パニック障害で電車に乗れない!電車を克服する対処法
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
パニック障害は、突然のパニック発作を繰り返してしまう病気です。急に動悸やめまい、息苦しさなどが生じてしまい、強烈な不安感や恐怖感に襲われます。
このパニック発作を恐れて、パニック障害の患者さんでは電車が苦手になってしまう方がとても多いです。電車にのれないと、様々な生活への支障があります。
通勤ができなくなってしまったり、旅行にもいけなくなってしまいます。このため仕事を休まざるを得なくなってしまったり、家族との関係が悪くなってしまうこともあります。
なぜパニック障害の患者さんは電車が苦手になってしまうのでしょうか?
どのようにすれば電車にのれるようになっていくのでしょうか?
ここでは、パニック障害で電車に乗れないと悩んでいる患者さんに対して、それを克服していく対処法をお伝えしていきたいと思います。電車に対する恐怖をやり過ごすことも必要ですが、本当の意味でパニック障害を克服していくことを意識して考えていきたいと思います。
1.パニック障害が電車で起こりやすい原因
電車が動きだすと逃げ場がなくなるので、電車は「自分がコントロールできない状況」になります。電車のような状況を苦手とすることを、広場恐怖といいます。
パニック発作を想像してみてください。
心臓がバクバクして息苦しくなり、異常に汗が出てきたりします。自分で不安の抑えが効かなくなり、「このまま死んでしまうのではないか」という死の恐怖すら出てくることがあります。
このようなパニック発作を経験したら、その影におびえて生活するようになってしまうのも無理はないでしょう。いつまたパニック発作がくるのかと怯え、少しでも不安な状況になると怖くなってしまいます。
そんな状況で、電車に乗ることを考えてみてください。電車は公共機関で、これまで信用しきってなんの心配もしてこなかったでしょう。しかしながら、電車は一度動き始めたら自分の意志ではとめられません。もしそんなときにパニック発作に襲われてしまったら…と想像すると、不安が高まってしまいます。
このようにパニック障害の患者さんは、「逃げ出せない状況」や「助けが得られない状況」になることを恐れるようになります。その代表的なものが電車なのです。
このことを、専門的には広場恐怖といいます。パニック障害の患者さんの多くは広場恐怖を伴います。「パニック発作が起きてしまったら逃げ出せない」「パニック発作が起きてしまったら誰も助けてくれない」という状況を苦手にしてしまうのです。
広場恐怖の「広場」は、ギリシャ語の「アゴラ」に由来しています。古代ギリシャでは、広場を集会の場としていました。非常に多くの人でごった返しており、当時のパニック発作がおこりやすい代表的な状況でした。
現代では電車が代表的な状況なので、「電車恐怖」と呼んでも過言がないほど多くの患者さんが悩んでいます。
2.パニック障害を克服するための電車との向き合い方
「電車にのらない」ようにすると、パニック障害は一向によくなりません。パニック障害を克服していくためにも、少しずつ電車を克服していくことが大切です。
パニック障害によって電車に乗れなくなってしまうと、通勤や出張に負担がおおきくなってしまったり、旅行に行けなくなるなど家族のイベントができなくなってしまいます。
なかには全くできなくなってしまって、休職を余儀なくされたり、自宅に引きこもってしまう人もいます。
苦手なことから逃げれば逃げるほど、パニック障害は悪循環していきます。逃げてしまうと、つぎに同じ状況に直面した時の不安が強くなります。いままでできていたことも怖くなり、広場恐怖が広がっていきます。
ですから、「電車に乗らない」という行動をとるとパニック発作はおきませんが、症状は一向によくなりません。パニック障害を克服していくためには、電車を克服していく必要があるのです。
電車が苦手といっても、人によって苦手の程度にも差があります。例えば、
- 全く電車にのれない
- 自分の知っている路線しかのれない
- 各駅停車以外はのれない
- 混雑しているとのれない
- 新幹線はのれない
などです。まずは自分自身を振り返ってみて、電車のことを想像して不安の程度をもとにハードルを整理してみましょう。
なんとか電車に乗れている人は、それを少しずつ続けてステップアップしていくことが大切です。不安は必ず慣れていくものです。段階的にステップを上げていき、不安になれていくことを積み重ねていきましょう。
もしもいま電車に乗れていない人は、まずはイメージから始めていきます。電車に乗っていることをイメージして、その時の不安感に慣れることから始めていきましょう。
詳しくは後ほど、ステップごとにまとめていきます。
3.パニック発作を電車で起こさないための対処法
パニック障害の治療をしっかりとうけ、パニック発作について理解することが第一歩です。その上で、不安の自己暗示法や過呼吸の対策、頓服などで対処していきましょう。
このようにパニック障害を克服していくためには、電車をいわば練習の場としていくことが必要です。
電車に少しずつ挑戦していき、成功体験を積み重ねていくことで自信をつけていくことが大切です。ですから失敗しそうになったときに、パニック発作を電車で起こさないために対処法を持っておく必要があります。
一度上手くいったことでも、その時の体調によって失敗してしまうこともあります。3歩すすんで2歩下がるといった形で、少しずつよくなっていくものということを理解して取りくみましょう。
ここでは、パニック発作を電車で起こさないための対処法をまとめていきたいと思います。
①パニック障害の治療をうける
精神科のお薬に抵抗がある方もいらっしゃるかと思います。「精神科のお薬は怖い」というイメージを持たれている方も少なくありません。
しかしながらパニック障害は、お薬の効果がしっかりと期待できる病気になります。お薬によってパニック発作を落ち着かせることができれば、電車を少しずつ克服する大きなサポートになります。
お薬に副作用はつきものです。ですが現在のお薬は、安全性が高いものが中心となっています。ちゃんと出口をみすえてお薬を使っていけば、過度に心配しなくても大丈夫です。
詳しく知りたい方は、「パニック障害を完治させるには?パニック障害が治るための考え方」をお読みください。
②パニック発作を正しく理解する
パニック発作が起こっている時は、強烈な恐怖に支配されてしまいます。「このまま死んでしまうのではないか」というほどまでの恐怖が襲ってきます。
しかしながら恐怖が過ぎ去ると、身体にあらわれていたさまざまな症状はすっかりと消えてなくなります。後遺症を残すようなものでもなければ、パニック発作によって本当に死んでしまうことはありません。
このことを理解して、不安が高まってきたら「大丈夫、大丈夫」と自分に言いきかせることで不安をコントロールできることもあります。(自己教示)
③薬を使わないリラックス法を身につける
薬を使わずにリラックスする方法もいくつかあります。練習して慣れていくことで、不安をコントロールすることが上手になっていきます。大きく分けて、3つの方法があります。
リラックスする呼吸法とは、吐く時間を意識した腹式呼吸法です。呼吸を整えることで、リラックス状態をつくれるようにしていきます。
漸進的筋弛緩法とは、リラクゼーションとも呼ばれている方法です。筋肉の緊張状態を知り、それを和らげていく練習をします。不安が高まって来たら、緊張をほぐすことで気持ちを落ち着かせられます。
自律訓練法とは、リラックス状態を自己暗示で作り上げていく方法です。リラックス状態をイメージして、それを身体にしみこませていきます。
いずれの方法も、繰り返し続けていくことで少しずつ上手になっていきます。いわば筋トレのようなもので、すぐには効果が出ないけれども継続していくことで少しずつ効果が出てきます。
④息苦しい時は息をはく
パニック発作では、息苦しさが出てくることが多いです。息苦しくなってくると、できるだけたくさん息を吸おうとします。
パニック発作での息苦しさは、酸素が不足しての息苦しさではありません。ですからいくら呼吸をたくさんしても、息苦しさは改善しません。むしろ呼吸回数が増えてくると、換気をし過ぎてしまって手足がしびれる過換気症候群に発展することがあります。
過換気症候群では、換気のしすぎて身体の中の二酸化炭素が外に出てしまって、血液のバランスがくずれてしまいます。これが引き金になって、手足のしびれが起こるのです。
この手足のしびれは一時的で、後遺症が残るものでもありません。ですが手足がしびれてくると、恐怖を一気に強める原因になります。
このようになる原因は呼吸回数が増えてしまうことですので、できるだけ時間をかけて呼吸をします。そのためには、吐く時間を長くする意識をすることが大切です。
詳しくは、「過呼吸・過換気症候群の正しい対処法とは?袋は使うべき?」をお読みください。
⑤頓服をもっておく
パニック発作に備えて、頓服をあらかじめもらっておいて携帯しておくのも一つの方法です。頓服薬は即効性のあるお薬で、パニック発作が起こりそうな時に服用すればすぐに効いてくれます。
頓服として使われるお薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が中心です。具体的には、
- ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
- ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
- デパス(一般名:エチゾラム)
- レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
- リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
- リーゼ(一般名:クロチアゼパム)
このようなお薬です。ベンゾジアゼピン抗不安薬の中で、効果の実感があるお薬を使っていきます。
これらの頓服薬は、お守りとしてもっているだけでも安心感につながります。急に不安におそわれた場合は、お薬は噛んで服用しても問題ありません。むしろそちらの方が早く効きます。
ワイパックスでは噛んでも甘みがありますし、噛んだ時(舌下)の吸収効率もよいといわれています。このため私は、ワイパックスを処方することが多いです。
4.パニック障害による「電車恐怖」を克服するステップ
電車に一切乗れない人はイメージからはじめ、誰かに付き添ってもらうことからはじめてみてもよいでしょう。各駅停車から少しずつ快速や特急などにステップアップしていきます。
電車でパニック発作を起こさないための対処法をインターネットなどで調べてみると、音楽を聞く、寝る、目を閉じるなどといった「恐怖から目を背ける」対処法が書いてあるものが多いです。
この方法では、パニック障害は克服できません。一時的にはしのげることはあるかもしれませんが、逃げていることと同じになってしまいます。次に同じ状況になると、以前と変わらない恐怖に襲われてしまいます。
電車をのれるようにしてくためには、恐怖から目を背けてはいけません。その恐怖を正面に受け止めながら、少しずつ不安がコントロールできるようになっていくのを身体に覚えさせる必要があります。
それでは、パニック障害による「電車恐怖」を克服するためステップをみていきましょう。
①まずはイメージ
電車に全く乗れなくなってしまった方は、まずはイメージからはじめてみましょう。
イメージをするのも、最初はハードルの低いものからにしてください。
- 空いている各駅停車の電車に乗っているイメージ
- 空いている急行停車の電車に乗っているイメージ
- 少し混雑した各駅停車の電車に乗っているイメージ
- 少し混雑した急行停車の電車に乗っているイメージ
- 通勤ラッシュの各駅停車の電車に乗っているイメージ
- 通勤ラッシュの急行停車の電車に乗っているイメージ
不安を感じてもイメージをやめず、それに慣れるようにしていきましょう。実際に行動にうつせるようになるまでには、自分が電車に乗っているイメージで練習をしていきましょう。
②1人が難しければ付き添ってもらう
「もしかしたら何とかなるかもしれない」と思えるようになってきたら、実際の行動に移していきます。
1人でチャレンジするのが難しければ、理解してくれている友達や家族に付き添ってもらいましょう。もしパニック発作が起きても助けてもらえるという安心感から、パニック発作は起こりにくくなります。
③各駅停車からはじめる
まずは各駅停車から始めていくのが良いでしょう。各駅停車でしたら、かりに調子が悪くなってしまっても、すぐに近くの駅で下車することができます。
ですから広場恐怖の圧迫感は比較的少なくてすみます。慣れ親しんだ電車の各駅停車からはじめて、少しずつ行動範囲を広げていきましょう。
各駅停車が乗れるようになれば、時間はかかってしまうけれども電車で目的地につくことができるようになります。スケジュールに余裕をつくっておけば、仕事や旅行といったことも少しずつできるようになっていきます。
④快速や急行、特急や新幹線に挑戦する
つぎのステップは快速や急行、特急や新幹線などです。これらの電車では、ひとつの駅の間隔が長く、電車という閉鎖空間にいる時間が長くなります。なかなか次の駅にとまれないため、「逃げ出せない」という恐怖が強くなりやすいです。
多くのパニック障害の患者さんが苦手としますが、新幹線はゆったりしていて大丈夫という方もいます。「逃げ出せない」「助けが得られない」という感覚は、人によっても異なります。
⑤通勤ラッシュなどの混雑時間の対処を考える
通勤ラッシュは、パニック障害でなくても息がつまる思いがしますね。人に押しつぶされて本当に息苦しい時もありますし、誰でも不安に感じることもあるでしょう。
通勤ラッシュの時間帯に関しては、その考え方は人それぞれです。ここまで来れば、普通に生活する分には支障は少なくなっているかと思います。あとは会社の通勤や約束がある時くらいになります。
通勤ラッシュで克服を目指していくのも一つの方法です。しかしながら、無理して克服しなくてもよいかもしれません。誰でも息苦しくてつらいので、避けるというのも方法です。
早めに通勤して朝に仕事をするようにしたり、ちょっとお金はかかるけれどもグリーン車を利用するのも方法でしょう。
まとめ
電車が動きだすと逃げ場がなくなるので、電車は「自分がコントロールできない状況」になります。電車のような状況を苦手とすることを、広場恐怖といいます。
「電車にのらない」ようにすると、パニック障害は一向によくなりません。パニック障害を克服していくためにも、少しずつ電車を克服していくことが大切です。
パニック発作が電車で起こらないようにするには、パニック障害の治療をしっかりとうけ、パニック発作について理解することが第一歩です。その上で、不安の自己暗示法や過呼吸の対策、頓服などで対処していきましょう。
電車に一切乗れない人はイメージからはじめ、誰かに付き添ってもらうことからはじめてみてもよいでしょう。各駅停車から少しずつ快速や特急などにステップアップしていきます。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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