甘麦大棗湯【72番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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甘麦大棗湯は、一般的には子どもや女性に使われることの多い漢方薬です。イライラや興奮を鎮める効果が期待でき、情緒が不安定なときに使われる漢方薬です。

甘麦大棗湯は、ソースなどの甘味料である甘麦、パンの減量である小麦、ナツメのみである大棗の3つの生薬を合わせたものです。普通に日常的な食品の組み合わせですが、3つが合わさることで鎮静作用が期待できるので面白い漢方薬です。

漢方薬としての甘麦大棗湯の効果は漢方薬の中では早く、頓服薬としても処方することもあります。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、甘麦大棗湯は「ツムラの72番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される甘麦大棗湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.甘麦大棗湯【72番】の生薬成分の効能

甘草は筋弛緩作用があるので緊張を和らげ、小麦と大棗には鎮静作用が期待できます。3つの生薬が合わさって、甘麦大棗湯には筋弛緩作用・鎮静作用が期待できます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

甘麦大棗湯は、3種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 甘草(5.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 小麦(20.0g):鎮静作用・催眠作用
  • 大棗(6.0g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

甘麦大棗湯は3種類の生薬からできています。甘草は筋弛緩作用があり、筋肉の緊張を和らげます。小麦と大棗には、体を冷やして興奮を鎮める鎮静作用があります。

甘草と大棗の2つの生薬は相性が良く、胃腸の働きを促進させてくれます。これに小麦が加わることで、ひとつひとつの生薬の効果が増強されます。3つの生薬を合わせることで、より鎮静効果が期待できるのです。

甘麦大棗湯には、甘草が他の漢方薬と比べると非常に多く含まれています。甘草の効果は比較的早く認められるので、イライラや不安、緊張といった切迫した症状を改善することも期待できます。

このように甘麦大棗湯には、緊張を和らげれて気持ちを鎮める作用があります。そしてその効果は、漢方薬の中では比較的早く期待できます。

甘麦大棗湯の生薬についてまとめました。

2.甘麦大棗湯の証

陰陽(陰~中間)・虚実(虚~中間)・寒熱(熱)・気血水(気逆)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。漢方の代表的な証には、「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」の4つがあります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

甘麦大棗湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰症~中間証
  • 虚実:虚証~中間証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:気上衝(イライラ・緊張・不安・のぼせ)

 

3.甘麦大棗湯の効果と適応

  • 女性の不安障害
  • 小児の夜泣きやひきつけ
  • 体力が虚弱な人の不安・不眠などの症状
  • 不安発作・パニック発作の頓服

甘麦大棗湯は、「金匱要略」という漢時代の古典書に紹介されています。些細なことで悲しんだり、不安と不眠にとりつかれていてあくびを頻発するような人に向いている漢方薬と書いてあります。

甘麦大棗湯には、筋弛緩作用と鎮静作用が期待できます。このため、身体の緊張状態を改善して不安や興奮を和らげる効果が期待できます。

従来から女性の不安障害、子供の夜泣きやひきつけに使われてきた漢方薬でした。どちらかというと体力のない虚弱な方に適した漢方薬です。腹直筋をみて筋肉の緊張が強い時に使われてきました。

甘麦大棗湯は、漢方薬の中では効果が早いです。このため、頓服薬として使われることもあります。不安が発作的に高まる時や、神経が過敏になって眠れなくなってしまう時には、鎮静作用野ある甘麦大棗湯を頓服としても使います。

なお、添付文章に記載されている甘麦大棗湯の適応は以下のようになっています。

夜泣き・ひきつけ
使用目標:比較的体力の低下した人で、精神興奮がはなはだしく、不安、不眠、ひきつけなどのある場合に用いる。

 

4.甘麦大棗湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

甘麦大棗湯は、ツムラ・コタロー・オオスギから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。甘麦大棗湯では、ツムラは7.5g、コタロー・オオスギは9.0gになっています。

甘麦大棗湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかになり、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。甘麦大棗湯では後者の目的で、空腹時の方が吸収はよくなります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.甘麦大棗湯の効き目とは?

甘麦大棗湯の効果は比較的早く、頓服としても使われることがあります。

それでは、甘麦大棗湯の効き目はどのような形でしょうか。

甘麦大棗湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで抗不安薬などを使っていた方が、甘麦大棗湯のおかげでほとんど使わなくて済むこともあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

甘麦大棗湯は、他の漢方薬と比べると効果の実感が早いお薬です。服用した直後から効果が期待できる方もいるので、頓服として使っていくこともあります。とくに身体の緊張が強い方には、頓服として効果がある印象です。

このように、頓服としても使える漢方薬は珍しいです。漢方だけで治療をしていきたいという方だけでなく、抗不安薬を増やすことが適切でない方に対して、私は甘麦大棗湯を重宝して使っています。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.甘麦大棗湯の副作用

甘麦大棗湯では、生薬固有の副作用として偽アルドステロン症に注意が必要です。小麦にアレルギーがある方も気を付けましょう。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

 

また、食べ物でもアレルギーがあるように、どんな生薬にもアレルギーがあります。とくに甘麦大棗湯は、小麦が含まれています。小麦アレルギーがある方は服用してはいけません。

他の生薬にもアレルギーは起こりえるので、鼻炎や咳といった上気道症状、薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

 

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

甘麦大棗湯の生薬成分の甘草は、大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。「偽アルドステロン症」と呼ばれる機能異常によって、高血圧やむくみ、低カリウム血症などが認められることがあります。低カリウム血症によって、筋肉のけいれんや麻痺が起こることがあります。このような症状があらわれたら服用を中止し、すぐ主治医に報告してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

甘草は筋弛緩作用があるので緊張を和らげ、小麦と大棗には鎮静作用が期待できます。3つの生薬が合わさって、甘麦大棗湯には筋弛緩作用・鎮静作用が期待できます。

陰陽(陰~中間)・虚実(虚~中間)・寒熱(熱)・気血水(気逆)

甘麦大棗湯は、以下のような方に使われます。

  • 女性の不安障害
  • 小児の夜泣きやひきつけ
  • 体力が虚弱な人の不安・不眠などの症状
  • 不安発作・パニック発作の頓服

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