香蘇散【70番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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香蘇散は、風邪の初期症状に使う漢方薬のひとつとして有名です。

胃腸が弱っていて神経質な方の風邪の引き初めによく使われますが、香蘇散の効果は精神的な面にも効果が期待できます。

漢方の世界では、生命エネルギーともいうべき「気」のバランスをみていきます。緊張状態が続いて「気」のバランスが崩れてしまうと、うつ症状などの精神症状、筋肉や内臓の働きが乱れて胃腸症状などが見られます。

したがって、ストレスなどがかかって「気」が停滞したり「気」が不足したりなど、「気」の流れに異常が起こると、心と体の両面に病気が現れてしまいます。香蘇散は、「気」の異常の中でも気うつ(気滞)を改善する漢方薬として使われます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、香蘇散は「ツムラの70番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される香蘇散の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.香蘇散【70番】の生薬成分の効能

香蘇散は、香附子や蘇葉などにより「気」を整える作用が中心と言えます。胃の働きを整え、胃炎の症状を和らげる作用も期待できます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

香蘇散は、5種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 香附子(4.0g):理気作用・鎮痛作用・月経調整作用
  • 蘇葉・紫蘇葉(2.0g):理気作用・発汗作用・鎮咳作用
  • 陳皮(2.0g):理気作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 生姜(1.0g):発汗作用・健胃作用・制吐作用・鎮咳作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

香蘇散は5種類の生薬からできており、主な生薬は香附子と蘇葉になります。

香附子は「気」を整える作用と生理を整える作用があります。気を流れやすくする理気作用があり、ストレスによるイライラを改善させたり、胃腸の調子を改善する作用もあります。不安やイライラなどの精神症状、慢性胃炎や神経性胃炎を改善し、月経不順や更年期障害の症状緩和に効果があります。

蘇葉(紫蘇葉)は強い生薬ではありませんが、身体を温めることで滞っているものを発散させるという作用があります。胃腸の働きを整えて、身体を温めながら風邪の症状を穏やかに取り除く効果があります。

その他の生薬として、陳皮・甘草・生姜があります。陳皮は「気」を整える作用があります。健胃・鎮咳作用もあり、胃腸や呼吸器系を落ち着かせる作用があります。甘草は筋肉の緊張を和らげ、痛みを和らげる作用もあります。生姜は身体を温め、新陳代謝を高めます。これらの生薬がいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮します。

このようにみると香蘇散は、体力が弱くて冷え症で、神経質で胃腸が弱い人に対して向いている漢方薬と言えます。胃の不快な症状を改善するとともに、身体の「気」を巡らせて精神症状を緩和する作用が期待できます。

香蘇散の生薬の由来について

 

2.香蘇散の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(気滞)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などを見極めて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。漢方の代表的な証には、「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」の4つがあります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

香蘇散が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒証
  • 気血水:気滞(抑うつ・不安)

 

3.香蘇散の効果と適応

  • ストレス性の胃炎や胃腸症・過敏性腸症候群
  • 軽度のうつ病・不安障害・ストレス性障害
  • 出産直後のマタニティーブルー症状
  • 月経困難症・更年期障害
  • 風邪の初期症状

香蘇散は、「和剤局方」という宋時代の古典書に紹介されています。5種類それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

香蘇散には滞っている「気」を身体に巡らせる作用があります。このため気持ちが落ち込んだり、意欲が低下している方に処方され、症状を改善する作用があります。

香蘇散は、体力のない、胃腸の弱い方に適した漢方です。したがって、体格の良い体力が十分にある方には向きません。ですから女性が向いている漢方で、香蘇散には月経のバランスを整える作用があるので、月経不順や月経困難、更年期障害に伴う症状(不安・不眠・動悸・のぼせ)にも香蘇散が使われます。

香蘇散は葛根湯などのように、風邪の引き始めに処方されることも多い漢方薬です。香蘇散は胃腸を守りながら穏やかに身体を温め、そしてウイルスや細菌といった物を老廃物と一緒に発散していきます。胃腸の弱くて神経質な女性の風邪の初期症状に効果が期待できます。

なお、添付文章に記載されている香蘇散の適応は以下の通りです。

胃腸虚弱で神経質の人の風邪の初期
使用目標:胃腸虚弱で抑うつ傾向のある人の感冒の初期に用いる。
     1)食欲不振や軽度の悪寒、発熱などを伴う場合
     2)葛根湯や麻黄湯などの麻黄剤では食欲不振を起こす場合

 

4.香蘇散の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

香蘇散は、ツムラ・コタロー・テイコク・クラシエから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。香蘇散では、ツムラとテイコクは7.5g、コタローは6.0g、クラシエは4.5gになっています。

香蘇散は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかになり、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。香蘇散では、空腹時の方が吸収はよくなります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.香蘇散の効果の効き目とは?

効果は2週間以上かけて、ゆっくりと認められることが多いです。

それでは、香蘇散の効き目はどのような形でしょうか。

香蘇散の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで様々な身体の症状で悩まされていた方が、ビックリするくらいに穏やかになることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

香蘇散は、一般的には効き目はゆっくりです。とくに病気で悩まされていた期間が長い患者さんほど、そのバランスを整えるには時間がかかります。 効果は2週間くらいから認められることがあります。じっくりと時間をかけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。

このような効き目なので、抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性はありません。ですから、不安発作に頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果は?」をお読みください。

 

6.香蘇散の副作用

香蘇散では、生薬固有の副作用として偽アルドステロン症に注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレル ギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

香蘇散の生薬成分の甘草は、その主成分はグリチルリチン酸ですが、これを大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。「偽アルドステロン症」と呼ばれる機能異常によって、高血圧やむくみ、低カリウム血症などが認められることがあります。低カリウム血症によって、筋肉のけいれんや麻痺が起こることがあります。

このため、甘草の入っている他の製剤やグリチルリチンとの飲み合わせには十分な注意が必要です。また、長期間にわたって複数の漢方を服用するときは、念のために注意してください。

また、まれにですがインターフェロンとの併用によって間質性肺炎や肝機能障害が起こることもあります。息切れや咳がひどく呼吸困難になる、発熱、重度の倦怠感、黄疸などの症状が出た場合はすぐに医師に相談するようにしてください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

香蘇散は、「気」を整える理気作用と胃の働きを整える作用が中心と言えます。

神経質で胃腸が弱い方の不安や抑うつ症状、自律神経失調症、更年期障害、月経前緊張症などの諸症状の緩和が期待できます。

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・湿証(水分停滞)・気血水(気滞)

香蘇散は、以下のような方に使われます。

  • ストレス性の胃炎、胃腸症、過敏性腸症候群、
  • 神経症、自律神経失調症
  • 不眠、不安、抑うつ
  • 出産直後のマタニティーブルー症状
  • 月経困難症、更年期障害
  • 疲労倦怠感、食欲不振、神経衰弱

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