酸棗仁湯【103番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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年を取って体力が衰えたり、過度なストレスを受けたり、労働が過酷だったりすることによって心身が疲れてしまうと、身体に流れている「気」が弱くなります。

このような状態を漢方では「気虚」といい、これは身体のエネルギーが少なくなってしまっている状態です。このようなときに眠れなくなったり、抑うつ状態になったり、神経症や自律神経失調症になることがあります。

酸棗仁湯は神経を鎮めて、寝つきを良くする効果のある漢方薬として昔からよく使われてきました。体力があまりなく、心身が疲労していて眠れない人に向いている漢方や鵜です。

病院で処方される睡眠薬とは違って、酸棗仁湯はすぐに眠気が出てくるような効き方ではありません。ですが飲み続けていくことで、ストレスが和らいで眠りやすくなっていきます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、酸棗仁湯は「ツムラの103番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される酸棗仁湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.酸棗仁湯【103番】の生薬成分の効能

酸棗仁湯は、鎮痙・催眠作用のある「酸棗仁」を主成分として、同じように鎮静効果がある「茯苓」や「川芎」などが組み合わせられています。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

酸棗仁湯は、5種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 酸棗仁(10.0g):鎮静作用・催眠作用
  • 知母(3.0g):解熱作用・去痰作用・鎮咳作用・利尿作用
  • 茯苓(5.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 川芎(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・鎮痛作用
  • 甘草(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

酸棗仁湯は5種類の生薬からできています。酸棗仁湯の中心は、その名のとおり酸棗仁になります。酸棗仁は、酸っぱくて果肉の少ないナツメの実による生薬です。

疲れをとって精神を安定させ、神経の興奮や緊張を和らげて眠りを誘う働きがある生薬です。鎮静・催眠薬として用いられ、漢方の睡眠薬としては代表的なものです。

知母は身体の熱を冷ます作用があり、気持ちを落ちつけて精神を安定させる作用があります。それとともに鎮咳・去痰作用もあるので、咳にともなう肺の炎症を抑えるのにも使われます。

茯苓は水分の循環を良くするとともに、余分な水分を排出してくれます。このため、動悸や異常な発汗を抑えて精神を安定させ、不眠の症状改善に用いられます。

川芎は血行をよくすることで、「気」の循環を促進してくれます。うつうつとした気分を晴らして頭痛を治す働きもあります。甘草は筋弛緩作用があるので、筋肉の緊張を和らげてくれます。

このように酸棗仁湯は、身体の熱を冷まし、水や血液のバランスを整え、筋肉の緊張を和らげることで、酸棗仁のもつ鎮静作用・催眠作用を強めて眠気を誘う漢方薬といえます。

酸棗仁湯の生薬の由来について

 

2.酸棗仁湯の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(熱)・気血水(気虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。漢方の代表的な証には、「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」の4つがあります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

酸棗仁湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:気虚(心身疲労)

 

3.酸棗仁湯の効果と適応

  • 疲労による入眠障害
  • 寝汗やめまいのある入眠障害

酸棗仁湯は、「金匱要略」という漢方の原点ともいえる古典書に紹介されています。不眠の代表的な処方で、不眠は古からの人類の悩みなのでしょう。5種類それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

酸棗仁湯に含まれている5種類の生薬により鎮静作用がはたらき、神経の興奮を鎮め、緊張を和らげたり気分を落ち着けたりして不眠状態を改善に導きます。

不眠には寝つきが悪い入眠障害のタイプと、いったん寝付いても途中で何度も目が覚めてしまう中途覚醒のタイプ、しっかりと眠れた感じのしない熟眠障害があります。

酸棗仁湯は入眠障害を改善していく漢方薬です。少しずつ眠りやすい身体の状態を整えていくので、睡眠薬とは効き方が異なります。

疲れによってなかなか寝付けない場合や、寝汗がひどい場合に効果が期待できます。どちらかというと、疲労して体力の弱っている患者さんに使われる漢方薬です。

なお、添付文章に記載されている酸棗仁湯の適応は以下のようになっています。

心身がつかれ弱って眠れないもの

 

4.酸棗仁湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。就寝前に服用しても効果がみられることもあります。

酸棗仁湯は、ツムラ・オースギ・マツウラなどから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。酸棗仁湯では、ツムラは7.5g、オースギ・マツウラは6.0gになっています。

酸棗仁湯は、1日2~3回に分けて服用するのが基本です。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。就寝前に服用しても問題ありません。就寝前に1回服用するだけでも、しっかりと効果が認められることもあります。

 

5.酸棗仁湯の効き目とは?

効果は2週間以上かけてゆっくりと認められることが多いです。

それでは、酸棗仁湯の効き目はどのような形でしょうか。

酸棗仁湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで長らく悩まされていた不眠が、ビックリするくらいに穏やかになることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

酸棗仁湯は、一般的には効き目はゆっくりです。とくに病気で悩まされていた期間が長い患者さんほど、そのバランスを整えるには時間がかかります。 効果は2週間くらいから認められることがあります。じっくりと時間をかけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。

このような効き目なので、睡眠薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性はありません。ですから、不眠時に頓服として使っても効果は期待しにくいです。

酸棗仁湯を日中に服用しても、眠気があるわけではありません。少しずつ眠つきやすい状態を整えていく漢方薬になります。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.酸棗仁湯の副作用

酸棗仁湯では、生薬固有の副作用として偽アルドステロン症に注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレル ギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

酸棗仁湯の生薬成分の甘草は、大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。「偽アルドステロン症」と呼ばれる機能異常によって、高血圧やむくみ、低カリウム血症などが認められることがあります。低カリウム血症によって、筋肉のけいれんや麻痺が起こることがあります。

甘草の入っている他の製剤やグリチルリチンとの飲み合わせには十分な注意が必要です。また、長期間にわたって複数の漢方薬を服用するときは、念のために注意してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

7.酸棗仁湯の効果が期待できる人とは?

酸棗仁湯は効果があると信じ込める人の方が、効果が期待できます。

昔から「良薬は口に苦し」といわれてきたように、独特の苦みが漢方の効能を引き立たせてくれることがあります。このような思い込みの効果ともいえるプラセボ効果(偽薬効果)は、心の病気では非常に大きいのです。

一般的に精神科のお薬は、30%ほどのプラセボ効果があるといわれています。臨床試験などを行うと、ダミーの薬でも3割くらいの人には効果が認められるのです。漢方薬のプラセボ効果は、西洋薬よりも大きいという報告もあります。

ですから、酸棗仁湯は効くと思い込んで服用した方がよいのです。そういう意味では、信じ込める人の方が効きやすいのです。せっかく服用するのですから、「こんなに苦いのだから酸棗仁湯は効くんだ!」を思いながら服用してください。

酸棗仁湯を心の治療に使う時は、現実的には以下のケースがあります。

  1. 酸棗仁湯自体の効果を本当に期待する場合
  2. 睡眠薬を使うこと対する不安が大きい場合
  3. 薬の量を減らしていく時に不安が強い場合

酸棗仁湯はおもに不眠に向いている漢方薬です。しかしながら、酸棗仁湯の効果だけを本当に期待して使うケースばかりではありません。

患者さんが睡眠薬を使うことに抵抗がある場合もあります。漢方薬では安全というイメージがあるのか、抵抗なく服用してくれる方が多いです。治療の第一歩として、漢方薬の酸棗仁湯から始めていくこともあります。

また、睡眠薬を減量していく時に使うこともあります。いままで服用していた睡眠薬が減っていくと、不安になる患者さんも少なくありません。そんな時に、酸棗仁湯をクッションにして減薬していくとうまくいくことがあります。

酸棗仁湯の適応が「不眠」になっているため、患者さんも安心するのだと思います。これを利用して、うまく睡眠薬を減薬できた患者さんもいらっしゃいます。

このように、酸棗仁湯が使われるのは様々なケースがあります。なにも効能ばかりが大切ではありません。せっかく服用されるのでしたら、しっかり効くと言い聞かせながら服用してください。

 

まとめ

酸棗仁湯は、催眠作用と鎮静作用が中心と言えます。5種類の生薬が互いに作用しあい、神経の興奮を鎮め、緊張を和らげたり気分を落ち着けたりして不眠状態を改善させます。

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(熱)・気血水(気虚)

酸棗仁湯は、以下のような方に使われます。

  • 疲労による入眠障害
  • 寝汗やめまいのある入眠障害

 

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