シムビコートでの新しい治療法SMART療法とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
喘息の治療薬は、
- 毎日治療することで喘息の症状や発作が出現することを予防する長期管理薬
- 喘息発作が出たときの発作治療薬
の2つに大まかに分けられます。シムビコートは普段は長期管理薬として、朝と夕に吸入するお薬になります。
シムビコートの優れた特徴として、喘息発作を予防する長期管理薬と、発作時に吸入することで発作をしずめる発作治療薬の両方の役割を果たすことができます。シムビコートは効果の発現が早いため、発作時に追加投与することでも効果が期待できるのです。
長期的に喘息管理しながら発作時にも追加する方法を、SMART療法(Symbicort maintenance and reliever therapy)といいます。、SMART療法(スマート療法)は、喘息治療の中で非常に注目を集めています。
非常に便利なのですが、使い方を誤ってしまうと喘息が逆に悪くなってしまう治療法なので、注意が必要です。
ここでは、シムビコート特有のSMART療法のメリット・デメリット含めてみていきましょう。
1.シムビコートのSMART療法のメリット・デメリット
<メリット>
- 一つの吸入器で長期管理と発作治療薬二つの役割ができます
- 発作時に気管支拡張作用だけでなく抗炎症作用も加わるため、喘息発作のさらなる増悪を抑えます
<デメリット>
- シムビコートの吸入が1回3回以上(1日6回)の人はSMART療法ができない
- シムビコートを喘息発作時にしか使わなくなる
シムビコートは、普段は長期管理薬として朝と夕に吸入する長期作用型のβ2刺激薬とステロイドの合剤になります。
しかしシムビコートのβ2刺激薬であるホルメテロールの効果が、喘息発作時に即効性を期待して投与するメプチンやサルタノールと同じくらい即効性があるため、シムビコートは発作時の治療薬としても使えます。
この特徴を利用したのがSMART療法です。長期管理薬として朝と夕の吸入を定期的に行うことに加えて、喘息発作が出現した際には発作治療薬として追加で吸入します。
今まで喘息は長期管理薬としての吸入薬(アドエアやフルティフォーム)に加えて、発作時のメプチンやサルタノールといった吸入薬が必要でした。このため、吸入器を2つ持ち運ぶ必要があったのです。
しかしシムビコートは、1つの吸入器で長期管理と発作時の治療の両方の役割を兼ね備えた治療になります。
これまでの発作治療薬では、β2刺激薬による気管支拡張効果だけを期待するものでした。しかしながらシムビコートを吸入することで、抗炎症作用であるステロイドも吸入することになります。2つの薬の相乗効果によって、単剤よりも喘息発作のコントロールが良好になるというデータもあります。
その一方で、注意しなければいけない点もSMART療法にはあります。このSMART療法は、シムビコートの吸入回数が少ない軽症の喘息の人のみに認められている治療です。シムビコートの1回の吸入が1~2回(1日2~4吸入)の人が適応になります。1回の吸入回数が3~4回(1日6~8吸入)の人は適応外になりますので注意しましょう。
また、シムビコートを定期的に吸わなくなってしまう人が出てきてしまいます。シムビコートを定期的に吸ったうえで、追加で吸入する治療がSMART療法です。しかしながら、発作時にのみに吸う人が出てきてしまいます。このようなことがないよう、定期的にSMART療法が上手くできているかを確認していくことが必要な治療です。
2.SMART療法の方法は?
SMART療法は、シムビコートを朝と夕、1~2回毎日必ず吸入します。それに加えて、喘息発作時に追加でシムビコートを吸入します。
喘息の治療は、
- 毎日治療することで喘息の症状や発作が出現することを予防する長期管理薬
- 喘息発作が出たときの発作治療薬
の2つに分けられます。まず①の長期管理薬ですが、喘息のガイドラインでは、最も軽症な方は吸入ステロイドのみで加療することとなっています。効果が不十分だとステロイドの吸入量を増やすとともに、
- β2刺激薬の吸入
- 抗ロイコトリエンの内服
- テオフィリンの内服
の併用を行っていきます。この中で最も併用されるのが、β2の刺激薬です。吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤があれば、患者さんの手間は増えずにすみます。
このようにステロイドが効かない時にβ2刺激薬を追加していくのですが、はじめからシムビコートなどの合剤を使っていくことが多いです。そして症状が落ちついてきたら、徐々に減量していきます。
喘息は咳や喘鳴、呼吸困難など非常に苦しい疾患であり、命にもかかわる病気です。そのため喘息の炎症の炎を最低限の水で済ませようとすると、一気に被害が拡大してしまう可能性があります。
そのためβ2の合剤をはじめから使って、しっかりと喘息を抑え込んでいく治療をしていくことが多いのです。このシムビコートを最大量使用してもコントロールできない場合は、
などが挙げられます。これらを内服することでコントロールしていました。
一方で②喘息発作時の治療法ですが、多くの場合はメプチンやサルタノールなど短期作用型のβ2刺激薬が使われます。
シムビコートは、ステロイドの成分(抗炎症効果)とβ2刺激薬の成分(気管支拡張効果)が含まれています。β2刺激(ホルメテロール)の成分は即効性があるために、発作時にも使えるのです。
このように①長期管理と②発作時の治療を同じシムビコートの吸入器で施行することができるのがSMART療法です。
従来、発作時はβ2刺激薬のみで喘息発作を治療していました。シムビコートによるSMART療法は、それだけでなくステロイドによる効果も期待ができます。これによって、発作時の炎症レベルを抑えることができます。このことで、長期的な喘息の悪化を抑えることができます。このメリットを以下の図にて示します。
- 図中の線:シムビコートの定期吸入+追加吸入療法(SMART療法)
- 図中の点線:従来の配合剤+発作時にβ2刺激薬の追加吸入(今までの治療)
上の図は、喘息発作の頻度の違いを示したデータです。横軸が経過日数で360日(約1年)まであり、縦軸は喘息発作の頻度を表しています。上であればあるほど、発作が起こりやすいことを示しています。
SMART療法である線は、点線に比べて常に下にあることが分かると思います。つまり喘息発作時にステロイドによる抗炎症効果を加えることで、喘息発作を生じるまでの期間を従来の治療法と比較して有意に延長させ、喘息の悪化を有意に減少させました。
そのため、症状が安定している軽症の方はSMART療法の方がより良いということになります。
3.SMART療法の注意点は?
SMART療法は、軽症の喘息の方しか適応になりません。また症状が安定していても、必ず朝と夕に吸う必要があります。
まずSMART療法は、シムビコートの吸入回数が少ない軽症の喘息の人のみに認められている治療です。シムビコートの1回の吸入が1~2回(1日2~4吸入)の人が適応になります。1回の吸入回数が3~4回(1日6~8吸入)の人は、適応外になりますので注意しましょう。
さらに発作時の吸入方法ですが、SMART療法では発作時に1回吸入して、数分間経っても喘息発作が持続する場合は、さらに追加でシムビコートを1吸入します。
この時、1日のシムビコートの上限は8回吸入までという縛りがあります。
- シムビコートを朝と夕1回吸う方は、発作で6吸入までが最大量です。
- シムビコートを朝と夕2回吸う方は、発作で4吸入までが最大量です。
この時に、シムビコートをやみくもに連発して吸ってはいけません。
SMART療法のある報告では、シムビコートの上限量を守れた患者さんは半分しかいないとされています。上限を超えて吸入してしまうと、シムビコートに含まれているβ2刺激薬(ホルメテロール)によって不整脈が生じたり、まれではありますが心停止などの重篤な副作用の危険性もあります。
ホルメテロールの主成分は、β2刺激薬になります。しかしながら、β1にもわずかながら刺激してしまいます。このβ1の作用として、心臓にムチをうつような作用があるのです。
軽度であれば、動悸の副作用があります。量がどんどん増えてしまうと、心臓のリズムを狂わせてしまい不整脈が起きてしまいます。さらに使い続けると、心臓が止まりかねないお薬なのです。
喘息発作が重度であると、酸素の取り込みも低下します。そうすると心臓が頑張って、一生懸命ポンプとして働きます。そこにさらにβ1の刺激を送り続けることで、心臓がオーバーヒートしてしまいます。シムビコートの効果が不十分な場合は、心臓がオーバーヒートする前に必ず病院を受診するようにしましょう。
シムビコートの吸入回数が多い人はSMART療法ができませんが、その理由もここにあります。もともと吸入回数が多い人が発作時にさらに追加して安全性が得られるのか、現時点では証明できていません。
添付文章では、シムビコートは「一時的に1日12吸入まで可」と書かれていますが、その際は必ず病院を受診するように指示しています。長期薬と発作薬療法の効果を兼ね備えているといって、シムビコートを乱発することだけは絶対にやめましょう。
一方でSMART療法に慣れてくると、「毎日定期的にシムビコートを吸ったうえで、発作時にシムビコートを吸うこと」が「発作時のみにシムビコートを吸うこと」に変わってきてしまう人も多いのが、このSMART療法の弱点です。
喉元過ぎれば熱さ忘れるということわざ同様、どうしても症状がないとシムビコートを毎日吸う意義が分からなくなってしまいます。
SMART療法が適応になる患者さんは、吸入回数が1~2回と軽症な喘息な人です。軽症な喘息の患者さんは、咳や痰、息切れなどの症状は少なく、喘息発作も遠い昔といった人も多いかと思います。
そのため、「喘息発作が出現すれば吸えば良い」という考えが脳裏をよぎると思います。しかしこれは大間違いです。
喘息発作を繰り返すと、気管支がどんどん太くなってきます。これは筋トレをイメージしていただけると理解していただけると思います。筋トレをすると、徐々に腕の筋肉が太くなります。腕だと筋トレの効果があって喜ばしいことですが、気管支が太くなることは喘息を悪化させてしまいます。
気管支が太くなりすぎてしまうと、シムビコートでも気道が広がらなくなってしまって喘息発作が改善しなくなります。これをリモデリング(不可逆性)と、専門用語では呼んでいます。
この時に慌てて、シムビコートを毎日定期的に吸入する本来のSMART療法に戻しても、一部の人は手遅れになります。この場合は、次の一手はステロイドになります。
しかしステロイドは、諸刃の治療です。効果もありますが、副作用も強いお薬です。そのためステロイドは気軽に出せるお薬ではないため、喘息をしっかりとみれる病院の受診が必要になります。
毎日吸入するお薬が面倒だからといって、発作時だけシムビコートを吸うようにしてしまうと、後で大変な思いをしてしまいます。必ず長期管理薬でしっかりと喘息を治療するようにしましょう。
4.SMART療法が向いてる人は?
<向いてる人>
- 喘息の症状が軽度の人
- 喘息発作が出現したときに今まで長期治療薬が入ってなかった人
- 咳喘息と診断する人
SMART療法の大前提である喘息の長期管理は、シムビコート1回につき1~2吸入の患者さんに限られます。
シムビコートの1回の吸入回数が3回以上の患者さんは、喘息発作が頻回に起きる状態が多いでしょう。そのような人は、家で様子を見ているとあっという間に喘息発作の状態が悪くなってしまいます。
そのためSMARTで様子を見るのではなく、短期型のβ2刺激薬を吸入してすぐに病院を受診するように心がけた方が良いです。
一方で、喘息が長期間落ち着いていて喘息の治療を全くしてこなかった患者さんにも、SMART療法は良い適応です。喘息発作が重度であれば話は別ですが、軽度で外来通院しようとするときに、どのくらいの投与量が適切か分からないことが多いです。
実際に喘息は数値化しづらい病気です。そのため患者さんの症状と照らし合わせて治療を開始するのですが、投与量が足りないと喘息がコントロールできません。従来の喘息の治療としては、吸入ステロイド含めてしっかりと治療して、安定したら徐々に引き算で減らしていく治療法が多かったです。
喘息のガイドラインでは、3~6か月治療が安定したら少しずつ減量してもよいことになっています。つまりガイドライン通りにステップダウンしていくと、本来の適切な治療量にたどり着くのに1年近くかかってしまうこともあるのです。
一方でSMART療法であれば、定期吸入にプラスして発作時に追加吸入するので、非常にコントロールしやすい治療法になります。シムビコートを処方してSMART療法を行っていけば、どのくらい追加吸入したかでステップアップするかどうか判断しやすくなります。
ここからは個人的な意見ですが、このSMART療法が最も活用しやすいのが長引いている咳に対して咳喘息の診断をするときです。最近では、気管支喘息にも色々な種類があることが分かってきてます。特に喘鳴が聞かれない咳喘息と言う病気に対しても、シムビコートは効果を示します。咳喘息の診断基準は、β2刺激薬の吸入薬で反応があるかどうかです。
咳がひどい場合はβ2刺激薬だけでは抑えられないことも多いため、長引く咳に対して吸入ステロイドも含まれているシムビコートを処方して咳喘息の鑑別を行う場合があります。ただし吸入ステロイドを被せてしまうと、アトピー性の咳と見分けられなくなるということで嫌がる先生もいます。
一方で咳喘息は診断が非常に難しい病気です。ポイントはひとつ、「β2刺激薬で咳が治ったどうか」です。
この時にβ2刺激薬を処方した後に、
- 「薬吸っても効いたような、効かないような・・・」
- 「薬吸っても、咳は出る時は出ます。でも出ない時はでないです。」
- 「薬が効いたのか、ほっといても治ったのかよくわからないです。」
といった意見がでます。これだと医師の方も薬が効果があったのかどうかよくわかりません。
- 「咳喘息だけど治療薬が足りてない?」
- 「咳喘息ではそもそもない?」
病気が診断できないと、次の治療法に非常に苦慮します。その点SMART療法であれば、
- 定期的にシムビコートを吸って全体的に咳が減ったか?
- 咳が出たときにシムビコートを吸って止まったか?
の2つの項目で病状を評価することができます。シムビコートを吸って咳が止まるかどうかというのは、患者さんにとっても分かりやすいポイントかと思います。
そのため私は、咳喘息が疑われた時は、「シムビコートを2回朝と夕の計4回吸ってください。さらに咳が出たときに追加で4吸入まで吸えます。これで咳が減ったかどうか教えてください。」と、SMART療法で治療判定することが多いです。
まとめ
- SMART療法はシムビコートで長期管理をしながら発作時にも追加吸入する治療法です。
<メリット>
- 一つの吸入器で長期管理と発作治療薬二つの役割ができます
- 発作時に気管支拡張作用だけでなく抗炎症作用も加わるため、喘息発作のさらなる増悪を抑えます
<デメリット>
- シムビコートの吸入が1回3回以上(1日6回)の人はSMART療法ができない
- シムビコートを喘息発作時にしか使わなくなる
<向いてる人>
- 喘息の症状が軽度の人
- 喘息発作が出現したときに今まで長期治療薬が入ってなかった人
- 咳喘息と診断する人
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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