浪費癖から買い物依存症まで、その原因と治療とは?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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あなたは、買い物依存症という言葉を聞いたことがあるでしょうか?世間では軽い意味でも使われているかもしれません。

「ブランドに目がなくて欲しいものがあったらすぐに買ってしまう・・・」「毎月のお小遣いがギリギリになるまで買い物してしまう…」などといった方が多いでしょうか。

買い物が好きなのは女性という認識が世間にはあるようで、『買い物しすぎる女たち』『レベッカのお買いもの日記』などといった買い物ををテーマにした本の主人公はいずれも女性たちです。

少し浪費癖があっても、生活が成り立っているのならばそれはまだ本当の買い物依存症ではありません。買い物依存症の方は、お金を使うことに対するコントロールができなくなってしまいます。消費者金融で多重債務を抱えて首が回らなくなってしまい、自己破産してしまうようなこともあるのです。

実は「買い物依存症」は、正式な病名としてあるわけではありません。ですから、買い物が過剰であるという表に現れている状態をひっくるめて、買い物依存症と呼ばれています。

一口に買い物依存症といっても、さまざまな原因とバリエーションが考えられます。ここでは、浪費癖レベルから買い物依存症レベルまで、広く考えていきたいと思います。必要以上に買い物をしてしまう状況について考えていきたいと思います。

 

1.浪費癖や買い物依存症の原因とは?

双極性障害や強迫性障害、統合失調症や精神遅滞などが原因となることもあります。その他にもパーソナリティ障害や非定型うつ病、様々な不安障害などの患者さんの未熟なストレス対処法が原因となることもあります。

浪費癖で悩んでいる方、悩んでいなくても自覚がある方も少なくないかと思います。お金を使うということには、人それぞれの価値観があります。「宵越しの銭は持たない」というのは、ひとつの生き方ではあります。

その生き方で本人が苦しまず、そして周りも苦しまないのならば、それは何の問題はありません。しかしながら、浪費癖、買い物依存症ということで悩んでいる方は、お金に関わる何かに悩みがあるのだと思います。

お金のことで家族と折り合いが悪くなってしまったり、計画的に貯金をして家や車を買うということができなかったり、お金の使い方が実際の生活に影響があるならば、それを治していく必要があります。

そのためにはまず、原因を知っていく必要があります。浪費癖は性格レベルのことから、病気のレベルまで様々です。買い物依存症を定義するならば、「金銭管理に関してのコントロールを失っている状態」になります。

 

精神疾患によって浪費癖が出てしまうこともあります。様々な病気によって浪費癖が強まることがあります。精神疾患の患者さんは収入が減ってしまうことも多く、お金のことが切実な問題となることもあります。具体的な例をあげてみてみましょう。

例えば双極性障害の患者さんでは、気分が高揚した時に多額の買い物をしてしまうことがあります。私にも双極性障害で苦しんでいる親族がいますが、ロクロを20個買ってきてしまいました。現実的な判断ができなくなってしまい、不必要なものを買ってしまうのです。

統合失調症の患者さんでは、病状が悪化するたびに少しずつ現実検討能力が低下してしまいます。精神遅滞(知的障害)の患者さんでも、生まれもって現実検討能力が十分ではありません。このような方がセールスマンにいわれるがままに買い物をしてしまう、というケースも考えられます。

さらに強迫性障害では、特定のものを「買わなければならない」という感情に支配されることがあります。自分が別に好きでもない作家の本でも、全巻揃えたいというような感情です。コンプリート癖といってしまえばそれまでですが、日常生活に支障をきたすようになればこれも問題です。

それ以外にも様々な病気で、ストレスのはけ口として買い物をしてしまうこともあります。パーソナリティ障害や非定型うつ病、様々な不安障害の患者さんなどでは、ストレスの対処がうまくできないことがあります。自分の中でストレスを消化できず、買い物をするという行動によってストレスを解消してしまうのです。

様々な原因によって浪費癖といわれる状態になります。それがエスカレートして金銭管理のコントロールを失ってしまうと、買い物依存症という状態になります。

 

2.買い物依存症をチェックするためには?

浪費癖のレベルならばセルフチェックができますが、買い物依存症まですすむと買い物の問題を否認してしまうこともあります。

さて、インタ―ネットで検索すれば「買い物依存症チェックリスト」なるものが出てくると思います。ですが、買い物依存は、自己判断だけでは区別できないこともあります。

というのは、買い物依存症レベルの患者さんは、自分の症状に対して「否認」してしまうことがあるのです。自分の買い物が問題であることを認めません。

心の底には「このままではいけない」という気持ちがあるものの、自尊心を保つために、事実を認めないことで自分を守ります。「自分はあんなのではない」という風に、問題から目を背けて否認してしまうのです。

浪費癖のレベルの方ではむしろチェックリストで自分で客観的に見ることができます。しかしながら買い物依存症のレベルになっている方は、家族や周囲がチェックする必要があります。

 

それでは、何をもとに買い物依存症を判断すればよいでしょうか?「買い物によって、自分や家族の日常生活に大きな支障が出ているか?」を判断基準にしましょう。

例えば、複数の金融会社から借り入れをしたり、大事な目的のために貯めていた貯金を勝手に切り崩して使ってしまったり、というような行動です。収入と支出のバランスが著しく崩れていたり、最低限ですら計画的にお金を使えない場合ですね。

買い物依存症とは「欲望をセルフコントロールできなくなっている」状態だといえるでしょう。日々の生活の中で、買い物を制御できなくなっているのならば、自分の状態を真剣に考えてみましょう。

 

3.浪費癖や買い物依存症の心理的要因とは?

それではどうして浪費してしまったり、挙句の果てには買い物依存症になってしまうのでしょうか?その心理的な要因について考えていきたいと思います。

 

3-1.ストレス解消方法としての買い物依存

ストレスを自分の中で受け止められなくなると、買い物という行動で発散してしまいます。

買い物依存症の最大の原因としては、ストレスがあります。ですが、「自分は今、大きなストレスを抱えている。だからそれを忘れるために買い物をする」などというように自覚できているわけではありません。

「色々嫌なことがあったから、今日は思い切って買い物しちゃえ」というのは、現実的な判断がちゃんとできています。しかしながら買い物での問題がある方の多くは、自覚できていません。

ストレスにうまく対処する行動のことをストレスコーピングといいます。ようはストレス解消法ということですね。ストレスコーピングには様々なものがありますが、そのひとつとして買い物をしています。

ストレスを受け止めて自分の中で消化できなくなると、「買い物」という行動で消化してしまうのです。

最初のうちはあまり気に留めません。しかしながらお金という現実に直面していく中で、「また買ってしまった」という後悔がうまれてきます。このことがストレスになり、そのストレスを忘れるために、さらにまた買い物をする……といった悪循環に陥りがちです。

原因はさまざまにあれど「何らかのストレスに対抗する」ために行っているのです。買っている時は、「いやなことを忘れられる」「一時的にでも気分がスカッとする」といった感覚がある方は、早めに問題意識をもった方がよいでしょう。

 

3-2.自分の心のすきまを埋めたい

買い物の背景には、何かに過剰にとらわれていることがあります。精神疾患と考えて治療すべきこともありますし、生い立ちや家族関係での葛藤をカウンセリングで解消すべきときもあります。

「買い物しすぎる」という行為には、「自分のなかの足りないものを補いたい」といった心理が働いていることがあります。ときには「何を買いすぎるのか」という面に注目すれば、本当の原因がみえてくることがあります。

例えば、買い物依存症に悩む若い女性の場合は、何か特定のアイテムにだけこだわる傾向があります。洋服、化粧品、バッグ……その人が買いすぎた品物には、必ず何らかの象徴的な意味が隠されています。美へのこだわり、競争意識、周囲への同調などです。

もし、買い物依存症に悩んでいる人がいたとしたら、自分が買ったものをふり返ってみましょう。そうすれば「自分が何にコンプレックスを抱いているのか?」という答えが見つかります。さみしさ、優越感、ほめてもらいたいという欲求…それは個人によってまったく違ってきます。

ときには、自分の容姿が醜いと過剰に思い込んでいたり、対人関係に対して過剰に恐怖を感じていたりといった精神疾患が隠れていることもあります。過去の生い立ちや家族関係などでの葛藤が隠れていることもあります。

その問題の大きさによっては、精神疾患として治療したり、カウンセリングで葛藤をほどいていく必要があります。

 

4.買い物依存症を治療するためには?

買い物依存症では、否認を解くのが非常に難しいです。自覚があるうちに、しっかりと買い物をしてしまう原因をつきつめ、浪費癖のレベルで向き合っていくことが大切です。

買い物依存症では、否認が認められると治療が非常に難しいです。

まずは本人に自分の問題点を気づかせていかないと治療が始まりません。例えばアルコール依存症では、お酒の問題をほっておくことで自分にデメリットが返ってくるようにしていきます。その中で少しずつ、底つくような体験をさせて気づかせていきます。

買い物依存症では、底をつく=自己破産といったことになりかねません。これが買い物依存症の難しい所で、本人が自分の問題に気づくときには経済的に多くのものを失っていることが多いのです。

 

ですから、浪費癖レベルでしっかりと自分の問題に目を向けて欲しいのです。ですが、ただ買い物を我慢すればよいのかというと、そんなことはありません。人が何かに依存するには、それなりの原因があります。

根本的な原因を解消せず、ただ症状だけを消そうと思っても、どこかで無理が出てきます。例えば、買い物依存症が治って節約できるようになった。だけどそのお金でお酒を買って、アルコール依存症になった…これでは何にもなりません。

買い物を我慢した反動が別のところに出てこないように、自分自身が買い物に走ってしまう原因について考えてみてください。

もしそれがストレス発散ならば、買い物の代わりのことを見つけていく必要があります。それ以外にも、周りの友人や家族と比べて自分自身が生きづらさを感じているならば、専門家に一度相談した方がよいでしょう。

 

5.浪費癖を治療していくには?

ストレスコーピングとしての買い物が多いので、外の少ないストレスコーピングに変えていきましょう。また、金銭管理を高めていく必要があります。

浪費癖といわれるレベルでは、多くの場合がストレスコーピングとして買い物をしてしまいます。ストレスコーピングとは「ストレスにうまく対処しようとする行動」を意味します。ストレス解消に身体を動かすとかなら、それはその人にとってのストレスコーピングとして適切と言えます。

しかしながらうまく建設的な方向にストレス解消できず自分の心が受け止められないと、外に吐き出すという形で行動化してしまいます。そのひとつが浪費癖になります。

このようなストレスコーピングとして浪費癖がある方は、多くの方が買い物のあとに後悔します。ストレス解消のために買い物をし、それを後悔して更なるストレスを抱える…となることも多いです。

このように浪費癖がストレスコーピングとして出てしまっている方は、何か他の方法を考えていく必要があります。ストレスを発散するにしても、それが害の少ないものであれば構いません。例えば、大声でカラオケで歌う、好きなゲームをするなどは問題ないのです。

 

「何に使っているのかわからないけれど、いつの間にかお金がなくなってしまう」という方は、お金を使った自覚がないことになります。まずは自分がどんなものを買い物しているのかについて、知る必要があります。

自分がどれくらい使っているのか、いつどんな時に使っているのか、どんなものを買っているのか、などを知る必要があります。まずは、家計簿をつけることからはじめてみましょう。合わせて日記も書いてみるのもいいいかもしれません。自分の行動パターンを把握することが大切です。

あまりにもお金を使いすぎてしまう方は、クレジットカードの解約や大金を持たないなどの自衛策も大切です。一線を超えないようにしながら、少しずつ金銭管理能力を高めていきましょう。

金銭管理能力について詳しく知りたい方は、「精神疾患の患者さんが金銭管理を高めていく方法とは?」をお読みください。

 

まとめ

私たちの身のまわりには、依存性のあるモノがたくさんあります。薬物、タバコ、アルコールなどなど…ではなぜ、よりにもよって買い物なのでしょうか。

そもそも買い物は、日常生活でありふれた行いです。きちんとお金を払う行為です。法律的に何ら違反するところはありません。

また買い物は、肉体にとって負担のないことです。お酒を飲みすぎたせいで寿命が縮まるというのはあり得ます。しかし買い物の場合は、肉体的なデメリットはありません。

ギャンブルとも違って、買った商品だけは残ります。金銭的損失も、いくらか少ないでしょう。つまり買い物に頼ってしまうということは、「トラブルが少なく、合法的にできること」なのです。だから良いというわけではありませんが、少なくともまったく犯罪性はありません。

買い物に走ってしまう方の裏側には、「この社会でうまくやっていきたい」「穏当な方法でストレス解消したい」という考え方が隠れているように思います。

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