麻黄湯【27番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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季節の変わり目などに体調を崩し、風邪の初期症状が現れることがよくあります。このようなときによく使われる漢方薬のひとつが麻黄湯です。

麻黄湯は普通の風邪だけでなく、インフルエンザでも効果が認められたという報告がなされています。過大評価されているようには感じますが、適切に使えば有効な漢方薬であるといえます。

麻黄湯は、感染症の初期に飲むと効果があります。関節リウマチや喘息の患者さんにも用いられることがあります。

麻黄湯には発汗作用があり、熱や痛みを発散させることによって症状を和らげてくれます。このような作用があることから、すでに自然に汗が出ている人に対しては向いていません。

また麻黄湯は、作用が強い漢方薬です。体力があって体つきががっしりとしている患者さんに処方されますので、虚弱体質の人や高齢者には向いていません。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、麻黄湯は「ツムラの27番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される麻黄湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.麻黄湯【27番】の生薬成分の効能

麻黄湯は、主薬である「麻黄」を中心に、同じように発汗作用のある「桂皮」、鎮咳作用のある「杏仁」に加えて止痛作用のある「甘草」が組み合わせられています。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

麻黄湯は、4種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 麻黄(5.0g):発汗作用・鎮咳作用
  • 桂皮(4.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
  • 杏仁(5.0g):鎮咳作用・去痰作用・潤腸作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

麻黄湯は4種類の生薬からできています。その効果の中心は麻黄です。

麻黄の有効成分であるエフェドリンは、交感神経を刺激させる作用があります。身体をあたためて発汗させる作用があります。また、気管支拡張作用や抗炎症作用があるため、喘息や気管支炎などの症状を和らげてくれます。

桂皮は麻黄と合わさることで、発汗作用が強まります。桂皮は「ニッキ」や「シナモン」としてよく知られており、身体を温める作用や、のぼせを治す作用、鎮痛作用もあります。

杏仁はあんずの種です。漢方薬として用いられるときにはキョウニン、お菓子などに使うときにはアンニンと呼ばれています。杏仁豆腐のアンニンとして有名ですね。この生薬には咳を鎮めて痰のきれをよくする作用や、便秘症状を改善する作用があります。

甘草は、その甘味は砂糖の50倍とも80倍とも言われ、古くから甘味料としても使われてきました。甘草には筋弛緩作用が認められ、身体や筋肉の痛みを和らげる作用が期待できます。

このように麻黄湯は、身体をあたためて汗を出し、新陳代謝を高める作用があります。そして、咳や痰といった上気道症状、身体の節々の痛みを緩和する働きがあり、感冒症状を軽減してくれます。

麻黄湯の生薬の由来について

 

2.麻黄湯の証

陰陽(陽)・虚実(実)・寒熱(寒)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。漢方の代表的な証には、「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」の4つがあります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

麻黄湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:実証
  • 寒熱:寒証

 

3.麻黄湯の効果と適応

  • ウイルス性の風邪の引きはじめ
  • 初期のインフルエンザ
  • 鼻づまり
  • 関節リウマチ
  • 喘息

麻黄湯は、漢時代の「傷寒論」および「金匱要略」という古典書に紹介されています。4種類それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

漢方薬は、風邪の初期に使われる漢方薬です。風邪の初期に使われる漢方薬としては、葛根湯が最も有名です。それ以外によく使われるのが、桂枝湯や麻黄湯です。

麻黄湯はこの中でも発汗作用が最も強く、悪寒がしていて汗が出ていない時に使われる漢方薬です。発汗作用が強いため、体力がある人に使われる漢方薬です。この3剤で比較すると、作用の強さは麻黄湯>葛根湯>桂枝湯となります。体力や汗のかき方にあわせて使い分けていきます。

麻黄湯には、抗ウイルス作用や免疫賦活作用があることが動物実験からわかってきています。また、乳幼児に多いRSウイルスの増殖を抑制することなども報告されています。インフルエンザに関しても厳密に検証できていませんが、有効性を示す報告があります。

それ以外にも、麻黄湯は交感神経を刺激する作用があるため、気管支を拡張させたり、鼻粘膜の血管を収縮させて鼻づまりをよくする効果が期待できます。むくみや腫れをとる作用もあるため、関節リウマチなどの関節炎にも効果が期待できます。

なお、添付文章に記載されている麻黄湯の適応は以下のようになっています。

悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないものの次の諸症:
感冒、インフルエンザ(初期のもの)、関節リウマチ、喘息、乳児の鼻閉塞、哺乳困難

 

4.麻黄湯の使い方

1日3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。風邪のひきはじめでは、汗が出なくなったら中止します。5日間飲み切っても問題ないという報告もあります。

麻黄湯は、ツムラ・テイコク・クラシエ・コタローなどから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。麻黄湯では、ツムラ、テイコクは7.5g、クラシエ、コタローは6.0gとなっています。

麻黄湯は、1日3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかにし、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。麻黄湯は麻黄が含まれているので、空腹時の方が効果が穏やかになります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

麻黄湯は発汗させることで風邪を早く治してくれる漢方薬です。このため麻黄湯を服用したら、身体をできるだけあたためる方がよいです。麻黄湯を服用する時も、お湯で溶いた方がよいです。

そして発汗して風邪がよくなってきたら、体力を消耗してしまうので麻黄湯は続けて服用しないようにするのが一般的です。抗ウイルス効果を考えると、インフルエンザ治療薬のタミフルなどと同様に、5日間飲みきりを推奨する専門家もいます。

 

5.麻黄湯の効き目とは?

効果は風邪の初期に使われて、風邪の治りを早くしてくれる漢方薬です。効果は即効性が期待できます。

それでは、麻黄湯の効き目はどのような形でしょうか。

麻黄湯の効果は、風邪で使う漢方薬の中では効果が強いです。身体をあたためて発汗させることで、新陳代謝と免疫を高めます。このため、体力がある人に向いています。

このような漢方薬なので、風邪がひどくなってから使ってもあまり意味がありません。「風邪かな?」と思ったら早めに使っていきます。

麻黄湯の効果は、身体本来の免疫力を高めることによって風邪を早く治してくれます。風邪には細菌が原因のものと、ウイルスが原因のものがあります。細菌が原因ですと抗生物質を使う方が早く良くなりますので、麻黄湯はウイルス性の風邪に有効です。

細菌性とウイルス性の違いについて詳しく知りたい方は、「風邪を早く治す方法とは?」をお読みください。

 

6.麻黄湯の副作用

麻黄湯では、麻黄による交感神経刺激症状、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要です。妊婦さんには避けた方がよい漢方薬です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレル ギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

 

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

麻黄は、有効成分のエフェドリンが交感神経を刺激します。これによって、動悸・頻脈などの心血管症状、悪心・嘔吐などの消化器症状、不眠やイライラなどの精神症状、多量の発汗や舌のしびれなどの自律神経症状があらわれることがあります。

心臓に負担が大きいため、慢性心不全や狭心症や心筋梗塞などの心疾患がある方には慎重に使わなければいけません。慢性呼吸器疾患や甲状腺機能亢進症の患者さんも気をつける必要があります。

さらには、妊婦さんでは子宮の収縮を促してしまう可能性があります。風邪は麻黄湯を使わなくても治っていくので、避けた方がよいでしょう。

また、麻黄配合されている甘草は、大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。「偽アルドステロン症」と呼ばれる機能異常によって、高血圧やむくみ、低カリウム血症などが認められることがあります。低カリウム血症によって、筋肉のけいれんや麻痺が起こることがあります。

甘草の入っている他の製剤やグリチルリチンとの飲み合わせには、十分な注意が必要です。また、長期間にわたって複数の漢方薬を服用するときは、念のために注意してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

麻黄湯は、生薬の麻黄と桂皮による発汗・発散作用が中心と言えます。4種類の生薬の作用により、発汗・解熱・鎮痛などの効果があらわれ、風邪の初期症状やインフルエンザの初期症状、関節の痛みの緩和などが期待できます。

陰陽(陽)・虚実(実証)・寒熱(寒)

麻黄湯は、以下のような方に使われます。

  • ウイルス性の風邪の引きはじめ
  • 初期のインフルエンザ
  • 鼻づまり
  • 関節リウマチ
  • 喘息

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