過呼吸・過換気症候群に有効なお薬と治療法とは?救急車を呼ぶとどうなるの?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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過呼吸は、その多くは精神的ストレスを原因にして生じたものになります。このように精神的なストレスが原因とした過呼吸を、過換気症候群といいます。

過呼吸にはじめてなってしまった患者さんは、「自分の身体に異変があるかもしれない」とビックリして内科や救急科などに受診される患者さんが多いです。あまりの恐怖に、救急車を呼ぶ患者さんもいらっしゃいます。

過呼吸は精神的なストレスが原因なので、落ちつくことで後遺症もなく症状もなくなります。そのような病気なので、偏見がある医療者も少なくありません。

しかしながら過呼吸は、当事者には「死んでしまうかもしれない」と恐れるほどの苦しみです。また過呼吸を繰り返す患者さんは、その背景に精神疾患があることも多いです。

過呼吸になってしまったら、どのように治療をすすめていけばよいのでしょうか。過呼吸を落ちつけるお薬はあるのでしょうか?

ここでは、過呼吸の治療について考えていきたいと思います。過呼吸に有効なお薬にはどのようなものがあるのか、そして救急車で運ばれた時にはどのような治療がなされるのかをお伝えしていきます。

 

1.過呼吸(過換気症候群)の治療の原則

過呼吸は落ちつくと症状はなくなるので、お薬を使わずに対処することが原則です。過呼吸を繰り返す方は、精神疾患が隠れていることが多いです。本質的な原因の治療を行っていくことが大切です。

過換気症候群による過呼吸は、精神的ストレスが原因になっています。それによって、

  • 呼吸の回数が増えてしまうこと
  • 不安が高まっていくこと

この2つが症状を引き起こしています。ですから、呼吸を整えて不安が落ちつけば、過呼吸の症状もなくなっていきます。後遺症を残すこともなければ、過呼吸によって死ぬこともありません。

およそ15分~30分くらいが過呼吸症状のピークで、30分~1時間で収まっていきます。ですから過呼吸は、薬を特に使わなくてもよくなっていくのです。

最も大切なのは、患者さんの呼吸を整えることと、安心感を持たせることです。具体的な対処法については、「過呼吸・過換気症候群の正しい対処法とは?袋は使うべき?」をお読みください。

なるべくならば、お薬は使わずに落ちつくのを待ちます。発作になってしまったら、お薬を飲むどころの余裕はなくなってしまいます。過呼吸にも有効なお薬もありますが、どちらかというと過呼吸に発展しそうな時に服用することが多いです。

過呼吸のことを良く知らないと、本人だけでなく周りも慌ててしまいます。あまりにも苦しむため、周りの人が救急車を呼ぶことも少なくありません。過呼吸では、冷静に対応するようにしましょう。

過呼吸を繰り返してしまう方は、その背景に精神疾患があることが多いです。過呼吸になると不安が不安を呼び、過呼吸になりやすくなっていきます。そして精神疾患も悪化していきます。

過呼吸を克服していくためには、本質的な原因を治療していくことが必要になります。

 

2.過呼吸(過換気症候群)で救急車を呼ぶとどうなる?

病院に運ばれるまでの間に、過呼吸が救急車の中で落ちつく患者さんも多いです。病院についたからといって特別な治療法があるわけではありません。

過呼吸は、本人にとっては「このまま死んでしまうのではないか」というほどの苦しみです。過呼吸のことを分かっていても、過呼吸発作になると極端に視野が狭くなってしまって、恐怖に支配されてしまうのです。

このように尋常じゃない苦しみようの人をみると、周囲も慌ててしまいます。本人が救急車を呼んでとお願いすることもあれば、周囲が慌てて救急車を呼ぶことも少なくありません。

過呼吸によって救急車で運ばれるとどのようになるでしょうか。周囲が慌てて救急車を呼ぶと、「自分は本当にまずい状態なのではないか」という不安が強まることがあります。救急車が来るまでの間、余計に取り乱してしまうこともあります。

しかしながら救急車が到着すると、これで何とかなるという安心感がでてきます。病院に向かって救急車が走り始めると、次第に落ち着いてくる患者さんも少なくありません。救急隊員も、救急車の中で酸素の状態を測ります。ほとんどの隊員が、「過呼吸だ」と理解します。

病院につく頃には過呼吸は落ちついていて、医師が診察する頃には落ち着いている患者さんも多いです。ここで対応するのは、内科医や救急医になります。

救急隊員は理解ある方が多いのですが、身体の病気をみている医師は別です。むしろ理解がない医師の方が多いかも知れません。医師によっても対応は様々です。「身体には何も異常はありません」といわれて、ベッドで放置されることもあります。

身体の病気による過呼吸を除外するために、念のため採血や心電図、血液ガス検査などが行われることもあります。

そして不安を落ち着けるために、お薬が使われることもあります。精神科であれば抗不安薬を使うのですが、内科や救急ではアタラックスPという鎮静作用のある抗ヒスタミン薬が使われることも多いでしょうか。

このように、過呼吸(過換気症候群)で救急車で運ばれても、特に有効な治療法があるわけではありません。

 

3.過呼吸(過換気症候群)の発作時に有効な薬とは?

抗不安薬は即効性が期待でき、不安や緊張を和らげてくれます。過呼吸発作になりそうな時に使うことが多く、発作時にも使われます。お守りとして持っているだけでも落ちつきます。

過換気症候群による過呼吸では、不安や緊張が高まることによって症状が広がっていきます。このため、不安を落ちつける抗不安薬の効果が期待できます。

過呼吸で使われる抗不安薬にはどのようなものがあるでしょうか?
過呼吸では、どのように抗不安薬が使われるのでしょうか?

お伝えしていきたいと思います。

 

①過呼吸(過換気症候群)で使われる抗不安薬とは?

過呼吸で使われる抗不安薬は、主にベンゾジアゼピン系抗不安薬になります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、神経の活動を抑えるGABAの働きを強めることで、脳の活動を抑制します。このようにして、不安や緊張を和らげてくれます。

抗不安薬の最大のメリットは、即効性があることです。このため、飲み始めてすぐに効果が実感できます。過呼吸発作は急に襲われるので、即効性があるお薬でないと意味がありませんね。

過呼吸に使われる抗不安薬(精神安定剤)としては、以下のようなものがあげられます。

いずれも即効性がある抗不安薬です。最高血中濃度が1~3時間となるお薬です。1~3時間というと幅があるように感じるかもしれませんが、どのお薬も飲み始めに血中濃度が一気に立ち上がるので大きな差はありません。

私は過呼吸の患者さんには、ワイパックスを処方することが多いです。ワイパックスは噛み砕いても甘みがあり、水なしでも飲めてしまいます。いつ起こるかわからない過呼吸発作に対して、水なしで飲めることが大きなメリットになります。

基本的には飲み薬になりますが、病院では注射剤が使われることがあります。セルシン/ホリゾンを筋注したり、ゆっくりと静注したりすることもあります。過呼吸はしばらくすると落ちつくので、注射までは行うべきではないと私は考えています。

 

②過呼吸(過換気症候群)での抗不安薬の位置づけ

過呼吸では、抗不安薬はどのように使っていくべきなのでしょうか。

抗不安薬には、以下の2つの特徴があることに注意する必要があります。

  • 耐性
  • 依存性

耐性とは、お薬を使い続けていくうちに身体が慣れてしまって、次第に薬が効かなくなってしまうことです。依存性とは、薬がなくなってしまうことで身体に不調がみられたり、精神的に落ち着かなくなってしまうことです。

抗不安薬は即効性があり効果の実感もあるのですが、そのかわりに耐性も依存性もつきやすいお薬になります。このため抗不安薬は、注意して使っていかないと依存してしまってやめられなくなります。

このため抗不安薬は、頓服で使っていくことが望ましいです。お酒での休肝日と同じで、休薬日があれば依存につながることはまずありません。

ですから予防的に使うのではなく、過呼吸になりそうな「息苦しさ」がみられたときに使うようにしましょう。お薬を使わなくても、持ち歩いているだけでも安心します。お守りのような効果があるのです。

もちろん過呼吸発作に発展してしまった時にも、お薬が服用できそうならば服用することで早く落ちつきます。

 

③過呼吸(過換気症候群)での注意すべき抗不安薬の副作用

抗不安薬の一番の副作用は、眠気になります。脳の活動を抑えるお薬ですので、眠気は避けられません。

過呼吸発作のときには、不安や緊張が強いのでお薬を服用してもすぐには眠気はきません。しかしながらお薬の効果はしばらく持続するので、不安が過ぎ去った後に眠気が出てくることがあります。

はじめてお薬を使う時には、眠気が後から出てくる可能性があることを知っておいてください。

 

4.過呼吸(過換気症候群)の本質的な原因への治療

過呼吸の本質的な原因である精神疾患に対して、薬物療法と精神療法をしっかりと行っていく必要があります。抗うつ剤を中心とした薬物療法を行っていくことが多いです。

過呼吸は、あくまでひとつの症状にすぎません。過呼吸を繰り返してしまう方は、その背景に何らかの精神疾患が隠れている可能性があります。

過呼吸がみられる精神疾患として、もっとも多いのはパニック障害です。パニック障害では、突然の恐怖に襲われる病気です。息苦しさにとらわれると、過呼吸(過換気症候群)の症状になることがあります。

詳しく知りたい方は、「過呼吸・過換気症候群の原因とは?パニック障害との関係」をお読みください。

それ以外にも転換性障害(ヒステリー)など、何らかの不安障害が背景にあることが多いです。

このため過呼吸を繰り返す患者さんは、過呼吸を起こさないための治療を行っていくわけではありません。過呼吸を引き起こしてしまう本質的な原因に対して治療を行っていく必要があるのです。

 

パニック障害などの不安障害では、抗うつ剤を中心とした薬物療法と精神療法を合わせて行っていきます。

不安がコントロールできなくなる患者さんの脳では、偏桃体とよばれる部分が過活動になっていることが分かっています。過活動になっている偏桃体ではセロトニンの働きが弱まっていることが確認されているため、正常化するためにセロトニンの働きを強める必要があります。

このため抗うつ剤の中でも、セロトニンを増加させる効果が強いものがパニック障害に有効です。第一選択として使われる抗うつ剤は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)になります。

現在日本で発売されているSSRIとしては、以下の4種類があります。

その他にも、症状に合わせてお薬を使い分けていきます。詳しく知りたい方は、「パニック障害に効く薬とは?パニック障害の薬物療法の効果と副作用」をお読みください。

精神療法も、患者さんの向き不向きや症状によって様々なアプローチを行っていきます。詳しく知りたい方は、「パニック障害を克服するには?パニック障害の治療法と対処法」をお読みください。

 

まとめ

過呼吸は落ちつくと症状はなくなるので、お薬を使わずに対処することが原則です。過呼吸を繰り返す方は、精神疾患が隠れていることが多いです。本質的な原因の治療を行っていくことが大切です。

救急車を呼んでも、病院に運ばれるまでの間に過呼吸が落ちつく患者さんも多いです。病院についたからといって特別な治療法があるわけではありません。

抗不安薬は即効性が期待でき、不安や緊張を和らげてくれます。過呼吸発作になりそうな時に使うことが多く、発作時にも使われます。お守りとして持っているだけでも落ちつきます。

過呼吸の本質的な原因である精神疾患に対しては、薬物療法と精神療法をしっかりと行っていく必要があります。抗うつ剤を中心とした薬物療法を行っていくことが多いです。

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