防風通聖散【62番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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防風通聖散は、肥満症に効果がある漢方薬です。病院で処方されるだけでなく、ドラッグストアで販売されているものもあります。生薬の配合と商品名は違うことがありますが、ダイエットに効果があるとされる商品の中には、防風通聖散と同一の成分のものもあります。

漢方の世界では、肥満は病態として考えられます。食べ物をとりすぎて体重過多になると気血水の循環に異常をきたし、内臓脂肪の増加、高血圧や便秘、むくみなど、体のさまざまなところで不調が起こるからです。

防風通聖散は肥満に効果が期待できる漢方薬ではありますが、肥満は生活習慣の積み重ねということを忘れてはいけません。漢方だけに頼らず食生活を見直し、適度な運動を加えることで、相乗効果で肥満を改善していくべきです。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、防風通聖散は「ツムラの62番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される防風通聖散の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.防風通聖散【62番】の生薬成分の効能

防風通聖散は、18種類もの生薬が合わさっています。それぞれが「発汗」「便通」「清熱」「利尿」に効果を発揮し、体のバランスを整えます。気血水をめぐらせ、余分な水を排出し、体内にこもった熱をとります。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

防風通聖散は、18の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 防風(1.2g): 発汗作用・鎮痛作用
  • 麻黄(1.2g): 発汗作用・鎮咳作用
  • 大黄(1.5g): 下剤作用・利胆作用・健胃作用
  • 連翹(1.2g): 解熱作用・利尿作用
  • 桔梗(2.0g): 鎮咳作用・去痰作用・解熱作用・鎮静作用
  • 芍薬(1.2g): 鎮痛作用・抗痙攣作用・血管拡張作用
  • 薄荷(1.2g): 鎮静作用・発汗作用・解熱作用・健胃作用
  • 白朮(2.0g): 健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 芒硝(0.7g): 下剤作用
  • 山梔子(1.2g): 解熱作用・消炎作用・利胆作用・止血作用
  • 滑石(3.0g): 利尿作用・止痢作用
  • 黄芩(2.0g): 解熱作用・消炎作用・止血作用
  • 生姜(0.3g): 発汗作用・制吐作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 荊芥(1.2g): 発汗作用・解熱作用
  • 当帰(1.2): 補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 甘草(2.0g): 鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 石膏(2.0g): 解熱作用・消炎作用・止渇作用
  • 川芎(1.2g): 補血作用・駆血作用・月経調整作用・鎮痛作用

※カッコ内は、1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

防風通聖散は、名前にあるとおり、「防風」の発汗作用が中心となった漢方です。薬全体には、18種類の生薬が配合されますが、それぞれを「発汗」「便通」「利尿」「清熱」のはたらきをするグループに分けることができます。

「発汗」を促すグループ:防風・麻黄・薄荷・生姜・荊芥の5種類です。汗にして老廃物を出すことで、新陳代謝を高めます。体内で「水」をめぐらせ、熱をとることでほてりを改善します。停滞した「水」を体表から排出させ、むくみを解消します。

「便通」を促すグループ:大黄・芒硝の2種類です。大腸に刺激を与え、老廃物を排出します。便通を促すことも、体内にこもった熱を放出することにつながります。

「利尿」を促すグループ:連翹・白朮・滑石の3種類です。腎臓のはたらきをよくし、余分な水分を排出してむくみを改善するとともに、便通とも相まって老廃物を排出します。

その他の生薬は、解熱・駆血作用を持ちます。体に血をめぐらせ、気・水も循環するようにします。瘀血の状態を解消し、血管内にたまった老廃物と熱を取り去り、老廃物を腎臓に運び、尿として体外に排出させるように促します。

白朮・薄荷・生姜の健胃作用、当帰の潤腸作用は、消化吸収を促進して胃腸の動きを整えることで、便通改善にも貢献します。

鎮静作用をもつ桔梗・薄荷は、食べたい欲求を抑え、食べ過ぎの防止につながります。

防風通聖散の生薬の由来についてまとめました。

 

2.防風通聖散の効果の科学的検証

防風通聖散は、交感神経の活性を高めることで代謝を亢進させます。さらに食欲増進させるグレリンというホルモンの分泌を抑制させることで、ダイエット効果が期待されます。

防風通聖散は、ダイエット効果が期待できる漢方薬として有名です。防風通聖散の効果については、科学的にも検証がされてきています。

1200kcal/日までの食事制限と300kcal相当の運動と併用し、防風通聖散を使った患者さん(41人)と使わなかった患者さん(40人)を比較したダブルブラインド試験では、6か月間でウエスト周囲径8cmの有意差が認められています。それによってインスリン抵抗性も改善が見られました。

防風通聖散の生薬に含まれる麻黄は、その有効成分であるエフェドリンが、交感神経終末からのノルエピネフリン分泌を促進します。これによって代謝が亢進し、脂肪細胞(褐色・白色脂肪細胞の両方)が減少することが分かっています。

さらに甘草・荊芥・連翹には、交感神経系の活性を止めてしまうホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用があります。つまり交感神経の活性を高めるため、麻黄による代謝亢進作用を強める働きがあるのです。

それだけでなく防風通聖散は、食欲増進ホルモンである「グレリン」の分泌を抑制する効果が認められます。。

このようなメカニズムで、防風通聖散は肥満への効果が期待されます。

 

3.防風通聖散の証

陰陽(陽)・虚実(実)・寒熱(熱)・気血水(瘀血・水毒)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

防風通聖散が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:実証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:瘀血・水毒

防風通聖散は、実証の人に向いている漢方薬になります。

 

4.防風通聖散の効果と適応

  • 固太りタイプの肥満症
  • 肥満に伴う高血圧・便秘・のぼせ

防風通聖散は、金時代に書かれた「宣明論」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

防風通聖散は過度な肥満により、便秘や高血圧などの不快症状が見られるときによく使われます。肥満のタイプは固太りで、体力があり、食べすぎることによる肥満です。

食欲が旺盛で脂っこいものや肉を好む人は、エネルギーを余分にとりがちになります。体に必要以上の栄養を取り込むと、栄養は濃すぎる「血」になり、体内で循環が滞って「瘀血」の状態になります。

「瘀血」になると、血とともに熱も体内に滞った状態になり、「のぼせ」があらわれます。腸内の血管が瘀血になると栄養が体内に運ばれず、内臓脂肪がたまります。腸の動きは鈍くなり、便は老廃物としてとどまった状態になり、便秘となります。内臓脂肪と便秘により、腹部の圧迫感や膨満感があらわれます。血圧も上昇するため、動悸の症状を訴える人もいます。

血流の停滞は「水」にも影響を及ぼし、「水毒」の状態になります。水は体内にとどまるため、顔や手足にむくみがあらわれます。血・水がめぐらないと熱を放出できないため、むくみだけでなく、ほてりの症状が出ます。

これらの症状を改善するためには、代謝を高めることが必要です。漢方では、代謝が良い状態とは、「気血水」の巡りがバランス良く、滞らないことです。肥満とそれによる不調には、瘀血の体質を改善する必要があります。

防風通聖散は基本的に、体内にたまった熱や老廃物を排出するよう、すなわち、代謝を高めるように機能します。

瘀血を解消し、発汗させて便通を改善させますが、これらはすべて体にこもった熱をとることにつながります。熱はエネルギーなので、余分なエネルギーが排出されることで、体は正常な機能を取り戻します。また、増大した食欲も通常に戻ることでエネルギーの取りすぎを防ぎ、再び肥満状態に戻りにくくします。

なお、添付文章に記載されている防風通聖散の適応は以下のようになっています。

腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘

[参考]使用目標:体力の充実したいわゆる卒中体質者で、便秘し、腹は臍を中心に膨満して力のある、いわゆる太鼓腹の場合に用いる。

 

5.防風通聖散はどのような肥満に効果が期待できるのか

 

  • 内臓脂肪が多く、お腹が出ている
  • 食欲を抑えられず食べすぎる

 

肥満にもタイプがあります。いわゆる、水太りと固太りの2通りです。水太りは、体に筋肉が少なく、虚弱な人に起こりがちな肥満の型です。生活面では運動量が少なく、体が冷えがちです。気血水のうち、「水」が滞ります。このタイプの肥満では、冷えやだるさ、消化不良などの不調が起こります。

一方で固太りは体力があり、それゆえ食欲があって食べ過ぎ、肥満になります。内臓脂肪がたまってお腹が出ており、便秘やのぼせ、高血圧を伴います。いわゆる生活習慣病の状態です。気血水のうち、血の流れが悪くなる瘀血の状態で、体内に老廃物や熱がこもった状態になります。

防風通聖散は、後者の固太りタイプの肥満に効く漢方薬となります。発汗や利尿、便通の改善により、熱と老廃物、余分な水分を排出し、肥満を改善します。水太りタイプには、より利尿作用に重点をおいた防已黄耆湯が処方されることが多いです。

防風通聖散は、過度な肥満の固太りタイプの方の体質改善に効果が期待できる漢方薬です。痩せていて内臓脂肪が少ない方がさらなるダイエット目的で使用しても、あまり効果は期待できないかと思います。むしろ体に負担になりかねませんので、注意が必要です。

 

6.防風通聖散の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

防風通聖散は、ツムラやコタロー、クラシエなどから発売されています。1日量は、ツムラとクラシエが7.5g、コタローが9gになっています。クラシエからは錠剤も発売されていますが、1日量は27錠にもなります。

防風通聖散は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。防風通聖散を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

7.防風通聖散の効き目とは?

効果は1ヶ月以上かけてゆっくりと認められることが多いです。

それでは、防風通聖散の効き目はどのような形でしょうか。

防風通聖散の服用目的は、体質の改善です。下剤作用のある大黄や芒硝が入っていますから、飲み始めてすぐ便通に効果を感じることもあります。ですが体質が変わるには、最低でも1ヶ月以上の服用が必要です。

防風通聖散は瘀血を除去し、老廃物を排出させ、エネルギーを巡らせる効果があります。ですが食欲や便通、血圧が安定して体調が整い、リバウンドをしない体質になるまでには時間がかかります。

また、ダイエットには漢方だけではなく、生活の改善も必要です。防風通聖散は、過度な肥満による高血圧や内臓脂肪過多など、いわゆる生活習慣病の症状の改善に有効です。適正体重よりもさらにやせることを目的として服用すると、思わぬ副作用が出ることになりかねません。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

8.防風通聖散の副作用

防風通聖散では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

防風通聖散は、実証の人に適応した処方です。体力のない人が服用すると、誤治となってしまいます。誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

防風通聖散でもっとも訴えの多い副作用は、下痢になります。便通をよくする効果が強いので、もともと下痢をしやすい人、胃腸が弱い人には起こりやすい症状です。しかし下痢は、解毒作用でもあります。慢性の便秘が解消して下痢になり、その後回復すれば問題はありません。下痢が続くようなら服用を中止します。

麻黄には、交感神経刺激薬であるエフェドリン類が含まれます。他のエフェドリン含有製剤との併用、また、心臓に疾患がある人の服用は慎重に行います。

そして当帰・芍薬が降剤として働くので、妊婦さんが服用すると流産のおそれがあります。下剤作用も子宮への刺激となるので、服用しないほうがよいでしょう。

また、甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

その他では、ごくまれに肝障害が起こることがあると報告されています。発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

便通の改善、利尿、清熱、食欲の抑制効果で、肥満による不調を改善します。「血瘀」の状態を解消することで、気・水の循環もよくし、特に老廃物、余分なエネルギーを排出し、体内にこもった熱を放出します。長期の服用によって、太りにくい体質に改善します。

陰陽(陽)・虚実(実)・寒熱(熱)・気血水(瘀血・水毒)

防風通聖散は、以下のような方に使われます。

  • 体力があって食欲旺盛、食べすぎが原因の固太りタイプ肥満
  • 内臓脂肪が多くてお腹が出ている
  • 慢性的な便秘や高血圧で、のぼせがある
  • 体に熱がこもり、むくみがある

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