メラトニン受容体作動薬と睡眠薬ロゼレム

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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メラトニン受容体作動薬は、2010年に発売された新しいタイプの睡眠薬です。

体内時計のリズムを調整するメラトニンに働いて、自然な眠気を促します。ロゼレムは服用を続けることで、少しずつ睡眠全体が改善していきます。睡眠の生理的なメカニズムを利用しているので、副作用は少なく依存性もありません。

ここでは、メラトニンやメラトニン受容体作動薬について詳しくお伝えしたいと思います。

ロゼレムについて詳しく知りたい方は、
ロゼレム錠の効果と特徴
ロゼレムの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

1.メラトニンとは?

メラトニンは、体内時計のリズムの調整にをつかさどっているホルモンです。

休日に午後まで寝てしまって、身体がだるかった経験はありませんか?
睡眠時間はとっているのに、不思議ですよね?これは、みなさんに備わっている体内時計のせいです。

この体内時計は、覚醒と睡眠のリズムをつくっています。それだけでなく、様々な身体の機能を調整しています。この調節をつかさどっているのが、メラトニンというホルモンです。

体内時計とメラトニン

メラトニンは視床下部に働きかけることによって自律神経を調節しています。睡眠と覚醒・食欲・体温・心肺機能・性欲などをコントロールしています。また体内の代謝や免疫なども調整しています。メラトニンは睡眠だけでなく、様々な身体の機能に影響を与えているのです。

人間は本来、約24.2時間の体内時計のリズムで生きているといわれています。ですから、ほっておいたら少しずつリズムが後退してしまうのです。このズレを、朝の光や食事によって調整しているのです。そのように考えると、朝が起きづらいのも仕方がないことなのです。

夜の20時頃になってくると、松果体というところでメラトニンの分泌が増加します。このメラトニンが視交叉上核にあるメラトニン受容体にくっつくことで、自然な眠気が出てきます。メラトニンは真夜中の2時頃にピークになり、明け方に光が出てくると減少していきます。メラトニンは常時分泌はされていますが、昼は抑えられていて夜に増加しているのです。

メラトニンについて詳しく知りたい方は、
メラトニンとは?
をお読みください。

 

2.ロゼレムの作用する仕組み(作用機序)

ロゼレムは、メラトニン受容体を刺激してメラトニンの分泌を促します。

ロゼレムは、メラトニン受容体にくっつくことで効果を発揮する「メラトニン受容体作動薬」です。メラトニンと同じように作用するのです。

メラトニン受容体には、M受容体とM受容体とM受容体の3種類があります。M受容体とM受容体は松果体にだけ存在していますが、M受容体は全身に存在します。このため、M3受容体には作用せず、M受容体とM受容体に作用するように作られたのがロゼレムです。

受容体は刺激されると、神経を穏やかにして体温を低下させて睡眠を促すといわれています。M受容体が刺激されると、体内時計が同調されるといわれています。ロゼレムはこの2つの受容体を刺激することで、睡眠の質を上げて、体内時計のリズムも整えていきます。

このように、生理的な睡眠のメカニズムを利用した睡眠薬なので、自然な眠りが期待できるのです。従来の睡眠薬にはない、まったく新しい作用機序の睡眠薬になります。

 

3.ロゼレムの特徴(従来の睡眠薬との違い)

従来の睡眠薬とロゼレムではどのような違いがあるのでしょうか?ロゼレムの特徴を、メリットとデメリットに分けてみていきましょう。

 

3-1.ロゼレムのメリット

  • 自然な眠気が強くなる
  • 入眠障害・中途覚醒にある程度有効
  • 熟眠障害に有効
  • リズムを整える効果がある
  • 副作用が少ない(健忘・ふらつき)
  • 依存性がない

睡眠薬として最もよく使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬では、脳の機能を落とすことで眠気をもたらしていました。このような睡眠薬では、疲れてしまって眠くなると同じようなメカニズムです。スッと落とされるような眠りの入り方になります。それに対してロゼレムは、体内時計のリズムというに働きかけて、身体が生理的に行っているメカニズムを利用しています。このため夜になると眠くなるという、自然な眠気を導く睡眠薬です。

このような睡眠薬ですので、全体的に睡眠の質が上がっていくような睡眠薬です。入眠障害や中途覚醒にある程度有効です。どちらかというと、熟眠障害がみられる方に効果が期待できます。従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬のように、睡眠の質が落ちることはありません。体内時計のリズムを整える効果もありますので、交代勤務や時差ぼけの方などに有効です。

ロゼレムは、従来の睡眠薬のように強引に脳の機能を落としてしまうことがないので、健忘の副作用はほとんどありません。筋弛緩作用も認めないので、ふらつきなどの副作用も少ないです。

ロゼレムには依存性がありません。睡眠薬はどれも習慣性医薬品とされています。新薬のベルソムラも依存性は極めて少ないですが、それでも習慣性医薬品に指定されています。ロゼレムを中止しても、離脱症状や反跳性不眠などが起こることなくやめることができます。このように安全性が高く、乱用される心配もないため、処方数の制限もありません。

 

3-2.ロゼレムのデメリット

  • 実感が得られにくい
  • 効果が弱い
  • 翌朝の眠気が多い
  • デプロメール/ルボックス(フルボキサミン)が使えない
  • 薬価が高い

ロゼレムの一番のデメリットは、飲んですぐに実感ができないことです。服用を続けていくうちにジワジワ効果がでてきます。客観的に効果が感じられていても、本人には自覚がないことも多いです。「言われてみるとよくなっている・・・」というようなことも多いです。抗不安作用もないので、効果が弱く感じられる方も多いです。

また、翌朝の眠気が多いです。添付文章では3.4%とのことですが、もっとたくさんいます。10%くらいはいるのではないでしょうか。翌朝になっても眠気がとれずに、起きづらくなってしまいます。

また、抗うつ剤のデプロメール/ルボックス(フルボキサミン)とは併用することができません。フルボキサミンはロゼレムの代謝酵素を阻害してしまいます。このため併用すると、ロゼレムがなかなか分解されなくなり血中濃度が数十倍にもなってしまいます。併用は禁止されています。他の抗うつ剤との併用はまったく問題がないので、安心してください。

新しい薬なので仕方がないのですが、ロゼレムは非常に高価です。8mg錠で84.9円ジェネリックも当分発売されません。

 

4.ロゼレム(メラトニン受容体作動薬)の位置づけ

  • じっくりと治療ができる方
  • 高齢者
  • 生活リズムが乱れている方
  • 睡眠薬の依存が怖い方

ロゼレムは即効性が乏しい睡眠薬です。添付文章でも、「2 週間後をめどに入眠困難に対する有効性及び安全性を評価すること」とされています。服用してすぐに効果が期待できる睡眠薬ではないので、じっくりと腰を据えて治療ができる方がよいかと思います。ロゼレムがうまく身体にあうと、安全性も高いので非常に有用です。

ロゼレムは高齢者には向いている睡眠薬です。高齢者ではメラトニンが減少してしまっています。ピーク時の1/10くらいになってしまっています。ロゼレムでメラトニンを活発にすることは理に適っているのです。さらにロゼレムは筋弛緩作用がないので、ふらつきなどの副作用がほとんどありません。

生活リズムが乱れている方にも向いています。ロゼレムには体内時計を同調させる作用があります。夜型の生活になってしまっている方やシフト勤務の方など、生活リズムが乱れている方に少量のロゼレムを使うと熟眠感が得られることがあります。

また、睡眠薬の依存が心配な方にもよいでしょう。睡眠薬に抵抗ある方のほとんどは、依存してやめられなくなることを心配されています。ロゼレムは依存性がないので、スムーズにやめていくことができる睡眠薬です。

 

ロゼレムが向いている方には、安全性が高い睡眠薬ですので積極的に使っても良いかと思います。ロゼレムの最大のデメリットは、効果の確実性です。即効性を期待する場合やロゼレムで効果が認められなかった場合は、薬の系統を変えなければいけません。

  • 入眠障害:非ベンゾジアゼピン系・超短時間~短時間型ベンゾジアゼピン系
  • 中途覚醒や早朝覚醒:短時間~長時間型ベンゾジアゼピン系・オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ)

などから検討していきます。

 

まとめ

メラトニンは、体内時計のリズムの調整にをつかさどっているホルモンです。

ロゼレムは、メラトニン受容体を刺激してメラトニンの分泌を促します。

ロゼレムのメリットは、

  • 自然な眠気が強くなる
  • 入眠障害・中途覚醒にある程度有効
  • 熟眠障害に有効
  • リズムを整える効果がある
  • 副作用が少ない(健忘・ふらつき)
  • 依存性がない

ロゼレムのデメリットは、

  • 実感が得られにくい
  • 効果が弱い
  • 翌朝の眠気が多い
  • デプロメール/ルボックス(フルボキサミン)が使えない
  • 薬価が高い

ロゼレムが向いている方は、

  • じっくりと治療ができる方
  • 高齢者
  • 生活リズムが乱れている方
  • 睡眠薬の依存が怖い方

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