過呼吸が泣くことで誘発されるのはなぜ?過呼吸と泣くことの関係と対処法

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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不安や緊張を感じると「息苦しさ」を感じることがあります。「上手く息が吸えない」という感覚が強まって恐怖が強くなると、どんどん呼吸が早くなって過呼吸になってしまうことがあります。

このような精神的ストレスをきっかけにして発症する過呼吸を、過換気症候群といいます。

過呼吸はさまざまな原因で生じることがありますが、「泣いた後に過呼吸になってしまった」という患者さんが少なくありません。

どうして泣くことで過呼吸が誘発されるのでしょうか?ここでは、過呼吸と泣くことの関係についてみていき、対処法についても考えていきたいと思います。

 

1.「泣く」と呼吸はどうなるの?

大泣きすると、呼吸が少なくなって低換気状態になります。しくしく泣いている時も、一般的には低換気になると考えられます。

泣くことによって、なぜ過呼吸になってしまうのでしょうか?まずは泣くとどのような状態になるのかを考えていく必要があります。しくしくと泣くときと大泣きでは、呼吸の状態も異なります。

インターネットで調べてみると、泣くときの呼吸に関しては様々な書かれ方をしています。息を吸い過ぎるとか、呼吸中枢を刺激するとか根拠がハッキリしないことが書いてあります。

まずは、大泣きした時をイメージしてみましょう。自分が大泣きした時、呼吸はどのようになっているでしょうか?意識したことがないのでよくわからないですよね。

大人が大泣きすることはあまりありませんが、子供(幼児)では大泣きすることはしばしばあるかと思います。その中で「泣き入りひきつけ」という現象をご存知でしょうか?大泣きした後に意識がなくなり痙攣を起こしてしまいますが、一過性の現象です。

これは大泣きによって、無呼吸状態になることが原因です。子供が大泣きすると、無呼吸状態になって脳が一時的に虚血状態になります。大人では無呼吸までにはなりませんが、呼吸が少なくなって低換気状態になります。

次に、しくしくと泣いている時はどうでしょうか?このような時は、息が吸えないとまではいきませんね。この時もどちらかというと呼吸が少なくなります。泣いている時は腹圧がかかるので、どちらかというと空気が押し出されていきます。

 

2.過呼吸が泣くことで誘発される原因とは?

酸素が足りないことでの呼吸困難感に加えて、情緒不安定な状態で視野が狭くなること、追い込まれた状況を何とかしたい心の防衛機制などが、泣くことで過呼吸を誘発する原因となります。

これを踏まえて、泣くことで過呼吸が誘発される原因を考えていきましょう。その原因としては大きく3つあると考えられます。

  • 酸素が足りなくなり、呼吸困難感を生じる
  • 情緒不安定な状態で視野が狭くなる
  • 追い込まれた状況で逃げ出したり、理解してもらいたくなる

泣いている時は低換気状態になっているので、生理的に息苦しさを感じるようになります。酸素が足りなくなり二酸化炭素が身体にたまることによって、「呼吸が足りない」と呼吸中枢が判断するのです。

また泣いているということは、それが嬉し涙にせよ悲し涙にせよ、感情が大きく動揺している状態です。情緒不安定な状態には違いありません。このような状態では冷静に考えることができなくなり、恐怖感にとらわれやすくなります。

泣くときはどのような状況でも過呼吸になりやすいですが、どちらかというと怒られて泣いた時に過呼吸になることが多いです。怒られたり、自分が追い込まれたりしたときには、「この場から逃げ出したい」「自分がつらいことを分かってほしい」という気持ちが働きます。

これは誰もが思う気持ちなので、恥ずべきことではありません。ですが本人も無意識に、ストレスから逃れるために息苦しさという身体の症状に置き換えてしまいます。過呼吸になると周りはビックリするので、自分がつらいということが相手にアピールすることができるのです。このような心の防衛機制が働くこともあります。

これらの3つが重なって、息苦しさから「呼吸をしなければ」という不安が強まります。この不安がどんどんと高まって、「呼吸がうまくできない」という恐怖にとらわれてしまうと、過呼吸として発展していってしまいます。

 

3.過呼吸が呼吸中枢に及ぼす影響とは?

過呼吸では、延髄呼吸中枢からの「もう大丈夫」という指令よりも、大脳からの「息が吸えなくなってしまう」という不安がまさってしまいます。

息苦しさから呼吸が早くなっていくと、本来ならば十分に呼吸ができていれば息苦しさがなくなっていきます。しかしながら過呼吸では、息苦しさがなくならずに不安が強まってしまいます。これはどうしてでしょうか?

普段私たちは、意識することなく呼吸をしているかと思います。ですが意識して呼吸しようと思うと、吸ったり吐いたりすることもできますね。

呼吸は、呼吸中枢による自律神経による調整と、大脳による意識することでの調整の両方ができるのです。

呼吸中枢は延髄にありますが、主に血液に溶け込んでいる二酸化炭素の量をモニターして調整しています。大動脈小体や頸動脈小体などの末梢にもモニターがあり、こちらは酸素をモニターしています。呼吸中枢の二酸化炭素のモニターの方がより敏感になっています。

これに対して大脳は、私たちの意識でできています。「息が吸えなくなるかもしれない」という恐怖を大脳が感じれば、「もっと吸わなきゃ」と呼吸をしようとします。

過呼吸では、延髄呼吸中枢からの「もう大丈夫」という指令よりも、大脳からの「息が吸えなくなってしまう」という不安がまさってしまいます。これにより息が苦しい感じが続き、呼吸回数がふえてしまうのです。

 

4.泣いてしまった時に過呼吸発作をおこさない対処法

ゆっくりと息を吐くことが大切です。話を聞いてもらうと楽になる方もいますし、抗不安薬の頓服がある方は服用すると落ちつきます。

精神疾患を抱えている方が過呼吸を経験すると、「また過呼吸になってしまうのではないか」という不安が高まって、過呼吸を起こしやすくなってしまいます。

このようにして過呼吸を繰り返すうちに、何となく「過呼吸になりそうな予感」がわかるようになってきます。思わず泣きそうになってしまった時に、過呼吸の気配がわかることもあります。

このように過呼吸の気配が分かった時、どのような対処法があるかをお伝えしていきたいと思います。

①ゆっくり息を吐く

過呼吸発作が強まっていくのは、呼吸の回数が増えてしまうことが原因です。呼吸が落ちつけば、自然とよくなっています。呼吸を落ちつかせるためには、吐くことを意識することが大切です。

みなさん息を吸って吐いてみてください。息を吸うのは一瞬ではありませんか?一方で、吐くのは時間がかかります。過呼吸の時は「息を吸わなきゃ」という気持ちが強くなってしまい、息を吸うのは一瞬なのでどんどんと早くなってしまいます。

このような時は、息を吐くことで時間をかけて呼吸することが大切です。まだ余裕がある段階では、口をすぼめて息を吐くようにしましょう。ひどくなってしまったら、吸う:吐く=1:2となるように「吸って・吐いて・吐いて」のリズムで呼吸を意識させてください。

泣いている時に呼吸を整えるのは大変かもしれませんが、はっと気づければ呼吸を整えてください。そのように我に変えれるときは、自然と大泣きもしなくなるかと思います。

②話して聞いてもらう

泣いてしまうほどのことがあった場合、話を聞いてもらうことで落ちつくこともあります。過呼吸に対しての理解がある方でしたら、なお良いかと思います。

話をするということは、自分のストレスを言葉という形にして発散することができます。話を聞いてもらうことで気持ちが落ちつき、過呼吸にまで発展しないこともあります。呼吸に向いた注意を、会話にそらすこともできます。

それだけではなく、話をしているということは息を吸うことができません。言葉を発するときは息を吐きだす必要がありますね。ですから会話をすることで、自然と呼吸が落ちついていきます。

患者さんのなかには、分かってほしいという気持ちがより強まって、無意識に過呼吸がひどくなってしまうことがあります。そのような患者さんでは、むしろ話を聞いてもらうことは逆効果になってしまいます。

③頓服薬をのむ

過換気症候群による過呼吸は、精神的ストレスが原因となって生じています。ですから、気持ちを落ちつける抗不安薬を頓服として服用するのも方法です。

頓服薬は即効性のあるお薬で、過呼吸発作が起こりそうな時に服用すればすぐに効いてくれます。あくまで予防的に使うもので、過呼吸になってからでは無理にお薬を飲まなくて大丈夫です。

頓服として使われるお薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が中心です。

このようなお薬を使っていきます。ベンゾジアゼピン抗不安薬の中で、効果の実感のあるお薬を使っていきます。

これらの頓服薬は、お守りとしてもっているだけでも安心感につながります。急に不安におそわれた場合は、お薬は噛んで服用しても問題ありません。少し苦いですが、むしろそちらの方が早く効きます。

ワイパックスでは噛んでも甘みがありますし、噛んだ時(舌下)の吸収効率もよいといわれています。このため私は、ワイパックスを処方することが多いです。

 

5.過呼吸を起こさないために泣かないべき?

泣くことは、感情を形にしてストレスを発散するひとつの方法です。無理に我慢することはなく、過呼吸に発展しないように対処法をもちましょう。

これまで、泣くことが過呼吸を誘発するということについて書いてきました。しかしながら、「泣くことはダメなこと」「何とか泣くのを我慢しなければいけない」と考える必要はありません。

そもそも過呼吸は、呼吸が整えば後遺症を残すこともなく落ちつくことがほとんどです。ですから、「過呼吸を起こしてはいけない」という気持ちをもたなくても大丈夫です。

過呼吸に対する対処法を覚えて、過呼吸の根本的な原因を治療していくことが大切です。詳しく知りたい方は、「過呼吸・過換気症候群に有効なお薬と治療法とは?救急車を呼ぶとどうなるの?」をお読みください。

涙を流すということは、自分自身の感情を形にして表現する大切な方法のひとつです。「泣くとスッキリする」ことを経験されことがある方は多いと思いますが、泣くことでストレスが発散されて精神的にも落ちつきます。

むしろそれを我慢すると、違う形でストレスがあらわれてきます。過呼吸の原因にもなりいかねません。

 

まとめ

大泣きすると、呼吸が少なくなって低換気状態になります。しくしく泣いている時も、一般的には低換気になると考えられます。

泣くことで過呼吸を誘発する原因とは、酸素が足りないことでの呼吸困難感に加えて、情緒不安定な状態で視野が狭くなること、追い込まれた状況を何とかしたい心の防衛機制などがあげられます。

過呼吸では、延髄呼吸中枢からの「もう大丈夫」という指令よりも、大脳からの「息が吸えなくなってしまう」という不安がまさってしまいます。

ゆっくりと息を吐くことが大切です。話を聞いてもらうと楽になる方もいますし、抗不安薬の頓服がある方は服用すると落ちつきます。

泣くことは、感情を形にしてストレスを発散するひとつの方法です。無理に我慢することはなく、過呼吸に発展しないように対処法をもちましょう。

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