十味敗毒湯【6番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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膿があるニキビ、じんましん、アトピー、湿疹などの皮膚疾患がある場合、西洋医学では患部に効果のある塗り薬を処方することが多いですね。

炎症や熱感、かゆみを素早くおさえ、徐々に肌を健康的な状態に整えていくという点で西洋薬は便利ですが、漢方薬でも皮膚の疾患を改善する生薬があります。

漢方では「気血水」の考え方で、皮膚に症状が出た場合は体内の水のめぐりが滞り、老廃物や毒素が皮膚表面にたまって異常が出るとされます。

気血水は互いに影響し合っていますから、水が滞れば気もめぐりが悪くなり、熱がたまって膿やかゆみを生じます。

十味敗毒湯は、水が過剰であれば体外に排出させてめぐりを良くすることで代謝をあげ、体の内側をきれいにして皮膚の状態を改善します。症状を抑えるだけでなく、慢性の皮膚疾患、皮膚にニキビや湿疹ができやすい体質改善を目指していきます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、十味敗毒湯は「ツムラの6番」などとも呼ばれます。そして十味敗毒湯は、10種類の生薬で構成されるために10味と呼ばれます。

ここでは、病院で処方される十味敗毒湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.十味敗毒湯【6番】の生薬成分の効能

桔梗・茯苓が利尿作用をもち、余分な水を体内から排出させます。さらに、荊芥・防風・独活が発汗解熱作用を持ち、肌表面からも毒素や老廃物を代謝させます。柴胡・樸樕は熱をとって炎症をおさえます。また樸樕・荊芥は、男性ホルモンの活性を抑えることがわかってきています。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

十味敗毒湯は、10の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 荊芥(1.0g):発汗作用・解熱作用
  • 防風(1.5g):発汗作用・鎮痛作用
  • 紫胡(3.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 桔梗(3.0g):鎮咳作用・去痰作用・解熱作用・鎮静作用
  • 川芎(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・鎮痛作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 甘草(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 生姜(1.0g):発汗作用・制吐作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 樸樕(3.0g):昇圧作用・皮膚病の収斂作用
  • 独活(1.5g):発汗作用・鎮痛作用・血管収縮作用

※カッコ内は、1日量7.5gに含まれる有効成分を抽出する前の生薬の量です。

十味敗毒湯は、それぞれの生薬が体内で気血水のバランスを整え、皮膚表面に生じた疾患をよくしていきます。

漢方では皮膚に疾患がある場合、水の流れが滞ったと考えますので、利尿・発汗を活発化させ、体の内側と外側両方から余分な水分を排出します。その働きをするのが、桔梗・茯苓の利尿作用と荊芥・防風・独活の発汗解熱作用です。

防風はむくみをとるための代表的な生薬ですし、桔梗は咳やたんをおさえる生薬としてよく使われますが、どちらも水のめぐりに異常が生じたことが原因で起こる症状なので、「水」のめぐりに効果があります。

そして肺は気を体外から取り入れるはたらきをするため、肺機能が向上することによって気のめぐりもよくします。そして甘草や生姜は、消化器機能を高めて気を補います。

また、川芎が血流に作用して、水がうまくめぐるのを助けます。気血水は互いに影響し合っているので、3つの要素全てのバランスをとることが大事だからです。

熱をとって炎症をおさえて排膿を促すのが、柴胡・樸樕になります。独活には血管収縮作用があり、かゆみを鎮めます。

また樸樕・荊芥には、男性ホルモンに影響することが分かってきています。テストステロン(男性ホルモン)を活性型男性ホルモンであるジヒドロテストステロンに代謝する酵素を阻害することが分かってきているのです。

十味敗毒湯の生薬の由来について、表でまとめました。

 

2.十味敗毒湯の証

陰陽(中間)・虚実(中間)・寒熱(熱)・気血水(水毒)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは病院ではできません。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

十味敗毒湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:中間証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:水毒

十味敗毒湯は、体力がほどほどにある人に向いている漢方薬になります。

 

3.十味敗毒湯の効果と適応

  • 炎症反応が比較的弱いニキビ、皮膚が化膿しやすい体質
  • じんましん、湿疹
  • 皮膚に赤み・かゆみがあり、あまりジュクジュクしていない皮膚疾患

十味敗毒湯は、「万病回春」という漢方の古典書をもとにして、江戸時代に日本で初めて麻酔薬を作った華岡青洲が処方を確立しました。10種類の生薬の成分を配合し、体内から毒素を排出させることで、皮膚疾患を治します。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

十味敗毒湯は、赤みや熱をもち、化膿した患部を持つ皮膚疾患によく使用されます。といっても排膿効果は西洋薬に比べると限定されるため、基本的には炎症の程度が軽いものに使われることが多いです。

西洋薬では、細菌や真菌などの感染があれば抗菌薬、それ以外であれば、アレルギー反応を抑えたり皮膚の代謝を高めてくれるステロイドが使われることが多いです。

漢方薬ではそういった考え方とは異なり、気血水のめぐりを正常なものに整え、皮膚表面にたまった老廃物を流して皮膚に異常が出ないようにすることを目指します。水が滞れば気も影響を受け、水とともに偏ってしまいます。老廃物と気が皮膚表面にたまれば熱を持ち、患部はかゆみや化膿の症状を生じると考えるのです。

そのため十味敗毒湯では、発汗作用・利尿作用の2つの効果で、余分な水と毒素、老廃物を体外に排出させます。「気」は水とともにめぐり、生薬の解熱作用との相乗効果で熱を取っていくのです。

 

十味敗毒湯は、ニキビの治療に使われることが多いです。日本皮膚科学会による尋常性痤瘡のガイドラインでは、いわゆる白ニキビである面皰ではC2、いわゆる赤ニキビである炎症性皮疹ではC1となっています。

  • C1:他の治療法が実施できない状況では、選択肢の1つ
  • C2:行ってもよいが推奨はしない

炎症性皮疹である赤ニキビであっても、初期の炎症反応が比較的弱く、小さな丘疹や膿疱が散発するようなときに使われます。男性ホルモンに作用する可能性も示唆されていることから、西洋薬にはない特徴でしょうか。このため、西洋薬と併用されることもあります。

湿疹に対しても同様で、化膿してしまった初期に使われることがあります。基本的にはグジュグジュしていなくて、比較的乾いているようなときに効果が期待できます。

じんましんの治療に使われることもありますが、こちらは西洋薬で原因となっているヒスタミンを抑えてしまったほうが効果は早いでしょうか。

 

なお、添付文章に記載されている十味敗毒湯の適応は以下のようになっています。

化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫

[参考] 使用目標:体力中等度の人の皮膚疾患で、患部は散発性あるいは、びまん性の発疹で覆われ、滲出液の少ない場合に用いる。

  1. 患部に化膿を伴うかあるいは化膿をくり返す場合
  2. 季肋下部に軽度の抵抗・圧痛を認める場合

 

4.十味敗毒湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

十味敗毒湯は、ツムラ・コタロー・クラシエなどから発売されています。1日量は、ツムラは7.5g、コタローとクラシエは6gとなっています。クラシエからは錠剤も発売されていますが、1日量で18錠にもなります。

コタローやクラシエでは樸樕のかわりに、桜皮が使われています。桜皮は鎮咳・去痰作用や排膿作用があるとされている生薬です。コタローではさらに、解熱鎮痛作用のある浜防風が加えられています。

十味敗毒湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。十味敗毒湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.十味敗毒湯の効き目とは?

効果は、慢性のものであれば1〜3ヶ月様子を見ます。

それでは、十味敗毒湯の効き目はどのような形でしょうか。

十味敗毒湯の効果は人それぞれですが、慢性となった疾患が、皮膚の状態がよくなり症状が出にくくなったと実感するまでは、最低でも1ヶ月はかかるようです。

ちょっとしたニキビなどであれば、早い人で3日から1週間ほどで効果が認められることもありますが、代謝には個人差があります。化膿が治まって健康な肌に戻るまでには、最低でも10 日ほどを見る必要があります。

体質の改善は、証がぴったりと合ってもしばらくかかりますが、1ヶ月以上服用して改善の兆しが見られないときは医師に相談しましょう。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.十味敗毒湯の副作用

十味敗毒湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

ま た、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

十味敗毒湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

その他では、ごくまれに肝障害が起こることがあると報告されています。発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

水毒をはじめとして、気血水のめぐりを高め、毒素、老廃物を体外へ排出させて体内から皮膚の状態に作用します。

桔梗・茯苓が利尿作用をもち、余分な水を体内から排出させます。さらに、荊芥・防風・独活が発汗解熱作用を持ち、肌表面からも毒素や老廃物を代謝させます。柴胡・樸樕は熱をとって炎症をおさえます。

陰陽(陽証)・虚実(中間)・寒熱(熱)・気血水(水毒)

十味敗毒湯は、以下のような方に使われます。

  • 軽度のニキビ
  • 軽度の湿疹
  • 皮膚に赤み、かゆみが出やすい体質

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