胸の音がヒューヒューしたら喘息?喘鳴のメカニズムについて

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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現在喘息は日本人で400万人以上いるといわれています。しかし一方で本当に喘息と正しく診断された人が何人いるか疑問です。

「聴診してみたら胸の音がヒューヒューするね。これは喘息だ。」

と胸の聴診だけで喘息と診断された人も多いかもしれません。ですがこれだけでは、「喘息の可能性がある」どまりで、「喘息だ!」と確定はできないのです。

胸の音がヒューヒュー聞こえるのは、医学用語で喘鳴(ぜんめい)といいます。喘鳴は、気管支が笛のように狭くなってることを示しています。しかし気管支が狭くなる病気は他にもあります。特に高齢者の方で初めて喘息と言われた人は、喘息でない可能性が高いです。

一方で胸の音が何も聞こえなかったら喘息ではないと言い切れるのでしょうか?実際はそんなことはなく、喘息が隠れていることもあります。

喘鳴とは何か?喘鳴が聞こえなかったら逆に喘息ではないと言い切れるのか?ここでは、喘鳴をテーマにまとめていきたいと思います。

 

1.喘息の定義と症状は?

喘息は、気道の慢性炎症によって繰り返し咳や呼吸困難、喘鳴などがこえる症候群とされています。

全ての病気、さらに言えば名前がついているこの世の全ての物には定義があります。つまり「喘息」という定義を明確にすることで、喘息の診断基準が説明しやすくなります。

喘息の定義は2015年の喘息のガイドラインによれば、

気道の慢性炎症が原因で気道が狭くなったり、気道の過敏性が上がることで繰り返し咳や喘鳴、息苦しさが特徴となる疾患

と定義されています。ここで大切なのは、喘息は何が原因で気道の炎症が起こったり、気道が狭くなっているのかが決まっていないことです。

多くはアレルゲンと呼ばれるある物質に対して、過剰に反応することによって炎症が起こるアレルギー性疾患のことが多いです。これは採血でIgEを調べることで、アレルゲンがあるかないか調べることができます。

しかし喘息の定義では、アレルゲンの有無は関係ないです。実際にタバコやばい菌が感染したことが理由で炎症が起きて、喘息になる人もいます。喘息の原因が何かはっきりしない人も多いです。

もう一つ大切なのは、喘息の症状がこのハッキリと決まっていないことです。症状があったら喘息、なかったら喘息ではないとはっきり言える症状があるわけではありません。つまり胸の音を聞いてみたらヒューヒュー聞こえる喘鳴は、喘息で特徴的な症状の一つですが、絶対になければならない症状ではないのです。

それでは次に、喘鳴について考えてみましょう。

 

2.喘鳴ってどんな症状?

喘鳴とは、聴診で胸の音がヒューヒューと高い音が聞こえることを示します。

喘息の「喘」と同じ喘ぐ(あえぐ)という文字を使って、胸がヒューヒューとすることを喘鳴(ぜんめい)といいます。ヒューヒューと書きましたが、これは聴診したときに聞こえる高い音のことをいっています。笛声喘鳴などともいうように、分かりやすくいうと笛のような音がします。

ではなぜ笛のような音がするか、小学生のリコーダーの授業を思い出してみましょう。リコーダーの音って、打楽器や木管楽器と比べて高い音ではなかったでしょうか?これは笛のように細くなったところを空気が通過するためで、このように高い音がなるのです。

リコーダーのように細くなってる部位に空気が勢いよく通過することで乱流がうまれて、結果として高い音になります。

喘息もリコーダーと全く同じ原理です。炎症によって気道が細くなればなるほど、高い音になります。さらに気道の細くなるところに空気が勢いよく通過すればするほど、高い音になります。

しかし気道が狭くなる病気は、喘息以外にもたくさんあります。喘鳴からわかることは、気道が狭くなったということだけです。喘息以外で気管支が狭くなる病気としては、

  • 心不全
  • 肺気腫
  • 肺炎
  • 気管支内異物

など、あげると沢山あります。そのため喘鳴が聞こえた=喘息ではないことが大切です。

 

3.喘息では喘鳴しか異常音は聞こえないのか?

喘息では、逆にグーグーといびきの様な低い音が聞こえることもあります。

気道とは、細い管がつながってできている臓器です。管が細くなることで笛のような音がする喘鳴以外に、喘息で聞こえる聴診音はあるのでしょうか?もう一つ、喘息でよく聞かれる音があります。

それは、気道の太い部分が炎症することで生じる音です。この時はどのような音が聞こえるかというと、グーグーといったいびきの様な音になります。

慢性的な炎症が気管支に起きれば、どこに起こっていても喘息と定義します。ですから、太い気管支に炎症が起きていびきの様な音になるのも喘息の症状です。

気道で太い部分はどこでしょうか?鼻や口から入った空気は、喉を通過して気道に入ります。気道は喉からちょうど胸の真ん中付近で左右に分かれるのですが、その左右に分かれる前までが一番太いです。

左右に分かれてどんどん枝分かれすればするほど細くなります。つまり真ん中から離れて末梢に行くほど気管支は細くなります。高い音が聞こえる時は、この細部がさらに細くなっている証拠です。

逆にいびきの様な音は、気道の中心部で炎症が起きている証拠です。中心部は太いので、少し炎症が起きて細くなっただけではいびき音はなりません。炎症が起きて痰が湧き出てきた時に、このいびき音が聞こえることが多いです。痰に吐く息がぶつかって音の勢いがなくなると同時に、痰にぶつかって痰が震える時にいびきの様な音が響きます。

このように、ヒューヒューじゃなくてグーグーと低い音だから喘息ではないとは言い切れません。また末梢の気管支が狭まって太い気管支に痰が溜まってるような時は、グーグーといういびき音とヒューヒューした高調音が混ざることがあります。

 

4.喘息では必ず聴診で異常音が聞かれるのか?

喘息は色々なタイプがあり、胸の音が綺麗な場合もあります。さらに重症な場合は、全く胸の音が聞こえなくなります。

喘息は気道の慢性炎症によって気道が狭くなる病気です。ですが、狭くなっても音が良くこえないことは多々あります。

例えばリコーダーも、吐く息の量が少ないと音が小さくなりますよね?聴診も一緒で、吐く息が小さいと笛の音が良く聞こえないことがあります。

リコーダーで大きな音を出すにはどうすればいいか?思いっきり勢いよくフーー!!と吐くと音は大きくなると思います。

喘鳴も理屈は一緒です。喘息を疑ってるのによくこえないときは、思いっきり息を吐いてもらいます。ただし思いっきり息を吐いてとお願いすると、深呼吸のようにゆっくり大きな呼吸をする人もいます。そのため、

「ロウソクの火を消すみたいに勢いよく息を吐いて」

と説明することが多いです。このような息を吐いていただく方法を、強制呼気といいます。思いっきり吐くと咳をしてしまってうまく聞こえないこともありますが、喘鳴が聞こえる人も中にはいます。

ただしどんなに息を吐いてもらっても、きれいな聴診音の喘息の方も中にはいます。

これは気道に慢性的な炎症があっても、胸の音が変わるほど気道が狭くなってない喘息のタイプです。

  • 咳喘息
  • 咳優位型喘息

などのタイプが当てはまります。これらの病気を鑑別するのは実はすごく難しいのですが、話が大きくなるので今回は喘鳴が聞こえないタイプの喘息があるにとどめておきましょう。

また普段は喘鳴がこえる人でも、重篤になることで全く音がこえなくなってしまうこともあります。リコーダーを吹く息の力がなくなってしまったと考えてみると分かりやすいかもしれません。

これは「Silent chest(サイレントチェスト)」

といって、普通の息の音も消えてしまい非常に危ない状態です。

このように胸の音は、重症度やタイプで様々な様相を呈します。胸の音は喘息を考えるうえで大切な所見ですが、胸の音だけで喘息かどうか、さらに状態はどうか?を鑑別するのは難しいと認識しておくことが大切です。

そのため、胸の音と合わせて様々な検査で診断および評価することが大切になります。

 

まとめ

  • 喘息は気道の慢性炎症が原因で気道が狭くなったり、気道の過敏性が上がることでおこる疾患です
  • 喘鳴は気道が細くなることで高い音が聞こえる状態です。
  • 気道が狭くなる病気は喘息以外にもたくさんあるので注意が必要です。
  • 喘息は喘鳴以外に低い音が聞こえることもあります。
  • 喘息は聴診で異常がなくても除外できない病気です。

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