花粉症の治療薬・治療法の選び方

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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毎年春になったら花粉症の季節がやってきます。目の痒み・鼻水・鼻づまり・くしゃみなどの症状があなたを襲うと思います。

花粉症のお薬について調べていただくとお分かりかと思いますが、実にたくさんのお薬があります。花粉症のお薬として最もよく使われているのが、抗ヒスタミン薬です。抗ヒスタミン薬だけでも現在30種類くらいありますし、最近ではアレグラFXやアレジオン20などの市販薬も発売されています。

こんなに種類が多いと、どのお薬を使えばよいのか悩んでしまうかと思います。抗ヒスタミン薬以外にも、花粉症には様々なお薬があります。花粉症にはどんなお薬があって、それがどのような効果と副作用があるのでしょうか。

ここでは、そんな花粉症の治療薬をどのように選んでいけばよいのかについて、実際の臨床の現場医師の視点からお伝えしたいと思います。

 

1.花粉症の治療のガイドラインはどうなっているの?

鼻づまりが強いケースとくしゃみ・鼻水が強いケースに分けられています。抗ヒスタミン薬を中心に、様々なお薬が使われます。減感作療法も推奨されています。

世の中には様々な病気がありますが、いずれの病気も治療に関してガイドラインが作られています。ガイドラインは研究や専門家の意見をあわせて、現在わかっている最も信頼性の高い治療法になります。

花粉症にもガイドラインがありますので、治療もガイドラインに沿って行っていきます。つまり、医師がどう花粉症に対してお薬を使っていくかはガイドラインを読むのが一番わかりやすいです。2016年のアレルギー性鼻炎の治療ガイドラインは、以下の表のようになります。

2016年の鼻づまりの治療ガイドラインをまとめました。

2016年ガイドラインにおける、くしゃみ・鼻汁の治療をまとめました。

2016年鼻アレルギーガイドラインを元に作成

花粉症の治療を考えていくにあたっては、鼻づまりタイプとくしゃみ・鼻水タイプに分けて考えるのが一般的です。これはなぜかというと、花粉症の第一選択肢であるお薬は抗ヒスタミン薬が関係しています。中等症・重症の治療をみると、どちらのタイプでも必ず抗ヒスタミン薬を使っていることからも一目瞭然かと思います。

抗ヒスタミン薬は花粉症の症状に対して、総合的に最も効果が期待できるお薬なのです。花粉症の方は日本で2000万人と推定されてますが、半分の方は抗ヒスタミン薬だけでコントロールできていると思われます。

ただし抗ヒスタミン薬は、鼻づまりに対しての効果が弱いという弱点があります。そのため鼻づまりが強い方に関しては、抗ヒスタミン薬以外のお薬を積極的に考慮する必要があります。一方でくしゃみ・鼻水に関しては、抗ヒスタミン薬が最も効果があると考えられます。

近年では、花粉症が起こる前に治療を始める初期療法が注目を集めるようになりました。スギ花粉が大量に散布される1か月前からお薬を飲んでおいて、あらかじめアレルギーに対して防御態勢をとっておくのです。

症状が出てからお薬を飲むよりも、花粉症の症状が軽減されることがわかっています。抗ヒスタミン薬だけでなく、抗ロイコトリエン薬、アラミストナゾネックスといったステロイド点鼻薬でも、1か月前から継続的に投与することで症状が軽減することがわかりました。このため症状が出てからお薬を服用するのではなく、2月初旬から花粉症のお薬を服用することでさらなる効果が期待できるのです。

また、数年の治療期間を要して花粉症に慣らす減感作療法が注目を集めており、ガイドラインでも推奨されるようになってきました。これまでは注射による治療しかありませんでしたが、2014年より舌下投与での治療薬であるシダトレンも発売となり、一層注目を浴びています。この減感作療法に関しては最後に後述します。それでは花粉症の治療について、順番に見ていきましょう。

 

2.花粉症治療の前に、花粉症で間違いないか?

鼻汁の好酸球・採血でのスギの抗原特異的IgEまたは皮膚試験・鼻粘膜抗原誘発検査の3つの検査のうち、2つが陽性ですと花粉症と診断されます。

毎年花粉症の症状で悩まされている人は確信をもって花粉症だとわかる方が多いと思いますが、今年初めて目や鼻の症状が春先に出現したという人も多いかと思います。「花粉症の症状が春先に出現したら、花粉症で決まり!」というわけにはいきません。どんな病気にも診断基準というのがあります。その診断基準を満たして初めて病気が確定診断できるのです。

花粉症の診断基準は、「くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみ」の4大症状のいずれかを認めることが前提条件です。その上で、検査を行います。

  1. 鼻水(鼻汁)中の好酸球
  2. 抗原特異的血清IgE抗体検査または皮膚試験
  3. 鼻粘膜抗原誘発検査

この3つの検査で2つ陽性ですと、花粉症と診断されます。さらに確定診断がつかないときは、鼻鏡検査・副鼻腔X線検査・眼底検査なども考慮するとガイドラインには記載されています。

しかしながらこれらの検査をした人は、花粉症の治療をしている人にどれくらいいるでしょうか?日本人は現在2000万人近く花粉症と言われていますが、ほんの一握りしか確定診断は受けられていないと思います。

診断的治療といったりもしますがも、症状から花粉症とあたりをつけて抗ヒスタミン薬を内服してみます。それで効果があれば花粉症だろうとしていることがほとんどでしょう。ただし抗ヒスタミン薬でも効果がなくてこのページをみられている方は、今一度本当に花粉症かどうか立ち止まって考えてみる必要があるかもしれません。

上にあげた検査のうち最もやった方が良い検査は、抗原特異的血清IgE抗体検査です。採血でどの物質がアレルギーを起こしているかが分かるためです。スギが悪者だと思ってたらヒノキも陽性だった…なんてことはよくあります。

ぜひこのページを読む前に自分が本当に花粉症か疑問な方は、「私の症状は花粉症?花粉症か風邪かのセルフチェック」を読んでみてください。

 

3.花粉症の治療の第一選択肢は抗ヒスタミン薬

花粉症の治療は、まずアレグラやザイザルなどの抗ヒスタミン薬を試してみます。

花粉症のお薬=抗ヒスタミン薬といっても過言ではないくらい、現在は抗ヒスタミン薬が花粉症の治療の大黒柱です。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミン受容体をブロックすることでアレルギー反応を抑えて効果を示します。

抗ヒスタミン薬の種類としては下記のものがあげられます。

抗ヒスタミン薬の種類について一覧にしました。

花粉症の大黒柱だけあって、抗ヒスタミン薬は様々な種類があります。第一世代抗ヒスタミン薬は、副作用がかなり強いお薬です。第二世代抗ヒスタミン薬は効果はそのままに、副作用を抑えたお薬になります。ですから現在は、ほぼ第2世代を使っているかと思います。

第二世代抗ヒスタミン薬にも数多く種類があります。抗ヒスタミン薬は副作用が少なくなったとはいえ、眠気が問題になることが多いです。効果が強ければ強いほど、眠気が強くなるお薬が多いです。第二世代抗ヒスタミン薬の中で何を選ぶかは、効果と眠気のバランスによって決まってくることが多いです。花粉症の効果と眠気の関係を下の表にまとめてみました。

第二世代抗ヒスタミン薬の効果と眠気の強さを表にしました。

現在主流で使われている第二世代抗ヒスタミン薬は、左下から真ん中にかけてのお薬です。右上のお薬は眠気が強いので、あまり使われることがありません。

  1. 運転する仕事などで眠気が出現したら困る方:アレグラ・クラリチン
  2. 花粉症の症状をしっかりととりたい方:ザイザルアレジオン・タリオン
  3. 花粉症の症状が強い方:アレロック・ジルテック

このような形で、効果と眠気との兼ね合いでお薬を使っていくことが多いです。できるだけ眠気が少ないに越した方がよいので、①か②ではじめていくのがスタンダートでしょう。特にアレグラ・クラリチンは眠気の副作用が少なく、抗ヒスタミン薬でも運転の注意の記載がないお薬です。その分だけ効果はマイルドになります。

ただしご注意いただきたいのは、上の表はあくまで目安に過ぎないことです。実際の効果や副作用は人によっても異なりますので、ザイザルよりもアレグラの方が眠くなったという方は度々います。

アレグラで眠くなってしまった方でも、クラリチン・ザイザル・アレジオン・タリオン・アレロック・ジルテックなどは試してみてもよいかと思います。これらの治療で上手くいかない場合もあります。

  • どの抗ヒスタミン薬でも眠気が出て困る人→「4.抗ヒスタミン薬で眠気が気になる軽症な方へ」
  • どの抗ヒスタミン薬でも症状がコントロールできない人→「5.抗ヒスタミン薬だけではコントロールできない方へ」

を読んでみてください。

 

4.抗ヒスタミン薬で眠気が気になる軽症な方へ

軽症な場合は抗ヒスタミン薬の他に、遊離抑制薬、抗ロイコトリエン薬、抗プラスタグランジンD2+トロンボキサチンA2薬、Th2サイトカイン阻害薬が推奨されています。

抗ヒスタミン薬の眠気がどうしても気になる方は、

  1. 遊離抑制薬:リザベン
  2. 抗ロイコトリエン薬:シングレアキプレスオノン
  3. 抗プラスタグランジンD2+トロンボキサチンA2:バイナス
  4. Th2サイトカイン阻害薬:アイピーディ

が推奨されています。順番がついていますが、これは効果や優先順位とは関係ありません。ただし花粉症の症状でも鼻づまりが強い方は、抗ロイコトリエン薬の推奨度が高いです。

その他のお薬で、特別これが効果があるということはありません。どのお薬が良いかに関しては、それぞれのお薬の特徴を読んで選ばれるのが良いかと思います。

また内服薬がどうしても嫌だという方は、

で加療するのも一つの方法です。

 

5.抗ヒスタミン薬だけではコントロールできない方へ

花粉症の症状の中で、鼻づまりが強いか、くしゃみ・鼻水が強いかで分けて考える必要があります。

抗ヒスタミン薬は、鼻閉(鼻づまり)に対して効果が弱いという弱点があります。鼻閉が起こる原因は、ヒスタミンよりもロイコトリエンの作用によるためです。ロイコトリエンが鼻の血管を刺激して血管を拡張させ、血液の成分を漏出させます。その結果、鼻の血流がうまく回らなくなって鼻の粘膜が腫れ、鼻づまりを起こします。

このように、花粉症の症状が鼻づまりによる症状が強いかくしゃみ・鼻水の症状が強いかで、ガイドラインも治療法が分かれています。

 

5-1.鼻づまりが強い方は?

抗ヒスタミン薬が鼻づまりに対してあまり効果を示していないと考えられます。その場合は、抗ロイコトリエン薬(シングレアキプレスオノン)に切り替えを考慮しても良いと思います。

抗ヒスタミン薬が鼻づまりには効果が不十分でも、目のかゆみやくしゃみはうまくコントロールできていることもあります。このため、切り替えるのに抵抗がある人もいるかと思います。

そういった場合は、抗ヒスタミン薬に抗プラスタグランジンD2+トロンボキサチンA2(バイナス)やステロイド点鼻薬(ナゾネックスアラミスト)を組み合わせるのも一つの方法です。

ステロイドと聞くと怖いと思われる方もいらっしゃいますが、ステロイド点鼻薬は鼻粘膜だけで作用するので全身に作用するわけではありません。ステロイド点鼻薬は副作用も少ないためお勧めです。

アレグラで他の症状がコントロールできている人は、ディレグラを試してみるのも一つの方法です。ディレグラは、アレグラに塩酸プソイドエフェドリンというα交感神経刺激薬を加えたお薬です。α交感神経を刺激することで、鼻の血管が収縮して結果として鼻づまりに対して効果を示すのです。

鼻づまりが強い人はそもそも鼻の奥の構造に問題がある人もいるかもしれないので、耳鼻科の受診が勧められています。もし鼻の奥のどこかが狭くなっていたら、その部位を手術することも考慮するようにガイドラインでは記載されています。

 

5-2.鼻水・くしゃみ・目の症状が強い方は?

抗ヒスタミン薬に加えて、点鼻薬(ナゾネックスアラミスト)や点眼薬(リボスチンアレジオン)を加えることで効果を高めていきます。

点鼻薬はおもにステロイド点鼻薬が使われます。点眼薬に関しては、まずは抗ヒスタミン薬の点眼薬が使われます。目の痒みがこれでも抑えられない人は、フルメトロンなどのステロイドの点眼液を使うことになります。

ただしステロイド点眼液は、緑内障や白内障といった目の病気を引き起こすリスクのある点眼薬です。高齢の方ですと、多くの方が発症している可能性があります。そのためステロイド点眼薬を使うほど目の痒みが強ければ、まず眼科を受診して目の精査をしてからフルメトロン点眼薬は使用した方が良いです。

 

6.花粉症治療にステロイドは使うべき?

花粉症にステロイドを使うかどうかは、医師によって判断が分かれます。ガイドラインでも、症状が強い場合に短期間のみとなっています。

これまでの治療法で上手くいかなかった場合、ガイドラインでも積極的には勧められていないものの治療法はあります。一時的にステロイドを内服することです。

プレドニゾロンでしたら5~10mgで使っていきます。花粉症によく使われるステロイド剤としては、セレスタミンがあります。セレスタミンはステロイドの配合剤で、1~2錠/日で使われます。

これまで出てきたお薬は、アレルギーの機序の一部に作用するお薬でした。抗ヒスタミン薬ならば、アレルギー誘発物質のヒスタミンをブロックします。これに対してステロイドは、ほぼ全ての免疫を抑制するお薬です。花粉症はスギ花粉に対して免疫が過剰に反応しているアレルギー疾患のため、ステロイドの効果は抜群です。

ただしステロイドは、効果だけでなく副作用も強いお薬です。そのためガイドラインでも、ステロイドの処方は短期に留めるように記載されています。このように、ステロイドを使うべきかどうかについては、ガイドラインでも消極的になっています。この原因としては、以下のような治療上のジレンマがあるからです。

  • 花粉症は重症化しても命にかかわることが少ない疾患である
  • ステロイドは副作用が起きやすいお薬である

このことを踏まえて、医師がメリットとデメリットの天秤に乗せて考える必要があります。ですから医師によっても判断がことなります。ステロイドを使うことに抵抗がない先生もいれば、「花粉症にステロイド薬は出さないので我慢しなさい」という先生もいるのです。

 

7.花粉症の症状がそれでも良くならない人は?

花粉症の症状が強い方は、症状が出る前に準備をしておくことが大切です。

ガイドラインでは共通して「抗原回避」という一文が記載されています。

抗原回避とは、つまりは「スギ花粉に近づかないようにしましょう」ということです。その具体的な方法について詳しく知りたい方は、「花粉症の予防と対策」をお読みください。花粉症が重症の方はもちろん、軽症の方でも花粉を防ぐように意識してください。とくに花粉が多い日には、しっかりと花粉を回避する対策をとりましょう。

そして花粉症は、毎年やってくる疾患です。花粉症などのアレルギーは、自己免疫の炎症性疾患です。「炎症」の炎という字をイメージしやすくするために、家が火事になった時のことを思い浮かべてください。

家が全焼してしまうとなかなか火を消すのが大変だと思います。いくら水をかけても隣に燃え広がってしまって、なかなか消えません。花粉症もこの火事と同じで、重症な人は家が全焼している状態だと考えてください。つまり、全焼してから水(=お薬)で完全に火を消そうとしても、後の祭りになってしまいます。

そのため、症状が薬だけではコントロールできずに苦しんでる人は、事前に準備することが大切です。春先に火事になることが分かっているのであれば、あらかじめ燃えにくくしておくことが大切になります。

その方法として、花粉症治療薬による初期療法を行います。花粉症の症状が出る一カ月前より治療を開始することで、症状をより抑えることが可能になります。花粉が飛び始めて症状が出る前に、あらかじめ薬を使って備えておくのです。

鼻づまりが毎年強い人は、

鼻水が毎年強い人は、

の内服が推奨されています。さらに2016年には、点鼻薬(ナゾネックスアラミスト)が初期療法の適応に加わりました。

さらに火事にならないようにする準備としては、減感作療法があります。木造を鉄骨にかえるように、体質をかえていく治療法になります。減感作療法は、数年間かけてスギ花粉に慣らさせてる治療法です。そのため以下の二つの事を肝に銘じておかないと、「せっかく治療を始めたのに全然効かない!!」となってしまいます。

  • スギ花粉に慣れるまでは2年~7年と長い年月がかかる
  • 花粉症を完全に治すわけではなく、症状を軽くする治療である

ここをよく理解して減感作療法を始めていくようにしましょう。スギ花粉に慣れさせる方法は2つあります。

  1. 毎月注射を打つ減感作療法
  2. 毎日舌下投与するシダトレン投与療法

どちらも効果は同じなので、続けられる方法で治療しましょう。このように花粉症の症状が強い人は、症状が出てから何とか治療しようとするのではなく、症状が出る前からスギ花粉に対して準備しておくことが大切です。

 

まとめ

  • 花粉症の治療の第一選択肢は抗ヒスタミン薬です。
  • 抗ヒスタミン薬は鼻閉に対して効果が弱いので、その場合は抗ロイコトリエン薬など他のお薬に検討したり、抗ヒスタミン薬にα刺激薬を加えたディレグラなどを検討する必要があります。
  • 抗ヒスタミン薬で症状がコントロールできない場合は、点鼻薬や点眼薬の追加を考慮します。
  • 花粉症の症状が強い方は、事前に治療をしておくのが大切です。初期療法や減感作療法などを積極的に考慮していきましょう。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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