桃核承気湯【61番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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漢方では「気血水」の流れのバランスをとることが重要とされ、各々が体を滞りなく循環していることがよい状態です。

漢方は、五臓と体を循環する「気血水」の異常を治療しますが、その異常のひとつとして「瘀血」があります。

「瘀血」とは、簡単にいうと、血の巡りが悪くなることです。特に月経のある女性は、瘀血になると体の各所にさまざまな症状が出やすくなるため、血の流れを整えておくことが重要です。

「気血水」は互いに影響しあって循環しているため、一つに異常が出ると他の2つにも影響が出ます。瘀血が影響した症状の一つに、「気逆」の症状が出やすい人がいます。

「気逆」になると血圧が高くなりがちで、のぼせやすくなったり精神的にイライラして、不安定になりやすくなります。生理前後のこういった症状を月経前緊張症(PMS)といい、更年期障害でも同じような状態となり症状が認められます。

桃核承気湯は「瘀血」の状態を改善し、それに伴う各症状を改善する働きをします。血流をよくすることで「気逆」も改善し、体の不快症状だけでなく精神不安も鎮める効果があります。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、桃核承気湯は「ツムラの61番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される桃核承気湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.桃核承気湯【61番】の生薬成分の効能

大黄と芒硝が腸に刺激を与え、働きをよくして便通を改善し、血圧を下げる効果をもちます。桃仁と桂皮は血流をよくし、のぼせを解消します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

桃核承気湯は、5つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 大黄(3.0g):下剤作用・利胆作用・健胃作用
  • 芒硝(0.9g):下剤作用
  • 桃仁(5.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
  • 桂皮(4.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

桃核承気湯は、体の滞った気・血の流れをよくし、不快症状を改善していく漢方です。気・血が停滞することによって起こる便秘やのぼせ、血圧の上昇を改善します。

大黄と芒硝は、気血の停滞に伴って起こりがちな便秘を解消します。腸を刺激して便通をよくし、大黄には健胃作用も認められ、消化全体をスムーズにします。

桃仁と桂皮は、血液の流れをよくします。理気作用ももつため、血とともに気を全身にめぐらせます。また、鎮静作用でイライラや精神不安を鎮めます。芒硝にも血液凝固抑制作用が認められ、桃仁と桂皮の働きを助けます。

桃仁・桂皮は体を温める効果がありますが、同時に解熱作用もあります。血流をよくすることは、末梢神経に血液をめぐらせて手足を温めることになります。それと同時に、瘀血によって滞った熱を血のめぐりとともに取り去り、身体中に熱をバランスよく分配します。

桃核承気湯の生薬の由来についてまとめました。

 

 

2.桃核承気湯の証

陰陽(陽)・虚実(実)・寒熱(熱)・気血水(気逆・瘀血)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

桃核承気湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:実証
  • 寒熱:熱証
  • 気血水:瘀血・気逆

桃核承気湯は、実証で体力がある人に向いている漢方薬になります。

 

3.桃核承気湯の効果と適応

  • 女性の血の道症
  • 更年期障害の症状(のぼせ・精神不安・便秘)
  • 高血圧・頭痛
  • 血行不良に伴う皮膚疾患

桃核承気湯は、漢時代に書かれた「傷寒論」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

漢方においては、約28日の間に「気」の力を使って全身から「血」を集め、女性の生理が起こると考えられます。このとき、血が停滞して「瘀血」となると、重い生理痛や生理不順などの「血の道症」が起こりやすくなります。

瘀血は、血は十分にあるのに体内をうまく流れない状態です。顔が赤くなってのぼせ、便秘にもつながります。そのほか、骨盤内の臓器の充血も瘀血と考えられ、子宮筋腫やその他子宮の病気、腰痛や痔核なども、瘀血が引き起こすと言われます。

また、瘀血は「気」の流れにも影響し、気の流れが滞る「気逆」の症状を引き起こします。本来は、下半身から上半身、上半身から下半身へとめぐる気が、上半身に滞ったままになってしまいます。その結果、のぼせや高血圧、精神不安などの症状が出ます。

気が一箇所に集中してしまうため、顔と頭には熱感を持つのに、足先は冷えるといった症状も「気逆」の症状の一つです。気血がともに滞ると皮膚表面の血流も滞り、ニキビや湿疹などの皮膚疾患があらわれることもあります。

桃核承気湯は気血の巡りを改善して、熱や血液を全身にバランスよく配分して症状を改善します。血のめぐりがよくなると手足の冷えが解消され、ホルモンバランスが整い、月経困難症が改善します。

また、血の巡りに伴って気も循環します。顔と頭の熱感をとり、血圧を下げてイライラを解消します。この症状は、更年期障害のほか自律神経失調症にも通じるため、血行不良が原因の自律神経失調症の治療として処方されることもあります。

上方にたまった気血がめぐることによって新陳代謝が高まると、皮膚疾患の治癒も期待することができます。

なお、ツムラの添付文章に記載されている桃核承気湯の適応は以下になります。

比較的体力があり、のぼせて便秘しがちなものの次の諸症:月経不順、月経困難症、月経時や産後の精神不安、腰痛、便秘、高血圧の随伴症状(頭痛・めまい・肩こり)

使用目標:体格、体力の充実した人で、血に伴い、左下腹部に抵抗・圧痛があり(小腹急結)、便秘し、のぼせのある場合に用いる。
1)頭痛、めまい、不眠、不安、手足の冷えなど精神神経症状を伴う場合
2)月経不順、月経困難などのある婦人

 

 

4.桃核承気湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

桃核承気湯は、ツムラやコタロー、クラシエなどから発売されています。1日量は、ツムラは7.5g、コタロー・クラシエは6gとなっています。クラシエからは錠剤も発売されていますが、1日18錠にもなります。

桃核承気湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。桃核承気湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.桃核承気湯の効き目とは?

慢性症状については、2週間以上かけてゆっくりと効果が認められることが多いです。

それでは、桃核承気湯の効き目はどのような形でしょうか。

桃核承気湯は慢性症状に使われる場合、体質改善が目的となります。ですが体がすっきりしてきたと実感するには、しばらく時間がかかります。

ただ、大黄が入っているため腸を刺激し、便秘には比較的即効性があります。まずは便通が改善し、飲み続けることによって大黄の健胃効果・桃仁による腸を潤す効果があらわれ、だんだんと消化全体がよくなります。

気と血が全身にめぐって循環がよくなれば、ホルモンバランスが整います。また、気の降下によって、精神不安もおさまります。

皮膚疾患については、新陳代謝を実感するのは最低でも1ヶ月はかかると思ったほうがよいでしょう。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.桃核承気湯の副作用

桃核承気湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

桃核承気湯の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

そのほか、大黄の作用で下痢が強く出すぎることがあります。普段から軟便の人や下痢を起こしやすい人は、注意が必要です。大黄のはたらきは子宮を刺激する作用もあるので、妊婦の服用については細心の注意を払うか、服用を控えた方がよいでしょう。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

大黄と芒硝が便通をはじめ、消化全体を改善します。桃仁と桂皮による血流促進により、瘀血、気逆を解消します。血の道症の改善とともに、上半身にたまった気が下半身へ降下し、高血圧、イライラの解消となります。

陰陽(陽)・虚実(実)・寒熱(熱)・気血水(気逆・瘀血)

桃核承気湯は、以下のような方に使われます。

  • 血の道症(月経困難・生理不順・精神不安)
  • 高血圧に伴う頭重感・めまい
  • 更年期障害(のぼせ・イライラ・便秘)
  • ニキビや湿疹など、血行不良に伴う皮膚疾患

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