黄耆防已湯【20番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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漢方の世界では、肥満には種類があります。一つは体力があって、それゆえに食べ過ぎて肥満になるもの。もう一つは、そんなにたくさん食べないのに、胃腸が弱くて飲食物の消化・消費が追いつかず、栄養がキャパシティーオーバーとなってしまうタイプです。

後者の太り方の見た目は、筋肉が少なく、体全体が柔らかい脂肪と水分で包まれている印象です。日常生活は活動的でなく、行動が億劫で疲れやすい体質です。少しの運動で汗をかきやすく、そのわりに体は冷えがちで、下肢のむくみが目立ちます。

 

防已黄耆湯は、このような水太りタイプの肥満に効果をあらわします。「気」を補って栄養の消化吸収・エネルギーの消費率を向上させ、利水効果をもって停滞した「水」を動かし、肥満を解消します。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、防己黄耆湯は「ツムラの20番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される防已黄耆湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.防已黄耆湯【20番】の生薬成分の効能

主薬は、利水効果を持つ黄耆と防已です。利尿効果のほか汗を調節する作用もあり、むくみを改善します。生姜・甘草・大棗は「気」を補い、消化器官である「脾」を元気にします。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

防已黄耆湯は、6つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 黄耆(2.5g):抗腫瘍作用・血圧降下作用・強壮作用・抗炎症・利尿作用
  • 蒼朮(1.5g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 防已(2.5g):利尿作用・鎮痛作用・抗炎症作用・血圧低下作用
  • 大棗(1.5g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用
  • 生姜 (0.5g):発汗作用・制吐作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 甘草(0.75g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

防已黄耆湯は、主薬成分の防已と黄耆の利尿作用が中心となり、むくみを改善します。「気」の不足から「水」が体をめぐらず「水毒」となった状態を、「水」を尿として排泄させることで解消します。蒼朮は、主薬の働きを助け、体内の水分循環をよくします。

また、むくみがあるのに少しの運動で汗がたくさん出るのは、汗の分泌をコントロールする「気」の不足と考えられます。黄耆は、利尿作用のほかに止汗作用をもち、体内の利水を調節します。

「気」の不足には、甘草・大棗・生姜がはたらきます。水太りの人は消化器官の働きが弱っており、「脾気虚」の状態となっています。飲食物を取り込んでも消化吸収が効率よくできないため、体にエネルギーが十分に取り込まれずに疲れやすくなります。上記3つの生薬は、健胃作用・滋養作用をもち、消化器の機能を力強くして体に栄養をゆきわたらせ、「気」を補います。

そのほか、黄耆と防已には痛みを止める作用があります。下肢がむくんでいると関節に痛みが出ることもありますが、防已・黄耆・甘草が痛みを発散して治します。

黄耆防已湯の生薬の由来について。

 

2.防已黄耆湯の証

陰陽(陰)・虚実(虚~中間)・寒熱(寒)・気血水(気虚・水毒)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

防已黄耆湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証~中間証
  • 寒熱:寒証
  • 気血水:気虚・水毒

防已黄耆湯は、比較的体力がない人に向いている漢方薬になります。

 

3.防已黄耆湯の効果と適応

  • 水太りの肥満
  • むくみからくる関節の腫れ、関節痛
  • 新陳代謝の低下による皮膚の異常

防已黄耆湯は、漢時代に書かれた「金匱要略」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

防已黄耆湯は、比較的体力や筋肉がなく不活発で、水太りをしている人の体調不良によく使われます。水太りは、漢方でいうところの「水毒」にあたり、むくみやそれによる関節の痛み、冷えや月経の異常などの症状が見られます。むくみによって体表の「水」のめぐりが滞るため、皮膚にも炎症などの異常がでることもあります。

また、関節の腫れや痛みは、リウマチの症状でもあります。リウマチの原因はよく分かっていませんが、免疫の異常で自分の軟骨を攻撃して壊してしまい、関節を変形させてしまうことがある病気です。

リウマチの治療法は、抗炎症剤の処方や免疫の調整です。関節の痛みや腫れを取り、水毒を解消することで冷えを取る効果のある防已黄耆湯が、リウマチの治療に使われることがあります。

水太りは「水毒」によるものですが、「水毒」が原因となる体の冷えは代謝を低下させ、ますます肥満を悪化させます。「水」が停滞しているのは、「水」を動かす「気」が不足していると考えられるので、「気」を補って体を活発化させることで「水」をめぐらせる防已黄耆湯は、諸症状の緩和だけでなく、水太りそのものを解消させるはたらきがあるとされます。

なお、ツムラの添付文章に記載されている防已黄耆湯の適応は以下になります。

色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をき たし、膝関節の腫痛するものの次の諸症: 腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、陰嚢水腫、肥満症、関節炎、癰、癤、筋炎、浮腫、皮膚病、 多汗症、月経不順

 

4.防已黄耆湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

防已黄耆湯は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

防已黄耆湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。黄耆防已湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.防已黄耆湯の効き目とは?

水太り解消が目的であれば、効果を実感するには時間がかかることが多いです。

それでは、防已黄耆湯の効き目はどのような形でしょうか。

防已黄耆湯は、陰証の人に適した処方です。慢性の水太りの症状を体質から改善するため、ダイエット目的の方は、証がぴったり合ったとしても、効果を実感するまで6〜7ヶ月を要することもあります。

痩せるだけではなく、その後に太りにくい体質になることが処方の目的です。漢方は、不調と体質の改善を手助けしますが、併せて活動的な生活に変えていくなど、漢方以外からのアプローチも必要です。

一方、関節の痛みや腫れについては、比較的早い効果があらわれます。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.防已黄耆湯の副作用

防已黄耆湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

防已黄耆湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれる浮腫(むくみ)やだるさ、血圧上昇や低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

偽アルドステロン症は、ダイエット目的で複数の漢方を自己判断で使用すると、特に起こりやすい症状です。痩身のための処方は、水太りタイプに適した防已黄耆湯と、固太りタイプに適した防風通聖散がよく知られていますが、両方に甘草が使われています。安易に服用すると甘草の摂取量が多くなるので、偽アルドステロン症にかかりやすくなってしまいます。

その他では、ごくまれに間質性肺炎と肝障害が起こることがあると報告されています。咳や息切れ、呼吸困難が認められたり、発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

黄耆と防已が主役となり、利水効果によって水太りを解消します。甘草・大棗・生姜は消化をよくし、体に「気」を充実させて「水」のめぐりをよくします。関節の腫れ、痛みにも効果があるため、リウマチの症状の緩和にも使われます。

陰陽(陰)・虚実(虚~中間)・寒熱(寒)・気血水(水毒・気虚)

防已黄耆湯は、以下のような方に使われます。

  • 体力・筋肉が少なく、水太りの方
  • 体が冷えて疲れやすく、少しの運動で汗を大量にかく方
  • むくみがあり、関節の痛みを伴う方

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