小柴胡湯【9番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック

「柴胡」は、古くから「肝」に効く生薬として利用されてきました。漢方の世界で、「肝」は気血水のうち、「気」を司っていると言われます。

「肝」に異常が出て「気」が体内をうまくめぐらなくなると、体の各所で滞った「気」は熱を帯び、その場所が胃であれば胃痛や胃炎、肺であれば咳、喘息や肺炎となります。また、「肝」そのものに熱がたまると、肝炎となります。

これらの症状に柴胡が効果的とされ、「肝」のはたらきをよくすることで、体の各症状を改善するとしてよく使われていきました。

柴胡を主薬に使った漢方薬は「柴胡剤」と呼ばれ、数種類ありますが、「小柴胡湯」は体力が比較的弱った人で、病状はどちらかというと慢性の症状に適用されます。熱をとって炎症を抑えて力をつける効果があるので、長引く風邪にも症状の改善と体力回復を同時に行う薬として使われます。

また、体力を回復する効果はさまざまな病後で効果が期待されていたので、病院ではもっともよく処方されてきた漢方薬のひとつです。肝炎や肝機能そのものを改善するとして、広く使われてきました。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、小柴胡湯は「ツムラの9番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される小柴胡湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.小柴胡湯【9番】の生薬成分の効能

柴胡が主薬となり、黄芩と半夏が柴胡の作用を助け、炎症を鎮めて熱をとる効果を発揮します。甘草と生姜は吐き気を抑えて胸のつかえを楽にし、大棗と人参は強壮作用をもち、体力を回復します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

小柴胡湯は、7つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 紫胡(7.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 黄芩(3.0g):解熱作用・消炎作用・止血作用
  • 半夏(5.0g):制吐作用・去痰作用
  • 甘草(2.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 人参(3.0g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 生姜(1.0g):発汗作用・制吐作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 大棗(3.0g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

柴胡は、炎症を鎮める効果が高く、その主成分はサイコサポニンと呼ばれます。サポニンといえば、抗酸化作用や免疫効果を高める効果があるとされていますが、ステロイドと同様に炎症を鎮める作用を持つことが分かってきました。この作用を黄芩が助け、肝臓を中心に、臓器の炎症を鎮めて熱をとる作用を高めます。

半夏には制吐・鎮咳作用があり、炎症に伴う症状を改善してくれます。これらの炎症とその症状を抑える生薬が柴胡・黄芩・半夏になります。

このような攻める生薬に対して、守りに働くのが甘草や生姜、ニンジンや大棗になります。

甘草と生姜は、咳や痰などの風邪の症状を改善するほか、消化機能を高めて「肝」に栄養を送ることで、「気」がめぐるのを助けます。人参と大棗は、病気で弱った体に体力をつける滋養作用を持ちます。とくに人参は「気」を補う代表的な生薬になります。

このように精気を養い、弱った胃腸機能を高めてくれる守りの生薬も配合されています。小柴胡湯は、攻める生薬と守りの生薬がうまくバランスをとりながら、効果を発揮している漢方薬になります。

小柴胡湯の生薬の由来について

 

2.小柴胡湯の証

陰陽(陰)・虚実(やや虚~中間)・寒熱(熱)・気血水(気滞)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

小柴胡湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰
  • 虚実:やや虚~中間証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:気滞

小柴胡湯は、やや体力が低下した人に向いている漢方薬になります。肋骨の下から脇腹にかけての腹筋の緊張が強まっている、胸脇苦満という状態の方に向いているといわれています。

 

3.小柴胡湯の効果と適応

  • 慢性の肝炎による肝機能障害
  • 治りにくい風邪の後期症状
  • 疲れやすく、風邪をひきやすい体質

小柴胡湯は、漢時代に書かれた「傷寒論」「金匱要略」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

小柴胡湯は、肝炎による肝機能改善のほか、こじらせてしまった風邪の後期症状や病後の回復薬として、病院でもっともよく使用されてきました。

漢方では、病気は6つの段階に分かれ、程度が進むほど重い状態となります。風邪をひいた場合、はじめは寒気がしたり熱が出たりと、体の表面に異常を訴える症状が主です。

この状態がすぐに治らず悪化していくと、食欲不振や口の渇き、熱感と寒気の繰り返しなど、体の内部に症状が及び、体力も低下していきます。この状態を「少陽病」といいます。

「少陽病」の病期になると、気力の減退や四肢の冷えといった症状が出るため、体をあたため、「気」を補う「温補剤」という種類の漢方薬が適用となるのですが、小柴胡湯が、この温補剤にあたります。

肝臓をはじめ、体の各部の炎症を抑えて熱をとり、「気」をめぐらせることで体をあたため、さらに、滋養作用で体力を回復させます。

肝炎については、柴胡の成分による肝機能の向上について効果が実証されています。肝炎自体の進行を抑制することが期待され、病院で広く使われていました。しかしながら、後述する間質性肺炎の副作用のリスクのため、現在では使われる機会は減っています。

なお、添付文章に記載されている小柴胡湯の適応は以下のようになっています。

  1. 体力中等度で上腹部がはって苦しく、舌苔を生じ、口中不快、食欲不振、時により微熱、悪心などのあるものの次の諸症:諸種の急性熱性病、肺炎、気管支炎、気管支喘息、感冒、リンパ腺炎、慢性胃腸障害、産後回復不全
  2. 慢性肝炎における肝機能障害の改善
[参考] 使用目標:体力中等度の人で、胸脇苦満のある場合に用いる。
  1. 熱性疾患では、食欲不振、口中不快感などを伴う場合
  2. 胸脇苦満*の認められる諸種慢性疾患
  3. 食欲不振、全身倦怠感などを伴う諸種慢性疾患
  4. 虚弱な小児に用いる

 

4.小柴胡湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

小柴胡湯は、ツムラやコタロー、クラシエなどから発売されています。1日量は、ツムラ・コタローは7.5g、クラシエは6gになっています。クラシエからは錠剤も発売されていますが、1日18錠になもなります。

小柴胡湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。小柴胡湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.小柴胡湯の効き目とは?

慢性症状の場合、2~3ヶ月の服用が必要です。

それでは、小柴胡湯の効き目はどのような形でしょうか。

小柴胡湯は、陰証に使われる漢方薬です。慢性の肝炎、こじらせた風邪、抵抗力のない体質などの改善は徐々に進むので、効果が感じられるようになるまでは、比較的時間が必要です。

ただ、広汎性のある漢方とされているので、二日酔いやちょっとした胃のムカつきにも使われることもあり、軽い症状や、証が合った場合は、短時間で効果が出る場合もあるようです。

しかし、後述しますが、証が合えばすぐに効果があらわれる反面、合わなければ危険にもなり得ますので、いずれにしても医師に相談し、使うようにしましょう。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.小柴胡湯の副作用

小柴胡湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。小柴胡湯は、慢性肝炎への効果が認められ、1990年代はじめには100万人が使ったとも言われます。

しかし、正しい使い方をされず、1996年には副作用が原因で10名の死亡者が出ることになりました。漢方薬独特の診断方法である「病状と体質を総合して診る」ことをせず、単純に病名だけで判断して投薬を行った結果と言われています。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

小柴胡湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

 

それ以外にも重大な副作用として、間質性肺炎と肝障害が起こることがあると報告されています。咳や息切れ、呼吸困難が認められたり、発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

特に、間質性肺炎はインターフェロン療法との併用で起こりやすくなるため、インターフェロン療法を行うことが多い肝硬変や肝がんの人は使用が禁止されています。

詳しく知りたい方は、「漢方薬は安全?漢方薬による間質性肺炎」をお読みください。

また、もともとある程度の体力があり、病気によって弱った人に向く処方なので、もともと虚証の人、著しく体力が落ちた人には向きません。

また、消化器症状として胃部不快感や食欲不振、吐き気や下痢が起こる場合と、頻尿や排尿痛、血尿や残尿感といった膀胱炎のような症状があらわれる場合もあります。そのような症状が見られたら、すぐに服用をやめて主治医に相談してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

柴胡が主薬となり、黄芩と半夏が柴胡の作用を助け、炎症を鎮めて熱をとる効果を発揮します。甘草と生姜は吐き気を抑えて胸のつかえを楽にし、大棗と人参は強壮作用をもち、体力を回復します。

陰陽(陰)・虚実(やや虚~中間)・寒熱(熱)・気血水(気滞)

小柴胡湯は、以下のような方に使われます。

  • なかなか治らない風邪の後期症状
  • 慢性肝炎による肝機能障害
  • 喘息・気管支炎
  • 疲れやすく風邪を引きやすい体質

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック