爪噛みやかさぶたむきの原因?皮膚むしり症とは?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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知らず知らずに爪を噛んでいたり、かさぶたがあるとはがしてしまったりといった癖がある方も少なくないかと思います。

それが度を過ぎてしまうと、癖を通り越してしまって「皮膚むしり症」という病気と考えて治療をしていくこともあります。

皮膚むしり症とは、自分の皮膚である爪や皮などを繰り返しむしってしまう病気です。何とか止めたいと思っても止められないため、苦痛を感じている方が多いです。

最近では皮膚むしり症は、強迫性障害の関連疾患と考えられています。強迫観念(とらわれている考え)は明確ではありませんが、皮膚をむしるという強迫行為(繰り返し行為)を止められなくなってしまう病気と考えられています。

ここでは、皮膚むしり症の原因と診断がどのように行われていくのかをご紹介します。それを踏まえて、どのように治療していくのかをみていきましょう。

 

1.皮膚むしり症とは?

皮膚むしり症は、自分の身体を繰り返し引っ掻いてしまう強迫行為による病気と考えられています。

まずは皮膚むしり症とはどのような病気なのか、お伝えしていきたいと思います。

皮膚むしり症とは、自分の皮膚を繰り返して引っ掻いてしまい、皮膚障害になっても止められないような病気です。スキンピッキングともいわれています。皮膚としては、爪や唇、かさぶたや頭などの身体のあらゆる皮膚で起こることがあります。

皮膚むしり症はこれまで、病気として個別に取り上げられることはありませんでした。最新の国際的な診断基準のDSM-Ⅴでは、強迫性障害の関連疾患のひとつとしています。

皮膚むしり症や抜毛症は、身体集中行動反復症(BFRBD:Body Forcused Repetitive Behabior Disorder)という大きな概念に含まれます。自分の身体の一部に対して繰り返し行為をしてしまう病気です。皮膚むしりや抜毛は代表的な行為なので、診断基準では独立した病気として取り上げられています。

強迫性障害と比べると皮膚むしり症では、強迫観念は明確ではありません。強迫観念とは、ある考えやイメージへのとらわれになります。「そのままにしておくと汚い」といった考えのせいで、皮膚をむしるのではありません。

皮膚むしり症は、強迫行為を主とする病気と考えられるようになっています。いちど抜毛をしてしまうと、その繰り返し行為を止められなくなってしまう病気と考えられているのです。強迫行為として皮膚をむしった時に、「なんだかスッキリしない」感覚があって止められなくなってしまいます。

強迫性障害の中での運動性タイプに近い病気と考えられています。詳しく知りたい方は、「強迫観念と強迫行為とは?強迫性障害の症状」をお読みください。

多くの患者さんが、皮膚をむしっている時は安心感や安堵感を感じます。ですが終わって振り返ると後悔して、何とかして皮膚むしりを止めたいと考えることが多いです。

 

2.皮膚むしり症の原因とは?

皮膚むしり症の原因は、遺伝と環境要因が組み合わさって発症すると考えられています。思春期からはじまって、慢性的に経過することが多いです。女性が男性の3倍以上です。

皮膚むしり症の原因は、まだまだ分かっていないことだらけです。皮膚むしり症という病気自体の考え方が最近になってできた病気ということからも分かるでしょう。

病気の原因を考える時に、大きく分けると遺伝と環境の2つに分けて考えることができます。皮膚むしり症は遺伝的な要因もあることがわかってきていて、それに環境要因も加わって発症すると考えられています。

皮膚むしり症の患者さんの家族には、強迫性障害の患者さんが多いことが分かっています。遺伝的な要素として、皮膚むしり症へのなりやすさがあるのです。

皮膚むしり症に特有のストレスが分かっているわけではありませんが、ストレスの積み重ねで発症することは間違いないと思われます。皮膚むしり症の始まりは、多くの場合が思春期です。

ちょうどニキビができる時期に重なっています。気になる部分をいじるということから少しずつ発展していく方も多く、10代からはじまって慢性的に経過していきます。

女性では、男性の3倍以上の発症リスクがあります。とはいえ、男性は女性よりも皮膚むしりが問題になりにくいので、受診する患者さんが少ないという影響も大きいでしょう。しかしながら皮膚むしり症は、女性の方が発症しやすい病気です。

これには女性の方が、容姿や外見に対する評価が人生に影響しやすいこともあげられるかと思います。そのストレスが皮膚むしり症につながることもあるでしょう。

 

3.皮膚むしり症の症状と診断とは?

皮膚むしり症の診断は、診断基準に従いながら行っていきます。診断基準には主要な症状も含まれているので、皮膚むしり症の診断基準から症状を詳しくご説明していきます。

アメリカ精神医学会(APA)のDSM-Ⅴという国際的な診断基準をもとに見ていきたいと思います。この診断基準では、AからEまでの5項目を上から順番にチェックしていくことで皮膚むしり症と診断できるようになっています。

簡単にまとめると、

  1. 繰り返し皮膚をむしってしまうこと
  2. 皮膚むしりをやめようとすること
  3. 本人が苦しんでいるか、生活に大きな支障があること
  4. 他の病気で説明ができない

順番に、詳しくみていきましょう。

A.皮膚の損傷を引き起こす繰り返される皮膚むしり行為

皮膚むしり症の本質的な症状は自分の皮膚を繰り返しむしることです。皮膚むしりはどの場所と決まっているわけではなく、多くの人が身体のいろいろな場所をむしってしまいます。最もよく見られるのが指の爪首位の皮膚で、その他に唇や顔、頭皮なども多いです。

以前皮膚をむしってできたカサブタをはがしてしまうこともあります。ほとんどの人が爪でかくことが多いですが、中にはピンセットや針などの道具を使うこともあります。

爪も表皮の一部なので、広くみれば爪噛みも皮膚むしり症に入るかと思います。

B.皮膚むしり行為を減らす、またはやめようと繰り返し試みている

多くの患者さんでは、不安感や退屈さが引き金になります。皮膚むしりをすると満足感や安堵感、快感につながることがあるので、皮膚むしりをしたいという衝動にかられます。

これに対して、グッと我慢して抵抗するような患者さんもいれば、抵抗せずにすぐに皮膚むしりしまう患者さんもいます。何かに集中している時は自動的に皮膚むしりをしてしまいますが、普段は抵抗するような患者さんも多いです。

次にお伝えするような社会的なデメリットがあるため、皮膚むしり症の患者さんのほとんどは、何とかやめようと意識しています。

C.皮膚むしり行為によって、臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的・他の重要な機能の障害をもたらしている。

皮膚むしりに対して、多くの時間を取られてしまうことがあります。時間が失われることで、生活にも支障がでてきてしまうことがあります。

皮膚むしりをしている患者さんは、そのことをできるだけ隠そうとすることが多いです。衣服で見えないようにしたり、化粧をしたりして皮膚むしりを隠そうとします。皮膚むしりをしてしまったことに対して、患者さん自身も苦痛に感じているのです。

皮膚むしりの程度がひどくなってしまうと、隠し切れなくなってしまいます。そうなると仕事やプライベートで、好奇な目でさらされてしまうこともあります。本人がそれを敏感に感じ取って苦痛を感じたり、できるだけ人目を避けて行動するようになったりしてしまいます。

このように皮膚むしり症の患者さんは、人の目を非常に気にすることが多いです。ですから通常、家族を除いて他人の前では皮膚むしりしません。

D.物質の身体的作用、または他の医学的疾患に起因するものではない

E.他の精神疾患の症状ではうまく説明できない

皮膚むしりが他の病気をきっかけにして症状として現れることもあります。考えていく必要がある病気としては、以下のようなものがあげられます。

  • 強迫性障害
  • 身体醜形障害
  • 発達障害
  • 統合失調症
  • 皮膚疾患

強迫性障害の患者さんの中では、「自分が汚れてしまったかもしれない」という強迫観念(汚染恐怖)にとらわれてしまうことがあります。そうなると、それを洗浄する行為として手を洗ったり、皮をむいたりといった皮膚むしり行為をしてしまうことがあります。

身体醜形障害も強迫性障害に関連する病気ですが、自分が醜いのではというとらわれがあります。このため、醜さに対する不安や外見をよくするために皮膚むしり行為をしてしまうこともあります。

発達障害の患者さんでは、常同行動が認められることがあります。触った感覚や痛み感覚は、頭の中で理解を必要としない感覚です。発達障害の患者さんでは、このような触覚や痛覚といった原始的な感覚に安心感を求めることがあります。そのために自傷行為にもみえる皮膚むしり行為をしてしまうことがあります。

統合失調症の患者さんの中には、幻覚や妄想に左右されて皮膚むしりしてしまうこともあります。それ以外にも、痒みが生じるような皮膚疾患などでも皮膚むしり行為をしてしまいます。コカインなどの物質によって生じることもあります。

決して少なくない病気で、皮膚むしり症の障害有病率は1.4%と報告されています。

 

4.皮膚むしり症の治療とは?

皮膚むしり症の治療では、薬物療法と行動療法を行っていきます。精神療法としては、ハビット・リハーサル訓練を行うのが一般的です。

皮膚むしり症の患者さんは、何とかして止めたいと思っていることが多いです。ですが病院に相談するまでには思えず、だましだまし周りから皮膚むしりがばれないように生活をしていることも多いです。

家族の前では気を許して皮膚むしりを止めないことも多いので、家族の方が問題に思って受診につながることもあります。ひとり暮らしをされている方では、なかなか治療につながらないことも多いです。

皮膚むしりを癖の一つと考えている患者さんも多いかと思います。しかしそれが生活に支障がきているならば、病気として治療するべきです。皮膚むしり症はひとりで治療することは困難なので、精神科や心療内科を受診して相談しましょう。

精神科・心療内科の受診について知りたい方は、「精神科・心療内科の受診のイメージと流れ」をお読みください。

 

治療をしていく場合は、基本的には日々の生活の中で改善をしていく必要があります。お薬で症状を緩和させながら、生活の中での努力も必要になります。

お薬の治療としては、強迫性障害と同じように薬物療法を行っていきます。セロトニンを増やすお薬を使っていきますが、強迫性障害よりも有効性は低い印象です。

強迫性障害の薬物療法について詳しく知りたい方は、「強迫性障害に有効な薬とは?強迫性障害の薬物療法」をお読みください。

お薬で症状が緩和できるようになったら、精神療法を行っています。精神療法としては、行動療法を中心としたアプローチとなります。皮膚むしり症の患者さんでは、皮膚むしりする状況が決まっていることもあります。そのような患者さんでは、精神療法を行いやすいです。そのような状況にあえて身をさらして(暴露)、不快感を我慢(反応妨害)します。

暴露反応妨害法について詳しく知りたい方は、「暴露反応妨害法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか」をお読みください。

そのような決まった状況がない患者さんでは、皮膚むしり行為をしたくなったら我慢するようにしていかなければなりません。ハビット・リハーサル訓練という方法を一般的に行っていきます。

まずは皮膚むしり行為に気づけるようにしていきます。気づけるようになったら、皮膚をむしりたいという衝動が起きそうになった時に、それを打ち消す行動をとれるようにします。周囲からは目立たないような、例えば手をぎゅっと握るといった動作でよいのです。なかなか一人で行っていくのは難しく、家族のサポートも必要になる ことが多いです。

発達障害の傾向がある方は、皮膚むしりすること以外の触覚で安心感がもてる癖を身につけるのも方法です。触っていると落ち着くものをみつけて、それで皮膚むしりを落ちつけるようにしていきます。いったん皮膚むしりから離れるようにしてから、その触覚に頼る癖も少しずつ減らしていきます。

皮膚科的な問題がある時はもちろん、その治療もしていきます。このように皮膚むしり症の治療は、時間をかけてすすめていきます。

 

まとめ

皮膚むしり症は、自分の身体を繰り返し引っ掻いてしまう強迫行為による病気と考えられています。

皮膚むしり症の原因は、遺伝と環境要因が組み合わさって発症すると考えられています。思春期からはじまって、慢性的に経過することが多いです。女性が男性の3倍以上です。

皮膚むしり症の治療では、薬物療法と行動療法を行っていきます。精神療法としては、ハビット・リハーサル訓練を行うのが一般的です。

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