急性ストレス障害(急性ストレス反応)の症状・診断から治療まで

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急性ストレス障害の症状、診断、治療について、精神科医が詳しくお伝えしていきます。

急性ストレス障害(急性ストレス反応)は、非常に強烈なストレスとなるような出来事の後に、重度のストレス反応が生じる病気です。

日常生活のちょっとしたストレスで生じるようなストレス反応は心因反応と呼ばれ、急性ストレス障害とは異なります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)になってもおかしくないようなトラウマ体験をして、その直後に認められる症状です。

急性ストレス障害の患者さんの中には、PTSDに移行していく方もいます。次第に症状が落ち着いていく患者さんもいます。

これを見極めることは難しく、「急性」だからといって一過性とは限らないのです。

ここでは、急性ストレス障害の診断基準をもとに症状をお伝えしていき、治療についてもご紹介していきたいと思います。

1.急性ストレス障害(急性ストレス反応)とは?

急性ストレス障害(急性ストレス反応)とは、だれもが経験する心に傷を負うような出来事の後、1か月以内での重度のストレス反応のことをいいます。

まずは急性ストレス障害(Acute Stress Disorder)とはどのような病気なのか、お伝えしていきます。

急性ストレス障害は、かつての不安障害に分類されている病気でしたが、診断基準ではPTSDと一緒に独立し、「心的外傷およびストレス因関連障害群」に分類されるようになりました。

急性ストレス障害は、日常生活でのストレス反応とは異なります。PTSDになってもおかしくないような、誰もが経験すると心に傷を受けるような出来事をした人にみられる病気です。

3日以上続くような重度のストレス反応が認められるときに、DSMという診断基準では急性ストレス障害ICDという診断基準では急性ストレス反応と診断されます。

急性ストレス障害の症状は非常に多様で、人によっても様々な症状が認められます。とくに症状に優劣があるわけではなく、一定数以上の症状が認められると急性ストレス障害と診断されます。

1か月以内におさまれば急性ストレス障害として確定しますが、それ以上にわたって続く場合、PTSDと診断されます。

つまり、PTSDの前段階も含まれている病気になります。

PTSDについては、「本当のトラウマとは?PTSD(心的外傷後ストレス障害)について」をお読みください。

2.急性ストレス障害(急性ストレス反応)の原因

急性ストレス障害(急性ストレス反応)の原因としては、当然トラウマになるような出来事になります。

ですが同じ出来事であっても、人によって反応は異なります。

その人の気質的な要因も認められます。

急性ストレス障害は、いわゆるトラウマと呼ばれるような誰もが心に傷を受けるような出来事が直接の原因となります。

しかしながら同じトラウマを受けても、誰もが同じように急性ストレス障害やPTSDになるわけではありません。

一時的にストレス反応が見られても、すぐによくなっていくこともあります。

急性ストレス障害では、その人の気質的な要因も関係しています。

 

①性格

性格は遺伝的な気質に加えて、育ってきた環境や生きていく上での経験から培われていきます。

急性ストレス障害になりやすい性格としては、神経質性格があげられています。いわゆる神経症になりやすいといわれている性格です。

神経質性格とは、

  • 内向的
  • 内省的
  • 心配性
  • 完全主義
  • 理想主義
  • 負けず嫌い

神経質性格は、心配性で内向的という弱気な側面もある一方で、完全主義で理想主義、負けず嫌いという強気な側面もある性格です。

このように共存しているため、弱気な部分を強きな部分が受け入れられなくてストレスを抱えやすい傾向にあります。

そして破局的に考えてしまったり、自責的になってしまって、否定的な感情に陥りやすいです。

さらには回避的なストレス対処をする人もリスク要因といわれています。何か困難に直面したときに、それを避けようとするということです。

ストレスに直面することが苦手になり、トラウマをうまく処理できなくなってしまうのです。

②ストレス

急性ストレス障害では、トラウマ体験を直接の原因として発症します。それらのトラウマ体験を、

  • 直接体験する
  • 他人の出来事を目撃する
  • 近親者や親しい友人に起こった出来事を聞く
  • 仕事などで悲惨な状況に繰り返しさらされる

といった形で経験している必要があります。

その内容も、戦争、テロ、大地震、大津波、洪水、強姦、監禁、大事故などといった強烈な出来事です。暴力的なものであったり、偶発的で予期できないものである必要があります。

特に強姦や監禁といった他人が関係してくるトラウマでは、PTSDや急性ストレス障害が生じやすいといわれています。

③年齢や性別

急性ストレス障害の発症年齢はさまざまです。先ほどあげたような出来事に遭遇した場合、誰にでも生じることがあります。

統計的にみれば、20代~30代に特に多く、女性に多いです。これは女性の方が、レイプなどの犯罪被害にあいやすいことが関係しています。

④音刺激に過敏

急性ストレス障害になりやすい人は、トラウマにさらされる前から音に対する刺激に過敏といわれています。

急に音がしたときにビックリしてしまうような驚愕反応が亢進している方では、トラウマにさらされると急性ストレス障害になりやすいとわかっています。

3.急性ストレス障害(急性ストレス反応)の症状

急性ストレス障害(急性ストレス反応)では、侵入症状・陰性症状・解離症状・回避症状・覚醒症状の5つの領域のうち、9つ以上の症状が認められるほど重度のストレス反応をしめす病気です。

急性ストレス障害の診断基準をもとに、症状をみていきましょう。診断基準には代表的な症状が取り上げられているので、まずはこちらをご紹介します。

<侵入症状>

  1. トラウマの反復的、不随意的、侵入的で苦痛な記憶
  2. 夢の内容か情動のいずれかがトラウマに関連している反復的で苦痛な夢
  3. トラウマが再び起こっているように感じたり、そのように行動する解離症状(フラッシュバックなど)
  4. トラウマの側面を象徴したり類似する内的・外的なきっかけに反応して起こる、強烈であったり遷延する心理的苦痛や顕著な生理的反応

トラウマは、様々な形で再体験されます。多くの場合、繰り返し何度も勝手にトラウマが思い出されます。

何かの関連するようなきっかけで、トラウマに襲われることもあります。

悪夢といった形で再体験されることもあります。トラウマに関係するような夢を繰り返しみてうなされます。

過去の出来事が現在起きているように感じるフラッシュバックが生じることもあり、ありありとした苦痛が再現されます。

<陰性気分>

  1. 陽性の情動を体験することの持続的な不能

陽性の情動とは、幸福や満足、愛情や親密さ、優しさといったといったプラスの感情のことです。

急性ストレス障害の患者さんはこれらを感じられなくなり、恐怖や悲しみ、怒りや罪悪感といった陰性感情にとらわれてしまいます。

<解離症状>

  1. 周囲あたは自分自身の現実が変容した感覚
  2. トラウマの重要な側面の想起不能

外から自分をみているような感覚である離人感や、周りがスローモーションにみえたり、ぼーっとしてしまうような現実感の喪失が認められます。

また、解離性健忘という、トラウマの重要な部分に対して思い出さなくなってしまうことがあります。

<回避症状>

  1. トラウマについて、もしくは密接に関係する苦痛な記憶や思考、感情を回避しようとする努力
  2. トラウマについて、もしくは密接に関連する苦痛な記憶や思考、感情を呼び起こすものを回避しようとする努力

トラウマに関係するような刺激を避けてしまいます。

そのことを話すことを拒絶したり、アルコールを飲んで考えないように酒に逃げてしまうこともあります。

<覚醒症状>

  1. 睡眠障害
  2. 人や物に対する言語や暴力といった攻撃性で示される、いらだたしさと激しい怒り
  3. 過度の警戒心
  4. 集中力困難
  5. 過剰な驚愕反応

急性ストレス障害の患者さんでは、睡眠障害はよく認められます。

入眠障害や中途覚醒などが良く認められます。悪夢と重なって、熟眠障害も認められることが多いです。

イライラして攻撃的になったり、いろいろなことに警戒心を持ったり過敏になっています。このため集中することが困難で、一つのことに取り組めなくなってしまいます。

そして電話の音に大きく飛び上がったりと、大きな音や予期しない動きに対して過剰な反応や過敏さをみせます。

4.急性ストレス障害(急性ストレス反応)の診断

急性ストレス障害の診断をすすめていくには、診断基準を元に行っていきます。精神疾患の診断基準には、アメリカ精神医学会(APA)のDSMと世界保健機関(WHO)のICDがあります。

DSMでは急性ストレス障害ICDでは急性ストレス反応という診断名となります。

最新の診断基準は、2013年に発表されたDSM-Ⅴになります。

ここではDSM-Ⅴに基づいて、急性ストレス障害の診断基準をご紹介していきます。

AからEまでの5項目を上から順番にチェックしていくことで、急性ストレス障害と診断できるようになっています。

簡単にまとめると、

  • 誰もが心に傷を受ける出来事を体験していること
  • ストレス反応による症状が9つ以上認められること
  • 3日以上持続していて、1か月以内で収まること
  • 本人の苦しみが深く、生活に支障があること
  • 他の病気では説明がつかないこと

このようになります。順番に、詳しくみていきましょう。

A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ以上の形による暴露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. >近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に暴露される体験をする。

急性ストレス障害は、誰もが心に傷を受けるような重大な出来事を直接的な原因とします。それらを、以下のいずれかの形で体験する必要があります。

  • 直接体験する
  • 他人の出来事を目撃する
  • 近親者や親しい友人に起こった出来事を聞く
  • 仕事などで悲惨な状況に繰り返しさらされる

直接の体験はもちろんのこと、間接的な体験も含まれます。

また、二次受傷とよばれる体験もあります。例えば東日本大震災での災害現場の作業員、児童虐待に繰り返しさらされる児童相談所職員などです。

B.心的外傷的出来事の後に発現または悪化している、侵入症状、陰性気分、解離症状、回避症状、覚醒症状の5領域のいずれかの、以下の症状のうち9つ以上の存在

  • 侵入症状4つ
  • 陰性気分1つ
  • 解離症状2つ
  • 回避症状2つ
  • 覚醒症状5つ

具体的な症状については、先ほど述べた通りです。

急性ストレス障害では、これらの5つの領域の症状のうち9つが認められるほどに重度のストレス反応が認められる必要があります。

かつての急性ストレス障害の診断基準では、解離症状を重視して症状に優劣がありました。

というのも、トラウマ直後に解離症状があるかどうかが、長期にわたって精神症状が続く大きな要因と考えられていたためです。

つまり急性ストレス障害は、PTSDの発症予備軍を診断する目的だったのです。

ですが実際には、解離症状とPTSDはそこまで関連がなかったのです。

このため新しい診断基準では、急性ストレス障害の症状に優劣をつけず、代表的な症状が一定数以上認められたら診断することになりました。重度のストレス反応が認められているかどうかというシンプルな形となったのです。

C.障害の持続は、心的外傷への暴露後に3日~1か月

急性ストレス障害は、少なくとも3日以上症状が続く必要があります。通常はトラウマにさらされてすぐに症状がでてきます。

出来事の直後に症状が出てきて48時間以内によくなるものは、自然によくなるものとして急性ストレス障害には含めないようにしています。

1か月以上すぎて症状が持続すれば、PTSDの診断を考えていくことになります。

急性ストレス障害は、トラウマが起きてからすぐに診断し治療を進めていくための病気になります。

D.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている

ここまでの症状があれば、この診断基準は誰もが満たすと思います。急性ストレス障害という病気としてみていくためには、

  • 本人が苦しむ
  • 生活に支障がある

このどちらかが必要になります。つまり、病気として治療する意義があるということになります。

E.その障害は、物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではなく、短期精神病性障害ではうまく説明されない。

急性ストレス障害の症状が、他の病気やアルコールや薬物などで原因でないことを示す必要があります。

短期精神病性障害とは、一過性に幻覚や妄想などの症状が認められる病気です。トラウマが妄想ではなく明らかな事実であれば、否定することができます。

5.急性ストレス障害(急性ストレス反応)の治療

急性ストレス障害(急性ストレス反応)では、慎重に経過を見ていく必要があります。

トラウマについて会話をすることは症状を悪化させることもあります。受け止められる環境を作ってから行っていきます。

薬物療法は見解が定まっていませんが、PTSD治療に準じるのが一般的です。

それでは急性ストレス障害の治療はどのように進めていくのでしょうか。

急性ストレス障害は、「急性」とつきますが、一過性のものだから心配ないという病気ではありません。それはこれまでの説明を見ていただければわかると思います。

慎重に症状の移り変わりを見ていく必要があるので、継続的に治療をしていく必要があります。

急性ストレス障害の薬物療法については、まだ見解がついていません。実際には、PTSDに準じた治療をされることが多いです。

SSRIをはじめとした抗うつ剤を使われることが多く、侵入症状や回避症状、覚醒症状が軽減されます。また抑うつや不安症状を軽減してくれます。

それ以外にも、不安が強いときには抗不安薬、興奮が強いときには抗精神病薬、不眠が強いときには睡眠薬などが対症的に使われます。

パニック障害の薬物療法については、「PTSDに有効な薬とは?PTSDの薬物療法」をお読みください。

トラウマに対する精神療法は、持続エクスポージャー法という暴露療法が一般的です。

しかしながらトラウマの直後は、積極的に行うことはあまりしません。むしろ症状を悪化させる可能性があります。

自然に少しずつ良くなっていくこともありますし、そうでなくても、薬物療法で症状がコントロールできるようになってから行っていきます。

臨床心理士によるカウンセリングで十分に時間をとって、安全な治療環境のもとで行っていくのが一般的です。

まとめ

急性ストレス障害(急性ストレス反応)とは、だれもが経験する心に傷を負うような出来事の後、1か月以内での重度のストレス反応のことをいいます。

急性ストレス障害の原因としては、当然トラウマになるような出来事になります。

ですが同じ出来事であっても、人によって反応は異なります。その人の気質的な要因も認められます。

急性ストレス障害では、侵入症状・陰性症状・解離症状・回避症状・覚醒症状の5つの領域のうち、9つ以上の症状が認められるほど重度のストレス反応をしめす病気です。

急性ストレス障害では、慎重に経過を見ていく必要があります。トラウマについて会話をすることは症状を悪化させることもあります。受け止められる環境を作ってから行っていきます。

薬物療法は見解が定まっていませんが、PTSD治療に準じるのが一般的です。

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カテゴリー:適応障害  投稿日:2023年7月20日

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