バイナス錠(ラマトロバン)の効果と副作用について
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
バイナス(一般名:ラマトロバン)は、2000年から日本新薬株式会社にて発売されれた抗アレルギー薬です。
アレルギー性鼻炎にのみ適応があるお薬なので、主に花粉症の時期にしか登場しないかもしれません。
花粉症というとアレグラやアレジオンなどの抗ヒスタミン薬が有名かもしれませんが、バイナスは主にトロンボキサン受容体をブロックすることでアレルギー症状を抑えるお薬です。作用機序が違うため、併用することで相乗効果も期待できるお薬です。
バイナス錠は副作用も少なく、あまり皆さんには知られていませんが安全に使えるお薬です。ここでは、バイナス錠の効果や副作用について詳しく見ていきましょう。
1.バイナスの効果と向いている人とは?
- 抗ヒスタミン薬だと眠気が出る軽症な人
- 抗ヒスタミン薬だけだと鼻閉の症状が残る人
- 抗ヒスタミン薬があまり効かない人
花粉症の治療薬としては、抗ヒスタミン薬が第一選択肢として揺るぎない地位を築いてます。個人差があるものの、バイナスと抗ヒスタミンを比較すると抗ヒスタミンの方が有効とされることが多いです。
そのためバイナスは、抗ヒスタミン薬が使用できないときの代打、もしくは抗ヒスタミン薬だけだと花粉症の症状が残存する人用のサポートのお薬と考えるのが良いと思います。
特に抗ヒスタミン薬は鼻づまりには効果が弱い弱点があるお薬です。バイナスはその弱点を補うことができ、一緒に内服することで鼻づまりが改善する可能性があります。
また、抗ヒスタミン薬とは異なるトロンボキサン受容体をブロックすることでアレルギー症状を抑えるため、抗ヒスタミン薬が効かない人には試してみる価値があります。
2.バイナスの適応疾患と薬価
バイナス錠は、成人の場合75mg1錠を朝・夕食後2回に分けて内服します。1日150mgバイナスを内服することになります。
バイナス錠は、アレルギー性鼻炎、つまり花粉症にのみ効果を適応が認められているお薬です。他の抗アレルギー薬はアトピー性皮膚炎や喘息などにも使用されるのに対して、バイナス錠はアレルギー性鼻炎のみの適応であるため、使用する時は注意が必要です。
商品名 | 剤形 | 薬価 |
バイナス錠 | 50mg | 91.3円 |
バイナス錠 | 75mg | 115.8円 |
主に成人の場合、75mg1錠を朝・夕食後2回に分けて内服します。1日150mgのバイナスを内服することになります。ただし高齢者(65歳以上)の方には、バイナス錠の副作用が強く出る可能性があるため、低用量(100mg/日)から投与を開始していくことが多いです。
バイナスは剤形が、50mgと75mgの2種類があります。バイナス75mg錠は、薬価が115.8円(3割負担で約34.7円)になります。バイナスは1日2錠になりますので、1日にかかる薬価は231.6円(3割負担で約69.4円)になります。
バイナス錠は発売からしばらくたっていますが、ジェネリック医薬品は発売されていません。知名度が低いお薬で処方量が増えていないため、後発品を作ってもあまり売れないためです。このためバイナス錠は、先発品のみで薬価は高くなってしまいます。
3.バイナスが使えない人は?
バイナス錠には禁忌はありませんが、出血傾向な人は避けた方が無難なお薬です。
バイナス錠の慎重投与の症例は、
- 出血傾向のある患者さん[出血を助長するおそれがあります]
- 月経期間中の患者さん[出血を助長するおそれがあります]
- 肝障害のある患者さん[バイナスは肝機能異常を起こすことがあります]
とされています。さらにお薬の飲み合わせで注意が必要なものには、
- 抗血小板剤(チクロピジン等)
- 血栓溶解剤(ウロキナーゼ等)
- 抗凝血剤(ヘパリン、ワルファリン等)
- サリチル酸系製剤(アスピリン等)
- テオフィリン
の5つが挙げられています。これらのお薬のうち①~④は脳梗塞後や心筋梗塞後、不整脈で使われているお薬で、血をさらさらにします。これらのお薬の効果を、バイナスを併用することで増強してしまいます。
これらのお薬を使用している方は多くの方が、高齢の方かと思います。どんなお薬でもそうですが、高齢の方はバイナス錠の副作用が出やすいです。さらに①~④のお薬は、風邪など体調を崩した時にお薬の効果が強く出ることもあります。
バイナス錠は花粉症治療ではサポート的なお薬なため、このように出血傾向がある人(血をサラサラにしている人)はメ避けた方が良いお薬かと思います。
4.バイナスの副作用の特徴
バイナス錠の副作用はほとんどありません。ただし肝機能障害が5%の方に認められるので、元々肝臓に障害がある人は注意が必要です。
バイナス錠の臨床試験では、1,240例中86例(6.9%)に副作用が認められました。主な副作用の発現件数(発現率)は、腹痛15件(1.2%)、頭痛・頭重14件(1.1%)、眠気12件(1.0%)、発疹8件(0.6%)、嘔気8件(0.6%)、下痢7件(0.6%)となっています。
この中で気になる副作用としては、眠気があげられます。抗ヒスタミン薬でネックとなる副作用も眠気なのです。ですがバイナス錠では、抗ヒスタミン薬に追加して眠気が強くなったという医学的な根拠やデータはありません。
特にこの臨床試験では、抗ヒスタミン薬とバイナス錠を併用して使っている人も含まれていますので、抗ヒスタミン薬によって眠気の副作用が出た可能性もあります。バイナス錠を服用していて、そこまで過度に眠気を心配する必要性はありません。
ただし採血結果として、AST(GOT)上昇38件/1,041例(3.7%)、ALT(GPT)上昇43件/1,042例(4.1%)、γ-GTP上昇35件/961例(3.6%)、AlP上昇19件/1,024例(1.9%)、LDH上昇17件/1,000例(1.7%)、ビリルビン上昇8件/1,005例(0.8%)と報告されています。
これらは全て肝臓や胆道系の酵素です。これらの数値が上昇するということは、肝機能が障害されていることを意味しています。そのため、肝機能障害ある人はバイナスを注意して使っていく必要があります。こちらも先ほどの出血と同じように、肝機能障害ある方は無理にバイナス錠を内服する必要はないかもしれません。
5.バイナスは妊婦や授乳中の方にも使えるの?
バイナス錠は妊婦の方でも使用できます。ただし授乳は勧められないので、注意が必要です
バイナス錠の添付文章をみてみると、
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない]
とされています。安全と言われているお薬でも、この一文がかかれていることが多いです。バイナス錠のせいで奇形が多くなるという報告があるわけではなく、妊娠中での安全性の確認をするだけの使用例がないだけです。倫理的に臨床試験などもできないので、安全性をきっちりと確認できていません。このような背景ですので、バイナス錠で毎年しっかり花粉症がコントロールされている方では中止する必要はないと思います。
授乳中の方に対しては、
授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は、授乳を避けさせること)。[動物実験(ラット)で母乳中へ移行することが報告されている]
と添付文章で記載されています。医師からは添付文章でこのように書かれてしまっている以上は「バイナス錠服用中は授乳を避けてください」としか言えないですが、一方でバイナス錠で子供に影響を与えたとするデータはありません。そのためバイナス錠を内服して授乳させても大きな問題はないかと思いますが、自己判断になるかと思います。
6.バイナスの効果のメカニズム(作用機序)
バイナスは、トロンボキサンA2・プロスタグランジンD2の働きを阻害することでアレルギー症状を抑えます。
バイナス錠には、3つの作用にて鼻づまりや鼻水に対して効果を示します。
- 抗トロンボキサン作用
- 抗プロスタグランジン作用
- 抗好酸球作用
です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
①抗トロンボキサン作用
バイナス錠は、トロンボキサンA2(TXA2)の働きをブロックする作用があります。
トロンボキサンは血管の透過性を亢進させることで、血管の中にある物質を血管外に移動させやすくします。これによって免疫細胞などが血管外に出ていき、炎症反応を誘発させます。
花粉症においては鼻粘膜にトロンボキサンが作用することで、鼻粘膜血管の透過性が亢進します。鼻粘膜に様々な物質が漏れだしてきて、結果として鼻づまりが引き起こされます。バイナスはトロンボキサンA2の働きをブロックすることで、鼻粘膜の血管透過性を正常に戻し、鼻閉症状を改善してくれるのです。
②抗プロスタグランジン作用
花粉症は好酸球や肥満細胞などの過剰なはたらきによって、アレルギー誘発物質(ケミカルメディエーター)がたくさん放出されることで鼻水や鼻閉の症状が出現します。このケミカルメディエーターの1つにプロスタグランジンD2(PGD2)があります。
プロスタグランジンD2はIgEの働きを促すことで、さらに花粉症の症状を強くさせる作用があります。さらにプロスタグランジンD2自体が鼻に炎症を起こし、結果として鼻づまりや鼻水を引き起こします。バイナスはプロスタグランジンD2の働きをブロックして、アレルギー反応を和らげる働きがあります。
③抗好酸球作用
花粉症の症状が生じる原因の一つとして、好酸球によって分泌される顆粒の影響があります。好酸球から分泌される顆粒には様々な成分が含まれており、多くがアレルギー症状を引き起こします。
バイナスはこの好酸球が顆粒を分泌するのを防ぐはたらきがあります。
まとめ
- バイナス錠はトロンボキサンA2・プロスタグランジンD2の働きを阻害することでアレルギー症状を抑えます。
- バイナス錠は抗ヒスタミン薬とは違う働きをするため、一緒に内服することで主に鼻閉を中心にさらに効果が高まる可能性があります。
- バイナス錠は副作用はほとんどありませんが、肝機能障害がある方、出血傾向の方は注意が必要です。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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