パニック障害と妊娠・出産・授乳、パニック障害を抱える女性の方へ

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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パニック障害は、男性よりも女性の方が2倍ほど発症しやすいといわれています。そしてパニック障害の平均発症年齢は20~24歳になります。まさに女性にとって、結婚と出産を考える時期に多い病気がパニック障害なのです。

ですから妊娠適齢期の女性がパニック障害と判明した場合は、しっかりと妊娠・出産に関して理解した上で治療をすすめていく必要があります。

パニック障害の治療をしていて妊娠が判明した患者さんも少なくありません。ときには妊娠中にパニック障害にかかってしまう患者さんもいらっしゃいます。

「パニック障害になってしまうと赤ちゃんに悪影響があるのではないか?」「パニック障害のお薬は赤ちゃんに有害ではないのか?」など、心配されるのも無理ありません。

ここでは、パニック障害での妊娠や出産、そして授乳に対する疑問について、詳しくお伝えしていきます。

 

1.パニック障害の治療前に妊娠で気をつけること

主治医と相談しながら、計画を立てて妊娠・出産するようにしましょう。

冒頭でお話しましたが、パニック障害は女性がかかることが多い病気です。医療の世界では、「女性をみたら妊娠を疑え」という言葉があります。妊娠適齢期の女性では、必ず妊娠の可能性も考えて治療をすすめていく必要があります。

風邪の治療など一時的なものであれば、そこまで妊娠のことは考えなくてもすみます。しかしながらパニック障害という病気は、じっくりと治療をしていくことが必要な慢性的な病気です。

ですからパニック障害の治療に当たっては、「妊娠・出産は計画的にしていくこと」がとても大切になります。

計画を立てて妊娠・出産することができれば、それに合わせてお薬を調整することもできます。症状が安定した時期を見計らって妊娠に望めることで、安心して妊活にとりくめます。

治療中に予定外の妊娠が判明してしまうと、お薬の影響はそこまで過度に心配することはないのですが、赤ちゃんに悪影響が及んでしまうこともあります。お薬を急に減薬しなくてはならなくなると、精神状態も不安定になりやすくなります。

事前に相談してくだされば、しっかりと計画を立ててパニック障害の治療をすることができます。パニック症状は、しっかりとしたお薬の効果が期待できます。ですから、焦らずにしっかりと治療してから、計画的に妊活をしてください。

私たち医師も妊娠のことも意識しながら治療はしていきますが、妊娠の可能性がある患者さんはご自身からも主治医に伝えてください。最近は40代でも妊娠出産される方が珍しくはなくなっています。妊娠・出産の可能性をお聞きすることもあるかもしれませんが、気を悪くしないでくださいね。

パニック障害の病気の経過について詳しく知りたい方は、「パニック障害を完治させるには?パニック障害が治るための考え方」をお読みください。

 

2.パニック障害の妊娠への影響

妊娠するとパニック障害が悪くなる人もいますが、むしろパニック障害が落ち着くことの方が多い印象です。

妊娠するということは、とても大きな身体の変化になります。パニック障害の症状には、妊娠はどのように影響するのでしょうか?

妊娠はお母さんにとっては大きな変化です。妊娠初期はつわりで苦しめられ、お腹が大きくなるにつれて身の回りのことも大変になります。気持ちの面でも、さまざまな変化についていかなければいけません。

  • 母になることでの人間関係の変化
  • 仕事をやめることでの生活の変化
  • 自分が良い親に慣れるかという不安
  • 妊娠が順調にすすんでいくかの不安
  • 出産に対する不安

このように、妊娠することは自分が子供をもつことに上手く適応できるかどうかということになります。妊娠を喜ばしいことと感じる方もいれば、否定的な思いをかかえている方もいるかと思います。

こう考えるとパニック障害は悪化してしまうことが多いように感じるかと思いますが、むしろ良くなる方もいらっしゃいます。どちらかというと、症状が良い方に向かうことが多い気がします。

妊娠中に増加するホルモンのプロゲステロンは、GABA受容体に作用して抗不安作用があることが報告されています。妊娠中は精神的な安定が赤ちゃんのためにも必要なので、このようにできているのかもしれません。

パニック障害の患者さんが妊娠すると、症状が悪くなることばかりではありません。むしろ落ち着くこともあるので、心の準備をして妊娠を計画的にすすめていきましょう。

 

3.パニック障害の薬の妊娠への影響

抗うつ剤のうちSSRIは、比較的赤ちゃんへの影響が少ないです。気分安定薬は避けた方がよく、抗不安薬もできるだけ少なくすることが必要です。

妊娠中にお薬を服用すると、お腹の中の赤ちゃんに影響がないか心配してしまう方は少なくないでしょう。なかにはパニック障害の治療をしていて、予定外の妊娠が判明した患者さんもいらっしゃるかもしれません。妊娠中のお薬の影響についてみていきましょう。

妊娠へのお薬の影響は、妊娠の時期によって変わってきます。妊娠のはじめのほうに、一気に重要な臓器が作られていきます。この時期を「器官形成期」といって、最後に生理が終わった日から4~7週になります。

この時期には、お薬のせいで奇形が生じることがあります。催奇形性があるお薬は、避けた方がよいです。とはいっても、この時期は妊娠自体に気づいていないことも少なくありません。

確かにお薬によって奇形のリスクは高まりますが、過度に心配しなくても大丈夫です。そもそも妊娠にはリスクがつきものですし、多くのお薬ではそこまで大きな影響はありません。精神科で使われるお薬のうち、注意すべきお薬をまとめてみました。

妊娠で注意した方がよい向精神薬に関してまとめました。

それぞれのお薬によってリスクが高くなる奇形の内容は、以下のようになります。

向精神薬と奇形

気分安定薬はできるだけ避ける必要があります。パニック障害でよく使われる抗うつ剤のうち、パキシルや三環系抗うつ薬も避けた方がよいですね。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬については、口唇・口蓋裂のリスクが高まるといわれてきました。しかしながら近年では、特にリスクはかわらないと考えられるようになっています。口唇・口蓋裂が治療ができる奇形でもあるため、必要最小限の抗不安薬(リボトリールも含む)でしたら大きな心配はないかもしれません。

 

妊娠の後半は、赤ちゃんの臓器の機能を成熟させていきます。ですから妊娠の後期には、赤ちゃんの発育や機能に影響がみられます。精神科のお薬では、抗不安薬や睡眠導入剤で注意が必要です。

胎盤を通して赤ちゃんに伝わるので、赤ちゃんが薬を飲んでいるのと同じことになります。このため、生まれた直後に筋肉の緊張がなくなってしまい、力なく生まれてきます。

さらに長期でお薬を服用していると、赤ちゃんの身体に薬があ ることが当たり前になっていきます。出産と同時に薬が身体から抜けてしまうことで、離脱症状がでてきてしまいます。SSRIなどの抗うつ剤で特に注意が必要です。

これらの妊娠後期の影響は、赤ちゃんに後遺症を残すようなものではありません。ですから、事前にお薬を飲んでいることを産科の先生が把握していれば、対応ができることがほとんどです。

妊娠のお薬への影響について詳しく知りたい方は、「妊娠への薬の影響とは?よくある6つの疑問」をお読みください。

それぞれのお薬についての妊娠への影響を知りたい方は、
抗うつ剤の妊娠と授乳への影響とは?
精神安定剤・抗不安薬の妊娠への影響とは?」「デパケンの妊娠への影響とは?
ラミクタールは妊娠中でも安全って本当?
をお読みください。

 

4.妊娠中のパニック障害の治療

リスクが高い薬は減薬中止し、お薬を使うべきかメリットとデメリットで考えましょう。お薬を使う場合は葉酸を併用し、使わない場合は漢方薬を使っていきます。事前にしっかりと精神療法を行うことで、お薬の量を減らせることもあります。

それでは実際に、妊娠中はどのようにしてパニック障害の治療をすすめていけばよいのでしょうか?

これには患者さんのパニック障害に対する不安感の大きさと、お薬に対する抵抗の大きさにもよります。どのような治療法があるのかをご紹介していきたいと思います。

①リスクが大きい薬は減薬中止が原則

妊娠中はできるだけ、お薬は少なくしていく必要があります。お母さんが服用したお薬は、胎盤を通して赤ちゃんに伝わっていきます。少しでもお薬が、赤ちゃんに影響しないようにしなければいけません。

リスクが高いお薬は、減薬中止が原則になります。

パニック障害でよく使われるベンゾジアゼピン系抗不安薬は、できる限り減薬をしていきます。できれば、不安が強い時だけの頓服にしていきます。

計画的に妊娠をしていく場合は、認知行動療法などの精神療法を積極的に行うことで、お薬の量を減らせることもあります。

②お薬のメリットとデメリットを考える

このように妊娠中ではなるべくお薬は使いたくありませんが、必要であればお薬を使ってパニック障害の治療をしていった方がよいこともあります。

これはお薬のメリットとデメリットを総合的に判断して、メリットが上回ると判断された時になります。患者さんの病状や考え方によっても変わってくるので、主治医と相談して決めていく必要があります。

お薬のデメリットは、赤ちゃんへの影響を考えてのことです。奇形・出生時の異常・発育障害などが考えられます。

お薬のメリットは、お母さんの精神の安定です。パニック発作に薬なしで耐え、毎日不安に耐えていかなくてよくなります。海外では、パニック発作によって流産してしまったという報告もあります。

妊娠中にクラシックを聞かせると良いなど、「胎教」のよさがいわれています。お母さんがパニック発作に怯えて不安に耐えて過ごしていくことが、胎教にもよくはありません。

このように、お薬によるメリットとデメリットを天秤にかけて考えていく必要があります。自己判断せず、必ず主治医と相談してください。

③薬を使っていく場合の治療法

妊娠適齢期の女性の治療を始めていく時には、はじめからお薬を意識してチョイスしていくことが多いです。妊娠へのリスクが比較的少ないお薬を選んでいきます。

SSRI:レクサプロジェイゾロフトルボックス/デプロメール

SSRIは、妊娠への影響は比較的少ないと考えられています。SSRIによってパニック発作が上手くコントロールされている方は、無理して減量を急がないことも選択肢になります。

抗不安薬に関しては、できるだけ頓服で使っていきます。どのお薬が妊娠で安全か、はっきりとしたものはありません。必要最小限で使っていきましょう。

このように、お薬を使ってパニック障害の治療を行っていく方では、少しでも奇形のリスクを減らすために葉酸(フォリアミン5mg)の服用をしていただくことが多いです。葉酸はビタミンBの一種ですが、神経系の発達に重要といわれています。

④薬を使っていかない場合の治療法

お薬による赤ちゃんへのリスクを絶対に避けたいという場合は、お薬以外の選択肢で治療をしていきます。

この場合にあらかじめ理解していただきたいことが2つあります。

  • 普通の妊娠ですら「絶対に大丈夫」ということはない
  • 症状が不安定になる可能性がある

この2つのことです。普通に妊娠出産しても、先天的な奇形や発育不全がみられることは少なくありません。お薬を飲まなければ絶対に安心ということではありません。

そしてお薬を使わないと、パニック症状が不安定になる可能性があります。このことも理解した上で、夫婦で協力していただくことがとても大切です。

お薬を使わないパニック障害の治療法は、基本的には漢方治療になります。漢方薬で症状を和らげていきます。

パニック障害の漢方治療について詳しく知りたい方は、「パニック障害に漢方薬は有効なのか?病院でのパニック障害の漢方治療」をお読みください。

⑤妊娠中は無理しない

パニック障害は、薬物療法と合わせて精神療法を行っていきます。しかしながら妊娠中では、無理して精神療法をすすめていかなくてもよいです。

とくにお薬も使わずに治療をしていくときには、支えがなくなりますのでパニック症状をコントロールしにくくなります。とくに暴露療法などの不安に立ち向かっていく治療は、妊娠中には負担が大きくなってしまいます。

ただし、ひとつだけ大切なことがあります。それは、現在の生活パターンは変えないことです。妊娠中だからといって少しでも不安なことは避けたり、引きこもったりしてしまうと、不安が悪循環してしまうことがあります。

パニック障害の治療を無理してすすめていく必要はないのですが、現在の生活パターンは変えずに過ごすことが大切です。

なるべく安心できる環境で過ごすことは良いと思います。妊娠中に里帰りをされる方もいらっしゃいますが、実家の両親のもとですと落ち着くと思います。ご主人の実家では気を使ってしまうので、自分の実家の方がよいでしょう。

 

5.パニック障害の出産・授乳への影響

分娩出産時にパニック発作になることは、まずありません。出産後にパニック障害が悪化することがあるので、家族で支え合うことが大切です。授乳に関しては、お薬の影響はそこまで心配いりません。影響を避けたいのでしたら、人工乳保育にしていきます。

パニック障害の患者さんの患者さんの中には、妊娠中にパニック障害が起きてしまったらどうしようと心配される方もいらっしゃいます。

妊娠分娩中は、パニック障害の方が苦手とする「逃げ場がない状況」ですし、「助けが得られない状況」でもあります。パニック発作を心配されるのも無理もありません。

ですが、陣痛が始まるとパニック発作どころじゃなくなります。妊娠分娩のときにパニック発作を起こしてしまったということは、私は経験したことがありません。知人の中堅どころの産科の先生にも聞いてみましたが、これまで経験したことがないとのことでした。

パニック障害は妊娠中よりも、出産後に悪化することが多いです。出産後は、ホルモンは急激に変化します。それだけでなく、子育てをしていくために生活が一変します。赤ちゃんの夜泣きのために、睡眠も満足にとれなくなります。妊娠中に子育てをイメージしていても、実際に体験するのは全く異なります。

マタニティブルーや産後うつ病といった病気があるように、出産後は精神状態が不安定になりやすいのです。パニック障害も、出産後に悪化することが少なくありません。ですから、出産後こそご主人や両親が支えて、赤ちゃんにお母さんが愛情を注げるようにしてあげることが大切です。

授乳の心配をされる患者さんもいらっしゃいます。初乳に関しては、お薬を服用していても赤ちゃんへのメリットが大きいことの方が多いです。その後を人口乳育児をしていくかどうかは、お母さんの考え方にもよります。

薬をのみながら母乳保育をしていく時は、できるだけ安全な薬を使ったり、授乳した直後に薬を飲むなどの服用の工夫をします。一般的に母乳中の薬の濃度が最高になるのは、服用してから2~3時間後です。ですから、そのピークを少しでもずらします。

精神科のお薬は、授乳に関してもどれも大きな問題がないお薬が多いです。授乳へのお薬の影響について詳しく知りたい方は、「授乳中はお薬はどのように影響するのか」をお読みください。

まとめ

パニック障害の患者さんが妊娠・出産を考える時に最も大切なことは、主治医と相談しながら計画的に行うことです。

妊娠するとパニック障害が悪くなる人もいますが、むしろパニック障害が落ち着くことの方が多い印象です。

抗うつ剤のうちSSRIは、比較的赤ちゃんへの影響が少ないです。気分安定薬は避けた方がよく、抗不安薬もできるだけ少なくすることが必要です。

リスクが高い薬は減薬中止し、お薬を使うべきかメリットとデメリットで考えましょう。お薬を使う場合は葉酸を併用し、使わない場合は漢方薬を使っていきます。事前にしっかりと精神療法を行うことで、お薬の量を減らせることもあります。

分娩出産時にパニック発作になることは、まずありません。出産後にパニック障害が悪化することがあるので、家族で支え合うことが大切です。授乳に関しては、お薬の影響はそこまで心配はいりません。影響を避けたいのでしたら、人工乳保育にしていきます。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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