シムビコートはどんな肺気腫(COPD)の方に向いているのか

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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シムビコートはβ2刺激薬とステロイドの合剤として、喘息に対する効果を期待されて発売されたお薬になります。シムビコートは肺気腫(COPD)に対しても効果が認められ、2012年に適応が追加されました。

COPDのガイドラインでは、肺気腫の増悪を繰り返す中等度から重症例に限り使われます。シムビコートを朝・夕2回、1回につき2吸入行っていきます。

ステロイドを吸入すると炎症を抑えるというメリットがある一方、防御力を下げてしまうため肺炎になりやすいというデメリットもあります。そのため、軽症例にシムビコートは推奨されていません。

しかし中等症から重症の肺気腫の患者さんは、防御力に関係なく何度も肺炎の悪化などを繰り返してしまいます。このような方ではすぐに肺気腫が悪化することを想定し、炎症がひろがりにくくするために事前にステロイドを吸入しておいた方が良いのです。

ここでは、どのような肺気腫(COPD)の患者さんにシムビコートを投与した方が良いのか、お伝えしていきます。

 

1.肺気腫の治療はどんなお薬があるの?

β2刺激薬と抗コリン薬を中心に治療します。重症例に対しては、ステロイドを上乗せして治療します。

肺気腫とは、タバコなどで肺が穴ぼこだらけになってしまう病気です。COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)という別名があり、訳すと慢性閉塞性肺疾患となります。

肺がタバコで傷ついて、閉塞性障害が常にある病気になります。閉塞性障害とは気管支が狭くなって、思いっきり息を吸ったり吐けなくなる状態です。

このような病態がCOPDです。そのためCOPDでは、閉塞した気管支を少しでも広げるのが第一治療となります。治療の指標として、ガイドラインでは以下の図が示されています。

copdの治療ガイドライン

ピラミッド状のこの図は、状態が悪くなれば上に書かれている薬剤を追加していくようになっています。具体的にみていきましょう。

軽症例には、以下の2つのうちどちらかが選択肢になります。

  • 長時間作用型抗コリン吸入薬(商品名:スピリーバ・シーブリ・エンクラッセ・エクリラ)
  • 長時間作用型β2刺激吸入薬(商品名:セレベント・オンブレス・オーキシス)

昔は短時間作用型のお薬が使われていましたが、COPDは常に閉塞している病態であることから、軽症例であっても24時間常に広げておくような治療が主流となっています。

さらにCOPDの病状が進行している場合は、抗コリン薬とβ2刺激薬の両方を投与します。

しかし、これでも病態が改善しない人はどうするのでしょうか?テオフィリンという飲み薬もガイドラインでは選択肢とされていますが、吸入薬に比べるとはるかに効果は少ないことが証明されています。

実はこれまで、抗コリン薬とβ2刺激薬2つの吸入薬でも症状が改善しない人は、完全にお手上げとなってしまいました。痰切りや咳止めでごまかしつつ、酸素状態がいよいよ悪くなったら自宅で酸素吸入をしながら生活していただくという流れになっていました。

そんな中、COPDの治療の切り札として注目されたのが吸入ステロイドです。重症のCOPD患者さんに吸入ステロイドを加えることで、

  • 呼吸機能の改善
  • 運動能力の改善
  • 増悪頻度の低下

など様々な良い結果が報告されました。そのため抗コリン薬とβ2刺激薬を投与しても症状が改善しない重症の患者さんにとって、吸入ステロイドは救世主となったのです。ですが、3剤の吸入薬を吸うのは大変ですよね?

そのためこのような場合、抗コリン薬に加えて、β2刺激薬とステロイドの配合剤であるシムビコートがよく使われることになったのです。これによって2剤の吸入で治療が可能となっています。

 

2.なぜシムビコートは1回につき2吸入のみ?

吸入ステロイドに関しては、いまだ確立したデータが多くありません。しっかりと治療効果が保証されているシムビコートの量は、1回につき2吸入のみです。

シムビコートは、朝と夕に1回2吸入ずつ、計4吸入のみがCOPDでの適応とされています。もっとステロイドの量を下げたり上げたりしてはいけないのでしょうか?

実はこの答えが、現時点でははっきりしていないのです。

先ほど示したCOPDのガイドラインでも、吸入ステロイドを使用する条件は「増悪を繰り返す症例」となっています。つまり、COPDの治療薬としては最終手段になるのです。その次は、酸素療法と外科的療法しか残されていません。

それにも関わらず増量ができないのは、吸入ステロイドが良い面もあれば悪い面もあるからです。ステロイドの効果として抗炎症作用があげられます。つまり白血球などの自分の肺を守る細胞の働きを押さえつけて、炎症を防ごうというのがステロイドです。

重度の肺気腫の患者さんは息を吐く力が弱いため、ばい菌を外に出す力もないのです。そのため、ばい菌が肺にとどまってしまいます。ばい菌がとどまる度に白血球などが炎症を起こすと、ただでさえ弱ってる肺がもっと弱ってしまいます。

ステロイドは、細かいことには目をつむることで炎症を抑えようとする治療です。しかし一方で、目をつむる代わりに防御力が下がってしまいます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんにシムビコートを吸入した場合の副作用としては、130例中33例(25.4%)に副作用が認められました。その中の主な副作用は、

  • 嗄声5例(3.8%)
  • 肺炎5例(3.8%)

となっています。最も多い副作用は、声がかれる嗄声と並んで肺炎が多かったのです。

このため軽症の患者さんにはむしろ、シムビコートを投与することは勧められていません。重症の患者さんに対しても、どれくらいのステロイドをどの期間投与すればいいのかは現時点では定まっていません。

吸入ステロイドが少なくても炎症が抑えきれない、多すぎると防御力が下がってしまう…そういった中で現在しっかりとデータがあるのが、中間量のシムビコートの朝・夕2回吸入となっているのです。

現在は様々な研究がされていて、

もっと軽症の患者さんに対してシムビコートを投与したらメリットがあるのか?
すごい重症例に対してシムビコートを1回4吸入投与したら効果があるのか?

などを確認しているところです。次回のガイドラインではもしかしたら、シムビコートの吸入方法に関しても変わっているかもしれません。

 

3.シムビコートの肺気腫(COPD)への効果

実際に多くの研究でも、シムビコートを1日4回吸入することで症状の改善や増悪の減少が確認されています。

シムビコートは、呼吸機能や運動量などで評価した重症度の高いCOPD患者さんに使用することができます。

COPDは病態が末梢気道の病変(気道の奥の病変)になるので、粒子径の小さいシムビコートはより気道の奥まで薬剤を到達させることができ、効果的な治療を行うことができます。

シムビコートは、吸入後すぐに効果を発揮できる薬剤です。吸入5分後から呼吸機能の改善が認められています。COPDの症状として労作性の息切れがありますが、このような呼吸器症状を早期に改善することができるのがメリットです。

 このシムビコートを加えることで、

  • 呼吸機能の改善
  • 運動能力の改善
  • 増悪頻度の低下

がみられ、吸入ステロイドのデメリットよりもメリットが大きいことが確認されています。

実際にどれくらい呼吸機能が改善したかを示した図が下の図になります。

シムビコート、COPDで呼吸機能改善シムビコートをいつ吸ったか

縦軸は1秒間にどれくらい息が吐けたかをみています。COPDは、タバコで思いっきり息が吐けなくなる病気です。つまり1秒間に吐ける量が増えれば増えるほど(棒グラフが伸びれば伸びるほど)、効果があったことになります。

WK1はシムビコートを吸った1週間後、WK12はシムビコートを吸って12週間(3か月)吸った図になります。左から吸入前、吸入して5分後、吸入して15分後の呼吸状態をみています。

WK1の左の図からみていきましょう。息を吸う前からシムビコートを吸っておくと、5分後と15分後に1秒間に吐ける量が増えたことを示しています。さらに3か月たっても、シムビコートの効果は持続します。息が思いっきり吐けるということは気管支が広がったことを意味します。

それによって、咳や痰さらには息切れといった症状も軽くなるのです。さらにシムビコートを加えて、COPDの増悪があったかどうかをみたのが下の図になります。

シムビコートにCOPDを加えた際の増悪率

COPD治療で最もよく用いられている抗コリン薬のスピリーバ(チオトロピウム)に、シムビコートを併用した際の増悪抑制効果を検討しています。図中の点線がチオトロピウムにシムビコートの併用群を示しております。黒線はチオトロピウム単独になります。

縦軸がどれくらい症状が悪化したかをみた比率になります。横軸は日数です。これは90日(3か月間)みています。つまり折れ線グラフが上にあればあるほど、COPDが悪化した率が高いことを示します。これを踏まえてみてみると、点線のシムビコートを併用した方が黒線よりも下にあるのが分かると思います。

最終的(90日間)にチオトロピウムにシムビコートを併用した群では、チオトロピウム単独群に比べ62%、有意にCOPD増悪の発現頻度を抑制しました。

COPDが増悪する因子として最も多いのが肺炎です。肺炎が起きれば、ほぼCOPDは悪化します。つまりこの結果では、重症例に限り吸入ステロイドを加えた方が、免疫が落ち肺炎になるリスクよりも炎症を抑えCOPDの増悪するメリットの方が大きいことを示しているのです。

 

4.肺気腫でシムビコートを処方された方へのアドバイス

タバコを吸っている人は、すぐに禁煙にとりくみましょう。シムビコートは薬物療法としては最後の手段になりますが、今から禁煙することで悪化を防ぐことができます。シムビコートで症状をコントロールしながら、変わらない生活を送られる方も多いです。

肺気腫は、一度肺が穴ぼこだらけになってしまったら二度ともとには治らない病気です。肺気腫の治療も一時的には呼吸機能を改善しますが、長期的な意味合いとしてはこれ以上肺の機能が悪くなるのを防ぐ治療です。

そのためCOPDは、薬を吸ってれば治るという病気ではないのです。ですので、本来であれば肺気腫・COPDなど診断されたら禁煙が第一の治療になります。しかし中にはタバコをやめられずに、吸い続けた人もいるでしょう。

シムビコートを処方されたということは、実は薬物療法の最終手段をとったということになります。ここまで重症でも、タバコを吸い続けている人が稀にいます。シムビコートが処方されてもタバコを吸い続けてしまう…その結果としてこれ以上病態が悪くなると、医師も完全にお手上げになります。

肺気腫の症状としては、以下のようなものがあります。

  • 咳が止まらない
  • 痰が上手く出せない
  • 少しでも動くと苦しい

シムビコートで一時的に症状が改善したのに、タバコで肺をさらに壊してしまってこれらの症状が出てしまうと、医師としても治療法がなくなってしまいます。このようにならないように、絶対に禁煙するようにしましょう。

一方で、タバコをやめても病態が進行していくのが肺気腫の嫌なところです。人によっては、「自分の肺はもう治らない」と気持ちが落ち込んでしまうかもしれません。

実際に肺気腫の人は少しでも動くと息苦しくなり、結果として家に閉じこもり気持ちが落ち込んでしまうことが多いという報告もあります。

しかしシムビコートを処方されて、長年元気に暮らしている方も大勢います。外に散歩に出かけたり、趣味のスポーツをしている方も経験しています。しっかりと症状をコントロールすれば、元気に生活できる病気でもあるのです。

楽観視されても困る病気ですが、過度に悲観的になる必要もありません。肺気腫の方で病状に不安を感じたら、一人で解決しようとせず医師に相談して適切な治療を受けるようにしましょう。

 

まとめ

  • 肺気腫に対してシムビコートは朝と夕方2回ずつ計4回吸入のみ適応があります。
  • シムビコートは増悪を繰り返す重症例に対してのみ適応があります。

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