オレキシン受容体拮抗薬と睡眠薬ベルソムラ

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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オレキシンは1998年に発見された新しい神経伝達物質です。調べられていくうちに様々な作用があることがわかり、現在も研究がすすめられています。

その中でも、睡眠のオンオフに重要な働きをしていることがわかっていたので、睡眠薬としての開発がすすみました。2014年に、オレキシン受容体拮抗薬ベルソムラが発売になりました。世界に先駆けて日本での発売となりました。

ベルソムラは、入眠障害にもある程度効果がありますが、中途覚醒に特に有効です。生理的なメカニズムを利用するので、自然に近い眠りを導く睡眠薬です。副作用や依存性も少ないと考えられています。

ここでは、オレキシンやオレキシン受容体拮抗薬についてわかっていることや、発売されてしばらくたっている睡眠薬ベルソムラについて、詳しくお伝えしていきたいと思います。

ベルソムラについて詳しく知りたい方は、
ベルソムラ錠の効果と強さ
ベルソムラの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

1.オレキシンとは?

オレキシンとは覚醒に重要な神経伝達物質で、睡眠と覚醒のオンオフの切り替えに重要な働きをしています。それ以外にも様々な機能に関係していることがわかってきています。

オレキシン受容体拮抗薬の作用には「オレキシン」という神経伝達物質が関係しています。まずはこのオレキシンからご説明しましょう。

オレキシンは視床下部の神経細胞で作られています。オレキシンは興奮性の神経伝達を行って、様々な神経細胞を活発にさせる働きがあります。このためオレキシンは、覚醒に働く物質なのです。生理的には、日中に増加して夜間に減少しています。また、オレキシンは情動の乱れや空腹を感じると活発になります。感情が揺さぶられたりお腹がすくと目が覚めるのは、オレキシンのせいなのですね。

覚醒状態と睡眠状態は、「日中は起きて、夜は寝る」といったようにメリハリをつけていく必要があります。中途半端に覚醒状態になってしまったら、危なっかし くて仕方がありませんね。2つの状態は一気に切り替わらなければいけません。この切り替えに重要な働きをしているのがオレキシンです。オレキシンはスイッ チのような働きをしているのです。

睡眠と覚醒に関係する物質には、GABA・セロトニン・ノルアドレナリン・ヒスタミン・アセチルコリン・メラトニン・オレキシンなどがあります。

オレキシンはこのように、睡眠と覚醒に大きな影響を及ぼしています。それ以外にも、摂食行動、感情、報酬系、疼痛、体温調整、体内時計のリズムなど、様々な機能にも関係していることがわかってきました。

このため睡眠障害はもちろんのこと、うつ病や不安障害、摂食障害や肥満、薬物依存やギャンブル依存などにも効果が期待できる薬が開発される可能性があるのです。

 

2.オレキシン受容体拮抗薬の作用する仕組み(作用機序)

覚醒を維持するために必要なオレキシンを阻害することで、睡眠状態へスイッチさせる睡眠薬です。

オレキシン受容体拮抗薬は、このオレキシンが作用する受容体をブロックしてしまいます。オレキシンが作用できなるとスイッチがオフに切り替わり、睡眠状態が導かれていきます。オレキシン受容体拮抗薬は、身体が生理的に行っているメカニズムを利用して睡眠効果をもたらすお薬といえます。

オレキシンにはAとBの2種類あります。オレキシン受容体にも2種類あると言われています。オレキシン1受容体(OXR)とオレキシン2受容体(OXR)です。OXRにはオレキシンAが作用しやすいです。OXRにはオレキシンAもBも同じように作用します。どちらも覚醒に関係していますが、OXRの方が影響が大きいことがわかっています。

 

現在のところ、オレキシンに関係する薬は2014年11月に世界に先駆けて日本で発売となった睡眠薬のベルソムラしかありません。ベルソムラはオレキシン受容体拮抗薬で、このOXRとOXRの両方を1:1で遮断する働きがあります。このため、DORA(Dual Orexin Receptor Antagonist:両方のオレキシン受容体拮抗薬)とも呼ばれています。

OXRとOXRの両方を抑えた方が、睡眠効果は大きいと考えられますが、レム睡眠が増えることで夢が増えるという特徴があります。OXRだけを抑える薬では、レム睡眠はかわらずに効果も期待できるので、SORA(Single Orexin Receptor Antagonist:ひとつのオレキシン受容体拮抗薬)として開発がすすめられています。どちらが優れた睡眠薬になるかは、今後をみていかなければなりません。

 

OXRだけを抑える薬では、PTSDのトラウマ体験を軽減できるかもしれないという報告もあります。その他にも薬物依存の緩和、パニック障害、不安障害、肥満や過食症への治療薬になるのではと、研究がすすめられています。今後、オレキシン受容体に作用する精神疾患の新しい治療薬が次々と発売される可能性があるのであった。

 

3.睡眠薬ベルソムラ(オレキシン受容体拮抗薬)の特徴

ここでは、睡眠薬として発売されているベルソムラについてまとめたいと思います。ベルソムラの特徴を、メリットとデメリットに分けてみていきましょう。

 

3-1.ベルソムラのメリット

  • 入眠障害にそこそこ有効
  • 中途覚醒に有効
  • 睡眠が深くなる
  • 副作用が少ない(健忘・ふらつき)
  • 依存性が少ない
  • 処方日数の制限がない

睡眠薬として最もよく使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬では、脳の機能を落とすことで眠気をもたらしていました。このような睡眠薬では、スッと落とされるような眠りの入り方でした。ベルソムラは睡眠状態にスイッチを切り替える睡眠薬です。身体が生理的に行っているメカニズムを利用しているので、自然に近い眠りを導く睡眠薬です。

入眠作用はそこそこといったところで、服薬した直後から効果は期待できます。ベルソムラは、中途覚醒に真価を発揮する睡眠薬です。途中で目が覚めても、再入眠しやすくなります。また、レム睡眠と深い睡眠が増加して、浅い睡眠が減少します。睡眠が深くなり、質がよくなります。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬で多かった健忘・ふらつきといった副作用は少ないです。ベルソムラには筋弛緩作用がほとんどありませんが、眠気からふらついてしまうことはあるので注意が必要です。依存性もほとんどないと考えられていて、離脱症状や反跳性不眠(離脱症状でよけいに不眠がつよくなること)はなかったと報告されています。

ベルソムラはこのように依存性が低いお薬なので、ベルソムラは向精神薬となっていません。このため、一般的な睡眠薬のように30日の処方制限がありません。ベルソムラは60日や90日など長期で処方することもできるので、睡眠が安定したら通院回数を減らすこともできます。

 

3-2.ベルソムラのデメリット

  • 症例数が少ない(世界に先駆け日本で発売)
  • 悪夢が多い
  • 翌日の眠気が多い
  • グレープフルーツジュースは控えなければいけない
  • 薬価が高い

ベルソムラは世界に先駆けて、日本で最初に発売された睡眠薬です。このような薬は珍しく、ほとんどの薬は世界で効果や安全性が確かめられてから日本にやってくることが多いです。まだ薬の実感がわからないという点はデメリットかもしれません。

ベルソムラは、レム睡眠を増やす作用があります。このため夢を見やすくなってしまいます。不眠になってしまう方はストレスを感じている方が多く、悪夢が増えてしまうことが多いです。

また、翌日の眠気が思ったよりも多い印象があります。明け方になると生理的なオレキシンが上昇してきて覚醒します。脳が活動し始めると、オレキシンはすぐに活発になるはずです。ですが、意外と眠気を日中に感じる方が多い印象です。

 

ベルソムラは、CYP3Aという肝臓の酵素で代謝されていきます。グレープフルーツジュースやクラリスなどの抗生物質は、このCYP3Aを強く阻害してしまいます。その結果、ベルソムラが代謝できなくなってしまい濃度が一気に上がってしまいます。ですから、グレープフルーツジュースなどは避けなければいけません。

新薬なので仕方がないのですが、ベルソムラは非常に高価です。15mg錠で89.1円、20mg錠で107.9円です。ジェネリックも当分発売されません。

 

3-3.ベルソムラで懸念されていること

  • ナルコレプシー様症状が起こること
  • 食欲が変化したり、摂食障害がみられること

ベルソムラでは2つのことが懸念されています。

1つ目は、ナルコレプシー様症状が起こるかもしれないということです。ナルコレプシーとは過眠症と呼ばれている病気です。オレキシンが変性すると、ナルコレプシーになることがわかっています。覚醒に必要なオレキシンが足りないために、急に睡眠状態に入ってしまう病気です。

①睡眠発作(昼間の突然の眠気)
②入眠時幻覚(眠った瞬間に夢を見る)
③睡眠麻痺(金縛り)
④情動脱力発作(喜怒哀楽の後に、急に力が抜けてしまう)

この4つの症状がみられるような病気です。ベルソムラは、オレキシンをブロックする薬です。理論的にはナルコレプシー様の副作用が起こることが懸念されていました。現在のところ、市販後調査では報告されていませんので、問題ないかと思います。

 

2つ目は、食事への影響です。空腹を感じると、オレキシンが活発になることで覚醒して食事をとります。そして活動的になってエネルギーを消費します。このようにオレ キシンは食欲や代謝と大きく関係し、摂食行動に影響を与えることが懸念されていました。現在のところ、市販後調査では目立った報告がされていません。

 

まとめ

オレキシンとは覚醒に重要な神経伝達物質で、睡眠と覚醒のオンオフの切り替えに重要な働きをしています。それ以外にも様々な機能に関係していることがわかってきています。

睡眠薬のベルソムラは、覚醒を維持するために必要なオレキシンを阻害することで睡眠状態へスイッチさせる睡眠薬です。

ベルソムラについて詳しく知りたい方は、
ベルソムラ錠の効果と強さ
ベルソムラで注意すべき副作用とは
をお読みください。

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