気持ちの整理が上手な人と下手な人

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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気持ちがモヤモヤしている時、「さっさとスッキリしたい」「綺麗に整理して軽くなりたい」と誰もが思うでしょう。

しかし頭では終わったことだと分かっていても、ずっと気にかかっていたり、ぱっと忘れてしまいたいのに心の中でとどまっていたり。現実ではなかなかすぐには整理できません。

どうしていつまでも、同じところをぐるぐるしてしまうのでしょうか。なぜ未だに、もう良いはずのことを引きずってしまうのでしょうか。

周りを見渡すと、何にも悩んでいなさそうな、明るくて前向きな人たちがちらほらいます。彼らには自分のような苦悩や不安、葛藤などが一切ないのだと感じてしまうかもしれません。

ですが生きている以上、良いことも悪いことも、楽しいことも悲しいこともあります。彼らは「気持ちの整理の仕方が“上手”」なのであり、その方法を無意識に、あるいは意図的に活用し、日々の波を乗りこなしているのです。気持ちの整理の上手下手は、人生の生きやすさ生きにくさに関わってきます。

気持ちを整理していくためには、どのようにすればよいのでしょうか。ここでは、気持ちの整理の上手な人と下手な人をみていき、その違いから気持ちの整理の仕方を考えていきたいと思います。

 

1.気持ちの整理が「下手」な人

人は生まれもっての気質があり、さまざまな経験をして成長していく中で性格が形成されていきます。性格というと広くなりますが、思考パターンもその人それぞれの特徴があります。同じ事実があっても、人によってとらえ方が異なります。

このような人それぞれの思考パターンを、「自動思考」といいます。自動思考はその人が成長の過程で学んできたことですので、悪いことばかりではありません。しかしながら場合によっては、足を引っ張ってしまうことがあるのです。

「気持ちの整理が苦手」という人は、極端な自動思考がグルグルとまわってしまうことが多いです。その点を意識しながら私がいろいろな患者さんとお会いしてきた中で、どのような方が気持ちの整理が苦手なのかを振り返ってみます。

 

①物事や事態の受け止め方が深刻すぎる人

例えば学生のグループ討論会で、一人から反対意見をもらっただけなのに、「“みんなが”私の意見に反対している」「“他の人たちも”私の意見を良く思っていない」と考えてしまったりします。実際に反対した人は一人でも、「誰もかれもが……」と勝手に思い込んでしまい、悪い方向へと自ら走っていきます。

このような「過度な一般化」の自動思考が働く方は、「破局的」な思考をもちやすいです。大きなことではないのにもう自分は上手くやっていけないなどと感じてしまい、針小棒大に物事をとらえてしまいます。その結果として、気持ちの整理がつかなくなってしまいます。

②被害的になりやすい人

①と似ている部分や重なっている部分はあるかもしれませんが、こちらは自分よりも相手に対して気持ちが向いている人です。

友達と廊下ですれ違った時、相手が自分と目を合わせなかったとしましょう。「自分に気がつかなかったのかな?」で終わるのが普通かと思いますが、「何か自分が気に障ることをしてしまったのかな」「本当は嫌われているのかな」などと自分の中で解釈してしまいます。

些細なことに対して「自己を関連付け」てしまう思考パターンがあり、「破局的」な思考になりやすいです。自分が嫌われているかが心配なのに、相手が自分を嫌っているかもしれないと、自分の気持ちを相手のものと感じてしまいます。(投影)

こうなってしまうと、自分ではなく相手に気持ちが向いてしまい、思考がグルグルとめぐって気持ちの整理ができなくなります。

③頑なな人

自分の中で「こうあるべき」という思考が強いと、それが上手くいっている時は良いのですが、ひとたび上手くいかないとグルグルと思考がまわってしまいます。

もちろんそれには、「揺るぎない自分を持っている」という良さはありますが、周囲と衝突してしまったりして上手くいかないこともあります。また、自分の中での「こうあるべき」というものが守られているのは良いのですが、その秩序が乱されると立ち行かなくなってしまいます。

悩みに執着してしまい、なかなか気持ちが整理できなくなってしまいます。

 

④自信喪失しやすい人

過去のことをくよくよ後悔し続けたり、すぐに他人と自分を比較して、「自分はやっぱり駄目な人間だ」「誰もがこなすことを自分にはできない」と決めつけてしまいます。このように「レッテル張り」をしてしまうことで自信喪失してしまいます。

また、上手くできたことはみずに失敗ばかりに気を取られてしまうこともあります。このような「選択的抽出」という自動思考によって、自分自身のマイナスな面ばかりを感じてしまって自信喪失してしまいます。

このように自分を肯定できなくなると、ネガティブな思考がまわって気持ちの整理がつかなくなります。

 

2.気持ちの整理が「上手」な人

反対に、気持ちの整理が上手な人とはどのような人でしょうか。気持ちの整理を上手くしていくには、そのような人の武器を少しずつ取り入れていくことが大切です。私自身も気持ちの整理が得意とはいえないので、自分のためにも振り返ってみたいと思います。

 

①すぐに相談ができる人

気持ちの整理が上手な方は、人に相談するのが上手です。

いろいろ考え事をしていると、自分の想像の世界で抜け出せなくなってしまうことはよくあります。人に話をするということは、言葉にして形にすることです。このように悩んでいたことを外在化してしまうことだけでも、気持ちの整理がついてきます。そして他人からの意見をうけることで、そこに客観性が生まれてきます。

気持ちの整理がつきやすい方は、人に相談するのも上手であることが多いです。

 

②割り切りが上手な人

悩み事があった時、それを解決できることが一番なのですが、どうにも解決ができないこともたくさんあります。それが理不尽であったとしても、飲みこまなければいけないこともあります。そのような解決できない悩みに対しては、割り切ることが必要になります。

割り切るためにどうすればよいのか、その答えはひとつです。自分にとってのメリットを考えることです。その人とつながっていることでどのようなメリットがあるのかを考えて、デメリットを割り切りましょう。

割り切りが上手な人は、自分のペースを守りながら周囲と接していけるようになります。

 

③すぐにできるストレス発散がある人

ストレス発散というと様々な方法がありますが、大きく分けると2つのストレス発散があります。

  • すぐにできるけど効果はそこまで大きくないもの
  • 効果は大きいけど時間とエネルギーがいるもの

旅行が好きな人は、大好きな海外旅行にでもいけば嫌なことも吹っ飛ぶかもしれませんが、お金も時間もかかってしまいますね。気持ちの切り替えという観点で大切なのは、即効性のストレス発散をもっていることです。

どんなものでも構いません。自分にあうもので、すぐにできるストレス発散を見つけておくことで気持ちの切り替えもしやすくなります。

 

④心がやらわかい人

気持ちの整理が下手な人のタイプに、「頑なな人」を挙げました。心がやらわかい人はそれと反対のタイプです。他人の意見を受け入れる余裕があり、自分自身も柔軟に変化していけます。物事のとらえ方に柔軟性があって、ストレスを受け流すことができます。

宇宙飛行士の精神面で求められる一番の要素はこの柔軟性にあると、面接をされている先生から伺ったことがあります。閉鎖空間で長きにわたって過ごしていくには、気持ちの整理が上手でなければ持たないのです。

この柔軟性は、一朝一夕では身につきません。長い年月と経験の中で少しずつ身についたり、自己鍛錬の中で見つかっていくものです。

 

3.気持ちが整理できない原因

言葉のバーチャルな世界を作り上げる力によって、事実をありのままを捉えられなくなります。それが自動思考のパターンによって、想像の世界を深めてしまいます。

気持ちが整理できない要因は、人に想像力があるからです。人の想像力を支えるのは「言葉」に他なりません。人はその他の動物と違って、「言葉」を道具として身につけました。そのことが「気持ちが整理できないこと」のはじまりなのです。

本来動物は、目の前の出来事に従って行動します。私は犬を飼っていますが、悪さをして怒られても、1分後に撫でてあげると尻尾をふって顔をなめまわしてくれます。人間の場合はそうはいきません。怒られた1分後に笑顔で話せる人は多くないでしょう。

そこには、人が想像できることが大きく関係しています。想像できることが場の雰囲気や状況を感じ取ることができます。そのような状況がさらに想像の世界にいざないます。想像のバーチャルな世界に入り込んでしまうと、気持ちを整理できなくなってしまうのです。

 

このようなバーチャルな世界を作り上げているのは、言葉のもつ力によるのです。言葉には「象徴性」があります。

例えば「いぬ」という言葉を聞くと、脳裏には「犬の画像」が浮かんできます。私であれば、飼っている2匹の黒い犬が浮かびます。2匹とも保護犬の雑種ですので、犬といえば雑種が浮かびます。

別の方が「いぬ」という言葉を聞けば、まったく違ったイメージが浮かんでくるでしょう。ソフトバンクのお父さん犬が浮かんでくる人では、白戸家の中で擬人化されたイメージが出てきます。

このように同じ「いぬ」という言葉でも、その人の言葉のイメージによって様々な解釈が加えられます。そのときにもつ感情は、怒りにも喜びにも悲しみにもなるのです。

 

この言葉の象徴性こそが、人を想像の世界にいざないます。言葉によって作られたバーチャルな世界が膨らんでしまうと、ありもしないネガティブなことを現実に感じてしまうのです。このように現実と思考を混同してしまった状態を、認知的フュージョンといいます。

言葉がもつ想像力から思考がはじまります。そこに長い経験の中で作られた自動思考のパターンによって、想像の世界を深めてしまうのです。こうした思考の悪循環によって、気持ちが整理できなくなってしまうのです。

 

4.気持ちの整理はどうしたら上手くなるのか?

それでは、気持ちの整理はどのようにしたら上手くなるのでしょうか?

気持ちの整理が苦手な人は、自動思考について考える必要があります。自分がひとりでに考えている思考パターンを取り出して、意識的に変えていくことが一つの方法です。そのような心理治療として、認知行動療法があります。カウンセリングでじっくり取り組めれば一番ですがお金がかかります。ワークブックのようなものも出版されていますし、インターネットを使った認知行動療法サービスなどもあります。

気持ちの整理が上手な人を参考にするならば、

  • 人に相談を上手くできるようになる
  • うまく割り切れるようになる
  • すぐにできるストレス発散をみつける
  • 心の柔軟性を身につける

などがあげられます。それぞれの方法は長くなりそうなので、改めて書いていきたいと思います。

心の柔軟性を身につけたい方は、じっくりと取り組んでいく必要があります。ひとつの方法としてマインドフルネスという考え方があります。詳しく知りたい方は、「うつ病治療に役立つマインドフルネスとは?」をお読みください。

ここでは、すぐにできる方法をひとつご紹介します。それは、「書きだすこと」です。

 

①問題を絞って「可視化」させる

想像の世界は目に見えず、形もありません。ですからどんどんと膨らんでしまい、自分で絶望の世界を作り上げてしまうこともあります。ですから、目に見えるようにしてしまえば、それだけで思考の悪循環はとまることがあるのです。

その一番の方法が人に相談することです。しかしながらそれには相手が必要ですし、悩みによっては相談ができないこともあります。そのような時にできるのが「書きだすこと」です。

だまされたと思って、自分が悩んだ時はかきだして整理してみてください。その悩みを書きだして形にすることだけで少しスッキリします。

②悩みから一歩離れて「客観視」し、「事実」を正しく認識する

かき出すことで、自分の悩みが形になります。そうすることで、悩みから一歩距離をおけるようになります。このように外在化ができるようにして、客観視することができるようになります。

自分が作りだした想像の世界は、実はそんなに対したことがないのかもしれません。できることは明確であるかもしれません。事実をそのまま見つめるようにするのです

それでも抜け出せない時は、意識的にいい部分や自分にとってのメリットを書きだしてみます。そうする中で、「ちょっと考えすぎではないかな」「これはいつもの思い込みかもしれない」などの意見を自身に投げかけ、現在を再確認してみるのです。

 

最後に

人はさまざまな悩みを抱えながら生きていきます。事実や結果はかわらないのに、それにとらわれて生きてしまうと損な気持ちになりますね。

気持ちの整理が上手になれば、生きづらさも少しずつ和らいでいきます。ここでは、私が様々な方と面談していく中で気づいたこと、それに心理学や精神医学の知識を踏まえてまとめてみました。

今の私の中での答えであって、おそらく移ろいゆくものには違いありませんが、気持ちの整理で悩まれている方の一助になればと考えています。

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