睡眠薬(眠剤)の種類とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
睡眠薬は、不眠で苦しんでいる方にはなくてはならないお薬です。私も不眠で苦しんでいた時期が長いので、ベッドで寝付けずにうなされている時間の辛さは身に染みて感じています。
今日では、さまざまな睡眠薬が開発されています。患者さんの不眠の状態にあわせて、医師は睡眠薬を選んで処方しています。現在の睡眠薬は安全性が高くなってはいますが、もちろん副作用もあります。漫然と使っていると依存してしまうこともあるので、注意が必要です。
睡眠薬にはどのような種類があるのでしょうか?
ご自身が飲まれている睡眠薬はどのようなお薬なのでしょうか?
正しく理解して、睡眠薬を適切に使っていくことが大切です。ここでは、睡眠薬にはどのような種類があるのか、特徴をふまえてご紹介していきたいと思います。
1.睡眠薬の5つの種類と開発の歴史
バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系・メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体拮抗薬の5つの種類に分けられます。
睡眠薬の開発の歴史は、1864年に発見されたバルビツール酸系のバルビタールから始まります。1903年に睡眠薬として発売されて、不眠の薬物療法の歴史がはじまりました。しかし、パルビツール酸系睡眠薬は耐性(薬が慣れて効かなくなること)や依存性を形成しやすく、呼吸中枢を強く抑制してしまい、死に至ることもありました。このため、「睡眠薬は恐ろしい薬」という印象を社会に植えつけられました。
1950年代になってから、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が開発されました。従来のバルビツール酸系とは異なり、安全性は格段に高くなりました。しかしながら、耐性や依存性の形成しやすさは残ってしまい、漫然とした使用には気を付けなければいけません。
1980年代になると、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場しました。従来のベンゾジアゼピン系と同じ受容体に作用しますが、睡眠作用にしぼられていて副作用が軽減しています。依存性も低い睡眠薬ですので、現在もっともよく処方されている睡眠薬です。
現在の睡眠薬の中心は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の2つです。ですが、より副作用が少ない睡眠薬を目指して開発がすすめられてきました。睡眠に関する研究も進み、体内時計のリズムを調整するメラトニンというホルモン、覚醒状態から睡眠状態へのスイッチの働きをするオレキシンなどの物質などがわかってきました。
これらを利用した睡眠薬は、人が本来もっている睡眠メカニズムを利用した睡眠薬です。このため、従来の睡眠薬のように脳の機能を落として、強制的に眠りにつけるのとは異なります。より自然に近い形での眠気を促してくれます。このような睡眠薬として、2010年にメラトニン受容体作動薬のロゼレム、2014年にオレキシン受容体拮抗薬のベルソムラが発売されました。
このように、現在の睡眠薬は大きく5つの種類に分けられます。
それでは、それぞれの睡眠薬についてみていきましょう。
2.バルビツール酸系睡眠薬
バルビツール酸系は、非常に効果が強力な睡眠薬です。1990年代前半はこのタイプしかなかったので、よく使われていました。効果が強いために、副作用も強くなってしまいます。日中に残ると眠気やだるさ、筋弛緩作用によるふらつきが認められます。
また、使い続けているとすぐに身体に薬が慣れてしまって効かなくなります。効果の実感も強い薬なので、「もっと増やしたい」という気持ちがまさってしまって、どんどんと量が増えて依存してしまいます。
このように量が増えていってしまう危険性に加えて、バルビツール酸系睡眠薬は安全性も低いです。薬を使いすぎてしまうと呼吸抑制がかかってしまい、死に至ることもある睡眠薬なのです。
このような睡眠薬ですので、ベゲタミン以外は第2種向精神薬に指定されています。これにより2週間の処方制限がされている睡眠薬です。現在では、どうしても不眠が改善しない時だけに使われる睡眠薬です。私は、めったにこのタイプの睡眠薬は処方しないようにしています。
3.ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ベンゾジアゼピン系は、バルビツール酸系と同じメカニズムに作用して睡眠効果を導きます。ですが、バルビツール酸系と比べると格段に安全性が高くなっています。効果も多少減弱してしまいますが、睡眠効果としては十分なものが期待できます。
副作用としては、日中の眠気や健忘、筋弛緩作用によるふらつきなどがあります。また、軽減されたとはいえ耐性や依存性は認められるので、漫然とした使用には気を付けなければいけません。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、非常に多くの種類の商品が発売されています。睡眠の状態に応じて、薬の「強さ」と「作用時間」によって選んでいきます。
作用時間の長さは、4つのタイプに分類することができます。(※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬も含みます)
- 超短時間型:効果のピークは1時間未満、作用時間は2~4時間
(ハルシオン・マイスリー・アモバン・ルネスタ) - 短時間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は6~10時間
(デパス・レンドルミン・エバミール/ロラメット・リスミー) - 中間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は20~24時間
(ロヒプノール/サイレース・ベンザリン/ネルボン・ユーロジン・エリミン) - 長時間型:効果のピークは3~5時間、作用時間は24時間~
(ドラール・ベノジール/ダルメート・ソメリン)
超短時間型や短時間型は、薬の効果がすぐに出てきます。即効性が期待できるので、入眠障害に有効です。短時間型では睡眠中を薬がカバーできるため、中途覚醒にも有効です。
中間型や長時間型は、身体に薬が少しずつたまって効果が出てきます。中間型は4~5日かけて、長時間型は1週間以上かけて効果が安定します。どちらも寝つきやすい土台を作っていくようなお薬です。中途覚醒や早朝覚醒に有効です。
4.非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
非ベンゾジアゼピン系は、ベンゾジアゼピン系を改良した睡眠薬です。効果の強さはベンゾジアゼピン系には及びませんが、睡眠作用に効果をしぼった睡眠薬です。副作用となる筋弛緩作用が少なく、ふらつきや転倒の副作用が少ないです。
このタイプの睡眠薬は作用時間が短いものしかなく、どれも超短時間睡眠薬に分類されます。このため、入眠障害を中心にした効果を期待する睡眠薬です。また、作用時間が短い睡眠薬は健忘の副作用を起こしやすいです。急激に睡眠状態に導くので、中途半端な覚醒状態にしてしまうためです。その結果、海馬を中心とした記憶に関わる部分の機能だけが落ちてしまいます。
耐性や依存性に関してはベンゾジアゼピン系睡眠薬よりも少なく、安全性の高さからよく処方されている睡眠薬です。
5.メラトニン受容体作動薬
メラトニン受容体拮抗薬は、体内時計のリズムを調節するメラトニンというホルモンに働きかけます。メラトニンは、生理的には夜の20時頃から分泌が増加して、深夜の2時頃にピークとなります。そして明け方になると減少していきます。メラトニンは視床下部の自律神経に働きかけることで、睡眠と覚醒だけでなく様々な身体の機能を整えています。
メラトニン受容体作動薬は、このメラトニンが作用する受容体を刺激することで眠気を導く薬です。本来の睡眠メカニズムに作用するため、自然に近い眠気を促してくれる睡眠薬です。このため、副作用が少なく、依存性の心配もありません。残念ながら効果は弱いです。
即効性はあまり期待できず、飲み続けていくことで効果を期待する睡眠薬です。少しずつ睡眠全体が改善していくような睡眠薬です。熟眠障害に効果が期待できます。中途覚醒や早朝覚醒にも少しずつ効果はでてくるでしょう。
メラトニン受容体拮抗薬には、体内時計のリズムを整える働きもあります。このため、生活リズムが乱れてしまう方には効果が期待できます。この効果には即効性が期待できます。
現在発売されているメラトニン受容体作動薬は、2010年に発売されたロゼレムのみとなっています。
6.オレキシン受容体拮抗薬
オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒状態と睡眠状態のスイッチに重要な働きをしているオレキシンに働きます。覚醒状態と睡眠状態は、「日中は起きて、夜は寝る」といったようにメリハリをつけていく必要があります。中途半端に覚醒状態になってしまったら、危なっか し くて仕方がありませんね。2つの状態は一気に切り替わらなければいけません。この切り替えに重要な働きをしているのがオレキシンです。オレキシンはスイッ チのような働きをしているのです。
オレキシン受容体拮抗薬はこのオレキシンをブロックすることで、睡眠状態へとスイッチを切り替えていきます。この薬も本来の睡眠メカニズムに作用するため、自然に近い眠気を促してくれます。安全性も高く、依存性も少ない睡眠薬です。
即効性があるので、入眠障害にも効果が期待できます。とくに中途覚醒を改善する効果が大きい睡眠薬です。
2014年に世界に先駆けてベルソムラという睡眠薬が発売されました。今後の主力となってくる可能性を秘めた睡眠薬です。
7.睡眠薬の種類による比較(強さと安全性)
強さ:バルビツール酸系>ベンゾジアゼピン系≧非ベンゾジアゼピン系≒オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
安全性:メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬≧非ベンゾジアゼピン系>ベンゾジアゼピン系>>バルビツール酸系
これまで、5つの種類に分けて睡眠薬をみてきました。強さと安全性の面から、改めて整理したいと思います。
睡眠薬の強さを比較すると、
バルビツール酸系>ベンゾジアゼピン系≧非ベンゾジアゼピン系≒オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
となります。
安全性の面で比較すると、
メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬≧非ベンゾジアゼピン系>ベンゾジアゼピン系>>バルビツール酸系
となります。
睡眠薬によくある副作用を比較すると、以下の図のようになります。
睡眠薬の選び方を知りたい方は、
睡眠薬(眠剤)の効果と強さの比較
をお読みください。
まとめ
睡眠薬は、「バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系・メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体拮抗薬」の5つの種類に分けられます。
それぞれの種類ごとに強さと安全性を比較すると、
強さ:バルビツール酸系>ベンゾジアゼピン系≧非ベンゾジアゼピン系≒オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
安全性:メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬≧非ベンゾジアゼピン系>ベンゾジアゼピン系>>バルビツール酸系
となります。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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