強迫性障害を克服するためには?強迫性障害の治療法

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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強迫性障害は、強迫観念(ある考えやイメージにとらわれてしまうこと)と強迫行為(繰り返しの行為)の2つを特徴とする病気です。

「止めたくても止められない」ために本人の苦しみも深く、生活にも大きな支障がある病気です。ですが多くの患者さんがギリギリまで耐え忍び、生活が破綻してはじめて受診されるようなことも少なくありません。

ですからなるべく早く強迫性障害という病気と向き合い、治療への第一歩を踏み出してほしいのです。強迫性障害はすぐに治療できるものではありませんが、薬物療法と精神療法を組み合わせることで、少しずつ良くなっていく病気です。克服される患者さんも少なくありません。

ここでは、強迫性障害を克服していく治療法について詳しくみていきたいと思います。

 

1.強迫性障害では、治療に踏み出す勇気が大切!

強迫性障害は、受診までに平均7~8年かかる病気です。出来るだけ早く治療を始めることが、強迫性障害を克服するために重要です。

強迫性障害は、WHO(世界保健機関)によって「経済的損失および生活の質に関わる10大疾患」に位置づけられるほどに、非常に苦しみの大きい病気です。患者さん本人はもちろんのこと、家族も病気にまきこまれていくのがこの病気です。

それにも関わらず、強迫性障害は発症してもなかなか治療につながりません。強迫性障害の平均発症年齢は20歳前後ですが、病院に受診される平均年数は7~8年になります。

強迫性障害の患者さんの多くは、「バカバカしい」という思いを抱えながらも強迫行為をやめられません。患者さん本人も苦しんでいる病気なのです。周囲の人からは、本人の性格の弱さなどと誤解されていることも少なくありません。

症状がひどくなってしまうと、強迫観念に従ったルールが出来上がってきます。強迫観念とそれによる不安を避けるために、回避行動をとってしまいます。なかには自宅から出ることができなくなり、受診もできなくなってしまうことがあります。

このように、強迫性障害を発症してからの期間が長くなるほど、治療は難渋します。ですから強迫性障害の治療でもっとも大事なことは、できるだけ早く治療を始めていくことです。

 

2.強迫性障害の治療①-強迫性障害と向き合う

強迫性障害では、薬物療法と精神療法を組み合わせていきます。治療は長くなりますの、覚悟と希望をもってのぞみましょう。

まずは強迫性障害がどういう病気なのかを知りましょう。

強迫性障害の治療には、お薬はとても大きな役割をします。とはいっても、お薬を使えばすぐに克服できるというものではありません。ですが、お薬を使わずに克服することはある一定の症状以上だととても困難です。

現在のように抗うつ剤が発売される前は、強迫性障害は治療が困難な病気と考えられてきました。ですから強迫性障害は、中等度以上の症状がみられる患者さんはお薬を使ってしっかりと治療するべき病気です。

ただし、薬物療法だけでは克服はできません。強迫症状が重たい時期はお薬でしっかりと治療し、落ち着いてきたら精神療法を積み重ねていくことが大切です。

お薬によって不安や緊張が楽になり、物事を落ち着いて考えられる余裕が出てきます。そして苦手なことにも、チャレンジしていく気力がでてきます。このように精神療法を行えるだけのエネルギーがたまってきたら、以下の2つのアプローチをしていきます。

  • 暴露反応妨害法(認知行動療法)
  • 森田療法

詳しくは後ほどお伝えしていきますが、このように精神療法の地道な積み重ねが非常に大切です。強迫症状を軽減するだけでなく、強迫性障害の再発予防効果が高まります。本当の意味で強迫性障害を克服していくには、精神療法はかかせません。

そして症状がよくなっても、しばらく通院を続けていく必要があります。日々のストレスの中で、ふとした時に強迫観念への「とらわれ」が戻ってしまうこともあります。強迫性障害は、心のメンテナンスを欠かさずに定期的にしばらく通院した方がよいです。

強迫性障害の治療期間は長くなります。ですが一歩一歩積み重ねていけば、少しずつ克服していける病気になります。強迫性障害という病気にしっかりと向き合って、覚悟と希望をもって治療に臨んでいく必要があります。

強迫性障害に関して詳しく知りたい方は、私のサイトでも様々なテーマでまとめています。よろしかったら「強迫性障害のカテゴリ」をお読みください。

 

3.強迫性障害の治療②-精神科・心療内科に受診

精神科・心療内科は怖いところではありません。受診の一歩を踏み出してください。

強迫性障害について理解したら、精神科や心療内科に受診することが治療のスタートです。

強迫性障害では発症してもなかなか受診につながらず、限界になって受診される患者さんも多いです。強迫性障害は症状の悪化とともに受診することすらできなくなってしまうこともあります。

そこまでいかなくても、

「まわりに理解してもらえないから…」
「自分は病気ではない…」
「どうせ治らない…」
「精神科や心療内科は怖い…」

など様々な理由があります。

強迫性障害の患者さんは、周囲から心の弱さや怠け者といったように誤解をうけていることも少なくありません。誰も自分のことを理解してもらえないだろうという気持ちの方も多いです。

自分自身を病気だと認められない方もいます。心の病だということを認めたくないという方はとても多いです。どうせ治らないと思い込んでいる方もいらっしゃるでしょう。

精神科や心療内科に対して怖さを感じている方もいらしゃるかもしれません。お薬に対する怖さがある方もいるでしょう。

強迫性障害の治療は、薬物療法と精神療法を行っていくことが大切です。精神科や心療内科に受診して治療していくのが、もっとも確実な治療法です。とくに強迫性障害は専門性が高いので、精神科医にしっかりと診てもらうべきです。なかには内科医が心療内科をかかげていることがあるので、注意してください。

精神科・心療内科の診察について不安をお持ちの方は、「精神科・心療内科の受診のイメージと流れ」をお読みください。

なかには、病院に行くのは嫌だから自分で克服しようと思っている方もいらっしゃるかと思います。しかしながら、自分ひとりで精神療法を積み重ねていくのは非常に難しいです。落ち込みがひどい時に無理をしてしまうと、余計に強迫症状を悪化させてしまうこともあります。

強迫性障害をしっかりと克服するために、医師と相談しながら二人三脚で治療をすすめていきましょう。

 

4.強迫性障害の治療③-まずは生活習慣を見直す

睡眠・食事・運動・カフェイン・アルコールの生活習慣を見直してみましょう。

強迫性障害の症状は人それぞれですが、ストレスがかかると強迫症状は強くなります。とはいえ、ストレスを避けて過ごすことは強迫性障害は克服できません。強迫症状に対しては少しずつ立ち向かいつつも、生活習慣からコンディションを整えておくことが大切です。

生活習慣が乱れていると、精神状態が乱れやすくなります。睡眠不足が続いたときに、ちょっとしたことにイライラしたり、動悸が止まらなかったりといった心身の不調を感じたことはあるでしょう。

強迫性障害の治療を始めていくに当たっては、不安や緊張が高まりやすい状態をなくしていく必要があります。生活習慣は「習慣」ですから、身体に染みつけば当たり前になっていきます。長い目で見た再発予防の観点でも、生活習慣を整えることは大切です。以下のような生活習慣を見直してみてください。

  • 睡眠不足や起床時間のずれ
  • 不規則な食生活
  • 運動習慣
  • カフェインの摂取
  • 飲酒

 

5.強迫性障害の治療④-薬物療法で症状コントロール

不安や緊張をお薬で抑えることで、精神療法を行っていく気力がでてきます。抗うつ剤を中心に、抗不安薬を補助薬として使っていきます。抗精神病薬を使うこともあります。

強迫性障害の治療では、薬物療法と精神療法が組み合わせて進めていきます。軽症であれば精神療法だけで進めていくこともできなくありませんが、中等症以上であれば薬物療法を組み合わせないと克服が難しいです。

強迫症状が重く、不安や緊張が強い場合は、薬物療法からは始めていくべきです。不安や緊張が強いときには余裕がないので、柔軟に物事を考えることができなくなります。お薬によって症状が和らぐと、それだけで物事のとらえ方が変わる方もいらっしゃいます。

本人に問題意識があまりないタイプの方も、薬物療法から始めていくべきです。運動性タイプの強迫性障害では、強迫観念による不安が伴いにくいです。そのような場合も、本人の自覚がうすければ精神療法も行いにくいからです。

 

強迫性障害で使われるお薬は、SSRIなどのセロトニンを増加させる抗うつ剤が中心になります。強迫性障害の治療では、他の病気と比べて抗うつ剤の効きが遅く、高用量が必要になります。

このため不安や緊張を和らげるため、抗不安薬を併用することが多いです。抗不安薬は即効性がありますが、耐性(効かなくなること)と依存性(やめられなくなること)に注意が必要です。

強迫性障害では、十分に抗うつ剤を使ってもお薬の反応が乏しいことがあります。そのような時は、抗精神病薬を少量から追加すると有効なことが多いです。

お薬を不安に思われる方も多いかと思いますが、抗うつ剤や抗精神病薬は用法を守れば安全性の高いお薬です。抗不安薬も、出口を見据えて使えば問題ありません。

強迫性障害の薬物療法について詳しく知りたい方は、「強迫性障害に有効な薬とは?強迫性障害の薬物療法」をお読みください。

 

6.強迫性障害の治療⑤-精神療法を積み重ねる

強迫性障害では暴露反応妨害法を中心に治療していきます。認知行動療法や森田療法も有効です。

お薬によって強迫観念に向き合うための気力がでてきたら、精神療法を行っていきます。

強迫性障害の精神療法は、「習うより慣れろ」で行っていくことが多いです。つまり、「習う=認知」よりも「慣れる=行動」を行っていくのです。

  • 認知療法:考え方を変えて行動を変える
  • 行動療法:行動してみて考え方が変わっていく

この2つのアプローチがあるわけですが、行動療法よりの精神療法を行っていくのです。具体的にいうと、暴露反応妨害法という方法を行います。

行動療法を行っていく前に、行動分析をしていきます。どのようなきっかけが自分の強迫観念を呼び起こし、不安や不快感を呼び起こすのか、そしてどのような強迫行為によって軽減していくのかを分析します。このように認知にもアプローチするので、行動療法よりの認知行動療法といえます。

その他にも、森田療法が有効なケースもあります。森田療法が適応となるのは、本人が不合理に感じていて、とらわれが強い場合です。

このように、少しずつ精神療法を積み重ねていく必要があります。精神療法では物事のとらえ方がかわっていくので、再発予防効果が期待できます。

理想をいえば、カウンセリングでしっかりと時間をとって精神療法を計画的に行っていった方がよいです。しかしながらカウンセリングは、金銭的な敷居が高くなってしまいます。

精神科や心療内科の外来でも、少しずつ精神療法を意識しながら診察を重ねていきます。しかしながら外来は時間の限界があるので、どうしても5~10分ほどの診察の中でできる範囲になってしまうことが多いです。外来では医師と一緒に計画をたてて、患者さんが自分の力で精神療法を行っていくことも必要です。

ここでは、強迫性障害ではどのような精神療法が行われるのか、ご紹介していきます。

 

①暴露反応妨害法(認知行動療法)

暴露療法とは、ざっくり言ってしまうと不安に慣らせていく治療法です。この治療法の原理としては、苦手なものに暴露された時に感じる不安の「2つの慣れ」があります。

  • 不安は一時的に上昇するものの、時間と共に減っていく
  • 何度も練習していくうちに、不安の大きさが全体的に小さくなる

あえて自分を苦手なものにさらしていき、その不安が時間と共に薄れていくことを身体で理解して学習していきます。そうはいっても、いきなり無理をしてはいけません。不安階層表というものを作り、取りくみやすいものを課題として順番に行っていきます。

強迫性障害の不安階層表(PDF)

この例では、状況や物などの外的な刺激を中心に例をあげました。イメージなどの内的な刺激でもよいです。例えば、「公衆トイレに触っているイメージ」などです。

このうちの点数が低いものから順番に暴露していきます。暴露すると不安が高鳴りますが(暴露反応)、その後に続く強迫行為をするのを我慢(妨害)します。

ここで大事なのは、不安や不快感が生じることに慣れることです。自分の内面に出てくる感情を言葉にして、それに慣れていくことが大切です。内面の感情が慣れずに表面的に耐えてしまうと、他のきっかけですぐに強迫症状が出現してしまいます。

治療がある程度進んでくると、不安を下げるだけでなくて不安耐性を高めることを意識しながら暴露反応妨害法をすすめていきます。

複数の刺激を同時に与えてみたり、いろいろな課題に暴露してみます。ときには不安階層表の点数の高いものと低いものをおりまぜて「やることリスト」を作り、どのような感情にも慣れていけることを学習していきます。

最終的には暴露間隔を少しずつあけていって、一度忘れてしまったことを再学習するようにしていきます。

詳しく知りたい方は、「暴露療法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか」をお読みください。

 

②森田療法

森田療法では、様々な感情(不安・恐怖・緊張など)や様々な身体反応(動悸・ふるえ・発汗など)は自然なものと考えます。その感情を「あってはならないもの」と決めつけてしまって、それを何とか消し去ろうとすることが不自然と考えます。

この感情や身体反応を消そうとすればするほど、自分に注意が集中して悪循環となってしまうのです。「あってはならないもの」という決めつけが、「とらわれ」を作ってしまうのです。

ですから森田療法では、「感情」と「行動」を分けて考えます。感情に対する認識や行動などの関わり方が問題と考えます。

例えば、「自分は汚れてしまっている」という強迫観念から「何度も手を繰り返し洗う」という強迫行為の患者さんでみてみましょう。強迫観念の思考とともに、不安や緊張が生じます。森田療法では、これ自体は仕方がないことと考えます。これを変えようとするのではなく、受け入れる必要があるのです。

このような不安が出てくるのは、その背後には「過剰な生の欲望」があると考えます。より健康に生きたいから汚染恐怖にとらわれていると考えます。そのように考えて、不安を排除するのではなくそのまま置いておくことにならせていきます。

そして次第に、感情とは切り離して建設的な行動ができるようにしていきます。このように目の前のことを受け止め、自分の本来の望みに従って生きられるようになる「あるがまま」の状態を目指します。

暴露反応妨害法のように部分的な行動に焦点をあてるのではなく、森田療法では人間全体にアプローチしていく治療法といえます。

詳しく知りたい方は、「森田とは?「あるがまま」の本当の意味」をお読みください。

 

7.強迫性障害の治療⑥-薬を使わないリラックス法

呼吸法・漸進的筋弛緩法・自律訓練法など、自分自身をリラックスさせる方法も有効です。

自分自身でリラックスする方法もあります。精神療法と上手く組み合わせていけると、自信につながっていきます。

その代表的な方法としては、以下の3つがあります。

リラックスする呼吸法とは、吐く時間を意識した腹式呼吸法です。上手になってくると、呼吸を整えることで不安や緊張を和らげることができます。苦手な社会的状況に直面した時に、呼吸法で乗り切れれば大きな自信になります。

漸進的筋弛緩法とは、リラクゼーションとも呼ばれている方法です。筋肉の緊張状態を知り、それを和らげていく練習をします。慣れてくると、自分自身の緊張状態に気づけるようになってきます。

自律訓練法とは、リラックス状態を自己暗示で作れるようになっていく方法です。リラックス状態をイメージして、それを身体にしみこませていきます。上手になってくると、リラックス状態をすぐに作れるようになっていきます。

いずれの方法も、繰り返し続けていくことで少しずつ上手になっていきます。いわば筋トレのようなもので、すぐには効果が出ないけれども継続していくことで少しずつ効果が出てきます。

詳しく知りたい方は、「薬に頼らずに不安を解消する4つの方法」をお読みください。

 

まとめ

  • 強迫性障害は、受診までに平均7~8年かかる病気です。出来るだけ早く治療を始めることが、強迫性障害を克服するために重要です。
  • 強迫性障害では、薬物療法と精神療法を組み合わせていきます。治療は長くなりますの、覚悟と希望をもってのぞみましょう。
  • 精神科・心療内科は怖いところではありません。受診の一歩を踏み出してください。
  • まずは、睡眠・食事・運動・カフェイン・アルコールの生活習慣を見直してみましょう。
  • 不安や緊張をお薬で抑えることで、精神療法を行っていく気力がでてきます。抗うつ剤を中心に、抗不安薬を補助薬として使っていきます。抗精神病薬を使うこともあります。
  • 強迫性障害では暴露反応妨害法を中心に治療していきます。認知行動療法や森田療法も有効です。
  • 呼吸法・漸進的筋弛緩法・自律訓練法など、自分自身をリラックスさせる方法も有効です。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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