白虎加人参湯【34番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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白虎加人参湯は、体の熱を冷まし、体内に水分を保持する働きをします。このため口渇(口の渇き)によく使われ、喉の渇きを潤す効果を持つ漢方薬です。

「白虎」とは、成分として入っている石膏が白いことが由来です。白虎湯に、さらに気や水を補う人参が加えられています。

白虎加人参湯は、熱中症に使われることがあります。漢方で熱中症を「中暑」といい、「暑さにあたった」という意味になります。白虎加人参湯は、熱を冷ましてのどの渇きを改善する効果が期待できます。

その他、初期の糖尿病の症状や子供の夜尿症、乾燥肌や肌のかゆみに使われます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、白虎加人参湯は「ツムラの34番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される白虎加人参湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.白虎加人参湯【34番】の生薬成分の効能

石膏、知母が熱を冷まします。粳米や甘草は体液を潤し、人参が滋養強壮効果を発揮して、血液の流れをよくします。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

白虎加人参湯は、5つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 石膏(15.0g):解熱作用・消炎作用・止渇作用
  • 知母(8.0g):解熱作用・去痰作用・鎮咳作用・利尿作用
  • 粳米(5.0g):強壮作用・止渇作用・補気作用
  • 人参(1.5g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 甘草(2.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、1日量9.0gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

石膏と知母は、解熱作用を持ちます。石膏は天然の含水硫酸カルシウムが主成分で、解熱作用とともに強い消炎作用を持ち、漢方の代表的な清熱剤として使われます。知母は、石膏の補助として解熱、鎮静作用をあらわします。

粳米と甘草は、体液を潤すはたらきをします。ともに、胃から消化液が出るのを助け、石膏と知母による胃の負担を軽くします。

人参は滋養強壮作用により、血液の流れをよくします。体内にゆきわたった水が、熱をとりながら体をめぐるのを助けます。

このため白虎加人参湯は、

  • 体の熱を冷ます作用(清熱作用)
  • 体内に水分を保持する作用

この2つの効果が期待できます。

 

2.白虎加人参湯の証

陰陽(中間〜実)・虚実(実)・寒熱(熱)・気血水(血虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

白虎加人参湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:中間証〜実証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:血虚

白虎加人参湯は、中間証〜実証で比較的体力のある人に向いている漢方薬になります。

 

3.白虎加人参湯の効果と適応

  • 熱中症の治療・予防
  • 小児の夜尿症
  • 喉の渇きを訴える初期の糖尿病・ドライマウス
  • 乾燥肌・皮膚炎・アトピーなどによる肌のかゆみ
  • 薬の副作用によるのどの渇き

白虎加人参湯は、漢時代に書かれた「傷寒論」「金匱要略 」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

白虎加人参湯は、喉の渇きを訴える症状の場合によく使われます。喉の渇きは、多量の尿や汗で失われた水分を補うために感じる感覚ですが、いくら水分をとっても体内にとどめられなければ喉の渇きはおさまりません。

水分は体の中で熱を受け取っていき、体温が上がりすぎるのを防ぐ働きがあります。このため水分が行きわたらないところは、熱を持ったままになります。水分が不足し熱をもつ症状を、漢方で「燥証」といいます。熱中症や初期の糖尿病、または皮膚にかゆみや熱感を伴う疾患などでみられます。

熱中症は、重度の症状には西洋医学の処置が必要となります。漢方の経口投与では間に合わず、点滴などをしていきます。白虎加人参湯は熱中症の初期症状に使われていて、喉の渇きや頭痛を感じた時の早めの対処として使われます。そのほか、熱中症の予防としても有効です。

体内の水分を潤すということは、内臓や皮膚にも水分を分配し、身体全体に水分を行きわたらせることです。体に必要な液体を「津液」といい、漢方の気血水のうち「水」に含まれますが、白虎加人参湯は「津液」を出させて消化器を潤すとともに、水分や栄養分の消化吸収を高めます。

「燥証」によって津液が出ず、消化吸収機能がうまくはたらかなくなると、気血水のうち「気」も失われていきます。熱さで弱ってしまった身体に、人参が「気」を生じさせ、「血」がめぐる力をつけます。

 

白虎加人参湯は、小児の夜尿症にも使われます。夜尿症の原因はいくつか考えられますが、白虎加人参湯で効果が期待できるのは2つのタイプです。

  • 暑がりで汗をかきやすく、喉が渇いて水分を欲しがるタイプ
  • 虚弱で筋肉が弱く、尿をためておけないタイプ

前者で効果が期待できるのは、白虎加人参湯は喉の渇きを潤すので、過剰な水分をとらずに済むためです。

後者で効果が期待できるのは、生薬の人参が徐々に体力をつけて丈夫にし、夜間に尿をためておけるようにしていくためです。

また肌に水分が潤うと、水がめぐるときに熱がとられてほてりがとれ、かゆみが治まります。かきむしるなど刺激を与えることも少なくなるため、炎症が起きた箇所が速やかに新陳代謝を行うことを助けます。

白虎加人参湯にはこうした働きがあるため、薬の副作用によるのどの渇きに対しても使われることがあります。

 

4.白虎加人参湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

白虎加人参湯は、ツムラ・コタロー・クラシエなどから発売されています。1日量は、ツムラは9.0g、コタローは12g、クラシエは6gになっています。クラシエでは、1日12錠に上りますが錠剤も発売されています。

白虎加人参湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。白虎加人参湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.白虎加人参湯の効き目とは?

白虎加人参湯は、熱中症など急性のものは2週間以上かけてゆっくりと認められることが多いです。

それでは、白虎加人参湯の効き目はどのような形でしょうか。

白虎加人参湯は、熱中症ではあまり重くない症状のときに使います。服用すると、30分〜1時間ほどで体の熱が引き体内が潤うので、解熱や口渇については比較的早い効果が見られます。同じ口渇の症状がある初期の糖尿病やドライマウスでも、同様の効果が得られます。

一方、夜尿症やアトピーなどの慢性症状については体質の改善を目的としますから、効果を実感するのは2〜3ヶ月かかります。

夜尿症については、水分を過剰にとらなくなるほか、おしっこのリズムが整うまでに時間が必要です。アトピーなどの皮膚炎は、皮膚に水分がゆきわたって熱がとれ、かゆみが治まり、新陳代謝で肌が内側から治っていき、だんだんと効果を実感することになります。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.白虎加人参湯の副作用

白虎加人参湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。白虎加人参湯は、子供から年配の人まで服用できる漢方薬ですが、証の適応や飲み合わせによっては注意が必要です。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

白虎加人参湯は、暑がりで体力のある人に向いた処方です。体が弱っていたり、寒気を感じる人が服用すると、効果が副作用として出て症状が悪化する可能性があります。また熱があっても、発汗がない人に処方してはいけません。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

 

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

白虎加人参湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

その他では、ごくまれに間質性肺炎と肝障害が起こることがあると報告されています。咳や息切れ、呼吸困難が認められたり、発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

このほか、胃腸が弱い人は特に石膏の効果が強すぎて、食欲不振や胃もたれ、舌の荒れ、軟便や下痢を起こす可能性があります。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

石膏、知母が熱を冷まし、粳米や甘草が体内を潤します。人参は体力をつけ、水分と血を体にめぐらせます。体内に水分を分配し、口渇や肌の渇きを潤し、胃腸の消化吸収機能も改善します。

陰陽(陽)・虚実(中間〜実)・寒熱(熱)・気血水(血虚)

白虎加人参湯は、以下のような方に使われます。

  • 熱中症の治療・予防
  • 小児の夜尿症
  • 喉の渇きを訴える初期の糖尿病・ドライマウス
  • 乾燥肌・皮膚炎・アトピーなどによる肌のかゆみ
  • 薬の副作用によるのどの渇き

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