大黄甘草湯【84番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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大黄甘草湯は、2000年以上も前から使用されてきた、便秘の解消に用いられる代表的な漢方薬です。体質を問わずに使用でき、比較的早い効果が実証されています。

便秘薬には大きく分けて2種類あります。一つは腸を刺激して、たまった便を下すタイプになります。もう一つは腸内の便に水を含ませて柔らかくし、排出しやすくするタイプです。

大黄甘草湯は前者で、腸を刺激して便を排出させるタイプです。漢方の言葉では、「瀉下」と呼ばれる効果です。便秘そのもののほか、便秘が原因の各症状も解消することができます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、大黄甘草湯は「ツムラの84番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される大黄甘草湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.大黄甘草湯【84番】の生薬成分の効能

大黄の有効成分が、腸の蠕動運動を活発にすることが一番の効果です。大黄だけを服用すると、お腹を下す効果が大きすぎるので、甘草が大黄の効果をゆるやかにし、胃腸を守ります。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

大黄甘草湯は、2つの生薬から有効成分を抽出して作られている、シンプルな処方です。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 大黄(2.0g):下剤作用・利胆作用・健胃作用
  • 甘草(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

大黄は、大腸の中の老廃物を排出させる「瀉下」にすぐれた生薬です。便秘に処方される他の漢方薬にも使われます。アントラキノンという成分が大腸を刺激し、便を排出させ、腸内にたまった熱をとります。

具体的には、大腸内の水分や電解質の吸収を抑制し、腸の蠕動運動と腸管内輸送を亢進します。お腹の中を動かして、水で洗い流すイメージですね。

一方、甘草には緩和作用があります。便秘による腹痛や排便時の痛みを和らげる効果があります。大黄だけを服用した場合、瀉下効果が強すぎて腸の水分が失われてしまいます。そうなると腸内が乾燥して、排出しにくい硬い便が再びとどまることとなり、便秘傾向となってしまいます。

甘草は腸内に水分を保持する働きも持ち、腸の状態を便が排出しやすい状態に調整するのです。

大黄甘草湯の生薬の由来について。

 

2.大黄甘草湯の証

やや実証の人向けですが、著しく体力が低下していない限り、基本的に体質を問わず使うことができます。

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

大黄甘草湯は、どんな体質の人も使うことができます。ただし、著しく体力の低下した人には適さず、また、便秘の種類にもよります。

体力が弱った人の便秘は、主に腹筋が弱り、便を自力でいきんで排出することが困難になることによって起こることが多いです。

そのような便秘には、体力をつけながら便の状態も改善する処方が望ましいです。大黄の効き目が強く出てしまうと、余計に体調を崩してしまう可能性があるからです。

また、大黄甘草湯は、体質を改善する処方ではありません。症状がある場合に服用する頓服薬として使われます。常習性の便秘にも処方されますが、ある程度排便のリズムが整ったら服用をやめ、生活の見直しをしていくことが大切です。

 

3.大黄甘草湯の効果と適応

  • 常習性の便秘
  • 便が固い、腸の動きが鈍くなって起こるタイプの便秘
  • 便秘によって引き起こされる体の各症状

大黄甘草湯は、漢時代に書かれた「金匱要略」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

大黄甘草湯は、便秘に対する最も有名な処方薬です。常習性の便秘から、旅行など、一時的に生活サイクルが乱れたことが原因となる便秘まで、よく効きます。

ただ、高齢や体力の低下によって、いきむ力が弱ったタイプの便秘ではなく、ある程度体力があるけれど、不規則な生活サイクルなどで腸の動きが鈍った、「弛緩性便秘」によく効きます。

弛緩性便秘の原因は、主に「便意をもよおしても我慢してしまう」人がなりやすく、女性の便秘の大半はこれが原因といわれます。

便意を我慢してしまうと徐々に大腸の動きが規則的でなくなり、不活発になってしまいます。すると、便は水分を失って硬くなり、ますます便秘になるという悪循環となってしまいます。

この状態を漢方では「胃腸に熱がある状態」といい、熱によって腸内は乾燥します。体内にも水が行き届かず、気血水のめぐりもバランスが崩れ、上半身に熱がこもることによって頭重感やのぼせなどが起きるのです。

また、水のめぐりが滞ると体表の老廃物が流されなくなり、皮膚にニキビや吹き出物などが出る場合もあります。

便が排出され、腸内の熱がとれて胃腸が潤えば、水が体内に吸収されて全身をめぐります。水はめぐりながら、上半身にたまった熱や皮膚の老廃物を流し去り、のぼせや頭重感や皮膚の症状も治まるというわけです。

なお、添付文章に記載されている大黄甘草湯の適応は、以下のようになっています。

便秘症

使用目標:常習便秘に広く用いる。

 

4.大黄甘草湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

大黄甘草湯は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

大黄甘草湯は、常習性便秘であれば、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。大黄甘草湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

大黄甘草湯は、夜に服用して朝には効果が現れるようにするなど、量や服用するタイミングで排便のリズムを整えることができます。

飲み方を医師に相談し、規則的な排便リズムになったら服用をやめましょう。一時的に起こった便秘の場合は、症状が出たときに速やかに服用します。効果が出たところで、服用をやめます。

 

5.大黄甘草湯の効き目とは?

効果は、早ければ8〜12時間であらわれます。

それでは、大黄甘草湯の効き目はどのような形でしょうか。

大黄甘草湯は、飲む人の体質をほとんど問わず、効果も比較的早く出ます。そのため、量や飲む期間を調整することが大切です。

大黄甘草湯は、大量に摂取すると下痢の原因になりますし、長期にわたって服用すると腸が刺激に慣れてしまい、効き辛くなってくるのです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.大黄甘草湯の副作用

大黄甘草湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

大黄甘草湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

その他、胃の不快感、食欲不振、吐き気、腹痛、下痢が起こる場合があり、また、長期にわたって連続して服用すると、薬の効果が出づらくなる・便秘が悪化する・薬の服用量が増える、などの症状が起きる「下剤性結腸症候群」、また、大腸の粘膜が黒ずんで機能が失われる、「大腸黒皮症」になることがあります。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

大黄の有効成分、アントラキノンが大腸を刺激し、蠕動運動を活発にすることで、弛緩性の便秘を解消します。甘草は、大黄の強すぎる効果を緩和して、自然な排便に近づけます。また、胃腸の痛みを抑え、腸を潤して腸内の水分状態を調整します。

腸から熱が取れ、水が吸収されて全身を巡ると、水が体表・上半身の熱をとり、のぼせや頭重感、皮膚の異常を改善します。

証は問わず、概ねどんな体質の人にも使うことができますが、長期の服用は行いません。

大黄甘草湯は、以下のような方に使われます。

  • 規則的な排便を行わないことで起こる、常習性の便秘
  • 一時的な生活リズムの乱れで起こる便秘
  • 便秘によるニキビ、吹き出物などの皮膚症状、のぼせや頭重感

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