猪苓湯【40番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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膀胱炎といえば、排尿痛や残尿感があって、頻繁な尿意の割におしっこが出ないという不愉快な病気ですね。人によっては繰り返すこともあります。

膀胱炎の主な原因は、ばい菌が増殖して膀胱内で炎症を起こすことです。疲労で体力や免疫力が落ちているとき、体が冷えがちであるとき、排尿を長時間我慢するときなどに発症してしまうことが多いです。

西洋的な治療は、抗生剤の投与です。服用すれば急速に症状が治まりますが、抗生剤を繰り返し用いていると耐性ができ、だんだんと効果が出にくくなることがあります。膀胱炎は再発することも多い病気ですから、次第に効かなくなってしまうこともあります。

一方で漢方薬の猪苓湯は、利尿を促すことで症状の緩和すると同時に、体を強くすることによって症状の再発を防ぎます。

猪苓湯は、体内の「水」のめぐりにはたらきかけることで尿量を増やし、膀胱内のばい菌を洗い流します。同時に炎症を抑え、組織が正常な状態に修復していくのを助けます。

急性・慢性の膀胱炎のみならず、尿道炎や腎臓炎にも使われます。

ここでは、病院で処方される猪苓湯の効果と副作用についてお伝え していきます。

 

1.猪苓湯の生薬成分の効能

猪苓を中心に、各生薬の利尿作用が主な効果となります。沢瀉・茯苓・阿膠は、「水」の循環をよくして尿量を増やし、阿膠は膀胱の炎症を鎮めます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

猪苓湯は、5つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 猪苓(3.0g):利尿作用
  • 沢瀉(3.0g):利尿作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 阿膠(3.0g):止血作用・補血作用・強壮作用
  • 滑石(3.0g):解熱作用・消炎作用・止渇作用

※カッコ内は、1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

猪苓湯は猪苓を中心とし、利尿作用を持つ生薬が多く含まれます。沢瀉と茯苓は、むくみなど「水毒」の症状に用いられる代表的な生薬です。

滑石も利尿作用と止渇作用、「利水」の効果をもち、加えて消炎作用や抗菌作用を持ちます。菌の増殖を抑えて炎症を鎮めて熱をとり、膀胱を正常な状態にします。

阿膠は、いわゆるゼラチンのことです。ゼラチンはタンパク質ですから、炎症がおさまった膀胱の組織の修復を助け、強くします。

猪苓湯の生薬の由来について一覧にしました。

 

2.猪苓湯の証

陰陽(中間証)・虚実(中間証)・寒熱(熱)・気血水(水滞)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは病院ではできません。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

猪苓湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:中間証
  • 虚実:中間証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:水滞

猪苓湯は体力の多少にかかわらず、誰もが使うことができます。

 

3.猪苓湯の効果と適応

  • 急性・または繰り返す膀胱炎
  • 尿道炎
  • 尿量の減少、残尿感
  • 尿意の頻発

猪苓湯は、漢時代に書かれた「傷寒論」および「金匱要略」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

猪苓湯は、膀胱や尿道、または腎臓に炎症が起こり、熱を持って尿量が減少し、のどが渇くなどの症状が出た場合によく使われます。抗生剤と同様、比較的速やかな効果が期待でき、体質や体力の有無にこだわらず使える点でも、非常に便利な漢方薬です。

水のめぐりに関する器官が炎症を起こした場合、熱をもつために「燥」という状態になり、のどが渇くなどの症状が出ます。しかし、水分をとっても器官に炎症があれば正常な働きがおこなわれず、尿を作って排出することができません。

炎症の状態が長く続けば、膀胱炎であれば膀胱の表面だけでなく膀胱の組織そのものに及び、間質に炎症が及んだり腎盂腎炎へと進んでいきます。

治療は、菌の増殖を抑えて膀胱の表面を洗い流し、できるだけ早くもとの正常な状態に戻すことが大事です。膀胱の洗浄には水分、つまり尿で体の内側から洗い流すことが第一です。水分の代謝をよくして尿をたくさん作るため、利尿作用のある漢方薬が効果的なのです。

尿が膀胱内のばい菌を洗い流すほか、水分が体外に排出されることで熱が取れ、さらに抗菌作用や組織の修復を助ける作用を持つ猪苓湯は、膀胱炎に適した漢方薬といえます。

 

猪苓湯の生薬は、消化器官のすべてをあらわす「脾」を強める作用を持ち、水分の排出に関わる「腎」には直接作用しません。しかし漢方では、五行でいうところの「脾」→「腎」と働きを弱める「相克」の関係にあります。熱をさまし、過剰な尿意を抑えることは、「腎」の症状を改善するといえます。

また、「脾」→「肺」→「腎」は、矢印の順にはたらきを強める「相生」の関係にあります。肺に通ずる喉に水がゆきわたることによって喉の渇きは改善されますし、肺は気血を体にめぐらせる作用がありますので、結果的に「腎」を強めます。

猪苓湯を服用することで、症状を改善するだけでなく、水のめぐりに作用する臓器を強化し、膀胱炎などになりにくい体質を目指していきます。

 

4.猪苓湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。急性の症状にはすぐに服用し、治まるまで継続してください。

猪苓湯は、ツムラやクラシエ、コタローなどから発売されています。1日量は、ツムラは7.5g、クラシエとコタローは6gになっています。

猪苓湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。猪苓湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.猪苓湯の効き目とは?

慢性症状であれば、効果は1ヶ月ほどで実感を期待できます。

それでは、猪苓湯の効き目はどのような形でしょうか。

猪苓湯は、症状が出はじめたてすぐに服用し、3日ほどで効果を得られることが多いようです。繰り返す膀胱炎でも、症状が出たらすぐに飲んで継続すれば、結果的に体質が強化され、症状が頻発することがなくなっていきます。

ただし、猪苓湯は膀胱炎の初期症状に効果的な漢方薬です。血尿や発熱が続いている場合には適さないかと思います。

また、冷えも膀胱炎に悪影響を与える原因の一つです。猪苓湯は熱を冷ます効果があるので、冷えが強い人には向きません。他の漢方薬を併用する、または、猪苓湯以外の漢方薬が適していることもありますので、医師に相談しましょう。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.猪苓湯の副作用

猪苓湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

ま た、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明 らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

猪苓湯は、体質や体力の多少を問わないため、体に合わないための副作用は少ないと考えられます。しかし、生薬の作用によっては胃の不快感、食欲不振、または吐き気があらわれることがあります。慣れなかったり、それらの症状が強いようであれば、医師に相談しましょう。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

猪苓を中心に利尿作用を強く持つ生薬を配合し、体に水をめぐらせて「腎」にはたらきかけます。炎症を鎮め、尿量を増やして膀胱内を洗い流すことで、膀胱を正常な状態にします。継続して服用することで、臓器を強化し、症状が出にくい体質に改善していきます。

陰陽(中間証)・虚実(中間証)・寒熱(熱)・気血水(水滞)

猪苓湯は、以下のような方に使われます。

  • 急性・慢性の膀胱炎、尿道炎の初期症状
  • 疲労、風邪などによって膀胱炎を併発しやすい体質
  • 残尿感・頻尿
  • 尿量が少なく、喉の渇きを感じる

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