解離性障害(解離性健忘・解離性同一性障害)の原因とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
解離性障害とは、ストレスによって感覚や情動、意識や記憶、自己同一性といったものが切り離されてしまう病気です。
具体的には、自分の体や周囲の現実世界に対して距離ができてしまったように感じる離人感・現実感喪失症、ストレスに感じたことの記憶をなくしてしまう解離性健忘、いわゆる多重人格とよばれるような解離性同一性障害があります。
このような解離性障害はどのようにして生じるのか、その原因は長年にわたって議論されてきています。かつてはヒステリーと呼ばれていて、現在の診断基準では転換性障害(身体表現性障害)と解離性障害にわけられています。
しかしながら本質的には同じですが、性質の異なる病気という考え方も出てきています。また解離性障害は、トラウマ(心的外傷)との関係も深い病気になります。
このように解離性障害の原因ははっきりとしていませんが、心理的な原因をつきつめていくことは治療にとってはとても重要です。ここでは、治療につなげていくための解離性障害の原因についてお伝えしていきたいと思います。
1.解離性障害とは?
解離性障害とは、ストレスによって感覚や情動、意識や記憶、自己同一性といったものが切り離されてしまう病気です。
解離性障害の原因についてみていく前に、解離性障害とはどういう病気なのかをお伝えしていきます。
私たちは日々の生活の中で、様々なことを経験しています。私たちはそれらに対して感覚や感情を持ち、心の中で考えたり、行動といった形で心身の行為を行います。
これらの行為はひとつの人格のなかで統合されていますが、これがうまく統合できなくなってしまう病気が解離性障害です。このために、「私の感覚」「私の体験」「私の人生」といったように認識することができません。
ストレスによって感覚や情動、意識や記憶、自己同一性といったものが切り離されてしまい、それによって離人感・現実感喪失症や解離性健忘、多重人格と呼ばれる解離性同一性障害といった病気になります。これらは連続する病気という意見もあれば、質的に異なる病気であるという意見もあり、専門家でも議論が分かれています。
- 離人感・現実感喪失症:自分の体や周囲の現実世界に対して距離が来たと感じる感覚の解離
- 解離性健忘:ストレスに感じることの記憶をなくしてしまう記憶の解離
- 解離性同一性障害:いわゆる多重人格とよばれるようなアイデンティティの解離
もともと解離性障害は、ヒステリーという概念に含まれていました。ヒステリーというと、「常軌を逸した」とか「手が付けられない」といった偏見の含まれた言葉として今でも使われているかと思います。
ヒステリーは、現在の診断基準の転換性障害(身体表現性障害)と解離性障害を含めた概念でした。転換性障害が身体表現性障害として引き離され、解離性障害と分けられました。これは客観的事実に基づいて診断するという流れを受けてのことですが、本質的な病態はかわらないという意見が専門家でも根強いです。
このことで偏見が減って、診断しやすくなったという診断・治療上の便宜もありました。ですが、ストレスが解離を生んだ場合、それが精神面の症状に表れたものをを解離症状、身体面の症状に表れたもの転換症状と分ける考え方のほうが、実際の臨床にも合致するような印象があります。
このように解離性障害は、原因についての考え方も定まっていません。時代的な流れも踏まえながら、解離障害の心理的な原因についてお伝えしていきます。
2.解離性障害の心理的な原因
解離性障害をシステムの障害と考えるジャネの心理モデルと、抑圧された葛藤と考えるフロイトの心理モデルがあります。病気にって、説明しやすい心理モデルが異なります。
解離性障害の心理的な原因を考えるにあたっては、ジャネとフロイトという2人の学者の考え方を理解する必要があります。
解離性障害はジャネの心理モデルからはじまりました。その後、フロイトの心理モデルが中心となり、最近ではジャネの心理モデルに戻りつつあります。
ここでは2つの考え方をご紹介し、実際の病気をもとに心理的な原因を考えていきたいと思います。
①ジャネの心理モデル
ジャネは、3つのモデルで解離性障害を説明しました。
- 階層モデル:心の活動は高次と低次の活動が拮抗している
- 経済モデル:心的エネルギーと心的緊張が拮抗している
- 体系モデル:外傷記憶の断片が発展してまとまりとなっている
心の活動が低下すると、例えば健忘のように、低次に退行してしまいます。心的エネルギーが低下して心的緊張が保てなくなると、こころの解体を引き起こしてしまいます。ストレスによって心的エネルギーが相対的に不足すると、低次のものが脱抑制されてしまって解離症状が生じてしまうと考えました。
さらに心的外傷(トラウマ)にさらされると、その記憶は断片化してしまうと考えました。そして関連する様々な知覚要素(臭いや時刻、天気など)が発展して体系がつくられ、そのどれかが刺激されると解離症状が生じてしまうのです。
このようにみてみると、ジャネは解離性障害をシステムの障害と考えています。そして正常と異常は連続性があるものではなく、その間には質的な違い(スティグマ)が存在すると考えました。
つまり、解離性障害はシステムの障害ではありますが、それは遺伝要因と環境要因によるその人それぞれの素因が大きく関係していると考えました。
②フロイトの心理モデル
それに対してフロイトは、心理的な葛藤が抑圧されてしまい、それが症状になって生じると考えました。そしてその葛藤は、幼少期にさかのぼる出来事が直近の出来事と結びついて誘発されると考えました。
身体症状は、長い間抑圧されてきた心理的葛藤が象徴化されたものと考えます。幼少期の心理的葛藤は、私たちが普段考えている表層意識とは異なった思考があることが夢分析で見いだされました。
フロイトの精神分析では、これまでの生活の中での何らかの出来事が決定的な意味をもっていて、それが心理的葛藤として症状に表現されると考えました。そしてそれを、幼少期の性的な発達に結び付けて解釈しました。
このことは、客観的な事実をベースにして発展していく科学とは対立する方向になります。実存的で哲学的なものとなってしまい、医学的な考え方ではなくなってしまいます。
このこともあって、国際的な診断基準では、フロイトの心理モデルである転換性障害を、身体表現性障害の1項目として切り分けました。
③実際の病気と心理モデル
解離性障害の関連する病気には、様々な種類があります。それぞれで、どちらの理論が説明しやすいかが異なります。
解離性同一性障害では、抑圧された幼少期の性的虐待や外傷体験が重視されます。この点では、フロイト的な考え方に近いといえます。フロイトがモデル疾患とした転換性障害も、抑圧されたものが身体症状に表現されたと考えられます。
それに対して離人感・現実感喪失症や解離性健忘では、何らかの大きなストレス因がきっかけとなることが多く、ジャネの経済モデルが当てはまります。これには、本人の素因も大きく影響してきます。
PTSDもジャネの体系モデルで説明しやすいです。実際の治療でも、心的外傷によって生じた記憶断片に何度も暴露していく暴露療法(エクスポージャー)が行われます。PTSDでは誰もが衝撃を受けるような出来事によるものなので、そこには素因は大きくありません。
このように病気によっても、説明しやすい心理モデルが異なります。
3.解離性構造理論での心理的な原因
解離性障害は外傷体験によって、複数の下位システムがバラバラに機能することが原因と考えます。回避的な人格部分と情動的な人格部分が形成され、それぞれが恐怖をいだくことで構造化されてしまいます。そして心的エネルギーと心的緊張が低下してしまうと、解離症状が引き起こされます。
このように解離性障害の心理モデルは、いまだに議論されているところです。最近では、ジャネの考え方を発展させた構造的解離理論が注目されています。解離症状に対する理論的な説明だけでなく、そこから治療論として臨床にもつながる考え方になります。
臨床経験に裏打ちされた解離性障害の心理的な理論でもあり、解離性障害の治療を考えていく上でもとても参考になりますのでご紹介していきます。
構造的解離理論では、人格は複数の下位システムから成ると考えます。私たち通常、複数の下位システムが一貫性をもって協調的に機能しています。ですが心的外傷をうけると、この構造にひびが入って下位システムがバラバラに機能するようになります。
この考え方では、あくまで人格は一つと考えます。その人格の下位システムとして、
- ANP:日常生活をうまくやり過ごして外傷体験を避ける人格
- EP:外傷を受けたときに活性化される情動的な人格
この2つの人格部分があると考えます。外傷の大きさによって、これらの人格部分が複数になります。
- 第一次構造的解離:ANP1つ・EP1つ→PTSD・解離性健忘・解離性遁走・転換性障害
- 第二次構造的解離:ANP1つ・EP複数→複雑性PTSD・境界性パーソナリティ障害
- 第三次構造的解離:ANP複数・EP複数→解離性同一性障害
私たちは本来、これらの人格部分をひとつの人格の中に統合しながら生きています。そのためには、総合と現実化が必要になります。
私たちは何かの目的に向けてふさわしい行為をするために、知覚や感情などを総合して行っていきます。しかしながら外傷体験によって人格部分の間で目的に矛盾が生じてしまうと、総合されなくなってしまいます。
そして様々な体験を現実化をしています。「これは私の体験だ」と個人化して、「今ここで行われている体験だ」と現在化する必要があります。こうして、「私が今、体験している」という現実に根差した生活ができます。しかしながら外傷体験をすると、現実と認識できずに解離してしまうということが起きてしまいます。
こうして人格部分の構造的解離が作られていきます。これらの構造は、恐怖症のメカニズムで固定化されていきます。外傷体験に接することでの恐怖や、それを避けることで恐怖が強まっていきます。それが、各人格部分への恐怖につながり、人格部分がより解離していってしまいます。
そして外傷体験を経験すると、心的エネルギーも心的緊張も弱まってしまい、高次の行為ができなくなってしまいます。心的エネルギーよりも心的緊張が弱まってしまうと、衝動的な行為をとりがちになってしまいます。それも超えて弱まってしまうと低次の行為になってしまい、興奮やフラッシュバックといった様々な解離症状を引き起こしてしまいます。
ちなみにこれらによって表れてくる症状を、転換性障害と解離性障害とは分けません。それぞれ身体表現性解離症状と精神表現性解離症状と呼んで、どちらも解離症状として扱います。
4.解離性障害の原因は遺伝なのか?環境なのか?
解離性障害は、遺伝要因に環境要因が重なり発症します。離人感・現実感喪失症や解離性健忘では遺伝要因も示唆され、解離性同一性障害やPTSDでは環境要因が大きいといえます。
それでは解離性障害は、遺伝的な要因が強いのでしょうか?それとも環境的な要因が強いのでしょうか?解離性障害の原因となりうる要素を見ていきたいと思います。
すでにお伝えしたように、解離性障害のタイプによっても、素因が大きなものと小さなものに分けることができます。その点も踏まえてみていきましょう。
①遺伝と性格・考え方
性格や物事の考え方は遺伝的な気質に加えて、さまざまな経験の中で少しずつ形成されていきます。このため性格や考え方には、遺伝の要素と環境の要素が重なって影響しています。
離人感・現実感喪失症や解離性健忘では、遺伝的な影響があることが示唆されています。離人感・現実感喪失症では、
- 損害回避の気質
が関係しているといわれています。不安になりやすく、行動を抑えてリスクを好まない生まれ持っての性格傾向です。それに加えて、暗示へのかかりやすさも関係していると考えられています。
そして発達の初期に、様々な経験から認知的スキーマが作られていきます。認知的スキーマとは、物事を判断するときのモノサシのようなものです。断絶や関係過剰といったスキーマが大きく関係しているといわれています。
断絶とは、様々な基本的な欲求が安定して満たされないということが根底に形成され、情動抑制や不完全さにつながります。虐待などの外傷体験が大きく関係します。
関係過剰とは、自分が家族から自立して生活することができないだろうということが根底に形成され、依存性や脆弱さ、自己不全感につながります。過保護な育て方であったり、反対に子供の世話をしなかったりすることが関係します。
このように遺伝的な気質に加えて、養育環境を含めた成長の過程で形作られた認知的スキーマが原因となります。このためストレスに対する対処がうまくできず、未熟な防衛機制をとりがちになってしまいます。
②幼少期の虐待などのトラウマ
幼少期に虐待を受けていたり、家庭内で暴力をたびたび目撃したりといったトラウマは、解離性障害の大きな原因の一つとなります。
それ以外にも、戦争や天災といった誰でも大きな衝撃をうけるような心的外傷(トラウマ)を受けると、その重篤度、頻度、暴力性が高くなればなるほど解離症状を発症しやすくなります。
とくに解離性同一性障害では、欧米では9割の患者さんに幼少期の性的・身体的虐待やネグレクトを経験しています。PTSDとも関連が深く、特に複雑性PTSDは解離症状が認められることも多く、類似するものがあります。
③ストレス
日々の生活の中では様々なストレスがありますが、対人関係や仕事でのストレス、経済的なストレスなどが原因となって解離症状が認められることがあります。
ジャネの経済モデルに従えば、ストレスによって心的エネルギーが相対的に不足すると低次のものが脱抑制されてしまい、解離症状が生じてしまいます。過剰なストレスが加わることは、解離症状の原因となります。
特別に大きなストレスでなくとも、外傷体験に関係するようなストレスが加わることも解離症状の原因となります。
5.解離性障害の生物学的な原因
解離性障害では、前頭前野と偏桃体の機能異常が認められています。
解離性障害の患者さんの脳ではどのような異常が認められるでしょうか?最近の研究の進歩によって、解離性障害の生物学的な原因についても少しずつ分かってきています。
恐怖を含めた感情をつかさどる部分として、大脳辺縁系にある偏桃体があります。この調整を司っているのが、前頭前野とよばれる脳皮質です。前頭前野と偏桃体はシーソーのような関係にあり、前頭前野の活動が低下していると偏桃体の活動が亢進し、前頭前野の活動が亢進すると偏桃体の活動が低下します。
解離性障害では、この2つの両極端な状態が関係していると考えられています。
前頭前野が低下して偏桃体が亢進している場合、偏桃体の抑制がつかずに感情が野放しになります。フラッシュバックや過覚醒といった状態になり、このことを第一次解離とよびます。
それに対して前頭前野が亢進して偏桃体が低下している場合、感情がシャットダウンしているような状態になります。離人症をはじめとした解離症状が認められ、このことを第二次解離とよびます。
これは前頭辺縁系モデルというひとつの仮説ではありますが、脳の生物学的な異常が少しずつわかってきています。
まとめ
解離性障害とは、ストレスによって感覚や情動、意識や記憶、自己同一性といったものが切り離されてしまう病気です。
解離性障害の心理的原因として、解離性構造理論が注目されています。解離性障害は外傷体験によって、複数の下位システムがバラバラに機能することが原因と考えます。回避的な人格部分と情動的な人格部分が形成され、それぞれが恐怖をいだくことで構造化されてしまいます。そして心的エネルギーと心的緊張が低下してしまうと、解離症状が引き起こされます。
解離性障害は、遺伝要因に環境要因が重なり発症します。離人感・現実感喪失症や解離性健忘では遺伝要因も示唆され、解離性同一性障害やPTSDでは環境要因が大きいといえます。
解離性障害では、前頭前野と偏桃体の機能異常が認められています。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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