通導散の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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血液の流れがスムーズでなくなると、体のあちこちに不調のサインがあらわれます。特に女性の場合、生理不順や重い生理、便秘などになりがちです。

漢方の世界では、「気血水」が、互いに影響しあって体を巡っていますが、血の流れが滞ると、他の2つにも影響が及びます。なかでも、気が上半身にたまる「気上衝」という症状が出ることがあり、高血圧やめまいなどに加え、イライラなどの精神不安も出てくることがあります。

生理不順や重い生理などに加え、頭痛や肩こり、イライラなどの症状をもつ代表的な病気として、更年期障害があります。「通導散」は主に女性の血の道症に効果をあらわし、血行をよくすることでホルモンバランスを整え、心身の不調を改善します。

普段から血圧が高めで体格ががっちりしたタイプの人に適応する漢方薬になります。ここでは、病院で処方される導道散の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.通導散の生薬成分の効能

大黄と芒硝の緩下効果で熱をとり、当帰・紅花・蘇木が血行をよくします。厚朴・枳実・陳皮は気、木通は水の循環を良くし、「気血水」全体のバランスを整えていきます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

通導散は、10の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 大黄(3.0g): 下剤作用・利胆(胆汁排出促進)作用・健胃作用
  • 芒硝(3.0〜4.0g):下剤作用
  • 厚朴(2.0g):制吐作用・健胃作用
  • 枳実(2.0〜3.0g):下剤作用・健胃作用
  • 当帰(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 紅花(2.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 蘇木(2.0g):鎮痛作用・駆於血作用・高脂血症改善作用
  • 陳皮(2.0g):理気作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 木道(2.0g):利尿作用・抗炎症作用・鎮痛作用
  • 甘草(2.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

通導散の主薬は、「瘀血」を解消する代表的な生薬、当帰・紅花・蘇木の3つです。紅花と蘇木には活血といって、子宮を活性化してうっ血を改善する効果があるほか、当帰には補血作用があります。

当帰と紅花は女性特有の症状の改善によく使われる生薬なので、瘀血の中でも、特に子宮や骨盤内周辺に作用します。

また、熱が上半身にたまっている場合、漢方では便秘の解消によって熱をとる方法があります。瘀血が原因の便秘では血のめぐりを改善するため、まずは大黄と芒硝による下剤作用をもって便通をつけるのです。

そして排便については一時的な便秘の解消だけでなく、当帰と紅花の湿腸作用で便秘をしにくくなるよう、徐々に腸の状態を整えていきます。

そのほか、厚朴・枳実・陳皮には気をめぐらせる効果、木通には水をめぐらせるがあり、気血水が影響しあって、気血水、全ての循環がよくなるように作用します。

通導散の生薬の由来について

 

2.通導散の証

陰陽(陽証)・虚実(実証)・寒熱(熱証)・気血水(瘀血・気上衝)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは病院ではできません。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

通導散が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:実証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:血於・気上衝

通導散は、体格がしっかりしていて、体力がある人に向いている漢方薬になります。

 

3.通導散の効果と適応

  • 血の道症
  • 生理不順、重い生理
  • 更年期障害
  • 高血圧に伴う頭痛、めまい、肩こり、頭重感
  • 打ち身

通導散は、明時代に書かれた「万病回春」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

通導散はもともと体格がよく、体力もしっかりあるタイプの人、そして特に女性の不調に効果をあらわす漢方薬です。

生理不順、高血圧、便秘、精神不安、むくみなどは、いわゆる更年期障害の症状でよく見られます。そして肥満体型の人や血圧が高めの人は、瘀血によって気血水のめぐりが滞りやすくなります。熱が上半身に集まったままになる「気上衝」の状態になると、顔のほてりやお腹の張りといった症状が認められ、精神的にもイライラしやすくなります。

西洋薬では、頭痛や血圧、便秘といった各症状、一つ一つに適応する処方が行われるため、全体的な回復には時間がかかります。通導散では、熱を速やかにとって気上衝を解消し、その後に瘀血を解消して気血水全体のめぐりを調整していきます。

ですから通導散では、証がしっかりと合えば全体的に改善できる可能性があります。根本の原因となる瘀血を解消することで、体質そのものの改善を目指していきます。

更年期障害の原因は、加齢やストレスによるホルモンの乱れにあります。子宮周辺のうっ血をとることでホルモンのはたらきを正常にし、生理不順や血の道症、腰痛などを改善しますが、同時に気・水もめぐらせることで、むくみもとります。

むくみがあると、打ち身であざなどができやすくなりますね。意外かもしれませんが、通導散は水のめぐりを高めることで、打ち身を早く治す効果があるといわれています。

打ち身は外傷からなる瘀血、すなわちうっ血のこと。青黒くなったりするうっ血の症状は、外傷だけでなく慢性的なものとして、歯茎や顔色にもあらわれることがあります。血色の悪い顔色や歯茎は、通導散を処方する目安にもなります。

なお、ツムラの添付文章に記載されている抑肝散加陳皮半夏の適応は以下になります。

比較的体力があり下腹部に圧痛があって便秘しがちなものの次の諸症: 月経不順、月経痛、更年期障害、腰痛、便秘、打ち身(打撲)、高血圧の随伴症状(頭痛、 めまい、肩こり)

[参考] 使用目標:体格、体力ともに充実した人で、心窩部が苦しく圧痛を訴え、瘀血があり、 便秘する場合に用いる。

  1. 桃核承気湯に比べ、精神神経症状がより激しい場合
  2. 頭痛、のぼせ、不眠、不安などの精神神経症状を伴う場合
  3. 月経不順、月経困難症などのある婦人

 

4.通導散の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

通導散は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

通導散は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。通導散を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.通導散の効き目とは?

大黄と芒硝の効き目により、服用後、便通には比較的すみやかに効果が得られますが、血の巡りがよくなり、体がすっきりとしてくるのを実感するには1ヶ月ほどかかります。

それでは、通導散の効き目はどのような形でしょうか。

大黄と芒硝は腸管を刺激して運動を活発化させるはたらきがあるため、便秘への効果は比較的早いです。

ただ、もともと便秘がちな人が使用する漢方であるため、他生薬の整腸作用で腸が潤い、正常な便通が習慣になるまでにはしばらくかかります。

また、体質改善を図る目的で服用する場合は、気血水のバランスが整うまで2〜3ヶ月は様子を見た方がよいでしょう。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.通導散の副作用

通導散では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

ま た、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

通導散の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

また、芒硝は塩分を含んでいます。持病で塩分摂取の制限がある人は、影響があるかもしれませんので、注意します。大黄は子宮収縮作用、骨盤内充血作用があり、紅花には子宮興奮作用があります。妊娠中の服用は、医師の指示に従うようにしましょう。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

当帰・紅花・蘇木が主薬となり、血於を改善します。大黄と芒硝が先立って便秘を解消して熱をとり、血・気・水が体をスムーズに循環するようになって、不調を改善します。

陰陽(陽証)・虚実(実証)・寒熱(熱証)・気血水(血於・気上衝)

通導散は、以下のような方に使われます。

  • がっちりした体格で、体力がある人の便秘
  • のぼせ、イライラを伴う更年期障害
  • 高血圧で、頭重感や肩こりがある
  • 歯茎が青黒い、顔色の血色が悪いなど、慢性の血行障害
  • むくみがあり、打ち身で打撲が治りにくい

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