デパケンの妊娠への影響とは?

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デパケンは、抗てんかん薬や気分安定薬として広く使われているお薬です。片頭痛の予防薬としても使われています。デパケンは副作用もそこまで目立たず、比較的使いやすいお薬です。ですが、妊娠への影響だけは気を付けなければいけません。

デパケンには催奇形性が報告されています。赤ちゃんの奇形が生じるリスクを高めてしまうのです。ですから、若い女性の患者さんには注意しなければいけません。

デパケンはどのように妊娠へ影響するのでしょうか?
デパケンを服用しながら妊娠が判明した場合、どのようにすればよいでしょうか?

ここでは、デパケンの妊娠への影響について、ガイドラインをもとに他の気分安定薬とも比較しながら考えていきたいと思います。

 

1.デパケンの妊娠への影響

デパケンでは、奇形のリスクがおよそ2倍に高まります。

デパケンの薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)をみてみると、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」となっています。

これは、どうしてもデパケンでないと病状がコントロールできない患者さんがいるためです。添付文章でもデパケンの催奇形性は明記されていて、原則は使うべきでないとしています。

催奇形性とは妊娠中の女性が服用することで、胎児にお薬が影響してしまい、出生時に赤ちゃんに奇形が発生してしまう事です。デパケンが胎盤を通して赤ちゃんに伝わってしまうことで、二分脊椎、心奇形、口唇口蓋裂、尿道奇形、多指症、顔面奇形などのリスクが高まることが報告されています。特にデパケンでは、葉酸欠乏による二分脊椎のリスクが高いです。妊娠初期にデパケンを使っていると、リスクが20.6倍にも膨れあがると報告されています。

また、デパケンは胎児の認知機能にも影響すると考えられています。1日1,000mgを超えると、知能指数(IQ)や自閉症スペクトラム障害の発症率が高くなるという報告もあります。

 

ですが、そもそも妊娠にはリスクがつきもので、普通の妊娠出産でも奇形が認められることがあります。健康な女性であっても3.3%に奇形が認められますが、デパケンを服用していると11.1%に高まるという報告があります。その他にも、デパケンによって奇形が発生する確率が2.66倍になるという報告もあります。ですから、できる限りデパケンによる奇形を予防する必要があります。

 

2.デパケンが影響する妊娠の時期とは?

妊娠初期に注意が必要です。

妊娠すると、赤ちゃんはお腹の中で少しずつ大きくなっていきますね。だからといって赤ちゃんは、少しずつ身体に必要なものを作っているわけではありません。妊娠の初めの方に、一気に重要なものを作ってしまいます。この時期を「器官形成期」といって、最後に生理が終わった日から4~7週が特に重要な時期といわれています。

ですから、奇形のリスクは妊娠のはじめにあります。妊娠4~7週は絶対過敏期といわれていて、大きな奇形がおこるリスクがあります。妊娠8~15週は相対過敏期といわれていて、少しずつリスクは少なくなっていきます。12週目までは小さな奇形がみられることもありますが、13週をすぎると機能異常などがみられることはあっても、奇形の可能性はほぼ大丈夫といわれています。

ですから、妊娠がわかった段階では少し遅いのです。すでに「器官形成期」である絶対過敏期に入っています。とはいえ、デパケンの服用での奇形率は11.1%なので、裏を返せば90%は問題がないのです。できる限りそれ以降の影響を小さくすれば、この確率はもっと下がります。

 

3.デパケンで催奇形性があるのはなぜ?

現在もっとも有力視されているのは、DNAへの影響です。

それではなぜ、デパケンで奇形が起こりやすくなるのでしょうか?その原因としては、大きく4つの仮説があります。

  • 葉酸欠乏
  • デパケンの蓄積
  • 酸化ストレス
  • DNAへの影響

これまで考えられてきた原因は、デパケンによる葉酸欠乏でした。葉酸はDNAを合成していく過程で必要と言われていて、細胞分裂が活発な妊娠初期には非常に重要です。デパケンを服用すると葉酸が低下すると考えられていましたが、現在は影響は小さいと考えられています。

デパケンは胎盤から胎児に移行しやすいお薬です。母体に比べて胎児では血液量が少ないので、デパケンの血中濃度が母体の3倍に濃縮されることが分かっています。デパケンが蓄積して何らかの胎児への悪影響があると考えられています。

活性酸素による酸化ストレスの影響も考えられています。デパケンによって活性酸素が過剰となり、タンパク質や脂質、DNAを損傷してしまうことが考えられています。

そして現在最も有力視されているのが、DNAへの影響です。DNAは固く巻き付いた構造をしていますが、これが緩んでいくことで合成がすすめられていきます。合成のペースを緩める時は、緩んだ状態から固くなります。デパケンは、この時に必要なヒストン脱アセチル化酵素(HDCA)という酵素を阻害します。これによって、DNAの合成に影響を及ぼします。

 

4.デパケン服用中に妊娠が判明したら?

デパケンを服用している時は、計画的に妊娠を考えていきましょう。服用中に妊娠が判明しても過度に心配しなくて大丈夫です。できるだけ赤ちゃんの影響が少ないように対策をしましょう。

デパケンは催奇形性が明らかなので、できるだけ妊娠の可能性がある方には使うべきではありません。そうはいってもデパケンは、気分安定薬、抗てんかん薬、片頭痛予防薬としてとても優れたお薬です。他の薬に変更すると、病状をうまくコントロールできないこともあります。メリットとデメリットを天秤にかけた時、デパケンを使った方がよい場合もあります。

デパケンを服用している方は、計画的に妊娠を考えていただいた方がよいです。デパケンの影響を極力少なくするため、できるだけ以下のようにします。

  • できるだけデパケン単剤にする
  • 徐放製剤のデパケンR錠を使う
  • 用量は1日1000mg以下にする
  • 血中濃度70μg/ml以下にする
  • 葉酸を1日0.6mg補充する
  • 妊娠16週で血清αフェトプロテイン・18週で超音波検査を行う

デパケンとテグレトールを併用すると、奇形率が上がるという報告があります。ですから、できるだけデパケン単剤にしましょう。また、血中濃度が安定する徐放製剤のデパケンR錠の方が、赤ちゃんへの悪影響も減らせると考えられています。

用量としては、1日1000mg以下に抑えます。1,000mgを超えると奇形率は29.8%にまで達し、胎児への認知機能の影響も報告されています。600mg以下では、奇形率はぐんと下がります。血中濃度としては、70μg/ml以下を目安にします。

また、葉酸欠乏を防ぐために、1日0.6mgの葉酸を補充します。デパケンの葉酸への影響は少ないと考えられていますが、葉酸を補充することで二分脊椎のリスクが下がります。念のため、妊娠早期に検査をしてチェックしていきましょう。

 

万が一薬を飲んでいる時に妊娠が発覚したとしても、過度に心配しなくて大丈夫です。上述しましたが、デパケンを服用していても90%は問題ないのです。主治医と相談して、できるだけその影響を軽減していきましょう。

可能であるならば、デパケンは中止した方がよいです。とくに妊娠初期には影響が大きいので中止した方がよいです。中止とまでいかなくても、できるだけ量を減らしていきます。上述の注意点を守っていきます。

病気のコントロールが上手くいかない時は、催奇形性の少ない薬を使っていきます。

デパケンをてんかん治療で使っていた場合、ラミクタールへの切り替えを試みます。ラミクタールでは、300mg以下では胎児への影響がまったくなかったと報告されています。

デパケンを双極性障害治療で使っていた場合、ラミクタールか抗精神病薬への切り替えを試みます。セロクエルやジプレキサ、リスパダールやエビリファイなどを使っていきます。ただしセロクエルやジプレキサでは、妊娠糖尿病に注意が必要です。

 

妊娠への薬の影響を詳しく知りたい方は、
妊娠への薬の影響とは?よくある6つの疑問
をお読みください。

 

5.気分安定薬の妊娠や授乳への影響の比較

FDAでは「D」、山下分類では「E(原則A)」、Hale分類では「L2」となっています。

精神科の薬の中でも、気分安定薬は妊娠への影響が大きなお薬です。もちろん薬は飲まないに越したことはないですが、お母さんが不安定になってしまったら赤ちゃんにもよくありません。ですから、無理をしてはいけません。できるだけ安全性の高いお薬を使っていきましょう。

ここで、気分安定薬の妊娠と授乳への影響に関する基準をご紹介します。

気分安定薬の妊娠への影響をガイドラインにそってまとめました。

アメリカ食品医薬品局(FDA)が出している薬剤胎児危険度分類基準というものがあります。現在のところ、もっとも信頼性が高い基準となっています。この基準では、薬剤の胎児への危険度を「A・B・C・D・×」の5段階に分けられています。

A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
B:ヒトでの危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌

妊娠での薬の危険性をまとめたものは、日本では公的なものがありません。薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)を参考にした山下の分類というものがあります。この分類では、「A・B・C・E・・E+・F・-」の8段階に分類しています。

A:投与禁止
B:投与禁止が望ましい
C:授乳禁止
E:有益性使用
:3か月以内と後期では有益性使用
E+:可能な限り単独使用
F:慎重使用
-:注意なし(≠絶対安全)

 

薬の授乳に与える影響に関しては、Hale授乳危険度分類がよく使われます。Medication and Mothers’ Milkというベストセラーの中で紹介されている分類です。

この分類では「L1~L5」の5段階に薬剤を分類しています。新薬は情報がないのでL3に分類されます。

L1:最も安全
L2:比較的安全
L3:おそらく安全・新薬・情報不足
L4:おそらく危険
L5:危険

デパケンは血中の蛋白質との結合が強いです。このため、デパケンは母乳に移行しにくく、10%以下といわれています。添付文章上では「授乳を避けること」とされていますが、母乳保育でも問題がないとする報告もあります。

 

まとめ

デパケンでは、奇形のリスクがおよそ2倍に高まります。

妊娠初期に注意が必要です。

デパケンの催奇形性の原因として現在もっとも有力視されているのは、DNAへの影響です。

デパケンを服用している時は、計画的に妊娠を考えていきましょう。服用中に妊娠が判明しても過度に心配しなくて大丈夫です。できるだけ赤ちゃんの影響が少ないように対策をしましょう。

FDAでは「D」、山下分類では「E(原則A)」、Hale分類では「L2」となっています。

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