芍薬甘草湯【68番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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芍薬甘草湯は、筋肉の痙攣による体の痛みをとる漢方薬です。即効性があり、筋肉のこむら返りを改善させてくれます。いわゆる、手足がつった時などによく使われる漢方薬です。

何を隠そう私自身もよくお世話になっている漢方薬で、効果がはっきりと実感できる漢方薬になります。筋肉のこむら返りだけでなく、胃痛や腹痛などにも使われます。

このような漢方薬なので、証はあまりこだわらずに多くの方に使われています。市販の痛み止めよりも効果の実感は早いともいわれていて、筋肉を弛緩させてすぐに痛みを抑えることができます。

それ以外にも抗がん剤治療の副作用の症状を緩和したり、不妊治療の補助としても使われることがあります。有効成分が検証されているので、これからも多様な用途が期待されます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、芍薬甘草湯は「ツムラの68番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される芍薬甘草湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.芍薬甘草湯【68番】の生薬成分の効能

芍薬のペオニフロリンと、甘草のグリチルリチンの相乗効果が有効成分です。2つの成分が筋肉の緊張を緩和し、急に起こる差し込みのような痛みを抑えます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

芍薬甘草湯は、2つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 芍薬(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・血管拡張作用
  • 甘草(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

芍薬甘草湯は、2つのシンプルな成分で構成された漢方薬です。通常、漢方薬は多種の生薬を配合するのですが、それは生薬同士がもっともバランスよく働くように、経験則に基づいて配合しています。

生薬同士が影響し合うと、一般に効果が出るのはゆっくりになります。それに比べて成分が2つの芍薬甘草湯は、成分の効能がダイレクトに発揮されるので、即効性があります。

芍薬甘草湯の有効成分は、芍薬のペオニフロリン、甘草のグリチルリチンです。ペオニフロリンは、細胞にカルシウムの流入を減らし、筋肉の収縮を抑えます。一方でグリチルリチンは、カリウムイオンの流出をコントロールすることで筋肉の収縮を抑えます。

これら2つの別々の筋弛緩作用が相乗的に働くことで、芍薬甘草湯の効果が発揮されます。筋収縮すると筋肉が虚血になり、そのために筋肉痛が生じます。これも筋弛緩作用によって、解消されていきます。

漢方薬としての見方をすれば、芍薬は血を補う作用、甘草は水を補う作用をもっています。これらが体内に充実することで、筋肉の機能が正常化します。

芍薬甘草湯の生薬の由来について。

 

2.芍薬甘草湯の証

陰陽(陰~陽)・虚実(虚~実)・寒熱(中間)・気血水(血虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

  • 陰陽:陰証~陽症
  • 虚実:虚証~実証
  • 寒熱:中間症
  • 気血水:血虚

芍薬甘草湯は体質を問わず、主に急な痛みが起こった人に使われる漢方薬です。

 

3.芍薬甘草湯の効果と適応

  • 胃痛・腹痛
  • つっぱりや痙攣を伴う筋肉痛
  • 筋肉痛・関節痛
  • 生理痛・ホルモン過多による不妊症
  • がん治療の副作用

芍薬甘草湯は、漢時代に書かれた「傷寒論」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

急激な腹痛、差し込むような痛み、そのような症状が出たときに、芍薬甘草湯が使われます。服用して、早ければ5分ほどで効果が認められます。手足がつった場合も同様です。

急激な腹痛や手足のつりというのは、筋肉が急に緊張して収縮することで起こります。手足はわかりやすいですが、消化器官も平滑筋という筋肉で出来ているので、けいれんや急につるということは起こり得るのです。

胃けいれんなどは分かりやすい例ですね。加えて、子宮もやはり筋肉でできています。月経時に収縮が過剰に起こると、生理痛となります。

漢方では、筋肉は「肝」によって機能を調節されていると考えられます。「肝」が「血虚」となると、筋肉の動きを調節しきれずに痙攣や緊張が起こり、筋肉が虚血して痛みが出るのです。

芍薬甘草湯は、芍薬の補血作用で「肝」に血を補うことで働きを正常化させます。その結果、「肝」は筋肉の調整をとることができるようになり、つっぱりやこわばりを緩和して痛みをとるのです。

筋肉の緊張・こむら返り・しゃっくり(横隔膜の筋肉のけいれん)は、抗がん剤の治療の副作用として生じることもあります。そのため、抗がん剤と併用して芍薬甘草湯を使うこともあります。

そのほか、不妊治療の補助として使われることもあります。不妊の原因は様々ですが、そのひとつにホルモンの異常です。男性ホルモンの分泌が過剰である場合や、プロラクチンというホルモンが多いと、不妊の原因になります。

芍薬甘草湯は、これらのホルモンの分泌を正常に整え、排卵トラブルを解消する可能性があると言われています。しかしながら万人に効果があるとはいえず、慎重に使うことが大事です。

なお、ツムラの添付文章に記載されている芍薬甘草湯の適応は以下になります。

急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛、筋肉・関節痛、胃痛、腹痛

使用目標:急激に起こる筋肉(おもに下肢)の痙攣性疼痛ならびに腹部疝痛を訴える場合に用いる。頓服あるいは他の処方と併用されることが多い。

 

4.芍薬甘草湯の使い方

痛みが出たら速やかに服用するほか、1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。痛みの悪化や予防に、前もって飲むこともできます。

芍薬甘草湯は、ツムラやコタロー、クラシエから発売されています。1日量はツムラは7.5g、コタロー・クラシエは6gとなっています。

芍薬甘草湯は即効性もあるため、頓服としても使用します。急に筋肉の痛みがあった場合、芍薬甘草湯をすぐに服用することで改善が期待できます。

それ以外の効果を期待する場合、芍薬甘草湯は1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。空腹のほうが早く腸に到達することで、芍薬甘草湯の吸収がよくなります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.芍薬甘草湯の効き目とは?

効果は、早ければ5分ほどであらわれます。

それでは、芍薬甘草湯の効き目はどのような形でしょうか。

痛み、けいれん、こむら返りに対しては、即効性があります。西洋薬でも20〜30分はかかるといわれますが、芍薬甘草湯は吸収が早く、症状が速やかに落ち着きます。

その他、痛みやけいれんの予防として使われることもあります。長時間の運動を行うときなどは、競技開始の30分前に飲んでおくと痙攣の予防になります。

また、つねに生理痛がひどい人は、生理が始まる2〜3日前に継続して服用すると、生理痛が楽になります。

ただ、飲み続けていると、同じ用量を服用しても効きにくくなってしまいます。個人の判断で用量を増やすことは危険にもつながりますので、医師に相談のうえ、服用するようにします。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.芍薬甘草湯の副作用

芍薬甘草湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

芍薬甘草湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

甘草の成分のほか、ループ系利尿剤やチアジド系利尿剤と併用するときは、ミオパシーに注意します。

その他では、ごくまれに間質性肺炎と肝障害が起こることがあると報告されています。咳や息切れ、呼吸困難が認められたり、発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

芍薬のペオニフロリン、甘草のグリチルリチンが筋肉の収縮を抑え、つっぱりやけいれんを緩和して、腹痛や筋肉痛を緩和します。急に起こる症状のほか、痛みやけいれんの予防、ホルモンの正常化、がん治療の副作用の緩和にも使われます。

陰陽(陰~陽)・虚実(虚~実)・寒熱(中間)・気血水(血虚)
証は問わず、肝血虚により急な痛みがあるものに使います。

芍薬甘草湯は、以下のような方に使われます。

  • 急な胃痛や腹痛
  • 手足の筋肉のけいれんがあるもの
  • 生理痛が重いもの
  • 抗がん剤治療で、筋肉痛などの副作用があるもの
  • 胃けいれんやこむら返りを起こしやすい体質で、ホルモン過多で不妊のもの

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