強迫観念と強迫行為とは?強迫性障害の症状
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
強迫性障害とは、繰り返し浮かんでくる考えやイメージである「強迫観念」と、それを打ち消すための「強迫行為」を特徴とする病気です。
多くの患者さんが自分でもバカバカしいと理解しているのにもかかわらず、それを止めることができません。強迫症状によって生活に支障が生じて、その疲労からうつ状態になってしまう方もいらっしゃいます。
このような状態が続くことで、苦手な状況は避けるようになってしまいます。その結果、学校や仕事にいけなくなってしまったり、交友関係が途絶えてしまったりすることもあります。また強迫行為に家族を巻き込んでしまい、家族間の関係も悪くなってしまうことがあります。
強迫性障害は非常に苦しみの深い病気であるにもかかわらず、なかなか受診にはつながりにくい病気です。発症してから受診に至るまでに、平均で7年かかるともいわれています。ぎりぎりまで耐えた挙句に生活が破綻して受診される患者さんが多い疾患です。
ここでは、強迫性障害の症状について詳しくお伝えしたいと思います。中核症状である強迫観念と強迫行為から、それがもとで問題となってくる強迫性障害の症状をみていきましょう。
1.強迫性障害の2つの中核症状と問題症状
強迫性障害は、強迫観念と強迫行為の2つが中核症状です。これに伴って、回避傾向や家族の巻き込みが問題になってきます。本人も不合理に感じていることが多く、社会的な損失も重なってうつ病や不安障害を合併することもあります。
強迫性障害の中核となる強迫症状としては、
- 強迫観念
- 強迫行為
の2つがあります。
強迫観念とは、何らかの考えやイメージにとらわれてしまって、繰り返して頭の中で考えてしまうことです。多くは日常生活の中での「とらわれ」が多く、日々の生活の中で強迫観念が邪魔をしてしまいます。
強迫行為とは、その強迫観念を打ち消すために行う行為になります。多くの場合で強迫観念によって不安が高まるので、「繰り返し行為」を行うことによって不安や苦痛が軽減します。
例えば、「トイレで手が汚れてしまった」という強迫観念から不安が湧き出てきて、「手が赤くなるほどに繰り返し洗う」という強迫行為がとめられなくなります。
この強迫観念と強迫行為については、多くの患者さんが「バカバカしい」「不合理だ」「過剰すぎる」と認識しています。それでも強迫観念は勝手に侵入してきて、とらわれてしまって強迫行為をやめられなくなってしまいます。
このようなことが続くと、仕事や学校といった社会生活はもちろんのこと、友人や家族などの日常生活にも影響がでてきます。強迫観念を避けるために距離を置いてしまったり、強迫行為に周囲を巻き込んでしまうこともあります。
本人も「やめたくてもやめられない」なかで苦しんでいるのに、やりたいことができずに人も離れていってしまうのです。こうした中で、二次的にうつ状態やその他の不安障害を合併してしまうこともあります。
2.強迫性障害の中核症状-強迫観念と強迫行為
汚染恐怖・不潔恐怖、加害恐怖、不完全恐怖といったりしますが、それぞれ質の異なる強迫観念があります。それに従って、強迫行為が認められます。
強迫性障害の中核症状としては、強迫観念と強迫行為があります。
強迫観念にも様々なものがあって、それを打ち消すための強迫行為をとります。その関係をみたときに、その背景には4つの要因へのとらわれがあることが分かってきています。
- 汚染・洗浄(自分が汚染されているのではないか)→汚染恐怖・不潔恐怖
- 禁断的思考(してはいけないことをしてしまうのではないか)→加害恐怖
- 対称性(まさにピッタリとした感じがしていない)→不完全恐怖
- 溜め込み(物がなくなってしまうのではないか)→溜め込み障害
溜め込み障害は別の疾患としてくくられているので、ここではその他の3つをご紹介したいと思います。
①汚染恐怖・不潔恐怖
「自分が汚染されているのではないか」というとらわれが根底にあります。汚染に関係する強迫観念に対して、洗浄行為という強迫行為がやめられなくなってしまいます。
例えば、外出先から帰った時に、手が汚れていると考えて手洗いをするのは普通のこと です。普通は1回手を洗うとそれで満足します。しかしながら汚染恐怖・不潔恐怖がある方は、汚れてしまったと過剰にとらわれてしまいます。不安が落ち着くまで手洗いをやめられなくなってしまい、冬場で手が赤く擦り切れてしまってもやめられないのです。
強迫観念の程度が重たくなると、「軽トラをみたら農薬に汚染されている」「〇〇に似ている人をみたら汚染されてしまう」といったように、普通の方には理解ができないような妄想的な内容になることもあります。
このような強迫観念に対して行われる強迫行為として、以下のような洗浄行為が一般的に認められます。
- 過度な手洗い行為
- 過度なシャワー浴び・入浴・歯磨き・身繕い・トイレなどの日常行為
- 家具などの家庭用品まで執拗にきれいにしようとする行為
- 汚染物質に触れることを避けたり、できるだけ遠ざかろうとする行為
汚染されていないことを周囲の人に確認する強迫行為をとることもあります。
②加害恐怖
加害恐怖としては、「自分がしてはいけないことを、誰かにしてしまうのではないか」という禁断的思考へのとらわれがあります。そのような加害に関する強迫観念に対して、確認という強迫行為がやめられなくなってしまいます。
加害の強迫観念には、様々な内容のものがあります。
- 「他人を傷つけてしまうかもしれない」「車で轢いてしまうかもしれない」といった自分が攻撃してしまうことへの恐れ
- 「他人を性的に虐待したいと考えてしまう」「卑猥な内容が頭に浮かんでしまう」といった性的な加害の恐れ
- 「神を冒涜してしまうのではないか」「道徳に反してしまっているのではないか」といった宗教的な恐れ
このようなことをしてはいけないと分かっていますし、実際に行うわけではありません。患者さん本人も望んでいない思考なので、非常に苦悩しているのです。
このような加害恐怖を打ち消すための強迫行為としては、確認行為をとります。自分で確認できることでしたら、本人の行為の中で完結します。しかしながら、中には自分では確認ができないものもあります。そのような時には周囲の人に、「大丈夫ですよね?」という確認を、安心感が得られるまで求めます。
③不完全恐怖
不完全恐怖では、「ピッタリした感じ(just right feeling)がしていない」という感覚的なとらわれがあります。対称性や正確性にとらわれていて、本人のなかで「まさにぴったりとした感覚」が得られないことで落ち着かなくなります。
これまでの強迫観念とは少し異なっていて、強迫観念や不安が先にこないことがあります。実際になにかの行為をしたときに、「ぴったりした」感覚がえられないという強迫観念から、何度も何度も整理整頓をしたり、並べ替えたり、数を数えたりといった行為をしてしまいます。
これが几帳面のレベルを超えていると、不完全恐怖となります。恐怖といっても、本人には不安もなければ不合理だという認識もありません。病気という認識があまりない方が多いです。
- 「ほんの背がそろっていない」
- 「スリッパがそろっていない」
- 「冷蔵庫のドアがピッタリとしまった感じがしない」
- 「服を着た時にフィットした感じがしない」
このような日常生活でのこだわりが強くなり過ぎてしまって、何度も繰り返してやり直してしまって、次の行動にうつれなくなってしまいます。このことを、強迫性緩漫といったりします。
3.強迫性障害の症状からみる2つのタイプ
認知タイプと運動性タイプでは、強迫性障害の薬の効き方や治療アプローチが変わってきます。
強迫性障害では、大きく分けると2つのタイプに分けることができます。
- 強迫観念→強迫行為:congnitive type(認知タイプ)
- 強迫行為⇔強迫観念:motoric type(運動性タイプ)
強迫性障害として最も典型的なのは、強迫観念へのとらわれのために不安が高まり、それを打ち消すために強迫行為を行っていきます。
先ほどの汚染恐怖や加害恐怖にみられるタイプですが、「汚染してしまって病気になってしまうのでは」「誰かを傷つけてしまって大変なことになるのでは」といった最悪の事態を想定してしまいます。それによって現実を誤って認識してしまって、コントロールできないまでの過度な不安が発展してしまうのです。
このようにして認知のプロセスで不安が増幅されているのが明らかなので、認知タイプといいます。
それに対して不完全恐怖では、何か行動をした時に「ピッタリとした」感覚が得られないことが引き金になります。「そうしないではいられない」と駆り立てられるようにして、強迫行為を行ってしまいます。
このような強迫行為は、強迫観念やそれに伴う不安によって引き起こされるものではありません。強迫行為が強迫観念と相互に働いて、結果的に「繰り返し行動」を行ってしまいます。このため、運動性タイプといいます。
この2つは、強迫性障害という疾患の中でも質が異なっていることを意味しています。このため治療薬の反応性も異なりますし、精神療法のアプローチの方法も異なってくるのです。
4.強迫性障害の問題症状
回避行動や家族の巻き込みがきっかけで、社会適応や人間関係が悪くなったり、とらわれが悪循環によって強まってしまいます。
強迫性障害での症状が続くと、2つの大きな問題が生じます。
- 回避行動や家族の巻き込みなどの問題症状
- ストレスの蓄積から様々な合併症になる
回避行動や家族の巻き込みといった問題症状によって、2つのデメリットがあります。
- 「とらわれ」が強まる悪循環になる
- 社会適応が悪くなる
2つの問題症状についてみていきましょう。
①回避行動
強迫性障害では、多くの患者さんが自分の強迫症状に対して不合理に感じています。「バカバカしい」「過剰だ」という認識があるのです。ですが、「わかっていても止めることができない」のが強迫症状です。
そして強迫症状は、仕事や学校といった社会生活や普段の日常生活にもつきまといます。そのようなことが続くと、できるだけ苦手な状況を避けるようになってしまいます。避けてしまうと余計に苦手意識が強くなり、次に苦手な状況に直面した時に不安がより強まるという悪循環になります。こうして強迫性障害が悪化していってしまいます。
苦手なことを避けるようになってしまうと、仕事や学校といった社会生活や普段の日常生活にも影響します。放っておくと、できないことがどんどん増えていってしまいます。仕事に行けないことが多くなったり、自宅から出れなくなってしまうこともあります。
②家族の巻き込み
強迫性障害の患者さんの1/3では、家族を巻き込んでしまいます。家族はもっとも安心できる存在なので、家族に対して「大丈夫だよ」という保証を求めてしまうのです。
どうして大丈夫なのかを繰り返し確認します。ときには、強迫行為としての確認の代行を何度もお願いされます。鍵がしまっているかどうかにとらわれている患者さんは、何度も家族に電話して「ちゃんと鍵がしまってた?」と聞くこともあれば、「鍵がしまっているか確認してきて」と要求されます。
これには際限がないので、家族も疲弊してしまいます。この中で家族との関係が悪くなってしまう方もいれば、反対に過度に患者さんに負い目を感じて要求にこたえてしまうことがあります。
患者さんの要求にこたえることは治療的ではなく、むしろ強迫行為によって不安を回避する手助けをしてしまうことになります。このため、良かれと思った確認行為のサポートが、本人の「とらわれ」を強めて強迫性障害を悪化させてしまうのです。
家族の強迫性障害に対する向き合い方は、「強迫性障害の患者さんへの家族の関わり方」をお読みください。
5.強迫性障害の合併症
強迫性障害では、さまざまな合併症が認められます。発達障害とチック障害は、強迫性障害の原因となることもあります。
多くの患者さんでは強迫症状に疲弊してしまって、二次的に合併症を発症します。強迫性障害の患者さんでは、非常に多様な合併症が認められます。合併症として多いのは、以下のような疾患になります。
- うつ病(併存:20~37% 生涯:54~67%)
- 社交不安障害(併存:3.6~26% 生涯18~36%)
- その他の強迫性スペクトラム障害(心気症・身体醜形障害・抜毛症)
- パーソナリティ障害(強迫性・回避性・依存性が多い)
- アルコールなどの物質依存
- 発達障害
- チック障害
もっとも多い合併症はうつ病ですが、うつ病を合併してしまうと認知面で大きな影響があります。悲観的思考や極端な思考が強まることが多く、強迫観念も強まってしまいます。さらに生活が上手くいかなくなって、自尊心が低下して絶望感から、希死念慮や自殺企図に発展することがあります。希死念慮はおよそ半数の患者さんで、自殺企図は1/4の患者さんで認められるという報告もあります。
人間関係も上手くいかないことが多くなり、「他人から悪く思われるのではないか」という恐怖がこびりついて社交不安障害を合併する患者さんも多いです。また、強迫性障害の親戚の病気と考えられている心気症・身体醜形障害・抜毛症などの合併も多いです。
強迫性障害の苦しみが長いと、パーソナリティ(性格)も変化がみられていきます。さまざまに変化していきますが、強迫性・回避性・依存性が多いです。アルコールや抗不安薬などへの物質に依存してしまう方も多いです。
発達障害とチック障害は、強迫性障害の原因にも関わっている合併症です。とくに若くして発症する強迫性障害は、チック障害との関連が強くいわれています。
この点について詳しく知りたい方は、「強迫性障害は遺伝なのか?強迫性障害の原因」をお読みください。
まとめ
強迫性障害は、強迫観念と強迫行為の2つが中核症状です。これに伴って、回避傾向や家族の巻き込みが問題になってきます。本人も不合理に感じていることが多く、社会的な損失も重なってうつ病や不安障害を合併することもあります。
汚染恐怖・不潔恐怖、加害恐怖、不完全恐怖といったりしますが、それぞれ質の異なる強迫観念があります。それに従って、強迫行為が認められます。
認知タイプと運動性タイプでは、強迫性障害の薬の効き方や治療アプローチが変わってきます。
回避行動や家族の巻き込みがきっかけで、社会適応や人間関係が悪くなったり、とらわれが悪循環によって強まってしまいます。
強迫性障害では、さまざまな合併症が認められます。発達障害とチック障害は、強迫性障害の原因となることもあります。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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