パーソナリティ障害(人格障害)の診断・症状・治療の実際とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
パーソナリティ障害(人格障害)とは、物事のとらえ方が偏っていて、感情をコントロールしたり、安定した人間関係を築くことが上手くできない病気です。
そのように偏った性格になってしまうには何らかの要因があることが多く、ただ性格が悪いだけ…というわけではありません。
性格が悪いからパーソナリティ障害というわけではなく、本人の苦しみや周囲の迷惑が非常に大きく、それがその人の一面ではなく生活全般に及んでいるときにパーソナリティ障害と診断されます。
ここでは、パーソナリティ障害ではどのような症状が認められて、どのように治療をすすめていくのか、お伝えしたいと思います。
1.パーソナリティ障害の患者さんが受診するタイミング
パーソナリティ障害の患者さんは、合併症の症状に困った時と病院を上手く利用しようとする時に受診します。
パーソナリティ障害の患者さんは、自分のことをパーソナリティ障害と自覚している方は少ないです。私自身もそうですが、自分の性格が病的だとは思いもよらないでしょう。しかしながら客観的に見ると、物事の見方が大きく偏っていることがあるのです。
パーソナリティ障害の患者さんは、基本的に安定した人間関係を築けないことが多いです。人間関係で衝突してしまうと社会生活が上手くいかないことが多く、このことは本人にとっても大きなストレスになることが多いです。
このようなストレスを抱えた結果、さまざまな精神疾患を合併します。パーソナリティ障害の患者さんが自ら病院に受診するのは、これらの合併症に困っての受診がほとんどです。
それ以外に受診につながるのは、病院に受診して「患者」になることが、本人のメリットになる場合です。例えば演技性パーソナリティ障害の患者さんでは、自分が病気で困っていることを相手にアピールしたくて受診することがあります。反社会性パーソナリティ障害の方では、自分の利益のために病院を利用しようとします。
このようにパーソナリティ障害の患者さんは、自分がかかえるパーソナリティの問題を疑問に思ったりはしません。パーソナリティ障害の患者さんが病院を受診するのは、
- 合併症の症状に困ったとき
- 病院を上手く利用しようとするとき
の2つになります。
2.パーソナリティ障害の診断はどのようにしていくのか
パーソナリティ障害の診断は、明らかなエピソードがなければすぐに診断はできません。治療関係を築いていく中で、少しずつ見えてくることが多いです。
このように、患者さんから自らのパーソナリティの問題について悩みを打ち明けてくれることはまずありません。それではどのようにしてパーソナリティの問題を診断していくのでしょうか?
パーソナリティ障害の診断は、明らかに問題行動があって、その特徴がはっきりしている場合以外は診断することはできません。
パーソナリティ障害にはさまざまなタイプがあり、大きく3つのタイプに分類されます。
- A群:奇妙で風変わりなタイプ
・妄想性パーソナリティ障害
・統合失調質パーソナリティ障害
・統合失調型パーソナリティ障害 - B群:感情的・衝動的で不安定で、周囲が困るタイプ
・反社会性パーソナリティ障害
・境界性パーソナリティ障害
・自己愛性パーソナリティ障害
・演技性パーソナリティ障害 - C群:不安や恐怖心が強く、本人が困るタイプ
・回避性パーソナリティ障害
・依存性パーソナリティ障害
・強迫性パーソナリティ障害
詳しくは、「パーソナリティ障害(人格障害)にはどのような種類があるのか」をお読みください。
このうちのA群のパーソナリティ障害では、幻覚や妄想などがみられる統合失調症も念頭にいれて診断を考えていかなければいけません。
B群のパーソナリティ障害では、周囲を巻き込んでの行動が目立つので診断を早めにつけていくこともできます。具体的なエピソードを聞いていくと、特徴的なパーソナリティが浮かび上がってきます。ただし、反社会性パーソナリティ障害は、病院でさえも利用しようとすることがあります。診断は非常に難しいことがあります。
C群のパーソナリティ障害では、本人の苦しみが強いパーソナリティ障害です。患者さんと関係性が築いていく中で見つかっていくことが多いです。
なかにはすぐにパーソナリティ障害とあたりがつくこともありますが、多くの場合は患者さんと治療の関係性が築けてから、少しずつパーソナリティの問題がみえてきます。どうして病気になったのかという本質的な部分を考えていく中でみえてくるのです。
パーソナリティ障害と診断するには、大きく2つの条件があります。
- 病気などとは関係なく、若い頃から続いていること
- 生活の全般にわたって認められること
この2つを満たすようなパーソナリティである時に診断されます。パーソナリティ障害とまではいかなくても、パーソナリティの傾向は誰しもあります。その傾向を意識して治療的な関わりをしていくことが大切なので、パーソナリティ障害の診断を意識することは大切なのです。
3.パーソナリティ障害の根本的な症状とは?
認知の偏りがあり、感情や衝動のコントロールが苦手です。その結果として対人関係や社会生活に問題を抱えています。
パーソナリティ障害に共通する根本的な症状として、以下の3つがあります。
- 認知が偏っている
- 感情・衝動コントロールが苦手
- 安定した人間関係を築けず、社会生活に問題がある
認知とは、物事のとらえ方のことを意味します。同じ出来事があったとしても、人それぞれ認知は異なります。パーソナリティ障害の患者さんでは、その認知が大きく偏ってしまっています。
感情調整や衝動コントロールも苦手です。自分の感情を上手く抑えられず、些細なことで怒ったり泣いたり、機嫌がコロコロ変わったりします。反対に感情が表に出ず、何を考えているのかわからないこともあります。
このような患者さんでは、安定した人間関係を築くことができません。人間関係が壊れてしまえば社会生活を上手くやっていくことができず、孤立してしまったり、誰かに利用されることが多くなります。
4.パーソナリティ障害の治療の進め方
まずは治療関係をしっかりと築き、タイミングをみてパーソナリティの問題を直面化させます。薬物療法でサポートしていきながら、精神療法を少しずつ積み重ねていきます。
パーソナリティ障害の根本的な症状は、すぐに改善することはできません。これまでの経験の中で時間をかけて築かれてきたことです。それをいきなり変えることはできないのです。そればかりか、自分のパーソナリティの問題に目を向けることができません。
ですから、いきなりパーソナリティの問題に切り込んだりはしません。まずは合併している症状の治療をすすめていきます。その治療を通して、治療関係を築いていくことからはじめます。
患者さんが医師を信頼できるようになって初めて、パーソナリティの問題に向き合わせていきます。症状が安定している時を見計らって、医師から患者さんにパーソナリティの問題について話をしていくのです。
このように直面化することによって、はじめてパーソナリティ障害の治療が始まっていきます。薬物療法でのサポートももちろん行います。感情や衝動性のコントロールを助けたり、不安や緊張を和らげたりします。
しかしながらその本質は、精神療法の積み重ねによって治療していくしかありません。時間をかけて、数年から数十年の単位で二人三脚で日常生活を通して治療をしていきます。金銭的に余裕がある方は、カウンセリングも併用しながら治療をすすめていきます。
5.パーソナリティ障害の合併症とは?
うつ病・不安障害・統合失調症・摂食障害・アルコールや物質依存症など、さまざまな合併症が認められることがあります。
パーソナリティ障害には、さまざまな合併症が認められます。複数の合併症を持つ患者さんも多く、その合併症の治療も並行して行っていきます。
具体的にどのような合併症がみられるのか、ご紹介していきます。
- うつ病
気分が沈んで憂うつになり、疲労感・不眠・意欲の低下などを起こします。もとにあるパーソナリティ障害が原因で、人間関係や社会生活が上手くいかなくなった結果起こりうるもので、どのパーソナリティ障害にも併発する可能性があります。
- 不安障害(社交不安障害・パニック障害など)
強い不安に襲われ、心身にさまざまな症状が出ます。うつ病とおなじく、どのパーソナリティ障害にも併発し得るものですが、とくに回避性パーソナリティ障害、強迫性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害などでおこりやすいです。
- 統合失調症
妄想や幻覚の現れる陽性症状と、感情が鈍くなる・意欲が失われるなどの陰性症状があります。妄想性パーソナリティ障害、統合失調質パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害は、もともと統合失調症になりやすい因子を持っていると言われており、強いストレスがかかったときなどに発症を招くおそれがあります。
- 摂食障害
食べられなくなる拒食、食べるのを止められなくなる過食、むちゃ食いした後嘔吐する過食嘔吐など、普通に食事ができなくなる障害です。女性に多く見られ、境界性パーソナリティ障害に併発しやすいです。
- アルコール・薬物依存
つらさを薬物でごまかすことが常習化し、やめられなくなった状態です。どちらかといえば男性に多く、反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害に併発しやすい傾向があります。
6.パーソナリティ障害の薬物療法とは?
患者さんを全体的にみながら薬物療法を行っていきます。抗うつ剤・気分安定薬・抗精神病薬・抗不安薬などを必要に応じて使っていきます。
パーソナリティ障害の治療に当たっては、症状のひとつひとつにとらわれ過ぎないことが大切です。その症状を治療していくべき時もありますが、患者さんを全体的にみた上で薬物療法を行っていくことが必要です。
パーソナリティ障害でお薬を使うのは、大きく2つの目的です。
- 抑うつや不安、不眠などの合併症の改善
- 衝動性や攻撃性のコントロールや情動の安定
薬物だけではパーソナリティ障害そのものは治療できませんが、冷静さを取り戻して生活を安定させることで、治療の中心となる精神療法にも落ち着いて臨むことができます。上手く併用することが大切です。
お薬としては、様々なお薬が使われます。ここでは簡単にご紹介します。
①抗うつ剤
SSRIをはじめとした抗うつ剤は、パーソナリティ障害の患者さんによく使われます。うつ症状を改善させるだけでなく、緊張や不安が感じにくくなり、気持ちを落ち着かせる働きがあります。
- SSRI:パキシル・ジェイゾロフト・レクサプロ・デプロメール/ルボックス
- SNRI:サインバルタ・イフェクサー・トレドミン
- NaSSA:リフレックス/レメロン
- 三環系:トリプタノール・トフラニール・アナフラニール・アモキサン・ノリトレン
②気分安定薬
気分安定薬は、衝動性を抑えて情動を安定させる目的で使われます。気分安定薬としては、てんかん治療薬が主にあげられます。てんかんは脳の異常な興奮なので、抗てんかん薬には脳の活動を穏やかにする作用があります。
炭酸リチウム:リーマス
③抗精神病薬
抗精神病薬は、気分安定作用と鎮静作用が期待できるお薬です。衝動性や攻撃性が激しいときや、興奮や焦燥感を早く抑える必要がある時に使われます。
④抗不安薬
抗不安薬はその名のとおり、不安や恐怖を緩和させる働きがあります。即効性があるため効果の実感が大きいお薬ですが、楽になることで開放的になり、むしろ衝動行為が増す恐れもあります。
またパーソナリティ障害の患者さんは依存しやすい傾向にあるので、抗不安薬は慎重に使っていく必要があります。
7.パーソナリティ障害の精神療法とは?
パーソナリティ障害の精神療法は、できれば臨床心理士によるカウンセリングを受けることが理想です。少なくとも、パーソナリティ障害の治療を受け入れてくれる医療機関を探しましょう。
精神療法は、患者さんにある程度の余裕がなくては行うことができません。不安や恐怖が強い時に、自分自身のパーソナリティに目を向ける余裕はもてないのです。
まずは落ち着いて、精神療法をすすめていけるようにしていく必要があります。このために薬物療法を組み合わせていきます。薬物療法によって自分の内面に目を向けられる余裕ができてきてから、精神療法が始まっていきます。
精神療法は、医師との診察だけでは一回にかけられる時間が限られてしまいます。臨床心理士によるカウンセリングを重ねていくのが理想です。パーソナリティ障害の患者さんは、多くの方が個人的な精神療法を行っていく必要があります。このため、集団精神療法などは向かないことが多いです。
ただ、個別のカウンセリングはお金がかかってしまいます。1時間で6000円ですと安い方です。カウンセリングが難しい場合は、外来での診察を重ねながら治療をしていくことになります。日常生活の出来事の中で、少しずつ積み上げていきます。
病院によっては、パーソナリティ障害の治療を受け入れていないことがあります。無理して受診せず、しっかりと受け入れてくれる病院を受診した方がよいです。ひとつの目安として、臨床心理士が在籍している病院はパーソナリティ障害も受け入れてくれることが多いです。
カウンセリングでは、臨床心理士によって様々なアプローチで治療を行っていきます。自身の心の内面に目を向けていき、自分のパーソナリティを理解していきます。過去に葛藤を抱えている方は、それを少しずつ解消していきます。認知や思考の偏りを修正していきながら、少しずつ社会適応しやすい方法を見つけていきます。
精神療法の効果は積み重ねていくことで効果が出てきます。自分自身の理解がすすむようになり、少しずつ情動や衝動性のコントロールができるようになったり、対人関係を築けるようになっていきます。その期間は、数年から十年以上かかる場合もあります。
効果的な精神療法を行っていくためにも、治療者との信頼関係をしっかりと築いていくことがカギになります。
8.パーソナリティ障害の治療への心構え
無理に自分を変える必要はなく、少しずつ「障害」となっている部分を和らげていきましょう。少しずつですが生きやすくなっていきますので、希望をもって治療に取り組んでください。
治療で目指していくのは、パーソナリティの特徴はそのままに生かしながら、社会適応ができるようにしていくということです。1人を好むタイプの人を無理に社交的な性格に変えたり、消極的で大人しい人を明るく積極的に変えるわけではありません。
どのような性格にも、それぞれいい部分があります。その特徴が極端になってしまい、生活や対人関係に支障を及ぼしている状態がパーソナリティ障害なのです。ですから、その「障害」の部分を適正な範囲に戻し、成熟したパーソナリティへと成長していくのが目標となります。
このようにして実際に克服して社会で安定して自分の居場所を作れている方も少なくはありません。ですが、本人の「成長したい、改善していきたい」という強い意識と、地道な努力の積み重ねがとても大切になってきます。「医師がなんとかしてくれるだろう」という考えでは上手くいきません。
また、パーソナリティ障害の治療には時間がかかりますので、残念ながら途中であきらめて放棄してしまう方も多いです。一度は諦めてしまっても、また治療は再開させることができます。自分にできるペースで継続していくことがとても大切なのです。あせらず、あきらめず、希望を持って取り組んでください。
9.パーソナリティ障害の家族や周囲の接し方
まずは医療につなげることが大切です。本人の話を聞き、客観的な症状から病院をすすめてください。家族だけで病院に対応を相談もできます。
パーソナリティのタイプによって、家族や周囲の接し方は変わってきます。このため、まずは病院に受診して本人を治療につなげることが一番大切です。
本人に受診の意思がないときに、「お前は病気なんだ」と言ったり、無理に連れていこうとするのは好ましくありません。まずは本人の話をよく聞き、何に苦しんでいるかを理解する姿勢を示しましょう。
暴力や自傷などの衝動行為が見られるときにも、引きこもりになっている場合にも、過剰な反応や責めたりはせず、まずは冷静に話を聞いてあげることが大切です。本人も、自分でやめることができなくなっているのです。その苦しみに寄り添い、病院がその助けになることを話して受診をすすめてみるといいでしょう。
また、心の内面の問題を他人から指摘されると反発を生みます。そのような時は、明らかに問題になっている症状を心配して治療をすすめてください。身体の自律神経症状、不眠や食欲低下などは、客観的に外からみてわかります。このような問題から病院に引っ張っていただくことも一つの方法です。
それでも嫌がる場合には、ご家族だけで精神科や心療内科に受診して、対応を相談することもできます。無理強いをすると、家族や病院への不信感が芽生えてしまう場合もあります。障害によって、個人によって、対応も変わってきます。どのような場合でも、抱え込んでしまわずに、まずは専門家に相談してみてください。
まとめ
パーソナリティ障害の患者さんは、合併症の症状に困った時と病院を上手く利用しようとする時に受診します。
パーソナリティ障害の診断は、明らかなエピソードがなければすぐに診断はできません。治療関係を築いていく中で、少しずつ見えてくることが多いです。
まずは治療関係をしっかりと築き、タイミングをみてパーソナリティの問題を直面化させます。薬物療法でサポートしていきながら、精神療法を少しずつ積み重ねていきます。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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