事(お金の援助を得られるなど)
こういった出来事で、疼痛症状が悪化することがあります。
③年齢や性別
痛みは、年をとるにつれて鈍感になっていきます。そして痛みに耐える力もついていきます。このため疼痛性障害は、30代~40代が最も多く認められます。
女性が男性の2倍ほどといわれています。精神科や心療内科に受診する患者さんでは、さらに女性の方が多い印象があります。
3.疼痛性障害の症状と診断とは?
疼痛性障害の診断をすすめていくには、診断基準を元に行っていきます。疼痛性障害の診断基準には、アメリカ精神医学会(APA)のDSMと世界保健機関(WHO)のICDがあります。
ICD‐10では、持続性身体表現性疼痛障害となっています。最新のDSM‐Ⅴでは、実は疼痛性障害のカテゴリーがなくなってしまい、身体症状症のひとつに含められるようになりました。
ここでは、ひとつ前のDSM‐Ⅳ‐TRの診断基準をご紹介していきます。その理由はICD-10の診断基準よりも詳しいことと、AからEまでの5項目を上から順番にチェックしていくことで、疼痛性障害と診断できるようになっています。
はじめに簡単にまとめると、
- 1つ以上の疼痛が症状の中心で、治療が必要なこと
- 本人が苦しんでいるか、生活に支障が大きいこと
- 心理的要因が重大な影響があること
- 意図的にねつ造したものでないこと
- 他の精神疾患では説明がつかないこと
順番に、詳しくみていきましょう。
A.1つまたはそれ以上の解剖学的部位における疼痛が臨床像の中心を占めており、臨床的関与が妥当なほど重篤である。
痛みを、身体からくる痛みと心からくる痛みに分けることは困難です。痛みは心と身体が密接に関係していて、身体的疼痛と心理的疼痛が重なってみられることが多いです。
疼痛性障害では、前提条件として痛みが症状の中心である必要があります。頭痛や腹痛、胸痛や四肢の痛み、口の中の痛み(舌痛)などがあります。
そしてその疼痛は、治療をする必要性があるレベルになります。医師によっては、線維筋痛症や非定型歯痛などと診断することがあります。
B.その疼痛は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
疼痛性障害では、治療が必要なほどの痛みが認められることが条件でした。その線引きとして、
疼痛性障害では、
- 本人が苦しむ
- 生活に支障がある
このどちらかがある時に、疼痛性障害という病気として診断することになります。
C.心理的要因が、疼痛の発症、重症度、悪化、または持続に重要な役割を果たしていると判断される。
疼痛性障害では、何らかの心理的要因が痛みに関係している必要があります。心理的要因が関係しているかどうかは、2つのポイントから見極めることができます。
- 気晴らしをしても症状が変わらないこと
- 鎮痛薬でも症状が変わらないこと
例えば、楽しんでいる時に頭を打った時の痛みと、仕事をしている時に頭を打った時の痛みとでは、同じ痛みでも感じ方が異なります。痛みという感覚は、そのときの感情や認知、状況によって大きく変わるのです。
気晴らしをしても痛みが変わらずに続くということは、身体的な痛みの本来の感じ方ではありません。心理的な要因が関係していると考えられます。
また鎮痛剤をつかっても改善効果が認められないということは、身体的疼痛ではないと推測することができます。
D.その症状または欠陥、(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。
E.疼痛は、気分障害、不安障害、精神病性障害ではうまう説明されないし、性交疼痛症の規準を満たさない。
疼痛性障害は、詐病とは見分ける必要があります。痛みが患者さんの利益に結び付くときは、本当に痛みがある疼痛性障害でも症状がひどくなることがあります。これは疾病利得になりますが、本人は無意識です。この違いを見分けるのは難しいので、慎重を要します。
また、うつ病や不安障害などの症状として、痛みが強まることがあります。こういった他の精神疾患で説明がつかない疼痛になります。
4.疼痛性障害(心因性疼痛)の治療-薬物療法
疼痛性障害の治療は、抗うつ剤を中心とした薬物療法が中心になります。身体的疼痛が認められる場合は、その原因に応じたお薬を使っていきます。
疼痛性障害では、薬物療法とお薬を使わない治療を組み合わせていく必要があります。
まずは薬物療法からみていきましょう。疼痛性障害の患者さんの脳では、セロトニンとノルアドレナリンの異常が認められています。この2つの物質は、下行疼痛抑制系という神経の働きに関係しています。
痛みを感じると脳に伝えられるかと思いますが、状況によって調節する必要があります。たとえば命の危険に襲われている時に、痛みを感じていては逃げることができなくなります。
こういったときに下行疼痛抑制系が働きます。その神経伝達物質として、セロトニンとノルアドレナリンが働いています。
このため疼痛をコントロールするために、抗うつ剤の効果が期待できます。セロトニンとノルアドレナリンの両方を増加させるSNRIや三環系抗うつ薬、NaSSAを使うことが多いですが、心因性疼痛の要素が強い場合はSSRIを使うこともあります。
<SNRI>
<三環系抗うつ薬>
<NaSSA>
<SSRI>
これらのお薬を使っていきます。この中でも、
これらがよく使われます。※上記リンクで、それぞれの薬の痛み治療での使い方をまとめています。ご参照ください。
それ以外にも、神経障害性疼痛にはリリカ、慢性疼痛全般に対してカロナールやトラムセットなども使われることがあります。
5.疼痛性障害の治療-精神療法と生活習慣
疼痛性障害では、薬物療法だけでは克服できません。精神療法や生活習慣などの薬以外の治療も行っていくことが大切です。
非薬物療法としては、精神療法や生活習慣からアプローチしていきます。具体的には、以下のようなものがあげられます。
- 精神療法(認知行動療法や精神分析などの洞察療法)
- 運動
- 禁煙(受動喫煙も含む)
- 減量
- 人工甘味料(アスパルテーム)を避ける
- バイオフィードバック
などがあげられます。
疼痛性障害では、自分の内面と向き合っていく必要があります。できれば臨床心理士によるカウンセリングを進めていくことで、痛みの心理的な原因を紐解いていきます。しかしながら金銭的に負担が大きいため、精神科・心療内科の外来で少しずつ進めていくことが多いです。
疼痛性障害の患者さんで気をつける必要があるのが、疾病利得です。病気であるということに逃げてしまい、自分自身のストレスや困難な課題に目を向けるのを避けてしまうことがあります。こういったものに直面化し、向き合っていけるようにしていく必要があります。
また疼痛性障害では、バイオフィードバック(生体自己制御)も有効です。バイオフィードバックは特に頭痛(緊張型頭痛・片頭痛など)の治療に有効といわれています。
バイオフィードバックは、筋電図を測りながら筋肉を緊張させることで、筋肉の緊張をモニターで確認しながらコントロールできることを目指していきます。認知行動療法としての側面もあり、筋肉の緊張を正しく認知できるようにしていきます。
バイオフィードバックは長期的な効果が期待できるといわれていますが、残念ながら日本ではまだバイオフィードバックの治療を受けられる施設が少ないです。
その他にも、薬を使わずにリラックスしていく方法も有効です。詳しく知りたい方は、「薬に頼らずに不安を解消する4つの方法」をお読みください。
まとめ
疼痛性障害とは、痛みに心がとらわれてしまう病気です。痛みは身体の原因だけでなく、心とも密接に関係しています。
疼痛症状は抑圧されたストレスの表れであり、疾病利得が痛みを強めています。このため、性格傾向や日々のストレスなどが原因と考えられています。
疼痛性障害の治療は、抗うつ剤を中心とした薬物療法が中心になります。身体的疼痛が認められる場合は、その原因に応じたお薬を使っていきます。
疼痛性障害では、薬物療法だけでは克服できません。精神療法や生活習慣などの薬以外の治療も行っていくことが大切です。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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